勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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初めての集団戦です。
拙い文章かもしれませんが、良ければ改善点をご指摘してくださるとありがたいです。
B級ランク戦に活かせると思いますので

それとお気に入り、感想、評価本当にありがとうございます
モチベーションがベイルアウトするのは当分なさそうです


第5話

『ボーダーのみなさん、こんばんは! B級海老名隊オペレーターの武富桜子です!』

 

 なんだこれ。

 ……もう一度、言おう。

 なんだこれ。

 彼は、もうこのまま家に帰りたいと思っていた。

 

『皆さんご存知の通り今回はいつものランク戦とは違い、S級、A級、B級混成チームによるドリームマッチが行われます! メンバーはS級から迅隊員、A級から太刀川隊員、風間隊員、緑川隊員、米屋隊員。B級からは諏訪隊と荒船隊のメンバー、そしてあの最上隊員です! 正直私も興奮して混乱しております! 迅さん一体何した!?』

 

 彼がフリーズしている間に、何だか凄いことになっていた。

 C級ランク戦室に居た彼らは、噂を聞き付けた実況娘によってB級ランク戦室に放り込まれた。曰く、面白そうだから実況を付けるだとか、迅さんの指示だとか。

 現在テンション高く実況を行う少女を、彼は心の中にあるブラックリストに刻み込んだ。

 

『さて、開始時間まで少し時間があるので、ここで色々と説明しましょう。

 まず、迅隊員はブラックトリガーの使用は禁止で、今回の模擬戦はノーマルトリガーを使用してもらいます。

 そして肝心のチームですが、個人の力量差を考慮に入れた結果、このような組み合わせになりました!』

 

 Aチーム 迅悠一。緑川駿。笹森日佐人。オペレーターは小佐野瑠衣。

 Bチーム 太刀川慶。半崎義人。諏訪洸太郎。オペレーターは国近柚宇。

 Cチーム 風間蒼也。穂刈篤。堤大地。オペレーターは三上歌歩。

 Dチーム 最上秀一。荒船哲次。米屋陽介。オペレーターは加賀美倫。

 

 力量差とは何だったのか。と彼は思わずにはいられない。

 S級とA級を一緒にしてはいけないでしょうに。

 それどころか、観覧室に人集まり過ぎじゃないだろうか。

 胃が痛くなってきた。

 極度の緊張から彼の胃はキリキリと痛み、思考はグルグルと回り続ける。

 

「凄いな、チーム戦初めてなはずなのに落ち着いている」

「こいつにとっては、この模擬戦もお遊びじゃないんですかね。まあ、俺たちも気楽にしましょうや」

「ふっ、そうだな」

 

 ただ単に余裕がないだけである。

 

『混成チームなだけに、どのような展開になるのか全く予想できません!

 その辺り、どう思われますか解説の東さん!』

『そうですね。やはり肝心なのは如何に上手く連携を取れるか、と言った所。

 幸いにもどのチームにも隊長、または経験者がいますから、それを主軸にどう動くかがポイントだと思いますが……』

 

 東はそこまで言って発言を止めた。

 

『……これ、各チームの待機室にも聞こえてますか?』

『少々お待ちください――いえ、丁度作戦を練っているようで音声は遮断されているようです』

『そうですか。では――。

 今回の模擬戦においてキーとなるのは、やはり最上隊員でしょう』

『おお! やはりそうですか!

 あっ、ここで最上隊員についての情報を皆さんにお伝えしますね。

 彼は入隊時に一秒切りを果たした攻撃手界の大型ルーキーであり、二か月連続トリオン兵討伐数一位という記録を出しています。スコーピオンのポイントは5700と少し低めですが、これはランク戦を全く行っていないからであり、噂ではその実力はA級も注目するほどとか!』

『はは……あまり個人の情報は流さないようにね』

『大丈夫です! 事前に許可は得ています!』

 

 ただ単に意志疎通ができていないだけである。

 苦笑いを浮かべていた東は、しきり直すように言葉を続ける。

 

『話は戻りますが、今回の一戦は最上隊員の実力を見ることができるでしょう』

『ほほう。その心は?』

『単純に、相手が個人の実力としても、チーム戦として経験的にも、格上を相手にすることになるからです。

 最上隊員はソロでチームを組んでいません。防衛任務でも他の隊と組みますが、彼の戦い方は他の隊員の邪魔にならないように、個人で戦う――つまり、連携して戦っていません』

