勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第69話

 プロジェクトICOMA

 

 暗闇の中、生駒隊攻撃手南沢海が口ずさむ。風の中〜とか、すばる〜とか。

 そんな微妙に外れた音程をBGMに生駒がカメラ目線で口を開く。

 

「悟ったんです……。このままだとアカン、と」

 

 重々しく……というにはキャスティングとBGMに多大なズレがあるが、彼は続ける。

 あれは、ナスカレーを食べに行こうとした時に、出会ったひとりの少年とのやりとり。

 そのつよさに、あり方に感動していた彼は、思わずお節介を焼いてしまった。

 結果、生駒旋空を教える事に成功した。すごく嬉しかった。

 最上旋空なる発展技ができた。正直ヤベーと思った。

 さらに強い仲間が彼の元に集った。これ勝てるの? と焦った。

 

 後輩の躍進に嬉しく思いつつも、生駒は思った。

 

「弟子って事にしとけば、モテたかもしれんなぁ」

「下心が汚すぎるやろ」

 

 蚊帳の外から智将のツッコミが入るが、「今プロジェクってるから」と回避し、小狡さを見せつけていく。

 チクチクと視線を感じながらも生駒は本題に入る。

 

「んで、思ったんですわ。このままだと自分の立場が無いな、と」

 

 故に彼は行動に移した。

 動画を見た。

 最適の構えを模索した。

 視線は自然とカメラ目線だった。

 

 そして、ついに彼は新たな生駒旋空を習得した。

 忍田本部長の絶技を取り入れた一撃二殺の絶技を超える絶技。

 

 もはや、彼を止める者は誰もいない……! 

 

「……いや、結局どうやって習得したのか分からんやん! 実際そこの所どうなんです?」 

 

 端で聞いていた水上が思わずそう問いかけると、生駒は数秒考えて……答えた。

 

「なんかできた」

「時間返して?」

 

 試合前に起きた茶番であった。

 

 

 ◆

 

 

「よいしょっと!」

 

 鈴鳴第一、影浦を狙った横一閃の生駒旋空が放たれると同時に、最上隊にもまた生駒旋空が襲い掛かった。それらをエース達は避けて、もしくはシールドで逸らしながら直撃を免れる。

 しかし、表情は優れない。三部隊全員を狙った新・生駒旋空でようやく余裕を持って回避できるという事は、集中して狙われれば墜ちるのは確実だった。

 

 そして、今回それをしないという事は、狙いは別にあるという事。

 

「んじゃ、行ってきます!」

「おう、行ってこい!」

 

 グラスホッパーを使って戦場のど真ん中を突っ切る海。

 彼の視線の先には、影浦隊銃手北添尋。

 

「ちょ、ゾエさん狙い!?」

「ちっ。させっ──」

 

 それを阻もうとして影浦が動こうとして、生駒旋空が彼を襲う。

 影浦は舌打ちをして、相手の狙いに気付く。

 生駒が他の攻撃手を牽制している間に、海が浮いた駒を取りに行く。

 カバーに入れば、横取りを狙えば生駒が殺しに来る。

 

 そうなると狙撃手である絵馬が生駒か海を墜とせば戦局が変わるのだが──。

 

「隠岐先輩に撃たれるな……」

 

 絵馬が基地内部に隠れると同時に、隠岐もまた隠れた。

 海の突撃は絵馬を引き摺り出す釣りの手でもあるのは明らかだった。

 そうなると、絵馬の選択肢は限られてくる。

 どうするべきか。

 そう悩む絵馬の視界に、あるものが見えた。

 それを見た絵馬は──。

 

「カゲさん」

 

 通信越しに己の隊長に進言した。

 

 

 ◇

 

 

「このままだと生駒隊が勝つな」

 

 解説席で当真が断言した。

 

「海の奴がゾエを落とす前か落とした後にユズルが狙撃。それを見た隠岐がユズル堕として、後は弱いところから狙撃と旋空で落とされて終いだな」

 

 当真が言ったのは生駒隊が思い描く勝ち筋であり、他の部隊が阻止したい流れであり、そして今現在の試合そのものと言える。

 

「──そこまで大人しく無いでしょ」

 

 しかし、皆が分かっていた。

 

「みんな」

 

 彼らの──執念を。

 

 

 ◇

 

 

「スラスター・オン」

 

 村上が前に出るのと、来馬が全力で後ろに下がるのは同時だった。どんどん遠くなっていくエースの背中を見ながら来馬は若干の恐れを抱いた。

 村上が離れた今、攻撃手たちの猛攻を捌く事はできない。

 しかし、その感情を抑え込んで来馬は前を見据える。メインのアステロイドをハウンドに、そして新たに突撃銃を作り出し──両手持ち。先ほど行った中距離火力特化型戦法……その亜種。

 来馬は空に向けて両手の突撃銃の引き金を引き、そしてしばらく進み──生駒のトリオン反応に誘導された弾丸は大きく弧を描いて襲い掛かる。

 

