勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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【B級ランク戦・迅雷編】
第55話


 ガトリン、風間、太刀川が緊急脱出し……ガロプラ、ボーダー隊員両側に動揺が走る。

 一方は、シンプルに隊長が倒されてしまったが故に。

 一方は、敵が緊急脱出機能を使った事に。

 

 戦闘時に空白が生まれ、お互いに隙が生じる。本来なら立て直した方に軍配が上がるが──この場に一人だけ()()()()()()()者が居た。

 

「申し訳ないけど──今回はお引き取り願おうか!」

『っ!』

 

 風刃の遠隔斬撃がウェン、ラタリコフを斬り裂き──二人もまた緊急脱出する。

 それと同時に小南と村上が犬型を一掃し、戦場には勝者だけが残った。

 同時に、他の戦場も片がついた事を視たのか迅が深く息を吐いて座り込み──通信越しに太刀川に向けて愚痴をこぼした。

 

「無茶するなぁ太刀川さん……」

『なっはっはっは! お前の未来予知を覆したぞ迅!』

「いや、結局風穴空いてんじゃん……」

『何言ってんだ。敵に風穴開けられて死ぬのとは違う。むしろ未来予知に勝ったろ。逆手にとって勝ったんだから』

 

 だからと言って、実行に移して勝利を捥ぎ取るのは……彼が太刀川慶だからだろうか。

 そしてもう一つ意外に思うのは……。

 

「でも、まさかこんなリスキーな作戦に風間さんが手を貸すなんて……」

『戦場が膠着状態に陥り、徐々にお前の表情が曇っていたからな。あのまま戦えばお前の見る未来に行くと思った。なら、可能性の高い方に乗るのは当然のこと』

「ははは……流石……」

『それと──』

 

 通信越しに風間は言う。

 

『未来を変える事ができるのはお前だけじゃない』

「──」

『あまり気負いすぎるな』

「……やっぱ敵わないなぁ」

 

 脱力して寝転んだ迅は思わず笑みを浮かべて、その様子を見ていた小南もまた困ったような、呆れたように肩をすくめた。

 

『と言うわけで、未来予知に勝ったから……迅。俺とランク戦しろ』

「なんか疲れそうだなぁ……」

 

 

 ◆

 

 

「レギー、あんた何やってんの。あんな事したら、下手したらクロノスの鍵の矛先がうちに来るよ」

「……襲うように見せかけただけだ」

 

 門誘導装置破壊作戦が失敗し、遠征艇に撤退したガロプラの戦士たち。

 唯一緊急脱出しなかったレギーだが、その表情は暗い。その理由は今しがたウェンが言った通りだった。彼女の言葉を聞いてぐっと口を噤むレギー。

 そんな彼をコスケロがフォローする。

 

「レギーにはトリオン兵の指揮を全部任せちゃったからね。それに、敵に捕捉されてやられてしまった」

 

 脱出機能の性能も確かめる事ができたと前向きに考えるコスケロ。

 そんな彼の言葉を聞きつつ、ガトリンは思案する。

 

(アフトクラトルを追い返しただけあって、やはり強い)

 

 今回ガロプラはクロノスの鍵──最上秀一と戦うことはなかった。

 アフトクラトルからの情報では、彼が一番厄介だと思っていたが……他の戦力も無視できない程に強力であった。

 加えて、迅悠一の存在が大きく、結局終始戦場の流れを掴まれてしまい、最後の賭けも負けてしまった。

 攻略をするには──アフトクラトルとの連携が必要だ。

 

「……アフトから連絡が来るまで各自休憩だ」

 

 部下に指示を出し、ガトリンは己の部屋へと戻った。

 

 

 ◆

 

 

 内部に侵入した人型近界民をトップアタッカー達が撃退し、外のトリオン兵軍は玉狛のワンオフトリガーにより一掃され、防衛戦は終了した。

 あらかたの戦局を聞いた秀一たちはそれぞれ肩の力を抜いた。

 

「茜も頑張ったみたいね」

「みんな頑張ったのよ」

 

 通信越しに聞こえる自隊の狙撃手の明るい声を聞きながら、熊谷と那須は微笑み合った。オペレーターの小夜子も『疲れた〜』と脱力しながら呟いた。

 