 

 少なくとも、自分たちと組んだ時はそうでした、と東はそう語る。

 彼のその言葉に思い当たるところがあるのか、彼と組んだことのある隊員たちは頷いたりと同意している。そのほとんどがA級、またはB級上位の隊員であり、どれだけこの一戦が注目されているのかが分かる。

 

『ただ……これは私個人としての意見なので、実際はどうなのかは分かりません。

 そこのところはどうなんだ、秀次?』

『……』

 

 東の問いかけた先、つまりもう一人の解説者である三輪秀次は如何にも不機嫌といった様子で腰かけていた。師である東の言葉にも沈黙を返すほどであり、彼がこの一戦をどう思っているのかは容易に想像できるだろう。

 武富桜子は、そんな彼に怯えつつも東と同じ質問を問いかけた。流石はプロである。

 

『……あの馬鹿は、一人で戦っていけると思うほど愚か者ではありません』

『えっと、つまり?』

『その答えは……これからの戦いで分かるだろう』

 

 そう言ったきり、三輪は発言することはなかった。

 桜子はその発言の真意を理解できず首を傾げていたが、東は理解できたようで、三輪を見る目は優しかった。

 

 それから十五分後、各々の準備が終わったようであり各隊員の転送が開始された。

 ステージは市街地Aだ。

 マップ上にはランダムに各隊員が映し出されている

 

『さて、まずは定石通りに全員バッグワームを……ってあれ?』

『最上隊員が、バッグワームを起動させませんね……』

 

 彼は、作戦前に合流を最優先にしようと言われていた。

 よって、マップで仲間の位置を確認するとその方角に向けて走り出す。

 勝手が分からない彼は、先輩の言うことを聞けば良いだろうと半ば思考放棄していた。だからこそ、基本のバッグワームを展開することを忘れていた。

 加賀美からの通信で言われるまで。

 彼は急いでバッグワームを展開するも、時すでに遅し。マップ上の敵は一斉に彼の元に集まり始めた。

 

『やはり最上隊員。初のチーム戦だからか動きが鈍いように思える!』

 

 桜子の発言にC級隊員たちの間でクスクスと笑いが起きる。

 彼の飛躍的な昇進に快く思わない者もいたのだろう。その嘲笑に三輪は眉を顰め、しかし東の発言で一転する。

 

『いや……これは全体的に見たら案外悪くないですね』

『え?』

『実は、転送完了時において、最も不利だったのはDチーム……つまり最上隊員たちのチームなんですよ』

 

 観覧室に映っているマップには荒船、米屋を囲むように敵が転送されていた。

 このまま戦闘に入れば、最も不利なのはDチームだ。

 

『しかし、最上隊員に釣られたことによって包囲網は崩されました』

『確かに、迅隊員、太刀川隊員、風間隊員は真っ直ぐに南へと向かっています』

『誰を取っても一点ですからね。チーム戦に不慣れな彼が狙われるのは当然です。

 ただ、最上隊員もそれを自覚していたようですが』

『え? それはどういう……あっ、最上隊員間もなく接敵します。

相手は……なんと迅隊員です!』

 

 彼が真っ直ぐ米屋の元へと北上していると、進行方向に立ち塞がるように迅が現れた。

 手には彼自身が開発し、そしてライバルである太刀川と一位争いをしていた当時の愛剣スコーピオンが。

 S級隊員が現れたことに彼は軽く絶望するが、反対に迅は嬉しそうだ。

 

「さて、胸を借りますよ最上さん!」

 

 嫌みか。

 そう思いつつも彼はサイドエフェクトを発動させ、迅の剣筋を見て対応する。

 

 まず、彼から見て右斜めから振り下ろされた剣は、体を左へと寄せつつ右足を引くことで回避した。その際の体の遠心力を利用した回転切りを放つ。だが、彼はこれが当たるとは微塵も思っていない。現に、迅は左手に持ったスコーピオンで受け止めていた。

 だが、彼の狙いはここだ。

 あえて受け止めさせたスコーピオンの剣先を形状変化させて、首を狙った奇襲!

