大空の炎の力を操る転生者   作:Gussan0

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どうも。

最近、多数の方から『なのはをバカにするな』『エイミィはそんな無能じゃない』『なのはの作品をけがすな』などの意見をいただきます。

ここで少し弁明をさせてください。

筆者的になのはの作品をバカにしたり、ある一定のキャラをけなしているつもりは全くありません。むしろ大好きな作品の一つです。嫌いなキャラもいません。

ですが僕が主に書く内容が原因で不快な思いをされる方が多数いるのも事実です。

今後はそういった意見がでないように最新の注意を払って書いていこうと思っています。

なのでこの作品をやめるつもりは毛頭ありません。

前書きで長文失礼しました。

では、どうぞ( *・ω・)ノ


第百六十四話 心の花を守る伝説の戦士XXXVI

ヒエンside

 

 

 

俺は久遠を膝に乗せながら紅茶を飲む。

 

久遠は小狐モードに戻り、俺の頭の上でくつろいでいた。だが毎度思う。微妙にこの姿勢ってしんどいんだよね。

 

だって首を動かすと上にいる久遠がずり落ちてくるんだもの。そうして俺が首を動かすのに地味に四苦八苦していると……

 

 

「ヒエンさん話を聞かせてください」

 

 

つぼみ達がやってきた。

 

 

「聞けそうか?」

 

 

「はい。どんな話だろうと私達はしっかりと受け止めます」

 

 

しっかり話し合ったのか他の面子も全員覚悟の灯ったような良い目をしていた。

 

 

「少し長くなるぞ?」

 

 

そうして俺は空中キーボードを展開し操作する。そしてモニターにある映像を映し出した。

 

そこには小さな小狐が映っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「久遠にはある能力が備わっている。それが夢移しだ」

 

 

「夢移し?」

 

 

つぼみが聞いてくる。

 

 

「ああ、久遠は自分の見た夢を他人に見せることができる。それで俺は久遠の過去を知った。それを今から皆に見せる」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

映像が映る。

 

 

モニターには一匹の小さなコギツネが映っていた。群れで生まれた一匹のコギツネは母ギツネと父ギツネによって大切に育てられていた。

 

そしておよそ半年後……コギツネ達は少しずつ大きくなり、育った野山を一匹また一匹と巣だっていった。

 

しかし小さなコギツネ一匹だけがまだ残っていた。その子は群れで唯一の女の子であり、一際小さかった。

 

母ギツネと父ギツネもコギツネが心配でまだ旅立たずに残っていた。

 

だが親達も次回の繁殖期があるためまた旅に出なければならない。

 

やがて夫婦は心を鬼にして去っていく。

 

母ギツネは心配であるのか何度もコギツネの方を振り返る。だが母ギツネの背中もついに見えなくなった。

 

 

『………くぅ』

 

 

残された一匹のコギツネも野山を去っていく。その背中はどこか寂しそうであった。

 

 

「この小さな狐が久遠だ」

 

 

「か、かわいい……けど……」

 

 

「なんだか寂しそうでしゅ……」

 

 

いつきとポプリが悲しそうに話す。

 

 

映像が切り替わる。

 

 

それから数年経ち、ある小さな神社で一匹の小さなキツネが餌を求めて現れる。

 

社務所の中では、神様にまつっている果物が幾つか置いてあった。小さなキツネはその果物をムシャムシャと食べ始める。

 

するとそこにホウキを持った15,16歳ほどの巫女服の少女が現れる。

 

 

『あー!このキツネー!だめでしょ!それは神様へのお供え物なんだから!!』

 

 

巫女はホウキをもって社務所の中へと駆けてくる。それに気付いたキツネは一目散に逃げさり、外へと出ていった。

 

その日の夜、巫女が社務所で晩御飯の用意をしているとき、ふと目を離すといつの間に忍び込んだのか昼間いたキツネが彼女の晩御飯の焼き魚を食べようとしていた。

 

