勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第63話

 三輪に連れられ、彼が率いる隊室に通された唯我。

 他の隊員は居ないのか、部屋には二人きりだった。

 しかし、二人仲良くお茶を飲みに来た訳ではないので、そのまま奥に進みトレーニングルームへと向かう。

 前回使った時の設定が残っていたのか、起動すると共に市街地を模したステージが展開される。

 ステージ中央までやって来た所で、三輪が足を止めて唯我へと振り返った。

 

 その手に拳銃を持って。

 そのまま銃口を唯我の額へと突き付けた。

 

「え?」

 

 そして引き金が引かれ──銃音が響く。

 ズガンと唯我の()に重しが現れ、彼はそのまま後ろに倒れた。

 

「これがこれからお前に教えるトリガーだ」

 

 鉛弾──射撃用オプショントリガーの一つであり、攻撃性が無い代わり当てた相手に重しを付ける効果がある。また、シールドと干渉しない為、基本的に防ぐ事はできず、対策は回避するしかない。

 

 そしてこの重し、戦闘に置いて文字通りに足枷となる程に重い。

 三輪の鉛弾が特別重い事を抜きにしても重い。

 

「お前のトリガー構成は出水に教えて貰った。お前の場合、トリガー構成を変える必要なく、ただ入れるだけで良い」

 

 元々唯我の戦闘能力は低い。二丁拳銃を使って中距離から敵に攻撃するが、元々の練度が低い為相手からしたら関係無く、攻撃手もシールドを貼って近付いて殺せる。

 唯我はその程度の人間だ。

 故に鉛弾を入れようと唯我自身は強くならない。むしろ、鉛弾の特性状、攻撃手の距離で当てないといけない為、攻撃手から狩られやすくなり弱体化すらしている。

 

 唯我一人ならば。

 

「お前のその鉛弾は、チーム戦で役に立つ。

 最上かヒュースが戦っている際に撃てば相手は意識を無理やりにでも割かれる」

 

 普通の弾なら片手間にシールドで防ぐだけで良い。だが、鉛弾となると回避するしかない。秀一やヒュースと斬り結んでいる状態で。

 

「それに、アイツらがバイパーでシールドを無理矢理展開させ、鉛弾を放てば一発は当たるだろう。当たらなくても、避けた先に仕留める次の一手をアイツらは持っている」

 

 そして何より、唯我は二丁拳銃持ちだ。

 鉛弾と見せかけてフルアタック。フルアタックと見せかけて鉛弾。

 銃トリガーの特性を活かした()()を彼は使える。

 

「他にも戦術は思いつくが……俺が教えるのは主にそれらの動きだ。後は最上たちと連携の練度を上げろ。分かったな?」

「……」

「……おい。返事をしたらどうだ?」

 

 しかし唯我は終始無言だった。彼の隊長の如く。

 アレほど強くなりたいと言っていたのにどういうことだと眉を潜め──ふと、三輪は違和感に気付いた。

 そういえば、鉛弾について教え始めてから嫌に静かだ。

 それに鬱陶しくない。

 

 そこまで考えて、三輪トリオン体に通信許可が来ている事に気付く。

 発信先は……目の前の男。

 顔が、鉛弾の効果で、重しになり、床に減り込んでいる状態の……。

 

「……」

 

 ──そういえば、額に撃ったままだったな……。

 

 これから教えるトリガーを実体験して貰おうと思っていたのだが、思っていたよりも三輪の方精神的余裕が無かったようだ。

 まぁ……。

 とりあえず……。

 

 ピッ。

 

『酷いですよ! 三輪先輩!』

『もう一度鉛弾について説明する。このトリガーは──』

『その前にコレ解いて!?』

 

 結局、特訓を開始したのは5分後だったそうな。

 

 

 ◆

 

 

 秀一との模擬戦(喧嘩)を終えたヒュースは、雷蔵の元へと戻る為廊下を歩いていた。結局模擬戦は決着が付かず、月見に止められお流れとなってしまった。

 付け加えると、秀一はある男に呼び出しを喰らい月見も上層部に呼ばれて部屋を後にした。やることが無くなった彼は仕方なく雷蔵の元へと向かう事にしたのだが……。

 

「よっ。久しぶり」

 

 そんな彼の進行方向を塞ぐように一人の少年が現れた、

 