 そんなホワホワした場所と違い──こちらは絶賛修羅場であった。

 

「……」

「……」

「……」

 

 三輪、遊真、ヒュースが三者三様に睨み付けて膠着状態にあった。

 この三人、先日の一件──ラウンド5昼の部終了後に起きた()()一件から、とにかく仲が悪かった。

 それを見てる修と千佳はアワアワし、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 件の中心たる最上秀一は……。

 

『飛び出して罠にかかるなんて、慶くんでもしないわよ?』

「……」

『自分の能力だけ過信したら痛い目に合う事は嫌と分かってるはずよ』

「……」

『──そう。そんなに私とじっくりお話したいのね』

「──! ……!」

 

 何やらお取り込み中で、こちらの様子に気付いていないようだった。

 ならばもう一方の頼れそうな先輩たちは──。

 

「オロロロロロロロロ」

「ぎゃああああああ!?!? ら、雷蔵さーん!?」

「アンタカッコつけて『戦いは終わったか。ふっ。シュイーン(トリガー解除)』なんてするから!!」

「ひ、久しぶりにやってみたかったんだ……風間やレイジみたいに……!」

『ら、雷蔵さん……!』

「オロロロロロロロロ」

『雷蔵さーん!?』

 

 こっちはこっちで修羅場だった。

 どうすれば良いのだろう。こうなれば先ほどまで戦っていたトリオン兵でも良いから事態を収拾して欲しいと思ってしまう。しかし四人のバイパー使いによる正確無比な射撃により、すでに機能停止している。

 どうしたものかと修が唸ったところ、三人に動きがあった。

 

「ネ……ヒュース。今回の敵のアレは、あの時の根暗野郎か?」

「おそらくそうだろう。本国かガロプラかは知らないが、遠隔操作するトリガーで、あの人が直接操作していたみたいだ」

「それ以外は違う……か」

「今回はあくまで実験……あわよくばクロノスの鍵の破壊を狙っていたのだろう」

 

 ヒュースの見解を聞かながら、三輪は思い悩む。今回は勝てたが、今後もそうだとは限らない。現に、敵にあっさりとボーダーと秀一を分断されてしまった。

 迅の予知により、そうなる事は知っていたが……三輪としては彼には無理をして欲しくない。

 

「随分とシュウイチに執着するね」

「当然だ。奴にはそれだけの価値がある」

「価値、ねぇ……」

 

 それを聞いて遊真は目を細める。

 アフトクラトルにとってはソレは価値のあるものなのだろうが、遊真にとっては逆の意味をする言葉だった。

 友が襲われる理由が、くだらない。

 それが表情に出たのか、気づいたヒュースが追及する。

 

「……何か言いたそうだな」

「別に──それと、アンタにはあまり情報は流したくない」

「……」

「……」

 

 ギシリ……と空気が軋んだ所で、忍田から指示が下る。

 敵の追撃に警戒しつつ、帰還しろとの事。

 特に夜の部にランク戦を控えている部隊は。

 それを聞いた秀一は、とりあえず月見からの説教抜け出し、ヒュースに帰ろうと伝えた。

 それを見た遊真と三輪が少し……かなりイラッとしたが。

 

「ほら、行くぞ空閑」

「秀次もだぜ〜。弟子も待ってるらしいからな」

 

 それぞれ修と米屋が引き摺って帰って行く。

 それを見送りながら二人は話を続ける。

 

「そうだな。次の試合の準備をしなければ──もしかすると、戦闘員はオレとお前だけになるのかもしれない」

 

 先の試合内容を思い出し、ヒュースはそう断言した。

 その言葉には言い寄れぬ冷たさがあり──。

 

「……」

 

 それを秀一が力強く否定した。

 

 唯我先輩は、次の試合も必ず出てくれる、と。

 

「……ふっ。そうだな」

 

 それにヒュースは笑みを浮かべながら同意し、ガロプラ襲撃前の事を思い出す。

 

 

 

 新生最上隊初の試合である──ラウンド5を。

 

 時は、遡る──。

 

 ◆

 

 

「出水先輩! 太刀川さん! このボクの晴れ舞台しかと目に焼き付けてください!」

「うるせーな、コイツ……」

「まぁ、ほどほどに頑張りな」

 

