勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第53話

 ──思えばアタシは、悔しかったんだと思う。

 

 ボーダーに入った時は楽勝だと思っていた。初めての訓練でトリオン兵と戦った時、他の奴らよりも早く倒す事ができた。実際、嵐山さんにも凄いと褒められ悪い気はしなかった。

 その後も順調だった。大半の同期がモタモタしている間にアタシは瞬く間にBに上がって正隊員になった。それも当然だ。訓練で常に一位を取り続けて、ランク戦でも勝ち続けたんだから。

 さらに当時使っていたスコーピオンのポイントが溜まりマスタークラスになった事で、アタシはもっと上へと行けると思った。

 

 壁にぶつかったのはそれからすぐ後の事だった。

 

 太刀川慶。風間蒼也。小南桐絵──。

 奴らを筆頭に、アタシなんかよりもずっと強い格上が存在した。最初は認められなくて、なんで勝てないんだって、こいつよりもアタシの方がって思って。

 でも現実は違った。戦えば戦うほど引き離されて、それどころかアタシより下だった奴が追い越して──。

 

 ──ムカつく。

 

 そこからは早かった。攻撃手に飽きたと自分と周りに言い訳して、次は銃手になった。でもそこでもアタシよりも上がいて、攻撃手の時よりも早くポジションを銃手から万能手へと変えた。

 

 ──ムカつく。

 

 でも、アタシは特に上を目指すことはなかった。ソロランクを上げてもただダサいだけ。そう自分に言い聞かせてチームランク戦に力を入れた。おかげでアタシたち香取隊は上位グループに入り、残留する事ができていた。

 ……それでも上には勝てずA級には上がれなかった。

 

 ──ムカつく。

 

 そうして伸び悩んでいるうちにアタシはどんどん追い越されていった。

 同期の奴どころか、アタシよりも後に入隊した奴にさえ。個人でも、チームとしても、ランクとしても。

 

 ──ムカつく。

 

 そして。

 ここ最近ムカつくのが──最上秀一だ。

 

 アイツの噂話を聞いた。よくある話だと思った。

 入隊してすぐに正隊員になったと聞いた。今時珍しくないと思った。

 A級隊員たち相手に大立ち回りしたと聞いた。偶然でしょと思わず呟いた。

 防衛任務で組んで無視された時、思わず毒づいた。

 夏のランク戦でボコボコにされた時、何も言えなかった。

 大規模侵攻で活躍したと聞いた時、言葉が出なかった。

 

 そして、今期のランク戦で一気に上位入りして二宮隊と引き分けたと聞いて──中位に落ちたアタシは悔しい(ムカつく)と思った。

 

 

 ──ムカつく。ムカつく。ムカつく……悔しい! 

 

 頑張っている奴らを見て、アタシは悔しかった。

 近界民に簡単にやられて悔しいと思った。

 

 悔しい。悔しい。悔しい。──だからこそ。

 

 

 ◆

 

 

 ラービットRの弾幕により、思うように戦えず攻めあぐねている香取隊並びに東隊。

 近づこうにも動きを見切られてしまっている為、ほぼ攻撃手しか居ないこの状況がまずい。遠距離攻撃を持っているのは銃手の若村と万能手の香取のみ。しかし、若村にはラービットに有効打を当てる技術がない。逆に技術は満たしている香取は最も警戒され、好きに動けない。倒されないように引き気味に戦ってようやく膠着状態になっている今、愚直に攻めればただの的へと成り下がる。

 かといって、このままで言い訳は無い。

 

(どうする……?)

