勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第51話

「仕掛けるぞ」

 

 ガトリンのその言葉と同時に、ラタリコフとウェンが犬型トリオン兵をそれぞれ三体召喚する。

 ガトリンは処刑者を起動させ、背中から蟹を連想させる四つのアームが伸び、アームの先にはブレードが備え付けられている。

 更に左腕を大砲型トリガーに変換し──。

 

「──鋼! カバー!」

「っ!」

 

 超強力な砲撃が壁越しに門誘導装置に向かって放たれる。

 しかし、迅の指示により村上がレイガストにて砲撃を受けて防御。さらに砲撃のタイミングに合わせて迫っていた犬型トリオン兵を、風間、太刀川、小南、迅がそれぞれ斬り捨てる。

 そして風間がカメレオンを起動させて、奇襲を仕掛けようとするが……。

 

「踊り手」

 

 ラタリコフがトリガーを発動させ、背中から射出したブレードリングで風間へ攻撃。風間はカメレオンの発動を中止し、スコーピオン二刀流で踊り手を捌ききって弾いた。

 動きのある阻害に成功したラタリコフは、ウェンと共に追加のトリオン兵を呼び出す。そして通信を繋げる。

 

『隙を突いたつもりだったが……』

『問題ないでしょう。これで相手の壁の厚さが分かりました』

 

 対応するボーダーを見てガトリン達は分析を進める。

 ここまでチャージしてきたトリオンを撃っただけはあり、無駄撃ちにはならずに済んだ。

 バイザー越しに相手方の動きを()()()()と見ていた彼らは、それぞれの動きを知る事ができた。

 真っ先にこちらの攻撃を防ぎに来た村上へのマークを強化する。彼を動かないようにすれば、こちらの攻撃が通ると判断した。

 そして……。

 

『隊長。あのサングラスの男……』

『あぁ。明らかに不自然だった』

 

 迅に対する警戒度は今のところ一番大きい。

 攻撃する前に反応し、的確に指示を出していた。加えて、他の人間も彼に耳を傾ける姿勢を保っている。

 

『それに……』

 

 ここに来る途中、ブラックトリガーで攻撃して来たのは彼だった。

 そして、その後は全く敵と遭遇する事なく此処まで来たが……誘導されたと考えると──。

 

『優先順位が決まった。初めにサングラス。次に盾使いに。ターゲットから距離を放し次第次の弾を撃つ』

『了解』

『分かったわ』

 

 目的遂行の為に誰が厄介なのか確認し、ガロプラの戦士達は気を引き締める。

 

 

 

『これからはおれと鋼が狙われる。いや、エリートは辛いねぇ。なっ? 鋼』

『そうですね』

『何馬鹿な事言ってんのよ。もしかしたら未来予知バレたんじゃないの?』

 

 サイドエフェクトにより未来の動きを視て、敵の狙いに気付いた迅はすぐさま仲間たちに知らせた。軽口を叩くも、小南が一つの懸念を上げる。

 

『アンタ、敵の親玉と派手にやったそうじゃない。そこから推測されて対処されてるかもしれないわよ』

『だったら今回の襲撃ももっと用意周到にすると思うよ』

 

 しかし、迅は否定した。

 未来予知でそういう未来を視たのか、ほぼ断言している。

 そもそも敵の未来を見る事が出来ると判断するには、少しピーキー過ぎる。迅もそういう未来を引き当てないように動いているはずだ。

 

『んで、俺が風穴空けられる未来は変わらないのか?』

『変わんないね。でも太刀川さんなら──』

『その未来変えてやるよ』

『──太刀川さんらしい』

 

 懸念事項はまだ残っているが、一歩一歩詰めていくだけだ。

 それぞれトリガーを握り締め──戦闘が再開される。

 

 

 ◆

 

 

 基地外部の戦場では、トリオン兵の大群を押していたボーダーだったが、突如動きの良いトリオン兵が出現。それにより連携を崩されてしまう。

 そこで木虎、黒江と辻、笹森達近接戦闘が出来る彼らが対応する事になった。

 

『──と言うわけだ。そろそろ倒さないといけない』

 

 その情報を聞いた王子隊が動き出した。

 今までは包囲して逃がさない陣形を保っていたが、一度合流して猛攻を仕掛ける。王子隊三人によるハウンドが次々とコスケロに放たれ、それを防ぐアイドラの数がどんどん減っていく。

 

(押され始めた……ニコキラの特性がバレたか?)

 

 後退し、家屋の屋根上に逃げるコスケロ。

 それを追いかける王子隊の二人の手には弧月が握られており、もう一人は距離を置いてトリオンキューブを展開している。

 牽制のためだろうか。コスケロも警戒し、アイドラを間に置いて防御している。

 

「結構粘ったけど、ここまでだね。大人しく投降する事をオススメするよ」

「……」

「そのトリガーが、トリオン以外の攻撃に弱い事は分かっている!」

 

 追い詰めた王子と樫尾がジリジリと距離を詰めよりながら勝利を確信する。それに対してコスケロは……。

 

 

「……そうだな」

 

 静かに次の一手を打った。

 パシャリと、下から飛び出したニコキラが樫尾の両腕、王子の右足、弧月を持った腕を覆う。それにより弧月がカランっと乾いた音を立てて落ちる。

 

