続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
空間モニターを展開すると、相棒が俺の隣へ座った。
ナハトは膝の上によじ登り、当然のように丸くなる。
「おっと。そこがいいのか?」
「きゅ〜」
その背中を撫でながら、俺は周囲を見渡した。
遠くから車の走る音が聞こえてくる。さっきまで響いていた轟音が嘘みたいに、屋上は静かだった。
もっとも、何もかも元通りという訳じゃない。
ワクチンマンが最初に攻撃した場所には、結界を張る前の被害が残っている。助けた親子の姿は、ここからでは見えなかった。
無事に避難できているといいんだが。
「相棒。まずは、あいつの反応が残ってないか確認しよう」
「ガゥ」
自分でも意識を集中し、周囲を探る。
身体を吹き飛ばされても生きていた奴だ。核の欠片でも残っていたら、笑い話では済まない。
だが、それらしい反応は見つからなかった。
超直感も静かなままで、相棒からも同じ結果が返ってくる。
「……よし。今度こそ倒せたみたいだな」
拳を握って開く。先程、光球を弾いた手も普通に動いた。
ひとまず身体の方は問題なし。次は、俺たちがいる場所についてだ。
モニターに周辺の情報を映し、地名から確認していく。
A市、B市。それから、怪人の出現を伝えるニュースと避難情報。
一つや二つではない。過去の記事にも、怪人による被害と、それに対処したヒーローの名前が並んでいた。
「ヒーロー協会、か」
呟きながら、記事を開く。
活動するヒーローを支え、怪人の情報や避難勧告も発信しているらしい。
……ワクチンマンだけが、特別な存在という訳じゃないんだよな。
あいつ一体でも、あれだけの被害を出せる。
そういう連中が各地に現れるのだから、対処する側も大変だろう。
気になる記事を保存してから、俺は相棒へ顔を向けた。
「さて。こっちのことも調べたいけど、その前に俺たちだ。来る直前、何か変わったことはあったか?」
相棒から返ってきた思念を、自分の記憶と照らし合わせる。
扉を開いた覚えはない。移動を頼んでもいないし、何かに触れた覚えもなかった。
「俺もだ。気づいたら、あの屋上にいたんだよな」
相棒が尻尾を揺らす。
こちらへ来た理由については、相棒にも心当たりがないらしい。
誰かに呼ばれたのか。それとも、何かに巻き込まれたのか。
考えてはみるが、今のところ確かめる材料がなかった。
「……分からないものは、一旦置いとくか。それより、帰れるかどうかだ」
来た方法が分からなくても、いつもの移動まで使えなくなったとは限らない。
俺はナハトを抱えて立ち上がり、屋上の出入り口へ向かった。
「相棒。家へ繋げられるか?」
「ガゥ!」
頼もしい返事を聞き、ノブへ手をかける。
相棒と呼吸を合わせてから、ゆっくりと扉を開いた。
見えたのは、見慣れた家の中だった。
床も壁も、ちゃんと知っているものだ。向こうからは、食べ物のいい匂いまで漂ってくる。
「……帰れるじゃん」
思わず、肩の力が抜けた。
いや、本当によかった。知らない世界で立ち往生するかもしれないと思うと、さすがに落ち着かなかったからな。
相棒とこちら側の場所を確認してから、扉をくぐる。
「ただいまー」
*
「突然、知らない世界へ移動していたんですか?」
「うん。それで、人を襲ってる奴を見つけたから、先にそっちを何とかしてきた」
「……まず、怪我を見せてください」
事情を聞いたリニスは、椅子へ座った俺の前に立つと、差し出した手を取った。
「大丈夫だって。ちょっと殴り合いにはなったけど、ちゃんと動くし」
「それを確認するんです」
「はい」
そこは素直に従った。
相棒も横から戦闘の記録を伝えている。ナハトは俺の足元へ移り、尻尾を動かしていた。