「……!」

 

 それを見た生駒は後ろに下がり、そして突っ込んで来た村上の弧月を受け止める。

 フルガードで防いでから旋空で反撃を考えた生駒だったが、それができない理由があった。

 生駒と最上隊の間にエスクードが幾つか展開されている。それも、絵馬、隠岐からの狙撃を防ぐような向きで。

 そして、そのエスクードの間を縫うように走るのは──秀一。

 最短距離で生駒たちの元に辿り着いた秀一は、二人に襲い掛かり圧力を掛ける。

 これに悲鳴を上げたのは生駒だ。

 

「こらアカン! めっちゃ狙われてる!」

 

 しかし、それも無理もない事だ。それだけ生駒の新技は厄介であり、そのまま放置すれば自分たちは負けると思ったからこその動き。

 生駒が抑えられている間に、ヒュースと影浦は海の方へと走る。

 影浦は単純に北添のカバー。ヒュースは点を取る為に。

 

 ──エスクード。

 

 カタパルトエスクードでヒュースが跳び、距離を詰める。

 マンティスを展開し、首を刈り取ろうとする影浦。

 グラスホッパーで跳んで、北添に斬りかかる海。

 アステロイドを撃ち続けて牽制を続ける北添。

 

 四人の思考が交差する中、試合の流れを掴んだのは──一つの狙撃だった。

 

 放たれた弾丸が、集中シールドごと頭をぶち抜いた。

 ピシリとトリオン体が崩れていく中、狙撃手は呟く。

 

「そこか」

 

 そして、味方を撃ち抜かれた仇を討つかのように、アイビスの弾丸が放たれ──命中。

 しかし、狙撃手……隠岐は笑みを浮かべない。

 

「海を撃って、自分の狙撃で釣って……銃手を残された」

 

 そして残された北添にはメテオラを持っており、その銃口はしっかりと隠岐へと向いている。さらにその傍らには影浦が付きサポートに入った。これでは破れかぶれの狙撃も効かないだろう。

 そうなると、こちら側に寄ってきたヒュースを狙うかと思えば……しっかりと警戒しており狙撃の意味がない。

 

「なら──」

 

 隠岐は自分の死を確信すると、アイビスの矛先を変える。

 放つと同時に──爆撃に飲み込まれて緊急脱出した。

 

「ナイスや隠岐──」

 

 そして、それに続くように緊急脱出するのは……来馬。

 それに一瞬動揺し、しかし前進する前の来馬の発言を思い出し、地面を踏み締めて弧月一閃。

 ガキンッと大きな音が響き、身体中からトリオンを漏らした生駒が下がり、狙撃を警戒して消極的に動いていた秀一も油断なく二人を視界に入れる。

 

「三つ巴か……やったるで」

「負ける訳にはいかない……!」

「……!」

 

 三人の攻撃手が弧月を構え──。

 

 

 

「さっさとこいつ片付けんぞ」

「そう簡単に行かないでしょ〜」

 

「ここからだな」

 

 ヒュースと影浦隊の戦闘もまた、始まろうとしていた。

 

 

 ◇

 

 

「──と、思うじゃん?」

 

 

 ◇

 

 

 秀一の目の前で、生駒がググッと深く構える。

 その動きは既に見たもので──故に、違和感を覚えた。

 目の前に自分と村上が居るのに、その構えをするのはただ隙を晒すのではないか? 

 警戒しながらも、秀一はサイドエフェクトを全開に前へと進み、村上もまたレイガストを構えて生駒との距離を詰める。

 二人の弧月が射程距離に入ると同時に、生駒が弧月を抜いた。

 そして放たれる二発の生駒旋空。それを二人は余裕を持って躱し──剣筋から生駒の狙いに気づいた。

 

 ──ここで、秀一と村上に差ができた。

 仲間が生きているか、生きていないか。

 秀一は生駒旋空の放たれた先を気にして、村上は点を取る事を第一に考えて一歩早く前に出た。

 そうなると当然生駒を捉えた弧月は村上の物であり、真っ二つに裂かれる生駒。

 トリオン体が崩れる中、生駒は言った。

 

「5点か……まあ十分やろ」

 

 生駒の視線の先には、斬られた北添と片足を失ったヒュースがいた。

 三つ巴と見せかけて、強欲に点を取りに行くその姿に誰もが思った。

 やられた、と。

 

『反省は後だ──終わらせるぞ』

 

 内部通信でヒュースが叱咤し、秀一は了解と伝える。

 そしてすぐさまバイパーを展開し、それを影浦へと放つ。

 

「ちっ……」

 

 北添をあっさりと倒された影浦もまた苛立っており、そこに秀一の雨霰のように降り注ぐ弾幕をシールドで防ぎながら後退する。

 そこにヒュースのバイパーも襲い掛かりどんどん後ろへと下げられ──。

 

