勘違い系エリート秀一!!   作:カンさん

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第73話

「まさか迅くんをチームに入れるとはねぇ」

 

鬼怒田、唐沢と共に観覧席上部の別室にて根付がため息と思わずと言わんばかりに吐き出した。それだけ迅が玉狛第二に所属する事が信じられなかった……いや、信じられないのだろう。

こうして試合が始まるというのにまだ実感していないように見える。

彼の発言に鬼怒田がため息を吐きながら続く。

 

「しかし、三雲の言う通りなんら問題はない……」

 

 当初は反対もしたし難色も示したが、今こうして考えると迅が何処かの部隊に入る事に規定違反はない。S級やA級隊員をB級部隊に入れてはならないと何処にも明記されていない。実際に修はその事を指摘していた。

 加えて……。

 

「それに、ヒュース君の事まで交渉材料に加えるとは」

「忌々しいが、確かに近界民を最上隊に入れたのは我々だ……」

「空閑くんだっているのに、なんとも貪欲な事だ」

 

鬼怒田と根付が色々と話している一方。

 

「……」

 

 ランク戦が始まるなか、唐沢は一人ジッとモニターを見つめていた。

 思い起こすのは、玉狛第二と最上隊が初めて戦った試合──ラウンド1の時の事。

 あの時もこうして彼は試合を眺め──傍にいる迅にこう言っていた。

 

 ──あまり気負い過ぎるなよ少年。君もまだ若い。

 

 未来視というサイドエフェクトを持ち、時には暗躍し、時には上層部とも舌戦をするあのエリートは……彼からすれば余計なことを考え過ぎていた。

 だからこそ、正直な話──唐沢は嬉しかった。

 

「それで良いんだ──子どもは我慢しなくて良い」

 

 ふう……と吐き出されたタバコの煙が空気に溶けて消えた。

 

 

 

 

 試合が始まり、14の光が軌跡を描いてステージへと降り立つ。

 ランク戦のルール上、各部隊がマップに、程よくバラバラに転送される。

 王子はすぐさまレーダーにて己の現在位置と他のトリオン反応を見る。彼らの目的は三雲修。彼を狩るために見るべき物は決まっている。

 数を数え、空間の穴を見て「なるほど」と呟く。

 

「予想通りオッサムはバッグワームをしてるね。こちらの動きを警戒している」

 

 隣に空いているであろう“穴”に向かって走りながら、王子は玉狛の思考を追い続ける。

 マップ上から消えた反応は、計5つ。

 明らかに狙撃手以上の数が消えており、王子の読みが当たっている可能性は極めて高かった。

 狙撃手が多いこの試合で、それでも尚バッグワームを使うという事は、狙撃のリスクを負ってでも隠れたい理由がある。

 

「樫尾、おそらく君が一番オッサムと当たりやすい」

『ですね──このどれかに三雲くんが……!』

 

 マップの南端に転送された樫尾だが、偶然か必然か彼の周りにはごっそりと他のトリオン反応とが無い……つまり空白があり、明らかにバッグワームを使っている敵が彼の周囲に集中して転送されていた。

 三人……もしくは多くて四人潜んでいる。

 何処から索敵するべきか、それを王子が指示する。

 

「樫尾、君はそのまま真っ直ぐ北上してくれ」

『北上、ですか?』

「うん。もし寄ってくる君から逃げても、待っているのは敵部隊だ」

 

 狙撃手にせよ、修にせよ、そしてそれ以外の隊員にせよ、ランク戦のルール上転送直後は周りは敵である。王子と樫尾の間に見えているトリオン反応は二つあり、もしここにバッグワームをしている者が潜んでいるとすれば、この二つの反応と敵対関係にある。

 

『しかし……』

 

 王子の指示に樫尾が難色を示す。彼が危惧しているのは、このまま北上してしまうと、他の空白地点に修が居た場合、逃げられてしまうのではないかという事。

 

「それは問題ない。樫尾から見て右……東に居るであろう敵は、マップの端に居るから実質敵に囲われている事になる。早々無理に突破してくる事はないし、もしそういう動きを見せたらエースアタッカーの誰かという事になる」

『なるほど……』

「西に居る敵は、樫尾の方へ向かいつつ蔵内が索敵してくれ」

 

 蔵内は、マップの南西部に転送されている。樫尾とは空間を空けて隣に配置されており、敵が潜んでいる事は明らかであった。

 彼は王子の指示に従い、東へと移動する。

 

「ぼくは、一応こっちを確認してから──」

 

 北東のマップ端に転送された王子が、西隣に居るであろう反応に向かって走るなか──

 

 

 

 

「──来たぞ、修」

 

 

 

 

 ──突如、レーダーに変化が訪れた。

 

「──おっとこれは……」

 

 王子の南隣にいた反応が、猛スピードで迂回しながら北上した。

 まるで王子の行手を阻むかのように。

 まるでその先には行かせないと言わんばかりに。

 王子は、その動きを見て考える。自分たちの狙い。玉狛の狙い。他の部隊の特性。

 そして迅悠一という存在。

 

(オッサムの援護……いや、釣りの可能性が高いな)

 

 王子は、慎重に動く事にした。

 仲間を庇うような動きを見せる部隊は玉狛が濃厚で、生駒隊や影浦隊ならまっすぐ自分の方へ仕掛けてくる筈だ。そうなるとこの駒は玉狛と考えるのが普通だが。

 玉狛は過去の試合で釣りの戦法を取っている事がある。

 可能性は二つ。選べるのは一つ。王子は確実に正解を取るために動いた。

 バッグワームを展開し移動しつつ、オペレーターの橘高と樫尾に指示を出す。

 