腕から肩へと確かめていくリニスを見ながら、ようやく息をつく。
帰ってきたんだな、と、今更ながら実感した。
「びっくりしたよ。いきなり知らない場所だし、最初に会ったのが、人間を滅ぼすとか言ってる奴だし」
「それは、落ち着く暇もありませんでしたね」
「だろ? せめて先に、ここはどこですかって聞ける相手がよかった」
「その場にいた人たちは、あなたが来てくれて助かったでしょうけれど」
そう言ってから、リニスは俺の手を離した。
「大きな怪我はありませんね。痛むところは?」
「今はない。あっちでも動かして確かめたよ」
「分かりました。何かあれば、すぐに言ってください」
「了解」
頷いたところで、腹が鳴った。
……結構、はっきりと。
リニスの視線が下がる。相棒まで俺の腹を見た。
「朝から働いたからな」
「朝食にしましょう。続きは食べながら聞きます」
「お願いします」
温かい食事を前にすると、気分も随分違ってくる。
俺は手を合わせてから、調べてきたことを話し始めた。
怪人と呼ばれる連中が現れること。それと戦うヒーローがいること。
協会という組織が、その情報をまとめていること。
「転移の前後の記録、リニスにも見てもらえる? 俺と相棒だけじゃ、気づいてないことがあるかもしれない」
「もちろんです。あとで一緒に確認しましょう」
「助かる」
箸を進めながら、次にどうするかを考える。
帰る手段は使えた。だったら、向こうで寝床探しから始める必要はない。家を拠点にして、行き来すればいいだろう。
「食べ終わったら、もう一度街を見てくるよ。ニュースだけじゃ分からないこともあるし、あの親子のことも気になる」
「私も一緒に行きましょうか?」
「今日は相棒と歩いてみる。戻ったら話すから、気になったことがあったら教えてくれ」
「分かりました。予定が変わったら連絡してくださいね」
「うん。通信も確かめてから行くよ」
そう答えてから、空になった茶碗を持ち上げる。
「その前に、おかわりある?」
「ありますよ」
リニスが笑って茶碗を受け取る。
その横で、相棒も自分の皿を前へ押し出した。
……お前もか、相棒。
*
「通信、聞こえる?」
『はい。問題ありません』
「こっちも大丈夫。それじゃ、少し街を見てくるよ」
『気をつけて。何か分かったら教えてくださいね』
リニスとの通信を終え、モニターを閉じる。
再びやって来た屋上には、朝よりも暖かい風が吹いていた。
今回は、自分で扉を通って来た。
往復も通信もできると分かって、気持ちに余裕が出てくる。
ナハトは家で留守番だ。俺は足元の相棒を抱き上げると、人目につかない場所へ降りた。
地上には、思っていたよりも普通の街並みが広がっていた。
信号を待つ人。店の前を掃除する店員。子供を連れた母親。
怪人のニュースを続けて見たせいか、もっと殺伐とした光景を想像していたのかもしれない。
だが、ここで暮らす人たちには、仕事も学校も買い物もあるんだよな。
「ガウ?」
「いや。実際に歩いてみないと、分からないもんだなって」
相棒へ答え、案内板の前で足を止める。
大通りと駅の位置を見比べていると、端の方に避難場所の表示を見つけた。
「相棒、ここの道順を記録しておいてくれ。俺も歩いて覚える」
「ガゥ」
地図上では近くても、道が狭かったり、途中に階段があったりするかもしれない。
人を逃がす時に迷わないよう、周りの様子も見ながら進んでいく。
やがて商店の並ぶ通りへ入ると、揚げ物の匂いが漂ってきた。
続いて、焼き立てのパン。それからカレー。
「……いい匂いだな」
腕の中の相棒が、こちらを見る。
「分かってる。さっき朝飯食べたばっかりだって」
「ガウ」
「値段も見てるんだよ。物価の確認」
言いながら、店先のメニューへ目を向けた。
