勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第68話

 衝撃でトリオン体が揺れる。

 何が起きたのか、秀一は理解できなかった。ただ、突然床と壁が爆発し、自部隊、敵部隊全員が宙に投げ出された事だけが分かった。

 視線を回す。

 爆煙がモウモウと視界を塞ぐこの光景を、彼は知っている。メテオラだ。

 そして、今回の試合でメテオラを使うのは誰か。

 それに気づくと同時に──グイッと腕を引っ張られた。

 

「最上くん!」

 

 腕を引っ張ったのが、唯我だと認識すると同時に下から向かってくる一筋の光に気付いた。

 それを集中シールドで受け止め──絵馬を見つけた。

 

「……っ、タイミングはばっちりだった筈なんだけど」

 

 どうやら、北添のメテオラで炙り出すと同時に絵馬が狙撃する手筈だったらしい。秀一を狙ったのは、それだけ脅威に感じているのか、それとも……。

 右手に持った弧月を構え、眼下に居る絵馬に反撃も旋空を放とうとし──すぐに備えた。

 

「隊長、頼んます」

「スラスター・オン」

 

 

 前後から襲い掛かるエースの追撃に。

 生駒は隠岐のグラスホッパーで、村上はレイガストのスラスターで、それぞれの方法で秀一へと弧月を薙ぎ払っていた。思わず舌打ちをする。

 浮いた駒を取る。戦略の基本だ。本来なら捌き切れるシチュエーション。しかし今は──。

 

「──済まない、最上くん……!」

 

 近くに唯我が居て、掴んでいる。

 身動きができない状態だ。

 さらに、この状況を見た絵馬がイーグレットからアイビスに持ち替えているのを見た。

 三部隊からの集中攻撃。空中で唯我に組み付かれて身動きできない。

 かつての最上隊は一人だった。その時の最上隊は一人故の身軽さがあり、仲間を気遣い、墜とされるというリスクが存在しなかった。

 誰もが思う。誰もが考える。最上秀一は堕ちる、と──が、しかし。

 

「──させるか」

 

 今の最上隊は一人ではない。助けてくれる仲間がいる。

 一人メテオラをエスクードで防ぎ、足場を確保していたヒュースは秀一たちを助ける為に動いていた。

 彼の視界には隊員たち共に落ちていく多くの瓦礫。そして足元には今にも崩れそうな床や壁。この二つを見てヒュースは最適解を叩き出した。

 

「──エスクード」

 

 壁に手を着いてエスクードを発動すると同時に、ヒュースの視界が大きく揺れ動いた。

 ヒュースは、自分が立っている足場を押し出せる位置、サイズ、そして勢いを乗せたエスクードを壁から発動させた。その結果、細長くデカいエスクードが瓦礫を押し出しながら飛び出し、その勢いのまま秀一と唯我を吹き飛ばす。

 ぷぎゅッ、と潰れたカエルのような声が響くがヒュースは気にせずに動き続ける。

 足場がせり出し、秀一たちを弾き飛ばしたという事は、そのままヒュースが秀一たちが居た場所に居たという事。しかし、彼には踏み締める足場があり、下の狙撃手から視界を塞ぐ壁もある。加えて、自ら寄って来ている相手も居た。

 

「──」

 

 そして、ヒュースはこの試合中ずっと弧月を腰だめに構えていた。先ほどエスクードを発動していた時も例外は無く、ある場面である技を狙っていた。

 その瞬間が、今この時だと判断する。

 息を吐く。肺にある余分な空気を全て吐き出すかのように、深く、長く。

 イメージする。己の隊長がその技を持って叩き込んできた技を、屈辱を何倍も返すと誓った激情と共に。

 圧縮。圧縮。圧縮。己の中の時間を濃密に。そして解き放つ。

 

「──旋空弧月」

 

 ヒュカッと空気を裂く音が戦場に響き。

 ヒュースの解き放った旋空は一息で生駒と村上を捕らえた。

 

 

 ◆

 

 

「ゾエの適当メテオラはウザいけど、あれも中々ウザいね」

 

 空中での戦いが終わり、その結果を見届けた犬飼が復習するかのように、先ほどの一連の動きを口にする。

 膠着状態に陥った為、しばらく動きがないと踏んだからだろう。

 彼の解説に国近も当真特に反論せずに乗っかった。

 

