大空の炎の力を操る転生者   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


異世界カルテット④

ヒエンside

 

 泊まる場所は、俺たちが困り始めるより先に用意されていた。

 学校へ戻ってロズワール先生に尋ねると、鍵と道順を書いた紙を渡されたのだ。食事に寝床まで揃っているのはありがたいが、ここまで手際がいいと、どうしたって思う。

 帰し方より、泊まらせ方のほうが詳しいんだよな、あの先生。

 

「ヒエン君。お湯、沸いたよ」

「お、ありがと」

 

 なのはに声をかけられ、考え事をやめた。教えられた宿泊先の共用の部屋で、三人分のカップを並べる。フェイトは机の上に広げた紙を端へ寄せ、ヒッツのために空けておいた場所を指先で叩いた。

 椅子から飛び乗ったヒッツが、そこへ丸くなる。なのはが笑いながら尻尾を避けて、カップを置いた。

 

「そこだと、紙が取れなくなっちゃうよ」

「ガウ?」

「いいよ、こっちに移したから」

 

 フェイトに頭を撫でられ、ヒッツが前足の上へ顎を載せる。昼間は知らない人に会ってばかりだったから、ようやく気が抜けたんだろう。

 俺も椅子へ腰を下ろし、温かいカップを両手で包んだ。

 

「……今日は、いろいろあったな」

「うん。朝は、お家にいたのにね」

 

 なのはが湯気の向こうを見た。元気にしてはいたけれど、家族のことが気にならないわけがない。フェイトも自分のカップへ視線を落としている。

 

「心配してるだろうな」

「お母さんも、姉さんも……」

 

 フェイトの呟きに、俺は頷いた。

 大丈夫だと、ひと言だけでも伝えたい。こっちは飯を食えていて、怪我もしていなくて、三人と一匹で一緒にいる。そこまで分かってもらえれば、向こうだって少しは安心できるはずなんだ。

 

「明日、アインズさんと話してみよう。俺たちのやり方と違うなら、何か気づくことがあるかもしれない」

「ヒエン君、夜中に一人で試したりしないでね」

 

 なのはに言われて、カップから目を上げた。

 

「……まだ何も言ってないだろ」

「言ってないけど、考えてた?」

 

 少しだけ。

 正直に頷くと、フェイトまでこちらを見た。

 

「私も気になるよ。でも、試すなら一緒にやろう」

「分かった。今日はもう休もう」

 

 二人がほっとしたように笑う。その顔を見ていたら、これ以上紙を広げる気にはならなかった。俺たちは明日の集合時間を決め、使ったカップを片づけてから、それぞれの部屋へ向かった。

 

 * * *

 

 翌日、授業のあとの校庭に、昨日の約束の顔ぶれが集まった。

 アインズさんとアルベドさん。俺となのは、フェイト、ヒッツ。それから、話を聞いて参加したターニャとヴィーシャさんだ。

 カズマも来たが、こちらは途中からスバルに引っ張られてきたらしい。

 

「いや、俺も帰り方は気になるけどさ。難しい魔法の話をされても分かんねえぞ?」

「俺も分かんねぇよ。だから聞くんだろ」

「お前、妙に堂々としてるな」

 

 二人のやり取りを聞きながら、俺は校庭の端を確かめた。先生には話を通してある。人の出入りが少なく、魔法を見せても周囲を巻き込みにくい場所だ。

 

「では、まず私から見せよう」

 

 アインズさんが前へ出ると、自然に会話が静まった。

 

「今から開くのは、この校庭の中を移動するための門だ。向こう側は、あちらになる」

 

 示されたのは、少し離れた場所だった。フェイトが先へ回り、人がいないことを確かめてから手を上げる。

 それを見て、アインズさんが片手を掲げた。

 

「転移門〈ゲート〉」

 

 空中に、黒い穴が開いた。

 扉も、柱もない。それなのに、そこだけ景色が別の場所へ続いている。なのはが小さく息を呑み、俺の隣へ一歩寄った。

 

「……ほんとに、向こうが見える」

 

 門の向こうにはフェイトがいた。こちらを見つけて手を振る姿が、校庭の奥と、目の前の門の中にそれぞれ見える。

 同じ転移でも、ヒッツが扉をつなぐときとは発動の様子がまるで違った。

 

「通ってみてもいいですか?」

「構わん。まずは私が通ろう」

 

 アインズさんが黒い門へ歩み込み、フェイトの隣へ現れた。アルベドさんもそのあとに続く。

 俺はヒッツを肩へ乗せ直して、なのはと一緒に門をくぐった。歩幅は一歩分。その一歩で、さっきまでいた場所から離れている。

 