 迅はそれを頭を後ろにそらすことで躱すも、元々これを狙っていた彼のスコーピオンのサイズは短い。つまり、まだ伸ばす余裕がある。

 相手の晒した喉元に向かってスコーピオンを伸ばす――が、減速した世界で彼は見た。すでに振るわれたスコーピオンを。

 己のスコーピオンが砕かれると共に、彼はバックステップで避ける。

 

「うん。スコーピオンの扱いが上手いな。それに剣筋も良い。製作者として嬉しいよ」

 

 彼は、こういう奇策は通じないと判断するや否や、スタイルを変更する。

 右手には短剣を。そして左手には峰の部分に窪みが入った剣を。

 

「おっ。珍しい形だ」

 

 それを見た迅はあえて(・・・)攻撃に移る。

 双剣を活かした猛攻を、彼はサイドエフェクトで凌ぐ。

 なるべく焦らず、ただその時が来るまで。

 そして、その時は来た。

 

 ――甲高い音と共に、迅のスコーピオンは彼の剣に噛まれた。

 がっちりと捉えたまま、彼は迅のスコーピオンを取り上げ、右手の短剣を瞬間的に伸ばすことで首を狙った。

 

「うおっ、器用なことをするな」

 

 だがしかし、現実は非情である。

 彼が剣を突き出す前に、迅は既に回避行動に移っていた。

 読まれていた。

 これもダメだと悟ると同時に、迅の袈裟斬りが襲い掛かる。

 

 

『なんと最上隊員、迅隊員相手に互角に渡り合っている!?』

『いや、これは違いますね』

『え!?』

 

 彼は遅くなった世界の中、既に緊急脱出(ベイルアウト)をしたくなった。

 いつものように動きの鈍い相手の首を斬るという彼の作業は、どうやら目の前の相手には全く効かないようだ。

 迅のサイドエフェクトは未来視。その言葉の通りの効力を持つSランクの超感覚だ。相手の未来から最適の答えを読んで、最適の剣を振るうのが迅のスタイルだ。

 傍から見たら高速で斬り結んでいるように見えるが、実際は彼の振るう剣は先読みをされ、全てが余裕を持って対応されている。少なくとも、彼から見たら。

 

『……っち、相変わらず腹の立つ奴だ』

『あ、あははは……では、最上隊員はこのままでは不利だと?』

『そうですね。何か変化が起きればあるいは、ってところですかね』

 

 タイミング良く、東の発言と共に彼は動いた。

 迅から距離を取ってスコーピオンを仕舞い、両手から二つのトリオンキューブを合成し――次の瞬間それらは一つの弾へと昇華した。

 

『んなあああ!?』

『あれは、合成弾!』

『――速い』

 

 超減速の起きた世界で、彼はバイパーとメテオラを合わせてトマホークを生成。

 そしてそのまま弾道を設定し、一斉掃射!

 

「――やっべ」

 

 迅は一瞬焦るとすぐさま飛び退いて、目の前で家や道路を粉砕する光景を目に収める。

 しかし彼に安息の時間は無い。

 無数の弾丸が四方八方から彼を取り囲もうと襲い掛かる。それは那須隊の射手、那須玲を連想させる鳥籠だった。

 彼は迅を中心に囲うように動きつつ、バイパーを放ち続けた。

 

『これは……トマホーク! それとバイパー! 最上隊員は攻撃手ではなかったのか!?』

『いや、彼はここ最近防衛任務でもバイパーを使っています。しかし、合成弾は初めて見ました』

『弾道、合成速度から察するに、リアルタイムで設定しているな』

『なるほど、サイドエフェクトか』

『ええ、おそらく』

 

 しかし、彼のバイパーも迅に読まれてしまっているようで、最初の動揺も収まり徐々に彼との距離を縮めていく。

 

 これ絶対勝てないわ。そう判断した彼は逃げることにした。

 情けないとは思うも、この時の判断は間違っていなかった。

 背を向けて全力で走る迅を遮るように、一つの斬撃が彼の足を止めた。

 太刀川だ。

 

『ここで太刀川隊員、迅隊員に斬りかかる! その間に最上隊員は戦線を離脱し、バッグワームを起動させて一気に北上していきます!』

『運が良い……いや、狙ったのか? 

