勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第72話

 B級ランク戦ラウンド7昼の部。

 今回の試合の実況席には、三輪隊兼最上隊月見蓮が座っていた。

 そして解説席には彼女の幼馴染みであり、戦術面では弟子であり、そして何より『トップ』と言う肩書が最も似合う男──太刀川慶その人がいた。

 その隣には最上秀一がちょこんと座っていた。

 観覧席には唯我とヒュースも居た──と言うには、少々状況がいつもと変わっていた。

 

 ──ざわざわ。

 ──ガヤガヤ。

 

 今日の試合に観覧席には、時間が経つと同時に見物しにくる隊員がどんどん増えている。

 

 ──それこそ、非番の隊員がこの試合を見に来たと言わんばかりに。

 B級隊員はもちろん、A級隊員たちが息を切らして会場に現れ、まだ試合が始まっていない事に安堵の息を吐くものや、上では上層部の面々が仕事を終わらせて試合の始まりをジッと待っている。

 

 それだけ衝撃だったのだろう。

 玉狛第二の新メンバーの正体が。

 解説席に座った太刀川など、驚きすぎて腰を抜かして椅子から転げ落ちそうになっていた。隣の秀一はぽかんと口を開いていた。

 

 唯一、試合前日に知らされた月見はこうなる事を読んでいたのか、冷静に会場の空気を整える。

 

「皆様、試合開始までまだ時間がありますが、ここで改めて試合前に各部隊のお浚いを行います。できれば、ご静聴ください」

 

 ──びっくりしたのは分かったから静かにせえや。特に正隊員。

 

 要約すればこうである。

 

「さて、まずは影浦隊から。太刀川隊長、解説を」

「いや、おま、それよりさ! 玉狛のアレ! アレいいのかよ! ルール違反だろ!? 迅の奴何も言ってなかったぞ!」

「──解説を」

「いや──」

「解説を」

「…………はい」

 

 幼馴染みに押し切られた太刀川は、胸の中にある驚き、疑問、その他諸々を抑え込んで月見に従って解説を始めた。

 

「影浦隊は、今期生駒隊に負けてるからなー。あの新・生駒旋空の対処しなければ、いつも通りに動いてそのまま負ける……な」

「言い切るんですね」

「そりゃああいつらサボっているからなあ」

 

 太刀川の中の影浦隊が、彼の口から語られる。

 

「カゲはバリバリランク戦して強くなってるし、ユズルは訓練には出て当真となんだかんだ撃ってる。ゾエはそこまで不真面目じゃねえ」

 

 つまり何が言いたいんだろうか、と秀一が太刀川を見ると、その視線に気づいた太刀川がニヤッと笑みを浮かべながら言い切った。

 

「あいつら、個人能力の向上は割としているが、チームの連携はあの頃(A級)ん時と変わってねえ。良く言えば勝ちパターンでマイペース。悪く言えば変化も成長も無し」

 

 それが新戦法を携えた生駒隊に2連敗という結果に繋がったと言える。

 

「まあ、普通にやっても勝てるのがあいつらだからな。普通じゃねーやり方で挑んでくる最上隊や玉狛第二がおかしいってのもあるな」

 

 お前のことだぞー? と秀一の頭を乱暴にかき乱す太刀川。

 月見がやめなさいと言うとすぐに手を離したが。

 

「では、今回影浦隊に勝ち目は薄いと?」

「どうだかなー。玉狛にアイツが入る前なら、当たった奴から崩していけば生駒隊にリベンジできる……と思っていたんだが」

 

 現在、彼の中では影浦隊は王子隊の次に勝ちにくいチームと認識している。

 依然として狙われやすいのは玉狛だ。

 だが、その玉狛も他の部隊を絶対に返り討ちにする駒を手に入れた。

 いつも通りに噛みつきにいけば、影浦と言えど落とされる──。

 

 

 ◆

 

 

 そう断言する一方、影浦隊は──。

 

「キッツイなあ……」

「勧誘したのって隊長の眼鏡だろ? アイツヤベーな!」

 

 いつも通り、というには流石に反応を示していた。

 北添は難しい顔をし、仁礼は修に対して「んべ」と舌を出して彼が行った所業にドン引きしていた。

 

「……なるほどな。空閑のヤローが自信満々な訳だ」

 

 影浦もその強さを聞いたことあるのか、以前の遊真の発言を思い出して納得していた。

 一方、絵馬はというと静かに端末で過去の試合を見ながらそっと呟く。

 

