勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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アニメ化するので更新


第66話

転送が終わり、村上は周りを見渡した。

ボーダーに入ってよく見慣れた渡り廊下。見ただけでは自分が何処に居るのか分からない程度には、一律したデザインの壁と床。

 

すぐさま自分の隊ので仲間と通信を繋げつつ、レーダーを起動する。

レーダーに移された光点を見ながら、村上は思わず眉をしかめながら呟く。

 

「……分断してしまいましたね」

『ひぇー、鋼さん反対側に居るのかぁ』

レーダーでは、ほとんどの反応が外枠にグルリと配置され、中央にあるポイントはわずか二つのみ。本来なら等間隔に転送されるのだが、今回選ばれたステージの特異性によりレーダー状だけを見れば敵と近くに居る。

 

『太一、今何階にいる?』

『パッと見分かんないですね……とりあえず階段目指します!』

 

 太一と来馬が合流するために動く中、村上もまた移動を開始する。その際にレーダーの確認も怠らない。

 

「……」

 

 村上の近く……というより、同じ区画の通路に自分以外の反応が二つある。本来のマップならすぐに接敵、戦闘に入るが……。

 彼の視線の先には当然誰もいない。マップでは敵の位置の高低差が分からない。狙撃手による壁抜きアイビスも難しいだろう。一応メテオラを装備し、いざというときには最短距離で味方への援護、そして敵の追走の準備はしている。

 他の部隊も同じだろう、と村上は予測し――それと同時に未だに疑問を抱いていた。

 なぜ、最上隊はこのマップを選んだのか、と。

 その真意に彼はまだ気づけない。

 

 

 

 

「各部隊合流を目指している……けど」

「普通のマップじゃあ見えないねぇ」

 

 各隊員を映し出しているモニターのおかげでどのような動きをしているのかは分かるが、中央モニターのマップは使い物にならないでいた。

 

「というわけで、ちょっとデータ弄りますね」

「ん? データ?」

「そう。試合前に月見さんがデータくれたんだ~。良かったら使ってって……この事だったんだね」

 

 月見、優秀。

 国近が機器を操作すると、マップに変化が訪れた。映し出されたのは、立体マップ。解説用に設定されたためか、見やすかった。

 当真と犬飼も「おー!」と声を出した感嘆する。

 

「でも月見さん提供でしょ?月見さん使ってないのかな?」

「流石にフェアじゃないから使わないと思うよ~。もし使ってもログに残るからばれると思うし」

 

 犬飼の疑問に国近が答える横で、当真はマップを見て言った。

 

「全員見事にバラバラだな」

 

 映し出された立体マップでは、当真の言う通りそれぞれの階に隊員たちが配置され、動いていた。

 三階以上分は離れており、転送時に起きる等間隔がこういう形でも現れるのかと驚いていた。

 犬飼も当真の話に乗り、解説を続ける。

 

「全員が全員、相手の位置が分からないから合流するしかないね。マップで近くに居ても()()()()()()()()分からない」

「ほとんど運だね」

「それに、このマップだとカゲのサイドエフェクトも発動しない」

 

 影浦は感情を受信するサイドエフェクトを持っている。よって、不意打ち前に感情を受信するため、彼はその前に気づくことができる。

 だが、このマップでは壁、天井、床がそれを遮る。さらに、相手も視認するまで分からない相手に明確に感情を持って視る事が出来ない。影浦のサイドエフェクトが発動するのは、出合頭に視認するか不意打ちの瞬間のみだろう。

 だからか、モニターの中の影浦はとても面白くなさそうな顔で合流の為に動いていた。

 

 しばらく動きがないだろうと思われるなか……。

 

「お、これは」

 

 最上隊が動いた。

 

 

 

 

 レーダーから三つ反応が消えた。

 それを確認した村上は、オペレーターの今に通信を繋げる。

 

「狙撃手が消えたのか?」

『それはない……と思う。試合開始前に二つ反応が消えていたから。でも、絶対とは言えない』

 

 オペレーターへの揺さぶりだろうか。

 このタイミングで消えた事。利点。それを考えると可能性が高いのは、最上隊。

 マップを仕掛けた以上、そうとらえることができる。

 しかし意図が読み取れず、思考が深まり……。

 

『うひゃあ!? い、生駒隊!?』

 

 太一の悲鳴が聞こえた。

 

「!? 太一!」

『太一、すぐに降りてきて!』

『不味いっす! 海っす! グラホ使ってるからすぐに追いつかれる!』

 

通路の先に居るのをお互いに確認したのだろう。通信越しの太一の声から切迫した感情が読み取れる。

来馬は下の階、太一は上の階に居た。

ゆえに直通の階段を使って合流を果たそうとしていたのだが……。

 

『太一、メテオラ使って最短で合流しよう!』

『で、でも!』

『こうなったら仕方がない!』

 

 太一がバッグワームを解き、二人係で床と壁を破壊し通路を作成していく。

 その轟音を聞きながら村上も即断した。

 自分も、最短距離で向かう、と。

 

「待っていろ太一、すぐに向かう」

『え、それって――』

『今さん。飛んでいくので、太一達の位置を!』

『! 分かったわ』

 