 ともかく、これは面白い展開になりましたね。ここで攻撃手トップクラス三人(・・)が揃いました』

 

 米屋と合流するためにマップ上の東へと走る彼をよそに、迅の元には太刀川に続いて風間も到着していた。

 

「おいおい二人とも……おれと戦っても意味ないでしょ」

「いや、俺にとってはお前との決着が全てだ」

「……忍田本部長からはランク戦をしろとしか言われていない。別に問題ないだろう」

「……あれ? 風間さんもしかして怒ってる?」

「……」

 

『攻撃手三人が三つ巴の頂上決戦を行う中、東でも乱戦が起きる!』

 

 米屋、緑川、堤、諏訪が接敵したようで、四つ巴が起きたようだ。

 攻撃手が激突し、少し離れた所から銃手が牽制を入れる形だ。どうやら狙撃手が射撃ポイントに入るまでの時間稼ぎのようだ。

 一方、マップ中央では運悪く笹森が荒船と対峙し、弧月を抜いた荒船が押している。

 指示されたからか、笹森は風間の居る方角へと荒船と斬り合いながら走る。

 

『最上、お前はそのまま米屋の援護に向かえ。笹森(こいつ)を片付けたら、俺もそっちに行く』

 

 彼は荒船の指示に頷くと、なるべく見つからないように、かつ急いで米屋の元へと向かう。

 視界に諏訪の背中を確認した彼は、そのまま家の影に身を潜める。

 加賀美曰く、米屋は堤の散弾銃で足をやられてしまったようで、あまり形勢は良くないらしい。マップを確認すると、諏訪の居る屋根から家二つ分の位置に堤は居た。

 とりあえずトマホークでブチかまそうと、弾道を設定して走ると同時に誰かが緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

『ここで笹森隊員、荒船隊員に競り負けた!』

『荒船は弧月でマスタークラスに至っていますからね。笹森隊員には少し荷が重かったか』

 

 誰かがやられたことに気を取られた諏訪が、一瞬攻撃の手を止めた。

 そこにタイミングよく彼のスコーピオンとグラスホッパーによる奇襲が決まった。

 

「なっ……いつの……まに……」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 その勢いのまま道路に着地すると同時に、彼は堤の元へと跳んだ。

 真正面から向かって来る彼に、堤はアステロイドの両攻撃を行う。

 それに対して彼は慌てて立ち止まり、フルガードでアステロイドの嵐を防ぐ。

 

『おっと、ここで銃手の射程圏内で足を止めてしまった最上隊員! このままでは削り取られるのも時間の問題――』

『いや、これで良い』

『へ?』

 

『堤さん! 避けてください!』

「っ!」

 

 散弾銃を放ち続ける堤の耳に、オペレーターである三上の警告が入るも、一歩遅かった。

 堤の元に空から爆撃が襲い掛かり、崩落する家と共に緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

『諏訪隊員に奇襲をかける前に設定していたトマホークですね。彼はトマホークの使い方が上手い』

 

 一気に二点をもぎ取った彼は、米屋と戦っている緑川の元へと向かった。

 

「げっ、最上先輩」

「やっと来たかモガミン。さっさとこいつ片付けんぞ」

 

 やっと合流できた。

 ほっとしつつ、彼はいつものようにサイドエフェクトを発動させ――視界に映った一つの弾丸に意識を持っていかれた。

 彼は咄嗟に鈍い体を必死に逸らす。しかし、それは悪手だった。

 弾速は速く、彼の右肩に穴が空く。

 

『半崎隊員による狙撃。しかし距離がおかしい!』

『半崎隊員の射程はボーダー内においてトップクラスですからね。しかしこれは……』

 

 超遠距離から狙撃によって、ダメージを受けた彼は傷口を塞ぎつつ射線から外れようとする。

 しかし、それは杞憂だった。

 

「……よし――っ!」

 

 狙撃したことによって位置を確認した穂刈が撃ち抜いたのだ。

 おそらくそういう指示を受けていたのだろう。

 穂刈は急いでその場を離れようとして――視界がズレる。

 

「……やられたな。隊長」

 

