外伝書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
Featuring ワンパンマン①
ヒエンside
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
目の前にあるのは、見覚えのない街並み。
ビルにマンション、その間を走る道路。遠くにはコンビニらしき看板も見える。
ひんやりとした風が頬を撫でた。
足元へ視線を落とす。
コンクリート。
顔を上げる。
屋上の柵。
もう一度、周りを見る。
……うん。知らん場所だ。
「いや、どこだよ、ここ」
ついさっきまで、こんな所にはいなかった。
扉を開けた覚えもない。ヒッツに別の世界へ行こうと頼んだ覚えだってない。
それなのに、気づけばビルの屋上に立っていた。
見上げた空には、まだ夜の色が少し残っている。ビルの向こうから朝日が顔を出しかけていた。
「……寝ぼけてる訳じゃないよな?」
頬をつねる。
痛い。
よし、夢じゃない。
……何もよくないが。
まずは、何が起きたか確かめないと。
「ヒッツ、ナハト。いるか?」
呼びかけると、内側から応答があった。
続いて、足元に二匹の姿が現れる。
「ガゥ」
「きゅ〜」
「二人とも無事か。よかった……」
しゃがみ込み、顔を覗き込む。
ヒッツは辺りへ視線を巡らせ、ナハトも鼻を動かしていた。
「なあ、相棒。俺、何かしたか?」
ヒッツが首を横に振る。
「だよな。急に景色が変わったと思ったら、ここにいたんだけど……お前は何か分かったか?」
返ってきた思念を受け取り、俺は眉を寄せた。
ヒッツにも、まだ事情は分からないらしい。
「そっか。じゃあ、まず現在地から調べるか」
分からないまま屋上で唸っていても仕方ない。
身体におかしなところはないし、相棒たちもいる。慌てず、一つずつ確認していこう。
そう考え、立ち上がろうとした、その時だった。
ぞくり、と。
背筋を冷たいものが走り抜けた。
「……っ!」
顔を上げる。
遠く、ビルの間。
何かがいる。
相手の姿も、何をしようとしているかも、まだ見えない。
だが、のんびり朝飯の相談をしている場合じゃないことだけは分かった。
「ヒッツ、ナハト。一旦戻っててくれ」
二匹も俺の変化に気づいたのだろう。
短く鳴き、俺の内側へと姿を消す。
俺は両手に篭手を展開した。
掌からオレンジの炎を噴射させ、屋上を飛び出す。
風を切り、ビルの間を抜ける。
視界の先に、一人の男がいた。
いや。
「あれは……人間じゃないな」
紫色の身体。
頭から伸びる二本の触角。
妙に見覚えのある顔立ちをした、筋骨隆々の異形。
そいつは交差点の真ん中に立ち、片手を持ち上げていた。
掌の上に浮かんでいるのは、青白い光球。
朝日とは違う光が、周囲の窓ガラスを照らしている。
その手の向く先には、歩道を歩く女性と、小さな女の子がいた。
女性は異形に気づき、子供の手を引こうとしている。
だが、間に合わない。
「ソニックムーブ!」
魔力で身体を加速させる。
一瞬で二人との距離を詰め、片腕ずつで抱え上げた。
「きゃっ!?」
「ちょっと失礼!」
そのまま地面を蹴る。
俺たちのいた歩道へ、青白い光が突き刺さった。
轟音。
背中を押す爆風。
砕けた舗装が飛んでくるより早く、角を曲がった先へ滑り込む。
足を止め、二人を下ろした。
「怪我はありませんか?」
「あ……は、はい。この子も……」
女性が慌てて女の子の顔や手足を確かめる。
母親らしきその人の服を、女の子はぎゅっと掴んでいた。
涙は浮かんでいるが、目立った怪我はない。
よかった。
「ここから離れてください。あいつとは反対の方へ」
「でも、あなたは……」
「俺なら大丈夫です。行って!」
女性は一度頭を下げると、女の子を抱き上げて走り出す。
その背中を見届け、俺は交差点へ振り返った。
さっきまで二人がいた場所には、黒々とした穴が開いている。
あんなものを、何の躊躇もなく人へ向けやがったのか。
「……朝っぱらから、とんでもない奴に出くわしたな」