 

 思考を続ける香取に自分の隊のオペレーターである染井華から、通信が入った。それは戦場に居る全員に向けてのものだった。

 

『葉子。みんな、一度下がって』

「え? 華、何を言って──」

『良いから、早く』

 

 有無を言わさないその指示に全員が下がると同時に──彼女たちの頭上を何かが突き抜けた。

 

『──!』

 

 システム・クロノスにより、自分に向けて放たれた()()を視認したラービットRは回避行動を取った。この攻撃を受けてはダメだとデータ(経験)が言っていた。

 果たして、それは正しく。先ほどまでラービットRが居た場所を巨大かついくつも弾丸が通り過ぎ、床や壁を削り壊していく。

 

「何よあれ!?」

「こんなの見たことないぞ!?」

 

 後方から放たれた射撃に香取たちは驚愕に声を上げた。

 

『この威力……まさか!』

 

 ──金の雛鳥か! 

 

「アステロイド!」

 

 廊下の先から一人の少年の声が響き、再び規格外の弾丸が放たれる。

 それを避けながら、ラービットRは敵へと視線を向ける。そこには、眼鏡をかけた少年と、その彼の手を握ってこちらを見据える一人の少女。

 

 玉狛第二の三雲修と雨取千佳だ。

 本来、彼ら単体では先ほどの攻撃は不可能である。修はトリオンが少なく、千佳はセットされているトリガー的に。

 しかし、彼らはトリガーの臨時接続という裏技を使い、千佳のトリオンを使って修がアステロイドを放った。

 それにより、暴力的な雨の弾丸がラービットRを襲い続けている。

 

『ハハ! 流石は金の雛鳥! 凄まじい力だ!」

 

 歓喜の声を上げるラービットRは空を飛び、一気に前へと出た。

 

『だが! 担い手が拙い! まさに宝の持ち腐れよ!』

 

 すべての弾の軌道を見切るラービットR。システムクロノスを用いれば、例え分厚い装甲をぶち抜く魔弾であろうと、脅威にならない。

 

「ちっ!」

 

 あっさりと対応されてしまった援軍に、思わず香取は舌打ちをして前に出る。

 このまま棒立ちしていてもどうせやられてしまう。ならば、自分が捨て身になって囮になって、あの魔弾を当てれば倒すことはできる。

 そう思っても行動だったが……。

 

「そこの眼鏡とチビ! アタシの合図で──」

「──いえ、もう大丈夫です!」

 

 ──なに? 

 

 ラービットRと香取の呟きが重なると同時に、一つの影が戦場を走り抜けた。

 それと同時に大量のトリオンが噴き出す──ラービットRの眼から。

 

『ぬぐお……!?』

「ナイスだオサム、チカ」

 

 何処から現れたのかラービットRには理解できなかった。気が付いた時には急所を一刀両断され、躯体が朽ちようとしている。反対に、香取はすべてが見えていた。

 彼は──空閑遊真はラービットRの死角からカメレオンを使って奇襲をかけたのだ。

 やっている事はとても単純だ。しかし、とてつもなく速い。

 修たちのアステロイドは引き付ける為の囮なのだろう。そう考えれば無駄に撃っていたことにも説明が着くし、あれだけのトリオンを注ぎ込めばカメレオンの一つや二つレーダー探知から零れ落ちる。

 

 到着してから数分の出来事だ。

 

「うっはー。豪快というかなんというか……」

「あれが玉狛第二。強いな」

 

 東隊二人は素直に感心して、香取隊の二人も同様の反応を示す。先日最上隊に負けた事により若干評価が下がっていたようだが、修正する必要がありそうだ。

 そして、香取はというと──。

 

「……っ!」

 

 彼らと自分の差を見せつけられ、

 大規模侵攻を思い出して、

 その時から自分は何が変わったのかを考え、

 

 

 

 そして──。

 

(──ギリッ!)