 半崎を補足した穂刈は、近くに居た荒船の弧月によって頭部を斬り裂かれた。

 奇しくも、同じ隊同士による点の奪い合いが行われることとなった。

 緊急脱出(ベイルアウト)する穂刈を見届けて、荒船は振り返る。

 そこには、スコーピオンを持った風間が立っていた。

 

「……悪いな、二人とも。どうやら合流は無理そうだ」

 

 

 

『息をつく暇も無く次々とリタイアしていく隊員! 荒船隊員も風間隊員を相手に喰らい付くも、無念の緊急脱出(ベイルアウト)!』

 

 桜子の言うように、これで残ったのは彼を含めて六人。

 先に落ちていった全員がB級だということを考えると、個人の実力差が現れているように思えた。それは観覧室に居た隊員たちも感じたようで、未だに残っている唯一のB級隊員である彼に関心が集う。

 

 そんなことを知らずに、彼は米屋と共に緑川を追い詰める。

 緑川は苦しい表情を浮かべつつも、必死に抵抗し、中々落ちない。

 米屋の足がやられたのが原因だろう。バイパーで牽制を入れるも威力が足りず、シールドで防がれる。

 

『警告! そっちに風間さんが――』

「――がっ!」

 

 さらに戦況は動く。時間を取り過ぎた結果、機動力が低下していた米屋は、風間の奇襲に対応できずに首を撥ねられる。

 

『戦闘体活動限界緊急脱出(ベイルアウト)

 

 ドンッと米屋が落ちる。

 急に落とされた米屋に、緑川も彼も意識が持っていかれた。

 だが、二人には差があった。

 緑川は現実の世界で、彼は遅くなった世界で。

 たったその一つの差が勝敗を分けた。

 硬直している緑川の首を、先ほど米屋がされたように撥ねる。

 

「……また、やられた」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 緑川を下した彼は、スコーピオンを片手に、目の前に立つ男を見据える。

 肩からトリオンが漏出したとはいえ、彼はまだ戦うことができる。それでも彼が圧倒的に不利と言えよう。

 利き腕は使えず、トリオン残量も実力も大きな差がある。

 そして、もし奇跡が起きて風間を倒すことができたとしても、その後には太刀川と迅が居る……。

 それでも、彼がここで落ちても彼らのチームは二位以上は確実だが。

 彼はそのことに気が付かずに、サイドエフェクトを発動させて備える。

 

「……正直、初めは気が進まなかった」

 

 それを知らずに風間は口を開く。

 残念ながら、サイドエフェクトを発動させた彼の耳に音は届かない。

 

「B級のお前に対して、このような不公平な戦いを仕掛けることにな。

 だが――どうやら俺は慢心していたようだ」

 

 チャキッとスコーピオンを構える風間蒼也。

 

「認めよう。お前は紛れも無く強者だ」

 

 その言葉を最後に二人は激突した――。

 

 

 

 

 あの後、彼は風間に負けて緊急脱出(ベイルアウト)

 そしてその後間もなく太刀川が迅に勝ち、消耗していた太刀川を風間が討ったことで試合は終了した。

 

『試合終了! 結果はCチームが生存点含めて6点を得たことにより逆転勝利! では、東さん、早速試合の総評をお願いします!』

『そうですね。今回の試合は混成チームということもあり、ポイントの差が開きました』

『確かに。S級とA級の居るAチームがまさかの無得点! ですからね』

 

 これには観覧室に居た隊員たちも驚いていたのか、試合結果に騒めいている。

 最終的にはCチームが勝ったものの、それまでは今回チーム戦が初であるはずの彼がいるチームが独走していたからだ。

 東も同じ気持ちなのか、今回の総評は最上を中心に行うようである。

 本人はグロッキーで聞けていないが。

 

『まず、転送完了後に彼はバッグワームを使わなかった』

『初めはミスかと思いましたが、試合結果を見ると……』

『実際はどうなのか分かりませんが……それでも、米屋隊員、荒船隊員が即座に集中放火……――まあ、米屋隊員は敵に囲まれていましたが――特にあの三人が最上隊員の誘いに乗ったので、結果オーライでしょう』

『……ただ、本来なら上がり立てのB級がするべきことではない。今回は運が良かっただけだ』

 