「戦闘中に悠長に会話をするものじゃない、と忠告しておくよ」

 

 そして──。

 

「ニコキラ!」

 

 アイドラで蔵内の射線を塞ぎつつ、振り返りざまに己のトリガーを放つ。

 すると、バシャバシャと二つの大きな音が響き、屋根の上に二つのトリオン体が転げ落ちる。

 

「し、しまった〜」

「くそ、バレていたか……!」

 

 コスケロのニコキラに捕まったのは、生駒隊攻撃手の南沢海と射手の水上敏志だ。直撃してしまった為に、腕や脚どころか首から下全てスライムで覆われてしまっている。

 水上は一応攻撃を仕掛ける事はできるが、容易く避けられ戦闘体を破壊されるだろう。

 そう判断したコスケロは、静かに王子を見下ろし言い放つ。まるで勝利宣言かのように。

 

「頭が回るようだけど、もう少し慎重になった方が良い」

 

 そして、王子は彼の言葉に返した。不敵な笑みを浮かべて。

 

「……そうか。ありがとう──肝に命じておくよ」

「……?」

 

 コスケロが疑問に思うと同時に──斬撃が彼のトリオン体をアイドラごと両断した。

 胸から下は崩れ落ち、上体は重力に囚われ落ちる。

 

「……!?」

 

 何がおきたのか理解できなかった。レーダーには何も映っていない。

 いや、映っていないにしても、何故斬撃によってやられたのか。ある程度の弾トリガーならアイドラのシールドに当たりワンクッションあるはずだ。

 故に斬撃が自分を斬った事にコスケロは混乱していた。

 

「……あれかっ!」

 

 そして斬撃が放たれた方向を見れば──居た。

 

「──旋空弧月。しっかりと当たってホッとしたで」

 

 バックワームを展開し、弧月を鞘に戻すのは生駒隊隊長生駒達人。No.6であり、随一の旋空弧月の使い手。

 そして、彼が用いた長距離旋空──生駒旋空の最大射程は40m。攻撃手を超える射程距離であり──。

 

「なるほど……やられた」

 

 コスケロを斬った剣の名だ。

 

 

 ◆

 

 

 コスケロが倒された事はガロプラの間でも知らされる。そしてそれはラービット達にもだ。

 

『お仲間がこっちの雑魚を倒したようだぜ?』

 

 三輪に付けられた鉛弾をズルズルと床に落としながら、ラービットEは言う。

 米屋も確認したのか口笛を吹いた。

 

「生駒さんがやったらしい」

「誰が誰を倒そうと変わらん。目の前に集中しろ」

「へいへい」

 

 三輪の気を抜かないその姿勢に、米屋も肩に力を入れる。

 だが、反対にラービットEは嘲笑い続ける。

 アフトクラトルに頭が上がらないガロプラにも、必死になって戦うボーダーに対しても。

 

『全く……ミデンの猿は無駄な事をダラダラとよく続けるぜ─さっさとクロノスの鍵を処分すれば良いものを』

「──」

「おい秀次。安い挑発だ」

 

 米屋が警告するが、三輪は返事をせずただ静かなままだった。

 それに気を良くしたかのようにラービットEが続ける。

 

『あんな厄ネタ庇っても意味がねぇ! ただ多くの人間が死ぬだけだ! 何百、何千、何万となぁ! 幾多もの屍を築いた後にお前たちは本当に勝利したとはたして思えるか!』

「ちっ、うぜぇ」

 

 弧月を握り締める米屋の手に力が入り、三輪はただ静かに聞くのみ

 

『楽しみにしてるぜぇ。テメェらが最後に絶望する顔をヨォ!』

 

 その言葉を最後にラービットEの嘲笑う声が響く。

 挑発にしては質が悪い。角による人格再現にしても邪悪すぎる。

 しかし──三輪には関係ない。

 

「言いたい事はそれだけかトリオン兵」

『……あ?』

「これからの戦いに有効な情報をポンコツらしく漏らすかと思えば……時間の無駄だな」

『なんだと!?』

「俺は──前に、未来に進んでいる」

 

 強い意志を持った眼差しがラービットEを貫く。

 

「散々貴様らが口にしてきたその言葉には、もううんざりだ。だから、俺はこれだけをお前達に言い続ける」

 

 弧月の剣先を敵に向ける。

 

「アイツは俺たちボーダーが守る! 例え拒絶されようとな!」

「……へっ。流石お兄ちゃん! カッコいいぜ」

 

 苛立ちが消えた米屋は笑みを浮かべて槍を構えた。対してラービットEは面白くなさそうに戦闘態勢に入る。

 

『つまらねぇ。さっさと殺してやる』

「言ってろ! ……行くぜ秀次」

「ああ。奴をスクラップにするぞ」

 

 銃声が響き、刃の軌跡が空中を掛ける。そして泥が音を立てて地面を汚していった。

 

 

 そして、一方その頃秀一は……。

 

「……っ」

「会いたかったぞ、クロノスの鍵」

 

 基地から離れた場所で一人、アフトクラトルの四大当主の一人、ハイレインと相対していた。

 そして、彼の足元には──三つのキューブが転がっていた。

 

 

 


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