「羽矢さん、周辺のマップの詳細を。樫尾は──」

 

 

 

 

『なんや、また誰か消えよったで』

「今のは樫尾くんですね。こっから見えました」

『じゃあ北の方で消えたんは王子隊のどっちかやな。王子の指示かなんかで隠れたんやろ』

 

 グラスホッパーを使いいち早く狙撃位置に着いた隠岐は、スコープ越しに樫尾の動きを把握していた。さらに影浦、遊真も見つけて「見つかったら死ぬなあ……」とげんなりして早々に潜伏した。

 

『王子隊は玉狛の眼鏡割りに行ってるなコレ』

『王子隊、眼鏡割る。了解』

『でも玉狛の空閑くんの動き的に、北の方にも居るっぽいなあ』

『玉狛、北に居る。了解』

『おれが樫尾追いかけましょうか? グラスホッパー使ってシュシュっと!』

 

 水上が隠岐が見た情報から戦況の把握に努める。

 彼の頭の中では既にある程度の今後の展開が見えつつあるが、どうしても違和感が喉に引っかかる。

 

『海、お前狙撃手に見られてるかもしれんからグラホ無しや』

『ええ!? グラホ無しですか!?』

『敵も寄って来てるしな。イコさんと合流したら迎えに行くから、くれぐれも突っ込むなよ』

『海、グラホツッコミ無し。了解』

『さっきから何了解してんの?』

 

 とにかく、と水上がまとめ上げ。

 

『隠岐もようく確認しとけよ』

「はいはい。分かりまし──ん???」

 

 智将からのオーダーに頷こうとしたその時、隠岐はあるものを見つけた。

 

 

 

 

「ゾエさん。カゲさん。玉狛のミクモって人見つけた」

 

 

 

 

「これは……!」

 

 隠岐と絵馬が見つけるのと同時期に、樫尾もまたそれを見つけた。

 それは、スパイダーの巣だった。

 主人を守るように、もしくは獲物を捕らえるために張り巡らせた玉狛のフィールド。

 それを樫尾と狙撃手たちは見つけた。

 

 ──この先に三雲くんが居る……!

 

「三雲のスパイダー陣、発見しました……!」

『ナイスだ樫尾。やっぱりこっちは釣りだったか』

 

 北端へと向かっていた王子は、すぐさま樫尾と合流するため南へと進路を変えた。

 それと同時に、橘高に頼み王子に吹っかけようとした反応にタグ付けを行う。移動速度から遊真と仮定し、千佳の潜伏範囲の絞り込みを行う。

 

『北からの狙撃に注意しよう。羽矢さん。トリオン反応に注意してくれ』

『了解』

 

 修を追い込みつつ、追撃と不意打ちを警戒する王子。

 蔵内も逃げられないように西から向かう。

 

『蔵内。多分狙撃手に見られていると思うから、注意して』

『了解。……どうやら、他の部隊も予め潰すみたいだな』

 

 蔵内の言う通り、他の反応が樫尾……というよりもスパイダー陣へと集まりつつあった。

 北西から合流して二つ。南西から一つ。さらにスパイダー陣の近くにあった反応が、ゆっくりと伺うように南へと下がりつつある。おそらく既に陣の中に入っているか、陣の外で様子を伺っているか……。

 着実に修の包囲網が出来上がりのを感じつつ、潜伏している狙撃手の存在を加味すると修争奪戦が起きそうだと樫尾は予想し、自分が彼を斬るのだと弧月を握る手に力が入る。

 

 ──しかし、王子は違和感を感じていた。

 

(先ほどぼくを釣ろうとしたのはおそらくクーガー。今はバッグワームで反応が消えている。他の部隊との乱戦を予想しているのか?)

 

 後ろから追いかけているであろう遊真の存在を気にかけつつ、これからの展開と他の部隊の動きに気を配り──彼の背筋に悪寒が走った。

 

(──待て。この状況、あまりにも出来すぎていないか?)

 

 狙われやすく落ちやすい修の元に、他の三部隊がこぞって集まる展開。

 普通に考えれば玉狛が圧倒的に不利だ。

 玉狛の戦術は修がスパイダー陣形を作ってから始める。その出掛かりを潰してしまえば玉狛の勝ちの目は無くなるし、狙われればエースである遊真と迅がサポートに入らなくてはない。先手を打たなければならない玉狛に取って、後手に回るのはイコール負け筋に繋がる。

 

 ──本来なら、ば。

 

(まさか──)

 

 王子がある考えが浮かぶと同時に、樫尾から緊急の報告が入ったのは同時だった。

 

 

 

 

「──なっ」

 

 道中のスパイダーを斬って奥深く入り込んだ樫尾は、ようやく相手に追い付いた。

 しかし、その顔には相手を追い詰めた際に浮かべる喜色はなく、想定外の出来事への驚き、そしてそれはそのまま焦りとへと変化した。

 樫尾は、すぐに距離を取る動きをみせて急いで王子へと通信を繋げる。

 

「た、隊長! ここに居たのは──」

 

 誰も三雲修の姿を見ていなかった。

 誰もが“そんなはずは無い”と“もっと有効活用する”と先入観があった。

 故に釣られてしまった。

 

「──迅さんです!!」

 

 藪をつついて蛇が出た所の話ではなかった。

 樫尾の視線の先にいる男──迅はニッコリと笑顔を浮かべて。

 

「どうもどうも〜実力派エリートです。では早速──」

 

 足裏からエスクードを出してカタパルトジャンプをすると。

 

「少しだけ、遊んで貰おうか」

 

 迷い込んだ子羊に喰らい付いた。


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