 運が良かった、という言葉に東は乗る(・・)事にした。

 上からは詳しいことを聞かされていないが、彼は己の弟子を信じてただ解説するだけである。

 

『その後、最上隊員は迅隊員と戦いましたが……』

『割とすぐに離脱しましたね』

『ええ。自分は勝てない――つまり取れない得点だと判断した。

 そして迅隊員と太刀川隊員をぶつけた後は諏訪隊員、堤隊員と連続で獲っていく』

『鮮やかな手口でしたね』

『いやあ、あのトマホークには驚かされました』

 

 逆に諏訪隊の面々は己の力を発揮できなかったと言わざるを得ない。

 元々諏訪隊は銃手二人による散弾銃の面攻撃が強みだ。それをチーム編成で崩されたのが最大の痛手と言えよう。

 それと比べると荒船隊はしっかり対応していた。

 同じ隊だからこそ、相手の居場所も、するであろう動きも読んで、そして己の得点にすることができた。

 

『それにしても、意外でしたね』

『何がです?』

『いや、試合開始前は彼にチーム戦ができるのかと思っていましたが……仲間(・・)を頼ることを知っている動きでした。

 お前がその辺りのことを教えたのか。秀次?』

『……あいつはまだ未熟者です。まだそれしかできません。

 米屋との連携に拙さがあるから、緑川をもっと早く落とせなかった。

 それに、注意力も足りませんし自分のサイドエフェクトの弱点を理解していない。

 加えて最後の風間さんとの一騎打ち。あいつなら時間を稼いで逃げ切れば――』

『ははは。秀次、後輩が可愛いのは分かるが、全て教えたら成長できない。その辺りにしておけ』

 

 東の言葉を理解できた者は、おそらく少ないだろう。

 ほとんどのB級、C級隊員たちは首を傾げていた。

 逆にA級の実力者たちは彼を生暖かい目で見ており、それに気づいた三輪は瞠目した。

 

『えーと、つまり……?』

『つまり臨機応変に動いた最上隊員が、試合の流れを動かしたということです』

『なるほど! これは彼がチームを組んでB級ランク戦に挑んでくるのが楽しみであり、少し怖いですね!』

『ははは、そうですね――私は、彼の成長が楽しみですが』

 

 その言葉に気付いた者はどれだけ居ただろうか。

 ただ、彼に教えを乞うた者たちは気付いているだろう。

 

『それでは急遽行われた混成チームによる模擬戦は終了しました!

 全力で戦い、素晴らしい試合を見せてくれた皆様に拍手をお願いします!』

 

 

 

 

「いやー、モガミンすまんな。足引っ張っちまって」

 

 米屋から告げられたその言葉に、彼は首を振って返す。

 年上の、それも自分に良くしてくれる先輩にそのようなことを言われると、恐縮してしまい口が回らなくなる。

 悲しきコミュ障の性。

 

 そんな彼らをよそに、総評を聞いてからずっと黙っていた荒船が顔を上げる。

 

「最上、お前俺の(チーム)に入らないか?」

 

 そして爆弾を降下した。

 彼も、そして彼と話していた米屋もいきなりの勧誘に驚いている。

 

「ちょ、どうしたんですか荒船さん!」

「どうしたも何も、今回のチーム戦を見たら普通欲しいと思うだろう」

 

 彼はいきなりの自分に対する高評価にショート寸前であった。

 何しろ、彼のことを褒めてくれるのは彼の祖父以外では久しぶりだからである。

 ちなみに三輪はカウントされない。分かり辛いのは彼に対しては逆効果である。

 

「おそらく穂刈も半崎も同意するだろう。加賀美も異論は無いな?」

「もちろん」

「で、どうだ最が――」

「――ちょっと待ったーー!!」

 

 しかし、そこに待ったをかける者が居た。

 作戦室に駆け込んできた諏訪である。

 彼の背後には迅、太刀川、風間以外の今回の試合の参加者が揃っており、かなりの大人数だ。

 諏訪はビシッと彼を指差すと、有無は言わさない力強い言葉で断言した。

 

「最上ィ! お前俺らの隊に入れよ!」

 

 まさかの二回目の爆弾である。

 そして二回目のフリーズである。

 