 

 口の中の奥で嫌な音が響いた。

 そんな彼女の様子に修は気づくことなく、オペレーターである宇佐美からの指示に頷いていた。

 

「分かりました。では、このまま索敵を行います」

『うん。よろしくねー』

 

 通信を終えた修は、香取たちの方へ向く。

 

「では、ボク達玉狛は他の戦場へ向かいます。ご協力ありがとうございました」

「ああ。助かったよありがとう」

 

 どうやら、香取が思考にふけっている間に話は終わっているらしい。

 香取たちはトリオンが漏れて傷だらけ。玉狛第二には余裕がある。どちらが救援に向かうべきなのかは火を見るよりも明らか。

 それが、さらに香取に暗い感情を浮かび上がらせる。

 

「ほら、葉子っ。お前も礼の一つくらい言ったらどうだ?」

 

 そんな彼女に若村がいつもの様子で注意を呼びかけ、彼女は思わず舌打ちをしそうになった。

 

「……流石は玉狛第二様ね。助かったわ」

「おい! そんな言い方……!」

「でも、別にアンタ達が来なくてもアタシたちだけで倒せたわよ。その辺勘違いしないでよね」

「え、あの、その……」

「いい加減にしろよ香取! だいたいお前はいつも──」

 

 不遜な物言いに修たちはたじたじとなり、若村が語気を荒げ──。

 

「お前、つまんない嘘つくね」

 

 しかし、それ以上に遊真の冷たい声が場を制した。

 全員が黙り、視線が彼に集う。それは当然香取も同様であり、彼女は遊真を睨みつけた。

 

「……どういう意味?」

「『勝てない』って分かっていたのに、後になってそんな嘘言っても仕方ないでしょ。アンタが一番分かっていたんでしょ。あのラービットを倒せないって」

「……イラつくわね。そんなに手柄できてうれしいの?」

「……別にこれ以上言う義理もないし、どうでもいいけどさ。これだけは言っておくよ」

 

 ──香取はゾッとした。

 

「自分と相手との力量差を見誤って死ぬのは、アンタだけじゃないから」

「っ!!?」

 

 行こう、オサム。チカ。

 それだけを言って、遊真は二人を連れて次の戦場に向かった。

 香取以外はその背中を呆然と見つめて、香取は一人目を大きく開いて息を荒げる。

 

 彼女と……染井華と一緒に上に行くと決めた。

 だからこそ、悔しい。だからこそ、イラつく。

 前に進めない自分が。追い抜いて行く彼らが。

 

 しかし今日。新たな感情が……いや、思い出した感情が芽生えた。

 

 ──夏の模擬戦で、自分を冷たく見下ろす最上秀一。

 ──心の中を覗き込むかのような冷たい瞳を持つ空閑遊真。

 

 彼らを見て彼女は──。

 

(なんで……そこまで行けるのよ!)

 

 自分の胸の中で燻っている感情に気づかず、しかし確かに感じ取っていた。

 

 

 

 彼らのように強ければ、と。

 

 

 ◆

 

 

『チ、チクショウ……!』

 

 その言葉を最後に、ラービットEは完全に沈黙した。システムクロノスを使おうとも、最も上手な使い方をしている相手とじゃれ合っていた三輪隊の二人にとって、後れを取る相手ではなかった。

 目から弧月を抜き取りながら、援軍に駆け付けた二人──ヒュースと雷蔵を見る三輪。

 

「すごいな、二人で倒したのか」

「ブラックトリガーと違って、出力あまりなかったすよ。てか雷蔵さんどうしたのその姿」

「ダイエット」

「マジか」

 

 お気楽に会話を繰り広げる二人をよそに、バチバチと睨み合う三輪とヒュース。

 お互いに嫌な相手と出会った、という顔をしている。

 しかし、それも無理もない、何故なら──最上隊結成後すぐに、この二人はトリガーを互いに突き付けたのだから。

 

 ──だが。

 

「働いてもらうぞ近界民」

「元よりそのつもりだ、ミワ」

 

 彼らが殺し合うことはない。何故なら──彼らの目的は同じだからだ。

 

「あのバカを──」

「あのアホを──」

 

 

 

「──迎えに行くぞ」

 

 異口同音に呟き、基地内を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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