 

『それ、私の魚ー!!』

 

 

巫女は咄嗟にもっていた箸をキツネに突きつける。するとキツネは怯えてフルフルと震えてしまう。

 

 

『うっ…』

 

 

彼女は怯えるキツネの姿を見ると罪悪感が芽生えてしまったのか、渋々魚を分けてあげることにした。

 

 

『あなたも食べる?』

 

 

巫女は焼き魚を少し分けると、キツネへと差し出す。するとキツネは少し警戒しながらも焼き魚をバクバクと美味しそうに食べ始めた。

 

 

『ふふっ…』

 

 

美味しそうに食べるその姿に巫女も自然と笑顔になった。

 

 

「この子は【みつ】といってこの神社の巫女をしている」

 

 

「みつさんですか。久遠ちゃんに少し似ているような……」

 

 

「はぁー……綺麗な人だねー」

 

 

つぼみとえりかが感心したような声を出す。

 

 

「久遠とみつは、ここから少しずつ仲良くなっていくんだ」

 

 

俺は続きを見せる。

 

次の日からキツネこと久遠はよく神社に顔を出すようになり、みつもごはんをあげるようになった。

 

みつはよく遊びに来る久遠に話しかけるようになる。

 

そんなみつには夢があった。

 

 

『キツネ……私、お嫁に行くのが夢なんだ…』

 

 

この神社の近所に住む源吉(げんきち)という青年のお嫁にいくのが夢であり、彼女は顔を赤くさせながらその事を久遠に話していた。

 

久遠も尻尾をパタパタと振り、嬉しそうに話を聞いていた。

 

 

「お、お嫁さん……素敵な夢です!!」

 

 

「つぼみ……どうどう」

 

 

荒ぶるつぼみをえりかが抑える。

 

そして月日は流れある日のこと…

 

みつが住んでいる神社の付近では嵐が来ていた。

 

近くに小さな村があったのだが嵐による影響で作物が全く取れなくなっていた。さらに土砂崩れまで起きたことで村人達が【神の怒りだ】と嵐を恐れていた。

 

 

「ちなみに言っとくとこの時代は約400年前になる。だいたい江戸時代初期か」

 

 

「貴方……そんな重要なことをさらっと言わないでちょうだい」

 

 

「いや、でも俺の世界の時代のことだし」

 

 

「そちらの方がレアじゃないの」

 

 

月影が呆れたように言ってくるがスルーする。

 

そして久遠も社務所の中で嵐が過ぎるのを待っていた。

 

するとそこに落ち込んだような表情をしたみつがやってくる。久遠はみつに心配そうに歩み寄る。

 

 

『くぅん…』

 

 

『うん?あ、ごめんね』

 

 

みつは久遠を優しく撫でる。

 

だがその表情は落ち込んでいた。

 

そしてみつが小さな声で話し始めた。

 

 

『キツネ……私ね?お嫁に……いきたかったんだぁ。だからキツネ……私の代わりに……』

 

 

『……くぅ?』

 

 

そこから先の言葉は聞こえなかった。

 

 

『ううん。ごめんねキツネ……』

 

 

『くぅ』

 

 

みつは泣いているのかその目を赤くさせていた。すると社務所に白い服を着た男性……神主がやってくる。

 

 

『みつ……』

 

 

『大丈夫です…じゃあまたねキツネ……』

 

 

『くぅー』

 

 

そしてみつは嵐が降る中……外へと出ていった。

 

翌日……

嵐は過ぎ去ったのか、外の天気はすっかりと晴れていた。

 

 

「みつさん……泣いてました」

 

 

「悲しそうだったですぅ」

 

 

つぼみとシプレが話す。

 

唯一彼女の事情を知る俺は複雑な表情で画面を見ていた。

 

 

「くぅ……」

 

 

すると俺の頭の上にいた久遠が俺の膝の上に降りてくる。俺は優しく久遠の頭を撫でる。

 