「なっ!? 諏訪さん、最上は今俺が勧誘して――」

「んなこと分かってらァ。だからこそこうして抜け駆けされる前に来たんだろうがっ」

「んぐ……」

 

 自覚していたのか、言葉に詰まる荒船。

 そんな彼を置いて諏訪は彼の肩を強く掴むとさらに言葉を続ける。

 

「俺たちの隊は良いぞー。なんせ隊室(へや)には麻雀があるしな」

「諏訪さん。中学生にそこはアピールポイントじゃないと思います」

「そうそう。もっと中学生が食いつくポイントじゃなきゃ」

「おサノ先輩。それも違うかと」

 

 諏訪隊の面々は彼を己の隊に入れることに異論はないのか、入れること前提で話を進めている。

 これを面白く感じないのは先に勧誘していた荒船である。

 

「くっ……! おい最上。俺たちの隊に入ったらアクション映画の魅力を理解できるぞ!?」

「珍しく混乱しているな、うちの隊長も」

「まあ、欲しい人材ではあるよな」

 

 なんかもう荒船はダメだった。

 それを察した荒船隊の二人は呆れており、しかしみすみす彼を諏訪隊に明け渡すつもりはないらしい。

 

 そして勃発する一人の男を巡った仁義なき戦い。

 

「そもそも、俺が先に勧誘したんですって!」

「うるせぇ! だいたいお前たちの隊に最上入れてみろ。一人前線に放り出されて可哀想じゃねえか! その点うちは日佐人いるから寂しくねえ!」

「寂しい奴だと思われてんのか笹森。諏訪さんに」

「いえ、勢いだけで言っているだけです……多分」

「だから、アピールポイントが……」

「なんかもう、この状況がダルいわ」

 

 

「はっはっはっは。モテモテじゃねえかモガミン……あれ? いねえな」

「最上先輩、防衛任務だからってもう行ったよ」

「あいつ逃げたな」

 

 すでに彼の許容範囲を超えていたのである。

 

 

 

 

 

 抜け出してきた彼は疲労困憊といった様子で、支部についた際に三輪がいても驚く余裕はなかった。

 三輪は、彼のその様子を見て大方のことを察したのかため息を吐いた。

 どうやら逃げ出してきた彼に呆れているようであった。

 先ほどまで考えていたチーム戦の反省点を頭の隅に追いやり、三輪は問いかけた。

 

「お前は、チームを組まないのか?」

 

 その言葉に対して、幾分か落ち着いて来た彼は分からない、と答えた。

 元々自分のような人間がチームを組めるとは思っていなかった。だから、先ほどチームに誘われた時に喜びよりも困惑が勝り、そして逃げてしまっていた。

 情けない……。

 言った後にそう言われると察した彼は、自分のガラスハートに補強をして身構える。

 触れば崩れ去る欠陥工事も真っ青な脆さだが。

 さあ来い、と思うも、どういうわけか三輪は黙ったままである。

 

「……そうか」

 

 しかしどういうわけか、三輪は一言そう言うと歩き出した。

 気が付くともう既に前の部隊と交代の時間だ。

 罵倒されなかったことに動揺しつつも、彼は三輪の後を追う。

 

「……もし」

 

 三輪が口を開いた。

 

「もし、A級を目指すことになったら……その時は――」

 

 しかしそれ以上は告げず、彼は歩く速度を早めた。

 何を言おうとしたのか。

 それが気になった彼だったが、追及したら鉛弾を受けそうだったので黙っておいた。

 

 

 心なしか、今日の三輪の罵倒は少なかったかのように思えた。

 




今回のチーム戦であのキャラ達に違和感を感じて下さったら幸いです。
色々と伏線を張ったりしている回です。
東さんも言わなかったところもありますが、果たして何人の方が気づくでしょうか……。

ちなみに、この試合をしている時の防衛任務をしているのは
小南
レイジさん
烏丸
茶野隊
片桐隊
というどうでも良い設定があったり。
他のA級は何をしているのかはお察しを

それと転送位置は
C穂刈           A緑川
          B半崎
A笹森  D荒船       D米屋   B堤
        C風間
B太刀川           C諏訪
     A迅
    D最上

な感じです。

次回、原作前まで一気に飛ぶ話です

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