「床を壊してから皆を狙う事で一網打尽狙い。足場から崩すってのは良いけど……」

「まぁ、全員読んでてメテオラ自体のダメージは無い。でも空中に投げ出された」

「その途端、狙撃を警戒して身を寄せ合っていたね」

 

 生駒隊と鈴鳴第一は、エース以外は身を寄せて固定シールドを使って防御に専念していた。絵馬が狙わなかった……いや、狙えなかったのはこれが理由だ。

 そして、シールドを展開していない秀一を狙うも唯我のフォローにより直前で気づいてガード。その後はエース二人に狙われ、ヒュースがエスクードで弾き出す。そのままヒュースがカウンターを叩き込み……。

 

「──それぞれの仲間にシールドで阻害。狙いは良かったが、相手側のフォローが上手かったな~」

 

 ヒュースの旋空は当たらなかった。固定シールド内でフリーだった仲間がエースを助けるべく遠隔でシールドを展開し、剣筋をズラしたからだ。

 当真はヒュースの行動を惜しく思いつつも、やはりそこは経験の差が出たと評価する。

 

「村上隊員も生駒隊長も上手かったね。味方のシールドでズレた瞬間上手く弧月を合わせて逸らしてた」

「流石攻撃手一位の所のオペレーター……良く見えたね」

「時々太刀川さんがしてるからね~。旋空を弧月で『ちょいっ』てするの」

 

 国近のその言葉に、犬飼も当真も苦笑するしかなかった。

 勉強できないのに、その辺の事となると規格外さを出す一位の凄さに。勉強できないけど。

 

「さて……その後はゾエのメテオラの牽制でみんな下まで落ちて……」

「ゾエも降りてきて全員睨み合い、だな」

 

 本来なら、攻撃手の居ない影浦隊の二人が狙われるだろう。

 しかし、ボーダー基地の壁内部の天井地点に全員が降り立ち、影浦の居場所が分からない以上、確実に不意打ちされてしまう。そうなると、仕掛けた側が浮き、そこを他の部隊が狙う。

 その事を理解しているからこそ全員動けずにおり、時間がだけが過ぎ……。

 

「──まっ、でもすぐに乱戦は始まるでしょ」

 

 我慢できない者が「つまらねえ」と駆け出すその瞬間が。

 

「カゲの性格的にね」

 

 すぐにやってきた。

 

 

 ◆

 

 

 ヒュースのエスクードによる壁ドン(トキメキ0%)により助かった秀一と唯我は、彼に感謝しつつも不満を顕にし、月見に「後でじっくりと話す」宣言で気を引き締めて数分。

 前方に鈴鳴第一。

 右後方に生駒隊。

 左後方に影詩隊、と絶賛包囲されている最上隊。下手に打って出ることが出来ずに居ると唯我の背中に悪寒が走り──上を見る。

 

「き、きたあああああああ!!」

「ぎゃあぎゃあうるせー……っよ!!」

 

 影浦を見つけて絶叫する唯我。

 突き刺さる叫び声と感情に苛立ち、そのままスコーピオンを投げる影浦。

 それに連動するように北添がアステロイドを、絵馬がライトニングで最上隊を攻撃。

 スコーピオンを秀一が弧月で叩き折り、弾幕をヒュースがエスクードで遮る。

 最上隊が対応に動いたのを見て鈴鳴第一も、生駒隊も攻勢に出る。

 

 乱戦の始まりだ。

 

「さっきのお返しや」

 

 居合いの構えでヒュースを見る生駒。

 その視線に気づいたヒュースが内部通信で短く指示。

 

『伏せろ』

 

「旋空弧月」

 

 唯我の頭を掴んで思いっきり床に倒れ込むヒュース。聞いてすぐに伏せた秀一。

 そのすぐ上を生駒旋空が通り抜け、エスクードがまるで熱したナイフで斬られたバターのように切断。それと同時に今まで防いでいた北添と絵馬の弾幕が襲い掛かる。

 それを秀一とヒュースが片枠のシールドで防ぎつつ、対処する。

 

「バイパー」

 ──バイパー。

 