 空閑遊真。秀一が今期のランク戦において二宮隊、影浦隊に次いで警戒している部隊のエース。

 そして大規模侵攻では秀一と共にヒュースを……アフトクラトルを凌いだブラックトリガー持ちにして、ヒュースと同じ近界民だ。

 

「何の用だ」

「いやなに、ちょいと聞きたいことがありまして」

 

 尋ねる前に遊真は周りを見渡して誰もいないのを確認すると、ヒュースに聞こえる程度の小さな声で尋ねた。

 

「アフトクラトルって、記憶を取り戻す技術あるの?」

 

 それは、遊真が遠征部隊を目指す理由の一つ。

 大規模侵攻で失った親友を取り戻す為に必要なモノ。

 エネドラには知らないと言われ、拷問しても情報が出なかったが……目の前のヒュースなら何か知っているのかもしれない。

 そう思い尋ね──。

 

「……いや、知らないな」

「──」

「……用件はそれだけか? なら話は終わりだ」

 

 遊真の問いにヒュースは簡潔に答え、彼の隣を通り過ぎようとし……。

 

「待て」

「……」

 

 遊真にがっしりと腕を掴まれた。それも、ギリギリと音が鳴るほどに。

 もしヒュースがトリオン体でなければ痛みを感じていただろう程の力。

 しかしそれよりも気になるのは──目だ

 赤い瞳が無機質に、しかしその奥の光は荒々しく揺れていた。

 

「お前、つまんない嘘つくね」

「……」

「答えろよ──秀一が記憶を失ったのは、お前たちの国のせいだ」

「だったらなんだ」

 

 バッと腕を払い、ヒュースの冷たい目が遊真を見下ろす。

 

「オレが取り引きをしたのはボーダーだ。お前個人では無い。故に、教える必要が無いな」

「……!」

 

 今度は、嘘を言っていなかった。

 本心からの拒絶。

 それを感じ取ったからこそ、遊真は口を開く。

 

「栞ちゃんから聞いた。プロドスィアの意味」

「……」

「──裏切り、だ」

 

 プロドスィア。ギリシャ語において裏切りの意味を持ち……ヒュースはこのボーダーでそう名乗っている。

 ヒュース・プロドスィア。……裏切り者であるヒュースを表している皮肉な偽名だ。

 

「そんな事は知っている。雷蔵から教わった──それで。それが何だと言うんだ」

「その裏切りは……誰に対してだ?」

「……」

「アフトクラトル? ボーダー? それとも──秀一か?」

「……」

「……どれにしても、おれはお前を信用できない。秀一の記憶が戻ると困る、と考えているお前は」

 

 その言葉にヒュースは反論しなかった。

 当たっているからだ。

 ヒュースは、秀一に記憶を取り戻して欲しくないと思っている。願わくば、このまま忘れていて欲しい、とも。

 それが遊真には我慢ならない。秀一の近くに居ながら、素知らぬ顔で秀一を騙しているから。……近界民である事を隠している自分と同じように。

 そしてヒュースもまた遊真の事を気に入らなかった。

 

 ……何も知らない癖に。

 

「……いくらお前が吠えた所で、オレは最上隊に所属し続ける」

「……」

「お前たちが何をしようと勝手だ。邪魔もしない……だが」

 

 ここで初めてヒュースの目に感情が込められる。

 それは、哀れみ。

 

「──あのバカは、お前が思っている程できた存在ではない」

「……!」

「それに……本人は別に記憶を取り戻したい様子は無い。お前のソレは、ただのエゴだろう」

「──言うじゃん。記憶奪った原因の癖に」

「それに関しては奴の自業自得だ」

「──」

 

 そこまで聞いて遊真の右手が勢いよく振られ──ヒュースの顔前寸前で止められる。

 そして、ヒュースの足もまた遊真の胴体ギリギリで止まる。

 

「……ここでやり合っても隊務規定違反になる」

「……」

「だから……絶対にランク戦で勝つ。そうしたら、記憶を取り戻す技術教えて貰うぞ……!」

「……良いだろう。なら、オレ達が勝った時は我々に協力して貰う」

「──首を洗って待ってろ裏切り者」

「──精々足掻くんだな嘘吐き野郎」

 

 そこで話は終わり、遊真は立ち去って行った。

 そんな彼の小さな背中を見送りながら……。

 

(──優先順位を間違えるな。オレは、泥を被ってでも、外道に堕ちてでも……アフトクラトルを……エリン家を守らなくてはならない)

