どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
「ヒエン君。懇親会の出し物、何か考えた?」
放課後、なのはが俺の机へやってきた。隣にはフェイトもいる。
先生の話では、懇親会でくじを引き、当たった人が何か披露するらしい。案内の紙を見直しても、何をすればいいかまでは書いていなかった。
「まだ。人前で見せられるものって、案外思いつかないな」
「ヒエンなら、氷で何か作れるんじゃないかな」
フェイトの言葉に、前にプリキュアたちの前で披露した芸を思い出した。猫の姿になって、氷の動物を作って動かした、あれだ。
「ああ、あれならできるな。俺も猫になって、動物を動かすやつ」
「うん。それ、いいと思う!」
なのはが笑った。肩の上の相棒も「ガウ!」と賛成してくれる。
「じゃあ、ナハトたちにも出てもらうか。ナハト、ちょっと出てきてくれ」
呼びかけると、机の上に小さな狐が現れた。ナハトは俺を見上げ、「きゅ」と短く鳴く。
相棒も机へ降り、ナハトと鼻先を寄せ合った。
「……待て。今、増えたよな?」
後ろからスバルが覗き込んできた。カズマも隣に立ち、机の上の二匹を見比べる。
「こっちはナハト。俺の仲間だよ」
「お前、ライオンだけじゃなかったのか」
「まだ小ライオンズもいるぞ」
「まだ!?」
声に驚いたナハトが、俺の手の陰へ隠れた。カズマは口を閉じ、少し顔を離す。
「……悪かった。急に近づいたりしねえから」
なのはがそっと撫でると、ナハトが顔を出した。スバルも今度は静かに手を振る。
「俺はスバル。よろしくな」
「きゅ」
挨拶が済んだところで、小ライオンズにも声をかけた。呼ばれた七匹が、順に机の上へ現れる。
男の子はアカッツ、アオッツ、ミドッツ、キッツ。リボンをつけた女の子たちは、ムッツ、アイッツ、ピッツだ。
「こいつらも、一緒に芸をしてもらおうと思って」
「芸の前に、紹介だけで時間かかりそうだな……」
カズマが呟いた。その前へアカッツが進み出て、元気よく鳴く。後ろからピッツも寄ってきたが、こちらは机の端で足を止めた。
フェイトが小ライオンズを撫でながら、俺を見る。
「私たちは何をすればいい?」
「なのはは紹介を頼めるか? 俺が氷を動かしてる間、説明してもらえると助かる。フェイトは台の横で、こいつらを見ててくれ」
「うん、任せて」
「分かった」
俺は相棒とナハトにも顔を向けた。
「お前たちも、よろしくな」
「ガウッ!」
「きゅ!」
二匹の返事を聞いたスバルが、楽しそうに笑った。
「なんか、見るの楽しみになってきたぞ」
* * *
懇親会では、料理を囲んであちこちに話の輪ができていた。
俺たちの席にはアウラとマーレが来て、小ライオンズに挨拶をしている。ナハトはフェイトの膝の上に座り、その様子を見ていた。
「ヒエン、くじ回ってきたぞ」
カズマに言われ、箱へ手を入れる。引いた紙を開くと、出し物の順番が書かれていた。
「……当たった」
「お、猫になるやつか!」
スバルが顔を上げる。隣のエミリアさんが、不思議そうに首を傾げた。
「猫になる?」
「はい。ちょっと、見ててください」
俺はなのはたちと一緒に立ち上がった。相棒は肩へ、ナハトはフェイトの腕へ移る。小ライオンズには、出番まで自分たちの席で待っていてもらう。
カズマが俺の背中へ声をかけた。
「くれぐれも、料理まで凍らせんなよ」
「しないって。俺もまだ食いたいんだから」
* * *
会場の前には、出し物用の大きな台が用意されていた。
その中央へ、氷の動物を置くための盆を載せる。なのはは台の左側、フェイトは右側に立った。相棒とナハトも、台の上へ下ろしてもらう。