「おお……」

 

 後ろから来たスバルが、自分の足元と門を何度も見比べていた。カズマは門の縁に触りかけ、途中で手を引っ込める。

 

「これで家まで行けたら、話が早いんだけどな」

「そうはいかぬようだ。少なくとも、私の知る元の場所へ戻る試みは成功していない」

 

 アインズさんの返事に、カズマが残念そうに息をついた。

 この世界の中では使えても、元の世界へ届くとは限らない。門が消えた空間を見ながら、俺は今見た光景を頭の中で確かめた。

 

「俺たちの世界にも、転送魔法があります。離れた場所へ移動したり、人や物を送ったりするものです」

 

 俺は門のあった場所へ目を向けながら、そう説明した。普段使う帰還手段の細かい仕組みまで話さなくても、移動の魔法について意見は聞ける。

 

「ただ、元の場所へ戻ろうとしても、うまくいかないんです。連絡も届かなくて」

「行き先を指定できないのか、それとも、指定しても移動が成立しないのかね?」

「戻りたい場所は分かっています。でも、そこへつながらない。今のところ、確かめられたのはそこまでです」

 

 アインズさんはすぐに答えず、少し考えてから頷いた。

 

「こちらも、元の場所へ移動できない点は同じだ。ただし、原因まで同じとは限らんな」

「はい。それを確かめたくて、話を聞かせてもらいました」

 

 そこで、なのはが小さく手を上げた。

 

「転送だけじゃなくて、ここへ呼ばれたときのことも調べられませんか? 私たちの世界には、召喚魔法もあるので……」

「召喚。誰かを呼び出す魔法ってことか?」

 

 スバルが聞き返す。なのはが頷くと、カズマは腕を組んでアインズさんを見た。

 

「そういうのも使えるのか?」

「うむ。私も召喚は行える。しかし、あのボタンによる移動を、私の知る召喚と同じものだと決めることはできぬ」

 

 アインズさんは、さっき門を開いた手を軽く持ち上げた。

 

「この転移門も、ボタンも、結果としては人を別の場所へ移す。だが、同じ結果になるからといって、同じ魔法とは限らない」

「そうですね。帰る方法とは別に、誰がどうやって呼んだのかも、考えたほうがよさそうです」

 

 フェイトが紙へ書き留める。ターニャはその手元を一瞥してから、俺たちを見た。

 

「各自の知る転送や召喚について、比較できる点を整理しよう。使えないという報告だけでは、原因は絞れん」

「分かった。見たことと、まだ推測のところは分けておくよ」

 

 俺が答えると、ターニャは短く頷いた。

 転送も、召喚も、調べるための手掛かりにはなる。けれど、どれかの名前を当てはめただけで、答えが出たことにはならない。二人の話を聞きながら、フェイトの紙に書かれた項目を確かめた。

 

「私たちも、来たときのことをもう一度思い出してみるね」

 

 なのはが言うと、フェイトも頷いた。肩の上のヒッツが紙を覗き込み、俺の頬へ鼻先を寄せる。

 

「お前も、気づいたことがあったら頼むな」

「ガウッ」

 

 その返事に笑って、俺はヒッツの頭を撫でた。

 

 * * *

 

 その後は、互いの魔法について質問する時間になった。

 同じ『魔法』という言葉を使っていても、分類も、使うための道具も違う。なのはたちがデバイスの補助について話すと、アインズさんは具体的に何を助けるのかと尋ねた。

 

「魔法を組み立てたり、狙いをつけたりするのを手伝ってもらいます。でも、どう使うかは私が考えます」

 

 なのはの説明に、フェイトが言葉を添えた。

 

「同じ魔法でも、自分で練習しないと上手く使えません。速く動いているときとか、ほかのことも一緒にしないといけないときは、特に」

「なるほど。道具があるだけで、誰もが同じように使えるわけではない、と」

「はい」

 

 ターニャも時折質問していた。二人の話から、自分たちが使うものとの共通点を探しているらしい。

 俺はその間に小さな石を拾い、指先で砂を落とした。

 

「例えば、物を運ぶ魔法なら、こういうふうに使います」

 

 フローターを発動すると、石が手のひらからふわりと浮いた。目の高さまで上げて止め、ゆっくり横へ動かす。スバルがその下へ手を差し入れたので、掌へそっと下ろしてやった。

 

「お、ありがと。……これ、人も乗せられるのか?」

「ああ。運ぶときにも使うよ。怪我した人を動かしたいときとか」

 

 カズマが急にこちらを見た。

 

「じゃあ、動けなくなっためぐみんも?」

「怪我してるのか?」

「いや、魔法を使い切ると動けなくなるんだよ。んで、いつも俺が背負う羽目になる」

「そういうことか。運べると思うぞ」

 