 村上は、足を止めて壁に向かって旋空を走らせる。そして壁をくり抜き外へと飛び出した。

 眼下にボーダー基地の内側の壁があり、それを足場にして駆け抜けた。

 正規ルートを無視した大胆な近道。

 しかし、仲間を助けるためには最適であり――。

 

『――っ! 奇襲警戒!』

 

 それと同時に、隙を晒してしまう手でもある。

 今の警告と同時に襲い掛かる光の刃。ほとんど反射で村上はレイガストと弧月で、その旋空を逸らした。

 トリオンが削れる音と光が宙に舞う。そして、その光の先に居たのは――。

 

「――生駒さん」

「獲らせてもらうで、鋼」

 

 バッグワームを解除し、生駒旋空で奇襲をしかけた生駒だった。

 生駒はさらに体を捩じって旋空を放つ。

 それを村上はレイガストのスラスターで回避し、壁を蹴って太一たちの所へ向かおうとするが……。

 

「――」

 

 同じく壁を蹴って組み付いた生駒により、弧月で別の壁へと弾かれて妨害される。

 さらに旋空を放ち壁を破壊し、その先に村上を押し込んだ。

 太一たちとは別の階の廊下へと放り込まれた村上はすぐに態勢を立て直し、追って来た生駒と対峙する。

 村上の援護が阻まれた。それを察した来馬が叫ぶ。

 

『太一、合流したら鋼のところに行くよ!』

『り、了解!』

『鋼、もう少し踏ん張ってくれ!』

 

 来馬の言葉に即答はできなかった。

 目の前の男は、アタッカー六位の力を持つ……ボーダーでも少ない一万越えの強者。

 村上もアタッカー四位とはいえ、決して油断できる相手ではない。

 室内ゆえに、生駒旋空は扱い辛いかもしれないが……ログのあの技は話が別だ。

 それでも勝つためには隊長のオーダーに応えなくてはならない。

 了解、と口を開こうとして……。

 

 生駒の背後の穴から水上が入ってきた。

 

「――! すみません、来馬先輩、申し訳ありません」

『鋼?』

「やられるつもりはありませんが――いざという時は、一点でも取ります」

 

それだけを言い、村上は相手に集中する。

生駒たちもまた、村上の動きに注視しながら、口調だけは軽く、いつも通りに構える。

 

「ナイスですイコさん」

「目が回りそう」

「まぁ、グルグル回ってましたもんね」

 

 ――なぜ、ここまで動きが補足されている?

 加えて、水上がすぐに合流している事もおかしい。

 トリガーを構えて警戒する村上に、今が答える。

 

『……多分、生駒さんは屋上に転送されたんだと思う。マップの動きも、そんな感じだった』

「――なるほど」

 

 バッグワームして反応を消し息を潜め、村上のように合流を急いだ()()()()を刈る。

 それが、今の生駒隊の動き、なのだろう。

 加えて海が太一を発見した事により、鈴鳴第一で最も厄介である村上を釣り出す事に成功した。

 

 やられた、と素直に思った。

 

「さて、ここからも油断せずに行きましょう。相手はイコさん以上のアタッカーですし」

「傷つくわぁ」

「だったら、ここで勝ちましょう。それに、早くしないと他の隊に――」

 

油断なく水上がそう言い。

 

 

 

 

「……ちっ」

 

 とある部隊の作戦室に転送され、思わずマンティスで切り刻んだ後廊下に出た影浦。

 服にかかったジンジャーエールの染みに思わず顔を顰めながら、しかし動かす足は止めない。

 今回の試合、随分とつまらないスタートだった。

 レーダーを見ても、遊び相手の元に容易に辿り着けない。比較的近くにいた反応も今は居らず、影浦の周辺には誰もいない。

 それどころか、複数の反応が集まっている所を見るに、どうやら出遅れたらしい。

 思わず舌打ちを打った。

 

「おいゾエ。さっさと来いよ。じゃねーと先行くぞ」

『ちょっと待って、ゾエさん足遅いから。むしろそっち来てよ』

「そうしてーが、んな事してたら何もできずに終わるぞ」

 

 北添の合流を待ちながら、敵に寄って行く影浦。

 通信では何も話していないが、絵馬も移動し合流を目指している。

 

「おい光。今どこがやりあってんのか分からねーのか」

『情報が無さすぎる! 流石のアタシでも無理だかんな!』

「……っち」

 

 今回は、秀一と戦えると思っていた影浦。

 しかし、今の彼の戦い方は……依然と比べて丸くなった。

 獣から、人になったと言っても良いくらいだ。

 以前香取とやりあっていた姿を見てそう思った。

 だが、影浦としては秀一が変わろうとどうでもいい。楽しめればそれで。

 

 だからこそ……。

 

「あぁ、くそ」

 

 思うように戦えないこの場所(ボーダー本部)に、息を吐く。

 そして……レーダーの反応に変化が起きた。

 

 

 

 

 ――水上の言葉は、それ以上続かなかった。突如視界が反転し、落ちる世界に言葉が詰まったからだ。

 ゴロン……と彼の首が床に落ち……。

 

『戦闘体活動限界――』

「――エスクード」

 

 床から生える壁が首と体を分断するもすぐに崩れ落ち。

 

『――緊急脱出』

 

 一人脱落する。

 そして、村上と生駒もまた分断され――。

 

「さぁ……作戦開始だ」

 

 それぞれ最上隊()()と対峙した。

 

 


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