ここで彼女のことを言うのは簡単だが、話し終わってからの方がいいだろう。

 

 

映像が切り替わる。

 

 

久遠はあの嵐の日から見なくなったみつを探し求めて旅をしていた。

 

そんなある日、久遠は突然人型の少女に変化できるようになった。その少女は記憶にある巫女、みつの姿にとても似ていた。

 

 

「あ、久遠だ」

 

 

「ほんとですね」

 

 

えりかとつぼみが微笑ましそうに見ていた。

 

 

「あの嵐の日から20年経っている。その期間で久遠はコギツネから妖狐と呼ばれる存在になっているんだ」

 

 

久遠は変化出来たことがとても嬉しかったのか、野山を走り回っていた。

 

 

『くぅー!?』

 

 

だが調子に乗って走り回り過ぎたのか、勢いよく転んでしまう。そこで足をケガしてしまい動けなくなってしまった。

 

そこに……

 

 

『大丈夫?』

 

 

ある少年が久遠に声をかける。

 

 

「この子は弥太(やた)っていって売薬商(ばいやくしょう)っていう薬を売る仕事をしている少年だ」

 

 

弥太は久遠のケガの治療を行う。治療の甲斐あって久遠はすぐに動けるようになった。

 

 

『くぅ~』

 

 

『ははは。君は動物みたいだねぇ』

 

 

それから弥太と久遠は毎日会うこととなる。

 

弥太は薬を売りながら久遠に会い続けた。弥太は一人暮らしをしていたが危なっかしい久遠のことが放っておけなかったのだ。

 

そして久遠も弥太と触れ合い、その純粋な笑顔を向けられ段々と暖かな気持ちに包まれていった。

 

いつしか二人は会うのが楽しみとなっていた。

 

ある時、弥太は久遠に根気よく文字と言葉を教えていた。その甲斐あって久遠は、文字を理解し、言葉も話せるようになっていた。

 

 

「天才なのね彼。江戸時代に文字の読み書きができる人は少ないと聞いたことがあるわ」

 

 

「この子は若い身でありながら一人暮らしで薬を売って生計を立てていたからな。だから計算もできる。俗にいう神童ってやつだな」

 

 

月影の評価に俺は補足を入れる。

 

 

『久遠……君の名前は久遠(くおん)だ』

 

 

『く……お……ん?』

 

 

久遠は首を傾げる。

 

 

『そう。()()()()()へ。いつまでもいつまでも優しい君のままでいてほしいっていう願いを込めて考えたんだけど……どうかな?』

 

 

『くぅ……。うれしい。ありがとうやた』

 

 

そして久遠は弥太から名前をもらっていた。

 

 

「久遠ちゃんの名前は弥太さんがあげたんですね。それにしても……いい雰囲気です~」

 

 

「「ラブラブですぅ~」」

 

 

つぼみとシプレ&コフレが嬉しそうにモニターを見る。

 

それから二人は楽しい日々を過ごした。一緒に甘酒を飲み、一緒にごはんを食べた。遠くの山へ二人で薬草を積みに行ったり、川へ二人で釣りにも行った。

 

久遠は弥太と一緒に居るのが好きだった。弥太も久遠と一緒に居るのが好きだった。

 

しかしその幸福は……長くは続かなかった。

 

ある日、弥太の住む村では流行り病が蔓延(まんえん)した。その影響で倒れる者も多く出る。

 

そして流行り病によって村人が倒れていく中、薬師である弥太も懸命に村中を駆け回り、なんとかしようとする。

 

だが彼の売る薬では流行り病を治すことはできなかった。

 

そして薬師である影響か毒に耐性がある弥太を除いて、ほぼ全ての村人が病に冒されてしまった。

 

パニックに陥った残りの村人達はその村の神社の神主に助けを求める。

 

村人は【これはきっと神様のお怒りに違いない】と震えていたのだ。

 