「今日は、氷の動物を作ってお見せします。あと、俺もこいつらと同じくらいの大きさになるので」
客席がざわつく中、俺は台の前で変身した。
「キャットフォーム」
身体が縮み、床へついた手が黒い前足に変わる。人の姿から、小さな黒い子猫になったのだ。
フェイトがしゃがみ、両手で俺を抱き上げた。
「おい、本当に猫になったぞ!」
スバルが声を上げる。カズマも目を丸くして、俺が立っていた場所を見ていた。
「さっきまで、普通に喋ってたよな?」
「今も喋れるぞ?」
「喋んのかよ!」
俺が答えると、カズマの声がひっくり返った。スバルも驚いた顔をしてから、腹を抱えて笑い出す。
「見た目は猫なのに、口を開くとヒエンなんだな!」
「本人だからな。じゃあ、そろそろ始めるぞ」
フェイトは俺を台へ下ろした。右隣に相棒、左隣にナハト。三匹で客席を向く。
エミリアさんが口元を緩めた。
「本当に小さいのね。可愛い」
……今日は芸を見てもらうんだからな。可愛いって言われるのは、まあ、仕方ない。
俺は盆へ向き直り、魔法を使った。
冷気が集まり、白い氷の塊ができる。そこから長い耳と丸い胴体を形作り、手のひらに載るくらいのウサギに仕上げた。
客席からよく見えるように、盆の手前へ座らせる。
「わあ……ウサギだ」
マーレの声が聞こえた。
俺が前足を持ち上げると、氷のウサギも片方の前足を上げる。右へ顔を向ければ、ウサギも右を向く。
「真似してる!」
アウラが笑った。今度は俺が首を傾げ、ウサギにも同じ動きをさせる。
「ヒエン君が、魔法で動かしてるんです」
なのはの説明を聞いて、スバルが俺とウサギを見比べた。
「猫になっても、そんなことできるのか……」
感心してもらえたのが嬉しくて、つい尻尾を振ってしまう。フェイトと目が合うと、彼女も笑っていた。
よし。次はナハトの番だ。
ウサギの隣に、氷の狐を作る。尖った耳と長い尻尾をつけ、ナハトの前まで歩かせた。
ナハトが顔を近づける。氷の狐も頭を下げ、鼻先を合わせた。
「きゅっ」
冷たかったらしい。ナハトは一歩下がり、それからもう一度そっと鼻を寄せた。
フェイトが台の横から声をかける。
「ナハト、お友達みたいだね」
ナハトが嬉しそうに尻尾を動かした。氷の狐にも尻尾を振らせると、客席から笑い声が上がる。
その横で、相棒がこちらを見ていた。
「分かってるって。次はお前の番な、相棒」
三匹目はライオンだ。たてがみをつけ、胸を張った姿に仕上げる。
相棒がその前へ進み、前足を踏み出した。氷のライオンも一歩進む。
「ガウ!」
相棒が胸を張ると、氷のライオンも胸を張った。相棒が横を向けば、そちらも同じように横を向く。
「ヒッツ、張り合ってるみたい!」
アウラの言葉に、相棒が客席へ顔を向けた。その隙に氷のライオンを相棒の後ろへ回らせる。
相棒が振り向いたときには、氷のライオンはその背中を覗き込んでいた。
「ガウ!?」
驚いた相棒が半歩跳ね、客席がどっと笑う。俺も笑いそうになったが、その前に相棒からじっと見つめられた。
「悪い悪い。ちょっとだけな」
前足で相棒の肩に触れると、相棒も俺の頭を軽く小突いた。なのはが楽しそうに笑っている。
「さて、今度は少し大きいのを作るぞ」
なのはとフェイトに声をかけ、台の向こうに空けておいた場所へ目を向ける。客席とは少し離れていて、人が立っていないのを確かめてから、魔法を使った。
床の上に四本の脚ができ、そこへ胴体と長い首をつなげる。たてがみと尻尾を整えると、一頭の氷の馬になった。高さはフェイトの肩ほどだ。
「さっきより大きい!」