 秀一とヒュース。二人分のバイパーが北添と絵馬に襲い掛かり、弾幕を途切れさせた。

 

「ちょちょちょ! これキツイキツイ!」

「シールド1枚じゃ無理だね」

 

 雨あられのように降り注ぐ弾丸が、時折シールドを掻い潜るかのように襲い掛かる。

 それを弾を撃ちながら防ぐのは無理だと判断したのか、北添たちはフルガードでバイパーを防ぎつつ後ろにさがった。

 それを見届けた秀一は、視点を影浦隊から生駒隊へと変える。

 

「旋空──」

 

 そして、サイドエフェクトで己の世界に入り──。

 

「──弧月!」

 ──旋空弧月。

 

 生駒が放った生駒旋空を、同じ生駒旋空を以て弾き落とした。

 

「……!」

 

 それを見た生駒が、数発生駒旋空を放つが尽く落とされていく。

 

「あかん、見切られてる」

「マジすか!? 最上ちゃんヤバいっすね! 

 

 

 そこに、影浦と村上の乱戦に飛び込んで危うく死にかけていた海が戻って来た。

 そして生駒旋空が完封されている事を知り、素直に驚く。

 

「いやヤバいわ。こうなったら隠岐の手に掛かってる」

『いや、多分無理ですって。あちらの参謀に警戒されてますわ』

 

 乱戦が始まって直ぐ様基地内部に入り狙撃ポイントに着いた隠岐だったが、どの部隊も警戒していて当てる事が難しそうだった。水上が生きていれば影浦隊のように弾幕を張れたのだが、無い袖は振れぬ。

 隠岐の弱音を聞いた生駒は語気を強くして答えた。

 

「ならば仕方ない──アレの出番やな」

「アレって……マジですか!?」

 

 意味深に頷く生駒に、真織と水上は「はよしろ」と思った。

 

 

 

「ちっ、うぜえな!」

 

 秀一を狙おうとして、村上に強襲された影浦はそのまま村上と斬り結んでいた。先ほどまでは。

 村上は影浦が誘いに乗ったと見るや否や、来馬と太一と合流して戦法を変えた。

 それは、村上が盾となり来間が矛となる鈴鳴の新たな姿。

 アステロイドとハウンドによるフルアタック。これにより中距離戦における火力が一時的にだが、飛躍的にアップする。

 そして、マンティスがあるとはいえ近距離攻撃手である影浦にこの戦法は嵌っており……。

 

(近づけねえ……!)

「いえーい! このまま影浦先輩フルボッコっす!」

「ああ!? もういっぺん言ってみろ!!」

「ひいいいいい! こえええええ!!」

 

 ちなみに、太一の無意識な煽りはこの戦法には入っていない。

 しかし、このままでは太一の言う通り一方的に削られてしまうのは事実。サイドエフェクトとシールドを駆使して何とか生き残っているが、これも時間の問題だ。

 一度さがって北添達との合流を考えるという、普段の影浦らしからぬ考えが浮かんだ瞬間──視界に、あの時の試合の感情を刺して来る生駒が見えた。

 

「っ!」

「? よくわかんないすけど、チャ──」

 

 それを見た瞬間、回避行動に移る影浦。そして好機とばかりにライトニングを構える太一。

 

 

 

 その二人が、同時に斬られた。

 二発同時に放たれた生駒旋空によって。

 

「え……?」

『戦闘体活動限界。緊急脱出』

「太一!」

 

 リタイアする太一の名を呼ぶ来間。

 そんな彼を自分の後ろにやりながら、村上は思った。自分たちは運が良かった。斜線上に入っていなかっただけだと。

 

「くそ……!」

 

 そして影浦もまた運が良かった。早期に気付くことができ、ギリギリ間に合い足一本で済んだ。前回の試合に受けたからこそ避ける事ができたと言える。

 

 

 

 ……そして。

 

「すまない……二人とも」

『戦闘体活動限界。緊急脱出』

 

 唯我もまた、生駒旋空によって斬られていた。

 リタイアする唯我に悔しさを顕にする秀一の横で、ヒュースは警戒しながら呟く。

 

「これが……新しい生駒旋空」

 

 ログで見た、回避困難な必殺の名を。

 


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