そしてしばらくして…命を落とす村人まで出てきてしまった……。

 

弥太も諦めずに薬を売るが病は治らなかった。

 

そして遂に村人達の頼みの綱であった神社の神主も病に侵されてしまう。

 

周囲が絶望に落とされる中、神主は病に侵されていない売薬商の少年の弥太を見て一つの神託を告げる。

 

 

 

【その少年を神に捧げる供物とせよ…。それこそがこの村を救う唯一の手段である】と……。

 

 

 

神主の神託と、未だに病に掛かっていない弥太に対し村人たちは疑心暗鬼に陥っていた事もあり、弥太こそがこの流行り病を広めた元凶と下してしまった。

 

そして村人達の弥太を捕まえる山狩りが始まってしまった。

 

弥太はなんとか村人達から久遠のいる山へと逃げ出すことに成功する。

 

だが村人総出の山狩りによって徐々に弥太は追い詰められてしまう。何とか久遠と合流し、遠くへ逃げようとするが身体が()()()()()()に気付いてしまった。

 

そして察した。

 

自分も病気に掛かっていることに……。

 

そして弥太は決意する。

 

久遠だけでも逃がそうと。

 

 

『ごめん久遠。ここでお別れだ。僕は村に戻る。だから君だけでも逃げるんだ』

 

 

『くぅ……。やた、むらにもどるの?』

 

 

『うん。でももう…帰ってはこない。だから君とはここでお別れだ』

 

 

『どうしてそんなこというの?くおん……やたとはなれたくない。いっしょににげよう?』

 

 

『…僕は君とは一緒には行けない。僕と一緒にいると君まで危険な目に合ってしまう……』

 

 

弥太は危惧していた。

 

久遠が一緒にいれば……

間違いなく神に捧げる供物として一緒に殺されてしまうということに。

 

弥太は久遠に生きていてほしかった。

 

ずっと一緒にいようと誓った大切な人だから。

 

 

『やた…いっしょじゃないとやだ……くおんも…ここに…のこる』

 

 

『ごめん久遠。僕は君に生きていてほしい。僕と一緒にいれば君まで殺されてしまう。だから…ごめん…久遠』

 

 

『やた……』

 

 

久遠は瞳に涙を溜めながら弥太を見上げる。

 

 

『久遠……僕は君の亭主にはなれなかったね。でも…できればだよ?君はその名前の様に…いつまでもいつまでも……僕の好きな君でいて。そして、僕の分まで幸せに…。約束だよ?久遠』

 

 

『やた……やたあぁぁぁ!!!』

 

 

弥太は久遠を抱きしめる。

 

久遠も泣きながら弥太を抱きしめ返し……二人はしばらく抱きしめ合ったのだった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

プリキュア四人は急な展開に茫然としていた。

 

あらかじめこういう反応になることは分かっていた俺としても、なんと言っていいか分からなかった。

 

とりあえず続きを流す。

 

そして弥太は村へと戻っていった。

 

しばらくして……久遠は村に戻った弥太のことが気になり、村へと戻ってしまう。

 

そして彼女は見てしまった。

 

 

 

弥太の変わり果ててしまった姿に……。

 

 

 

だが俺はその部分だけは……弥太の変わり果ててしまった姿だけは……この子達に……プリキュアの皆に……どうしても見せることができなかった。見せられなかった。

 

見せたら確実に……トラウマになってもおかしくないほどの姿だったからだ。

 

 

『うあ……や……た……』

 

 

久遠は泣きながら座り込む。

 

そして神主と思わしき白い服を着た男が村の中央で叫ぶ。

 

 

『この供物によって、死の病は取り除かれる!』

 

 

周りでは村人達が集まり、一心不乱に祈り続ける。

 

 

『これで皆は救われる!!』

 

 

神主は狂気を帯びたような表情で叫び、村人達も祈り続ける。

 

そして久遠は……

 

 

『あ…ああああああ!!!!』

 

 

雄叫びを上げていた。

 

 

 

「あああああぁァァッアアア!!!!」

 

 

 

少女は顔を挙げ……天に向け力一杯吠えた。

 

そして……遥か天空から……一筋の雷が迸り村へと落ちる……。

 

 

 

ドオォォンン!!!!!!