「エスクード」

「っ!!」

 

 影浦を囲うように四方から壁が形成され、さらに壁から伸びたエスクードが蓋をする。

 一瞬で影浦が閉じ込められた。

 それを成すと共に秀一は村上を旋空を用いて弾き飛ばす。そしてバイパーを展開し──後方のヒュースと共に撃ち続けた。

 村上の距離に入れず、二人がかりで攻撃の手を緩めず延々と。

 レイガストとシールドを使って凌いでいた村上だったが、火力差により緊急脱出。

 

 村上を早々に討ち取った二人は、エスクードを解いて残った影浦を見て──先ほどと同じ方法で影浦を討ち取った。

 

 

 ◇

 

 

 

部隊得点生存点合計
影浦隊2 2
生駒隊5 5
鈴鳴第一1 1
最上隊325

 

「試合終了〜。最終スコアは1対5対1対5。生駒隊と最上隊の引き分けです〜」

「最後はささっと終わったな」

「火力差があるからね。あの二人の弾幕を捌くのはきついよ」

 

 当真のぼやきに丁寧に返しながら、犬飼は総評へ移る。

 

「まず初めにステージ選択。ボーダー基地を選んだのは意外性あって面白かったけど……」

「ゾエの爆撃で活かす前に終わったな」

「でも当初の目的は果たしてるっぽいから相対的には成功?」

 

 犬飼は、最上隊がボーダー基地を選んだ理由を幾つか挙げて解説する。

 

「まず一つ目はオペレーター潰し。ランク戦のレーダーじゃ、上から見た反応しか分からないからね」

「高低差までは分からないから、オペレーターは苦労したと思うぜ〜」

「んで、仕掛けた側はその辺の情報のアドバンテージを活かして、奇襲して点を取ろうとしてた」

 

 しかし実際は生駒隊がそれを行った。

 

「後狙撃手をとことん仕事させないようにしてたな。主戦場が基地内だったからな」

「狙撃されたくなかったんだろうね。狙撃手の二人凄く動き辛そうだった」

 

 そして試合は各部隊の合流、からの爆撃により大きく変化した。

 

「最上隊の時も、生駒隊の時もそうだけど、一人勝ちしそうになったらみんな割と早く決断してたな」

「こういうのなんて言うんだっけ。えっと……ご、ごえ……」

「呉越同舟ね」

「なるほど、ゴエツドウシュウ」

「……流石に意味分かるよね?」

 

 解説、実況席の学問の弱さに犬飼は思わず汗をたらりと流しながら、解説を続ける。

 

「目の前の敵と時間食うくらいなら、一人勝ちを崩すって場面が多かったって話。その為に相手部隊の邪魔しなかったり、動きやすくしたり……」

 

 その結果、試合の流れはスピーディなものとなった。

 

「そして何よりも強かったのは生駒さんだった。視線を遮る物なかったから、新・生駒旋空がいい仕事した」

「最後の目の前の相手に撃つと見せかけてのゾエ狙いは巧かったな」

 

 その指示を出したのは水上なのだろう、と犬飼は当りをつけていた。

 生駒一人だったら、あのまま秀一、村上と戦っていたのかもしれない。

 

「技の強さとクレーバーな判断が点差に繋がったんだね〜。

 さて、今回の試合で暫定順位が更新されましたー。今からモニターに映します〜」

 

 国近がパパッと端末を操作すると、順位に変動が起き──観覧席でどよめきが起きる。

 何故なら……。

 

001二宮隊    33点
002影浦隊    31点
003生駒隊    31点
004最上隊    30点
005玉狛第二   29点
006弓場隊    27点
007王子隊    26点
008東隊     26点
009鈴鳴第一   26点

 

「なんと、生駒隊が点数で影浦隊に並びました!」

 

 二宮隊、影浦隊は長い間不動の順位だった為、今回の点数で追いついた生駒隊は快挙と言える。

 さらに注目すべき点は……。

 

「点数並んでんなー」

「並んでいるねー」

「弓場隊と王子隊が上位に帰ってきて、逆に東隊と鈴鳴が中位落ちという結果になりましたが、結果次第では今回のように上位と中位は激しく入れ替わるでしょ! 

 それでは、ラウンド6夜の部、これにて終了です! お疲れ様でしたー!」

 

 

 ◆

 

 

「一点差か……」

 

 運が良かった、と彼は思った。

 もし他の部隊がもっと点を取っていれば今頃中位に落ちていたのかもしれない。そうなると、上に追いつくのは不可能だ。

 だが、今の点数なら──行ける、と彼は思った。

 彼──修は携帯を取り出し、ある人物に連絡を取り試合結果を伝える。すると、相手は分かっていたかのように笑った。

 

「では、次の試合はお願いします」

 

 それだけを言い、修は玉狛第二四人目との通話を終え会場から去り──ラウンド7にて、大量得点を得て暫定二位へと駆け上がった。

 


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