 身振り手振りで太刀川と出水に向かって喧しく騒ぐ唯我。それに出水はイラッとし、太刀川は割と相手にしていなかった。

 太刀川隊から最上隊へと入った彼は、珍しくやる気に満ちていた。太刀川隊に所属時のランク戦では何かと理由を付けては不参加を願い、その度に出水にシバかられていた時とは大違いである。

 

 そんな彼らとバッタリと顔を合わせる者たちが居た。

 

 

「……チッ」

「おいおい二宮。出会い頭に随分な挨拶だな」

 

 太刀川たちと遭遇したのは二宮隊の面々だった。防衛任務終わりなのか全員隊服を着ておりバッチリと決めている。

 中央に立つ二宮の眉間の皺が、いつもより三割増しに刻まれ、それを見た唯我以外の面々は苦笑する。それぞれ太刀川と二宮を隊長に持つだけに、この光景は見慣れているらしい。

 そんな部下達の事など知らず、両者の間でバチバチと火花が飛び散る。

 

「太刀川、見たぞこの前の解説。相変わらずぬるい事ばかり言いやがって」

「ぬははは! そういうお前こそ言葉を選べよ二宮。お前の解説は鳩を得ているが、C級どもは萎縮してしまっている」

「太刀川さん、マトですマト!」

「……」

「……」

 

 軽いジャブを放つが、学力が低い太刀川は恥を掻いただけだった。

 二宮は鼻で笑い、冷たい視線を送る。

 

「東さんの真似をするのは構わないが、その頭に知識を詰め込んでから物を言え。猿真似ほど滑稽なものはない」

「猿とか鶏とか動物好きかよ」

「太刀川さん。意味が分からないからってとりあえず分かるところにツッコミ入れないでください。アホみたいです」

「……」

「……」

 

 学力が足りず、部下からのフォローが痛い。二宮の負ける視線も呆れが混じった物に変わりつつあった。こんなのにポイントで負けているのか、と。

 太刀川が勝手に撃沈し空気が微妙になる。それを見越したのか、二宮の後ろにいた犬飼が前に出た。

 

「やぁ、聞いたよ唯我くん。最上隊に入ったんだって?」

 

 問い掛けながらもその声には確信があった。

 先日、秀一、ヒュース、唯我はランク戦室で注目を浴びていた。彼らの噂は一気に広がり、瞬く間に最上隊の話は隊員達の間で話題となる。

 そして、犬飼は唯我の服装を見てすぐに分かった。故に声を掛けた。

 微かに揶揄する感情が乗せて。

 

「ふ、ふん! ボクから言う事は何も無い! しかし? もしそれが事実ならどうする?」

 

 ほとんどバレているとはいえ、唯我は秀一の今後の事を考えて犬飼の問いに答えなかった。しかし染み付いた承認欲求が顔を出し余計な一言を言ってしまう。

 

 

 そしてその一言に二宮が食いついた。

 

「取れるポイントが増えるだけだ」

「──っ!」

 

 太刀川に向いていた冷たい視線が、唯我へと向けられる。唯我は思わず体を硬直させて呼吸を忘れる。

 かつて、太刀川隊としてランク戦に出た際に、同時まだA級だった二宮隊と戦った事がある。当然、正規なルートでA級に上がった訳ではない唯我に着いてこれる戦場ではなく、あっさりと何もできずに落とされた。

 そして、その時二宮が彼に向ける視線は──今と同じものだった。

 唯我を全く見ていない。羽虫か何かだと思っている目だ。

 

「何故最上(ヤツ)がお前を自分の隊に加わる事を認めたのか理解に苦しむが……」

 

 当然言い返せず、押し黙る唯我。

 言い返そうにも、彼の眼光の前では蛇に睨まれた蛙だ。

 その事に二宮は強く舌打ちした。

 自分と相討ちになった男が、ずいぶんとつまらない奴を仲間にしたものだ。

 久方ぶりに熱い試合をした後だった為に、余計にそう思った。

 そんな彼の気を紛らわす訳ではないが、犬飼が話に割って入った。

 