「──関係ないよ。勝つのは強いチームだから」

 

 しかし、その言葉には嫌に力が込められており……。

 

「……」

 

 それをジッと見つめる者がいた。

 

 

 ◆

 

 

 ──新・生駒旋空をどうにかしないといけない。

 

 解説が続く中、月見から生駒隊について問われた秀一は短く答えた。

 それに月見が内心5点(100点中)と採点を付けている中、太刀川が彼の発言を拾う。

 

「あれは凄かったなー。俺、迅、弓場が一瞬で斬られたからなー!」

 

 こいつは1点と採点しつつ、月見が解説をする。

 

「生駒隊は新技を取り入れただけで、動きは変わっていません」

「だな。いつも通りに動きつつ、必殺力の上がった技でバシバシ取っている」

 

 それだけに、普段通りに動けば良く、不足の事態にも対応しやすいと言える。

 

「ただ、あの技の厄介さが知れ渡ったからなー。当然他のチームも対応してくる」

 

 ──放置するには、あの技は強すぎる。

 

 秀一が前回の試合を思い出しながらそう言い、観覧席に居る唯我がウンウンと頷く。

 しかし、その隣のヒュースが断言した。

 

「だが、アイツには通じない」

「ええ!? そうなのかい!?」

「正確には少し違うが──試合を見れば分かるだろうな」

 

 ヒュースの視線の先には、玉狛第二のチームメンバー欄に追加された隊員の名前があった。

 

 

 ◆

 

 

「いや、驚きすぎて今日持ってきた絶対笑える話忘れてきたわ」

「そんなんどうでもええわ……」

「いや、迅を笑わせたほどのもんなんじゃけど……」

「逆に聞きたいわ!」

「いやもうええわ!」

 

 生駒と水上のやり取りに真織が強く突っ込んだ。

 このまま放っておけばいつも通りに漫才して、グダグダと試合が始まるのが決まっているからだ。

 

「でもなー。対策も何もないよなー」

「そんなにやばいんすか?」

「海あまり知らんか? イコさん、あの人に旋空無しで勝てる?」

 

 水上の問いに生駒は断言した。

 

「無理」

「ここまで断言するイコさん珍しいな」

 

 隠岐がしみじみ言うと、矛先が彼に向く。

 

「いや隠岐くん? ほのぼのしてるけど今回の試合君の働きで決まるから。いつもの五割増しで働いて貰うから」

「いや〜……キツいっすわ」

 

 普段通りに見える生駒隊だったが──若干これからの試合に気を重くしていた。

 

 

 ◆

 

 

「頭抱えているのは当然王子隊だな。コイツが中位に叩き落として、そっから上位に帰ってきたと思ったらこの逆風だ」

 

 俺でもキツいと秀一の頭をポンポンと叩きながら笑う太刀川。

 だが彼の言葉は正しく、王子隊は一度ステージを決めて、すぐにキャンセルしてステージ選択し直している。

 

「王子隊長は考えるタイプですからね。玉狛の対策はかなり練ってきていた筈です」

「生駒や影浦みたいなタイプとは真逆だな。力で戦うっつーより戦略で戦うタイプ」

 

 ハマれば強いが、うまくいかなければ試合の流れを把握したまま負けてしまうこともある。

 そうこうしているうちに、王子隊がマップ選択を終了した。

 選ばれたのは市街地A。先ほどの選んだマップと変わらないものだった。

 それを見て太刀川が解説をする中、観覧席の上層ラウンジにて試合を待つ男──二宮に、同じく同席していた出水が言った。

 

「二宮さんの言う通り、王子隊マップ変えませんでしたね」

「結局やる事は変えられないからな」

 

 ジンジャーエールを飲み、時折太刀川と秀一の解説を「ぬるい解説しやがって……」と悪態を吐きつつ、王子隊の狙いを言う。

 

「玉狛の新戦術が一番刺さるのは王子隊だからな」

「そうなんですか?」

「ああ。生駒隊も、影浦隊も、王子隊に総合戦力で勝っている。そうなると、王子隊は玉狛から点を取りたい。それに、あれは放っておくとどんどん深みにハマっていくからな」

「でもなー……」

 

 出水は思った。それ、絶対玉狛読んでいるだろう、と。

 二宮はそのことも分かっているのだろう。

 故にこれは如何に相手の思考の上を行くかの試合……ではなく。

 思い描いた勝ち筋への図を、どれだけ試合に落とし込めるかが鍵になる、と二宮は読んでいた。

 