スバルが声を上げる。馬は首を振り、前足を高く持ち上げた。床を叩かせず、そっと足を戻してから客席へ横を向かせる。首筋から背中へと、照明の光が滑った。
「本物みたい……」
なのはが見上げた。俺は馬をゆっくり歩かせ、空けた場所を半周させる。その後ろには、小さなペンギンを三羽並べた。
大きな馬のあとを、短い脚のペンギンたちがよちよちとついていく。一羽だけ立ち止まらせてから、慌てて追いかけさせると、客席から笑いが起きた。
「そいつ、置いてかれてんぞ!」
「大丈夫。今、追いつくから」
カズマに答えている間に、三羽はまた一列になった。
続いて、馬の向こう側に大きな鷲を作る。台のそばへ低く浮かべ、翼を広げさせると、氷の羽根が扇のように並んだ。
アウラとマーレが、そろって顔を上げる。鷲は頭を傾けて二人を見てから、ゆっくり翼を畳んだ。
「ほら、羽根までできてる!」
「う、うん。すごいね、姉さん」
アウラの指差す先を、マーレが目で追った。なのははペンギンを見ながら笑っていたが、フェイトに袖を引かれて鷲へ顔を向ける。
どうやら、二人にも楽しんでもらえているらしい。
「じゃあ、最後は――」
馬と鷲を静かに止め、会場の前に残っている空間を見た。
そこへ、ひときわ大きな氷の塊を作る。まず太い後ろ脚と長い尾。次に胸と首を起こし、頭には角を二本つけた。
背中から左右へ翼を伸ばしたところで、会場が静かになった。
「……おい。それ、まさか」
カズマが椅子の背から身体を起こす。
人の背ほどもある氷の竜が、ゆっくり首を上げた。牙の並んだ口を開き、客席を見渡す。その目にも爪にも、細かく形をつけてある。
翼を広げると、照明を受けた氷が青白く輝いた。
「ドラゴン!?」
スバルの声をきっかけに、会場が一気に賑やかになった。立ち上がりかける者もいて、なのはが少し声を張る。
「氷で作ったものですから、大丈夫です。ここから見ていてくださいね」
竜は翼を畳み、長い首を台へ近づけた。
相棒が一歩前に出る。竜の鼻先を相棒の目の前まで下ろすと、相棒は逃げずに胸を張った。
「ガウッ!」
小さな鳴き声に合わせ、竜を大きく仰け反らせる。たじたじと後ろへ下がる姿に、スバルが声を上げて笑った。
「ヒッツが勝ったぞ!」
「相棒は強いからな」
俺がそう言うと、相棒はますます得意そうな顔になった。さっき驚かせた分は、これで帳消しにしてもらおう。
客席では、アインズさんも竜を見上げていた。そばのアルベドさんが何か話しかけると、頷きながら翼の先へ視線を移す。
「小さな動物と、これほど大きなものを、同じ場で動かすとはな」
アインズさんの声に、俺は前足を上げて応えた。
派手なのを見せるだけなら、ここで終わってもいい。けど、今日はみんなで出ると決めている。
「なのは、小ライオンズも頼む」
「うん。みんな、おいで!」
呼ばれた七匹が席から集まり、フェイトに手伝ってもらって台へ上がった。相棒とナハトの隣へ並び、俺もその中央に座る。
氷のウサギと狐、ライオンを盆の手前へ。床には馬とペンギンたち。鷲と竜は、その後ろで翼を畳んだ。
「それじゃあ、みんなでご挨拶だ」
俺が前足を揃えて頭を下げると、相棒たちも続いた。氷の動物たちにも、それぞれ頭を下げさせる。
小さなウサギから大きな竜まで、揃ってお辞儀をしたところで、なのはとフェイトの声が響いた。
「ありがとうございました!」
拍手が広がる。俺が顔を上げると、スバルが大きく手を叩いていた。ナハトは隣で少し照れたように耳を動かし、小ライオンズも客席を見回している。
俺は竜たちをその場に止め、なのはへ顔を向けた。
「ありがとな。上手くいった」
「うん! 最後のドラゴン、すごかったよ」