「最上隊に入ったといえば、もう一人の元エンジニアかつ雷蔵さんの弟子のヒュースくん! 彼相当強いらしいね!」

「ああ、あいつはなかなか強いぞ。いきなり俺から一本取ったからな!」

 

 その時の試合を思い出したのか、笑みを浮かべて断言する太刀川。

 ランク戦に向かて準備運動をしていたヒュースに突っかかる総合一位

 彼の行動に呆れながらも、太刀川をライバル視している故にヒュースの実力に興味を占めす二宮。

 

「ほう。そっちとは楽しめそうだな」

「っ……」

「だが……」

 

 これ以上話をする気はないのか、歩を進めて太刀川たちの横を通り過ぎ、

 

「──勝つのは俺達だ」

 

 その言葉を最後に二宮たちは去っていった。

 しばらくして、二宮がいなくなった事を確認した唯我は……小さく息を吐いた。

 

「こ、こわかったぁ……」

「お前、本当に情けないな」

「ひどい!?」

 

 バッサリと切り捨てる太刀川にリアクションする唯我だが、出水は深くため息を吐き、呆れ混じりに言った。

 

「あれ、お前たち最上隊に対する宣戦布告だぞ。戦う前からビビってたら世話ねーな」

「ぐ……!」

「……唯我、お前が選んだ事だからな。途中あきらめたりしたら、おれがしばいてやるよ」

 

 いつもならここで「こわい!」と叫んで涙を流す唯我だが──。

 

「……そうですね、お願いします」

 

 震えながらもしっかりとそう返し、出水は満足そうに笑みを浮かべ背中をたたく。

 

「そこは啖呵きるところだろ!」

「あいた!?」

 

 唯我の短い悲鳴が廊下に響いた。

 

 

 ◆

 

 

 ランク戦室にて、ヒュースは弧月を手に暴れていた。

 隊長である秀一から、次の試合までに慣らしておけと指示が出た為である。

 実際は、自分と戦って親睦を深めよう! と勇気を出して言ったつもりだったが、うまく伝わらず「わかった」と言われ、そのまま回れ右されて逃げられてしまっただけである。ボッチの悲しい事件だ。

 そして、ボッチの放った忠犬にやられた被害者たちが居た。

 

「元エンジニアって話だけど……」

「強いな……トップランカークラス?」

 

 柿崎隊の銃手・巴虎太郎と諏訪隊攻撃手・笹森日佐人。

 彼らもまたヒュースと戦い、そしてコテンパンに倒された。

 他にも香取隊攻撃手・三浦雄太、東隊攻撃手小荒井登も居た。

 

「どう思う?」

 

 画面を見ながら、三浦は小荒井に問うた。

 

「右に同じく。だって──王子先輩に勝ち越しているし」

 

 現在、ヒュースは王子一彰と戦っていた。

 お互いに弧月とシールドのみを用いて10本勝負を行っている。

 しかしその試合も終わった。

 最後はヒュースの刺突が決まり、8対2でヒュースが勝った。

 それを見ていた小荒井たちも、そして他の隊員たちも騒めく。

 

 ──えらい奴が、えらい所に入った。

 

 そんな事などつゆ知らず、ブースから出たヒュースは、同じくブースから出て来て近づいてくる王子に視線を向ける。

 負けたというのににこやかな表情だ。

 ……いや、その表現には誤りがある。

 

「満足したか?」

「そちらこそ」

 

 ──ラウンド5にて、最上隊は王子隊とぶつかる。

 その試合前に、情報を引き出そうと彼らはランク戦を行ったが──どうやらお互いに得るものはあったらしい。

 

「ははは……本当はジャンボの情報のほうが欲しかったんだけどね。彼、未知数の塊だから」

「(ジャンボ?)うちの隊長相手にそれは意味がないと思うぞ──その事はオレよりもお前たちの方が詳しいと思うが」

「ふふ。その通りだ──次の試合ではお手柔らかに」

「無理な提案だ」

「真面目だね……じゃあね」

 

 その言葉を最後に王子は去り、そしてタイミング良くヒュースの端末に着信が入る。

 送信者は秀一。

 タイトルにはこう書かれていた。

 

 

 ──隊服が完成した。一度部隊室に戻ってくれ、と。

 

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