軽口をこぼしながらも、視線は奴から外さない。
紫の異形は、こちらを見ていた。
逃した獲物を追うように、ゆっくりと首を傾ける。
「人間の分際で、私の邪魔をするか」
随分と偉そうな物言いだ。
だが、言い返す前にやることがある。
俺は額に大空の炎を灯すと、周辺へ意識を広げた。
建物の中には、まだ人がいる。
窓を開けて様子を見ようとしている者もいた。
ここで好き勝手に暴れられれば、被害が出る。
「ヒッツ、封時結界だ。あいつを入れるぞ」
内側から、相棒の応答が返ってくる。
俺自身も魔力を練り上げ、術式を組み上げた。
奴が再び光球を作り始める。
それが放たれるより先に、結界を展開した。
周囲の空気が切り替わる。
遠くから聞こえていた車の走行音も、人の声も消えた。
「……何をした?」
異形が周囲を見回す。
俺は建物の窓へ視線を走らせ、人々が戦闘へ巻き込まれないことを確かめてから答えた。
「場所を借りただけだ。お前が人に向けて撃つからな」
「小細工を」
「いきなり撃ってきた奴に言われたくないね」
言いながら、フルドライブを起動する。
身体を巡る魔力が安定し、黒いジャケットが肩を覆った。
真・スピリットフォーム。
知らない相手だ。
不用意に近づくつもりはない。
「それで? お前、何者だ。何であの二人を襲った?」
「あの二人?」
奴は、質問の意味が分からないとでも言いたげに眉を寄せた。
「ああ。さっき、お前が撃とうとした親子だよ」
「人間を根絶やしにするのに、区別など必要か?」
……なるほど。
最初から、そういう話か。
奴は胸を反らし、両腕を広げた。
「私はワクチンマン! 環境汚染を繰り返す人間どもを滅ぼすため、地球の意志によって生まれたのだ!」
ワクチンマン。
その名前と、紫色の姿が頭の中で結びつく。
……おい。
ちょっと待て。
この顔に、この声。
どう見ても、あのバイキンの親戚みたいな奴。
まさか、ここって。
「人類こそが、地球を蝕む病原菌! 私は地球の使徒として、貴様らを排除する!」
『ワンパンマン』の世界かよ!?
いや、見覚えがあるとは思ったけど!
もっとこう、買い物袋を持ったハゲ頭の人とか、そういう出会い方は出来なかったのか!?
よりによって、最初にこいつとは。
「……で、その地球はお前に、子供へ撃てって言ったのか?」
「何?」
「俺には、お前が勝手に暴れてるようにしか見えないんだけどな」
奴の顔が歪む。
俺は両足を開き、拳を構えた。
こいつの力がどれほどかは、まだ分からない。
覚えているのは、あの人に一発で吹き飛ばされた姿くらいだ。
……全く参考にならんな。
あの人を基準にしたら、大抵の奴が一発で終わる。
「地球の意志を理解できぬ愚か者め!」
ワクチンマンの身体が膨れ上がった。
肩が盛り上がり、腕が太くなる。
皮膚を内側から押し広げるように、全身の筋肉が膨張していく。
道路へ落ちる影が、俺の足元まで伸びた。
「おいおい……」
見上げる。
二メートルほどだった身体は、ビルに迫る巨体へ変わっていた。
裂けたような口から牙が覗き、太い指が握り込まれる。
その拳だけでも、車一台くらいはありそうだ。
「これが! 人類を滅ぼすために与えられた力だ!」
声が腹の底に響く。
なるほど。
さっき人へ向けた光球といい、見た目だけのハッタリではなさそうだ。
俺は掌から炎を噴射し、地面を離れた。
上へ。
奴の腕が届く範囲を避けながら、視線を合わせられる高さまで上昇する。
ワクチンマンの目が、俺を追って動く。
この大きさになっても、空中の相手を見失うほど鈍くはないらしい。
「逃げても無駄だぞ、小僧!」
「逃げるなら、わざわざお前を連れてこないって」
肩の力を抜く。
眼下にいるのは、こちらの話を聞く気もなく、人を殺そうとした怪物だ。
だったら、やることは決まっている。
「悪いけど、お前の好きにはさせないぞ」
俺は空中で姿勢を整え、奴へ片手を向けた。
まずは、どれくらいの攻撃が通るのか。
そこから確かめるとしよう。
書き直しました。
では、また∠( ゚д゚)