 カズマが、今日いちばん真剣な顔で頷いた。

 

「その魔法、便利だな」

「だから昨日から、便利だって言ってるだろ」

 

 なのはが吹き出し、フェイトも口元へ手を添えた。

 石を俺へ返しながら、スバルが肩を揺らしている。

 

「お前ら、魔法の話になると急に生活感がすごいな」

「日頃使うなら、そこが大事なんだよ」

 

 拾った石を足元へ戻し、俺は両手を払った。その手をアインズさんが見ている。

 

「君の場合は、手に持つ道具を必要としないのかね?」

「ヒッツは内蔵型なんです。外にいるこいつは分身体なので、肩にいても、装備は別に出せます」

 

 言葉だけでは分かりにくそうだったので、両腕に篭手を展開した。服はそのまま、額にも炎は出さない。手を開いたり閉じたりして見せると、ヒッツは肩の上で胸を張った。

 

「おお、装備が出てきた!」

 

 スバルが声を上げる。カズマも、今度は両手のほうを覗き込んできた。

 

「お前、そういうの持ってたのか」

「普段は出してないからな」

「殴るためのやつ?」

「それもあるけど、飛ぶときにも使う」

 

 掌を人のいない方向へ向け、小さく炎を灯す。オレンジ色の炎を絞り、短く噴かせると、押し返す力が腕に伝わった。

 近くへ顔を寄せていたカズマが半歩下がり、今度は掌を横から見た。

 

「ああ、それで飛ぶのか。……熱くねえの?」

「自分の手を焼くような使い方はしないよ」

 

 フェイトが少し前へ出て、炎が消えた篭手を見た。

 

「ヒエンは、細かく向きを変えて飛ぶんです。私は魔法で飛びますけど、同じ動き方にはならなくて」

「三人とも、飛行の仕方は違うのか」

 

 ターニャの問いに、なのはが頷いた。

 

「一緒に練習するときも、それぞれ得意なことが違います。だから、見てると勉強になるんです」

 

 そう言われると、ちょっと照れ臭い。俺だって、二人の魔力の使い方を見て教わることがある。

 篭手を収めていると、アインズさんが口を開いた。

 

「その炎も、魔法なのか?」

「炎そのものは、魔力とは別です。生命エネルギーを使っています。魔力と組み合わせることもありますが」

 

 そこで、アインズさんの視線が掌から俺の顔へ移った。

 

「……そうか。一口に魔法と言っても、君たちの世界と私の知るものには違いが多いようだな」

「俺もそう思います。さっきの門も、見せてもらえてよかったです」

 

 誰かの方法を聞けば、そのまま帰れるかもしれない。そう期待していた部分はあった。けれど、実際に話してみると、同じ言葉で別のものを指しているところがいくつもある。

 それでも、アインズさんは分からないものを分からないと言ってくれたし、俺たちの話も最後まで聞いてくれた。そこは、来る前より一つ進んだと思う。

 

「今日はありがとうございました。また、分かったことがあれば話してもらえますか?」

「こちらこそ。君たちの話は興味深かった」

 

 アインズさんが頷く。なのはとフェイトも礼を言い、ターニャたちとは調べた場所の情報を交換した。

 カズマはその横で、スバルへ何やら力説している。

 

「分かるか? 重い荷物を持たなくていいってのは、すごいことなんだぞ」

「分かったって。お前がすげぇ背負ってきたのは分かったよ」

 

 ……めぐみん本人の前で言うなよ、それ。

 

 校舎へ戻ると、ロズワール先生が廊下で待っていた。俺たちの顔を順に見て、満足そうに頷く。

 

「ずいぶん仲良くなれたようだねぇ。ちょうどよかった」

 

 カズマとスバルが、同時に足を止めた。俺もちょっと嫌な予感がした。こういう言い方のあとに、普通の連絡が来る気がしない。

 

「近いうちに、クラスの懇親会を開こうと思っているんだよ」

「懇親会、ですか?」

 

 なのはが聞き返すと、先生は笑みを深めた。

 

「ああ。みんなに、もっとお互いのことを知ってもらおうと思ってねぇ」

 

 俺の肩で、ヒッツが耳を動かした。

 なのはは楽しみそうにフェイトを見て、フェイトも少し笑っている。二人がそういう顔をするなら、悪い話ばかりでもないんだろう。

 ただ、昨日の放課後を思い出すと、俺としては一つだけ確認しておきたかった。

 

「先生。会場って、丈夫ですか?」

 

 横でカズマが深く頷いた。

 




また投稿します。
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