料理の名前には馴染みがある。食べる物で困ることは、あまりなさそうだ。
ただ、こちらで使える金はまだ用意していない。
数字の表記が似ているからといって、財布の中身がそのまま通用するとは限らなかった。
「そのうち、買い物もできるようにしたいな」
相棒も店へ顔を向ける。
お前、さっきから俺を見てた割には、結構気になってるだろ。
笑いながら歩き出したところで、家電店のテレビが目に入った。
ニュースに映っている交差点には、見覚えがある。
朝、あの親子を助けた場所だ。
俺は通行人の邪魔にならない位置へ寄った。
画面の中では立ち入りが規制され、道路の被害や、目撃された怪人について伝えている。
だが、その後どうなったのかは、はっきりしていないらしかった。
……そりゃそうか。
俺とワクチンマンの戦闘は結界の中だ。外にいる人からすれば、途中から姿を消したようなものだろう。
近くで画面を見ていた男性が、眉を寄せる。
「結局、どこに行ったんだ?」
「まだ近くにいるんじゃないでしょうね」
隣の女性が、買い物袋を持ち直した。
二人はしばらくニュースを見ていたが、やがて不安そうな顔のまま歩き出す。
その背中を見送り、俺は相棒へ視線を落とした。
「……倒したって、知らせてないもんな」
「ガゥ」
現場には、これから被害を調べる人も入るだろう。
怪人が残っているかもしれないとなれば、そちらへの警戒も必要になる。
俺には戦闘の記録がある。
何も伝えないまま帰るより、それを持って話しに行った方がいい。
*
近くの公園へ移り、ベンチに腰を下ろした。
隣へ相棒を下ろしてから、手元に小さくモニターを開く。
調べるのは、ヒーロー協会の連絡先と窓口だ。
案内を見ていくうちに、認定試験という項目も目に入った。
「体力試験と、筆記試験か」
協会に登録するには、試験を受けるらしい。
さらにページを進めると、活動しているヒーローの紹介が出てきた。
C級、B級、A級、S級。
それぞれに順位がついていて、顔ぶれも装備も様々だ。
「これだけ色々いるなら、俺の格好もそんなに目立たないか?」
相棒が俺を見上げ、頭から足まで眺める。
「今、何を確認した?」
「ガウ」
……まあ、いいか。
街を歩いていても服装で騒がれることはなかったし、相棒を見て足を止める人の方が多かったからな。
俺は案内のページへ戻った。
こちらで活動するのなら、協会との繋がりはあった方がよさそうだ。怪人の情報を受け取れるし、助けた人を引き継ぐ時にも話が早い。
ただ、登録には何が必要なのか。
住所や連絡先をどうするかも、窓口で聞いてみよう。
「相棒。朝の戦闘記録、説明する時に見せられるようにしておいてくれ」
「ガゥ!」
元気よく返事をした相棒を抱き上げ、ベンチから立つ。
そのままリニスへ通信を繋いだ。
『何かありましたか?』
「朝の怪人、まだ行方が分からない扱いになってるみたいなんだ。協会の窓口が見つかったから、倒したことを報告してくる」
『そうでしたか。戦闘の記録を持っていくんですね』
「うん。ついでに、登録のことも聞いてみる。少し長くなるかもしれない」
『分かりました。こちらも記録を確認しておきます』
「ありがとう。じゃあ、また後で」
通信を終え、調べた道順へ目を通す。
いきなりこちらへ来た理由は、まだ分からない。だが、帰る場所はあるし、相談する相手もいる。
だったら、今できることから始めればいい。
「行こうか、相棒」
「ガゥ」
歩き出すと、来る時に見つけた定食屋の前を通った。
店先には、新しく日替わりの看板が出ている。
……唐揚げ定食か。
腕の中から、前脚でぽんと叩かれた。
「分かってるって。まずは報告だろ?」
そう返して、俺は協会の窓口へ向かった。
つぎも投稿しやす。