 

 決意を固める。しかし……。

 

「……」

 

 それでも、ヒュースの脳裏に遊真の言葉と秀一の顔がチラついた。

 

 

 

 

 

 そして。

 

『ユウマ……らしくないぞ』

「……」

『焦る気持ちも分かる。だが──』

「ああ。分かってる──だから、諦めていられない」

 

 彼もまた、ヒュースの言葉が何度も何度も頭の奥でチラついた。

 それでも、自分の行動に嘘は無いと信じて……。

 

 

 ◆

 

 

 ボーダー本部の戦闘記録を見たり、他の隊員達からの情報を元に対策を進めていく修。

 しかし、いまいち決定打を掴めずにいた。

 

(こう言う時、人脈の無さが痛いな……)

 

 正隊員になって割と早く玉狛支部に転属した修は、本部の実力者達のことをほとんど知らない。

 ランク戦において、こういう面では他の隊と比べて遅れていると実感する。

 少ない人脈から、誰かに話を聞くか。

 そう考えていた修に、声を掛ける者が居た。

 

「三雲くん」

「え……?」

 

 声に振り返るとそこに居たのは……東だった。

 修としては接点が無い人物だが、噂はよく聞く人物だ。玉狛支部の木崎もまた、彼から狙撃手としての戦い方を教わっている。

 ボーダーにおいては大物。しかし、修の意識は彼にでは無く、彼の後ろにいる二人の人物に向いた。

 

「……」

「……」

 

 二宮匡貴と最上秀一。

 どちらもなんというか……他の隊員を圧倒するオーラがある。どちらも仏頂面で見ていて正直怖い。もっと言うとあまり関わりたく無い。

 次のランク戦に向けて対策している分、余計にそう思った。

 

「色々と準備しているみたいだな」

「えっと、その……はい」

「ははは。素直だな三雲。こういう時は流して良いんだぞ」

 

 大らかに指摘する東だが、それよりも何故この三人が揃っているのか気になる。

 先ほどまで戦っていたのに。その試合の反省か何かだろうか。

 そんな事をつらつらと考えていると、東が問い掛ける。

 

「これから焼肉を食いに行くが、一緒にどうだ?」

「え? あ、はい」

 

 修は、何となく答え……。

 

「……え?」

 

 逃げられなくなった。

 

 

 ◇

 

 

「さて、焼けたぞ」

 

 ボーダー隊員もよく来る焼肉店に来た四人は、人払いをしてとある事を話していた。それは、来るガロプラの襲撃についてである。

 この食事会も迅が準備した事であり、盗聴されることも無い。

 迅の指示で、東はそれぞれに次の戦いにおける注意点を教え……食事を開始した所だ。

 しかしメンツがメンツで、三雲は少し食べ辛そうにしていた。ここに居る人間自分から話を振るタイプでは無い為。

 

「それにしても最上。最後の動きは思い切った事をしたな」

 

 そんな中、東が口火を切った。

 話題はやはり先ほどのランク戦。

 三雲も秀一の動き……というよりも選択に違和感を感じていた。

 東もそうなのだろうか、と思いつつ耳を傾ける。

 

 東に問われた秀一は答える。あの時はそれが正しいと思ったのだと。

 

「──フン。俺も舐められたものだ」

 

 それを聞いた二宮は黙っておらず、鋭い眼光を秀一に向ける。

 

「俺も舐められたものだ」

「……!」

 

 そういう訳じゃないと反論するも、二宮に睨まれ秀一は黙った。

 二宮からすれば、認めた所で落胆させられたのだから……仕方ないといえば仕方ない。

 言葉に出さないが、二宮は秀一との再戦に心を踊らされたのだ。

 違和感を感じながら、それを理解する三雲。

 

「はっはっはっ。まぁ、二宮そう怒るな。機会はまだある。最上も、その様子だと月見かヒュースに何か言われたのだろう。今回の経験を次の試合に活かすと良い」

「……はい」

「……」

 

 そんな二人を説得する東を見て──三雲は完全に理解した。

 試合を見ていた時から感じてた違和感。それらが消え、今の彼の視界は酷くクリアだ。

 

 ──この二人は……よく似ている。

 

(もしかしたら……!)

 

 焼けた肉を食べながら、三雲は二人をじっくりと見ていた。

 

 

 その頭には、来る未来の事がえがかれていた。

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