 

 ◆

 

 

「作戦変更無し!? 大丈夫なんですか?」

「こればかりはね……」

 

 珍しく息を吐く王子。どうやらこの時点で既に、修に読み負けていると判断しているらしい。それだけ修の一手に感服したらしい。

 しかし、試合前から負けていられない。

 彼は気を引き締めて全員に言った。

 

「やる事は変わらない。基本はオッサムを探して、優先的に狙っていく。でも、試合展開によってはオッサムに気をやる余裕がないかもしれない」

「それは、そうだな……」

「臨機応変、ですか」

「うん。でもステージはこちらが選んでいるからね。速攻で仕掛けて、先手をなるべく取ろう」

 

 後手に回れば、対処に回ってそのまま負けてしまう。

 その言葉を飲み込んで、王子隊は試合開始の時間を待つ。

 

 

 ◆

 

 

「──なるほど。つまり彼の働きと言うよりも、他の隊員の動きが重要と言う訳ですね」

「だな……おっと試合が始まるな」

「そうですね──皆さん、試合が始まります。どうか、落ち着いて試合をご覧ください」

 

 試合が始まる中、秀一は一人サイドエフェクトを使って思考の海の中に入っていた。

 

 ──三雲修。

 

 彼が行った事は、はっきり言って褒められるべきではない、のかもしれない。

 現に、この会場に居る者の口から次々と「卑怯者」「そこまでして勝ちたいのか」と言う言葉が出ている。

 ……はっきり言って、秀一も思う所はある。彼の強さを秀一は覚えている。彼が覚えていない彼もまた、覚えているのだろう。

 だが……。

 だが──! 

 秀一は、彼は、最上隊は、あえてこう言おう──。

 

 ──上等だ。オレ達は絶対に負けない。

 

 だから、見せてくれ。

 この試合で、君たち玉狛第二の力を──。

 

 

 ◆

 

 

「──ふう」

 

 修は、緊張していた。昨日上層部と論戦する前の時間よりも緊張した。

 しかし、少し高揚している。

 この日のために、あの日からずっと。

 自分たちの為にならないと言われた──しかし、彼のためになるのではないか? 

 そう問いかけると、彼は不意を疲れた顔をして──もうちょっとだけ足掻いてみる? と期待しているような、面白そうな顔をして言った。

 それに応えるように、そして彼に秀一を助ける手伝いをさせる為に──玉狛第二に加入させた。

 

 そして、この試合と──次の試合。

 なんとしても、絶対に、必ず勝つ為に修は死力を尽くす。

 

「修」

「修くん」

 

 遊真と千佳が彼の名を呼ぶ。

 いよいよ転送の時間だ。

 作戦はすでに決まっている。あとは隊長らしく言葉を送るのみ。

 

「空閑、行こう」

 

 おう、と相棒は答える。

 

「千佳、頑張ろう」

 

 うん、と幼馴染と頷く。

 

「宇佐美先輩、サポート頼みます」

 

 了解、と先輩が眼鏡を光らせる。

 

「よろしくお願いします──迅さん」

 

 修の言葉に、ずっと昔から憧れていた人は──。

 

「りょーかい。この実力派エリートにお任せあれ」

 

 不敵な笑みを浮かべて、応えた。

 

 

 

迅悠一。

 玉狛第二に加入。

 本日、ラウンド7よりB級ランク戦に……。

 

 

参戦!!
 

 




伏線まとめ

第45話

「いや~。()()()()だけタイミングが悪かったからね。今は()()()に集中しないと」
 迅は視た未来から、自分が玉狛第二に入るよりも、こちらで頑張った方が彼らのためになると判断した。

第47話

「――今日の夜、襲撃を仕掛けるぞ」

ガロプラの襲撃時間の変更=未来が変わってる。
そもそも大規模侵攻の結果も変わっている。

第56話


「──はは! うん、大丈夫そうだ。おれの杞憂だったかな? ──またな、秀一」

第62話

そして、あの時まで上位に残留する。そうすれば──。
「──Aに、上がれる」
 確信を持って修は断言した。

第70話

「でもまっ、次は負けないから」
「それはこっちの台詞や」

第71話

終盤のヒュース視点。

あの場面で修が上層部に迅を玉狛第二に入った事を報告。
当然反対されたが別にルール違反してない為そのまま帰ってきた。桜子やヒュースと会ったのはその帰り道。


分かる人には分かったかもですね

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