なのはがしゃがみ、台の上の俺と目を合わせる。その手を見て、そろそろ戻るかと立ち上がりかけたところで、声をかけられた。
「あの、ヒエン。少しだけ、抱っこしてもいい?」
エミリアさんだった。竜を見ていたはずが、いつの間にか台の前まで来ている。
「え? 俺をですか?」
「ええ。さっきから、すごく可愛くて……。嫌だったら、いいんだけど」
そう遠慮がちに言われると、断る理由もない。俺が頷くと、エミリアさんは嬉しそうに両手を差し出した。
前足を載せると、身体の下へもう片方の手を添え、そっと抱き上げてくれる。
「こうで大丈夫?」
「はい。落とさなければ、そんなに気を遣わなくても」
腕の中へ収まると、頭をゆっくり撫でられた。パックがエミリアさんの肩から顔を出し、俺を覗き込む。
「ずいぶん小さくなったね」
「まあ、この姿だとこんなもんです」
「リア、顔が緩んでるよ」
「だって、可愛いんだもの」
その会話を聞いていたアウラも、台の前へやってきた。
「ねえ、あとであたしも抱いていい?」
「順番にな。あと、俺はヒッツと違って、人間だからな?」
「分かってるって!」
分かってる返事には聞こえないんだよなあ。
相棒はマーレに頭を撫でられ、ナハトはフェイトの腕へ戻っていた。小ライオンズにもなのはが声をかけ、席へ連れていく。氷の動物たちは、ほかの人の芸の邪魔にならないよう、順に小さくして端へ寄せた。
* * *
席へ戻るころには、俺はなのはに抱かれていた。
エミリアさんとアウラに順番に抱いてもらい、そろそろ人へ戻ろうとしたら、なのはが両手を差し出してきたのだ。
「ヒエン君。もう少し、そのままでいてくれない?」
「なのはもか?」
「うん。私も抱っこしたいなって」
俺が頷くと、なのはは両腕で抱え、胸の前へそっと寄せた。椅子へ座った今は、膝の上に載せられている。
指先で頭を撫でられるのは、正直、気持ちいい。けど、向かいのカズマがにやにやしているのが気になる。
「お前、戻るタイミングなくしてねえか?」
「戻ろうとはしたんだよ」
「知ってる。全部見てたからな」
言い返そうとしたところで、隣のフェイトと目が合った。ナハトを膝へ下ろし、少しためらってから口を開く。
「……私も、あとでいい?」
「フェイトも、ずっと抱き上げてくれてただろ」
「あれはお手伝いだったから。今度は、ゆっくり抱っこしたいなって」
そう言われては、俺も弱い。
なのはが笑い、俺を隣へ渡してくれる。フェイトは両手で受け取り、落ち着くように膝へ下ろした。
「ありがとう、ヒエン」
「……どういたしまして」
頭から背中へ、優しく手が動く。ナハトが隣へ寄ってきたので、俺も鼻先を近づけた。いつもと目線が同じなのが嬉しいらしく、尻尾がふわりと揺れる。
「もう少し、猫のままでいてほしいな」
フェイトが小さく言った。なのはも隣から頷く。
「次の芸、一緒に見ようよ」
二人の顔を見比べてから、俺は息をついた。
「じゃあ、次の芸が終わるまでな。そのあと、俺も料理食べたいし」
「うん!」
「分かった」
二人とも、ずいぶん嬉しそうだ。そんな顔をされると、もう少しくらいいいかと思ってしまう。
会場の前では、アクアさんが小道具を持って立っていた。
「次は私の番よ! ちゃんと見てなさいよね!」
カズマがそちらへ顔を向ける。俺もフェイトの膝の上で座り直した。
「大丈夫か、あれ」
「芸は上手いんだよ、あいつ。芸はな」
それなら、ゆっくり見せてもらおう。
隣の席からなのはの指が伸び、俺の頭をひと撫でする。フェイトは背中を撫でたままだ。
……二人とも。芸が始まったんだから、そっちもちゃんと見てくれよな。
また投稿しますー。