 

 

 

そしてそれをきっかけに……幾つもの激しい雷が村へと降り注いだ。

 

突然のことに村人達や神主は逃げ惑う。

 

やがて久遠は…身体から黒い塊を放出し始めた。

 

それは(たた)りとよばれるモノであった。

 

久遠の目には憎しみや憎悪といったドス黒い感情が見てとれた。

 

 

数分後……

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

村があったと思われる場所は抉れ、焼け野原となり……草木が生えぬ死の大地となっていた。

 

後に……白い服を着ていた男達……神主と呼ばれる神職に激しい怨念を抱くようになった久遠は理性を失う。

 

そして全国の神社仏閣を雷撃で無差別に破壊して回るようになった。

 

やがて全国に全てを燃やし全てを破壊する化け狐がいるという噂が流れ…

 

久遠は人々から【(たた)(ぎつね)】と呼ばれ、恐れられることになる。

 

しかし退魔師という霊力を用いて戦う者達が久遠の前に現れたことにより、戦いを挑まれ……

 

そして多くの犠牲を払うことで久遠は封印されることになった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「こうして祟り狐として覚醒してしまった久遠は封印された」

 

 

俺は一度言葉を終わらせる。

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

全員言葉が出てこないようだ。

 

月影、薫子さん、コロンは苦い顔をしていた。それ以外の面子は目に涙を溜めていた、いや泣いていた。

 

俺は久遠をチラリと見る。

久遠は眠くなったのか俺の膝の上で眠っている。

 

映像が切り替わる。

 

 

「祟り狐が封印されてから……約三百年の時が流れた」

 

 

画面にはのどかな神社が映っていた。

 

 

「だが三百年という膨大な時間が流れたからか……封印は徐々に弱まっていた。そんなある日、祟り狐の封印が遂に解けてしまった」

 

 

モニターに映っている神社が突如爆発を起こす。

 

 

『あああああぁァァッアアア!!!!』

 

 

そして封印から解けた祟り狐が雷の力を用いて、神社仏閣の破壊をし始めた。

 

だが長期間封印されていた影響か、または封印が解けた直後という事もあって……彼女にかつての圧倒的な破壊力は無かった。

 

そして現代に残る退魔師の一族…神咲家の者達は…主力メンバーで再度封印に挑む。

 

その結果…

 

祟り狐の力を再び封印することに成功した。

 

だが被害は最小限に収まったが……数人の犠牲者が出てしまった。

 

神咲真鳴流(かんざきしんめいりゅう)】の伝承者神咲(かんざき)亜弓(あゆみ)という女性が命を落とし……

 

神咲薫の先代の【神咲一灯流(かんざきいっとうりゅう)】伝承者の和音(かずね)も引退に追い込まれてしまった。

 

まだ学生であった薫が隙を見つけてかけた封印術により…かろうじて小狐形態に抑える事に成功したのだ。

 

だが……一般家庭の犠牲者が出てしまった。

 

それは……普通の家族であった。

 

小さな神社の()()を務めていた……普通の家族だった。

 

亡くなったのはその家の夫婦だった。

 

両親が死んでしまい、俯き悲しむ少女。

 

そんな少女に神咲家の当主が話し始める。

 

 

『あんたの両親ば殺したんは……祟り狐と呼ばれちょる。その昔、諸国を荒らしまわり、神社仏閣を破壊し回った化け狐じゃ』

 

 

『ばけぎつね?』

 

 

『今は力封じて小狐に戻っとる……薫が……ウチの孫がどうにか封印した。ウチも力使いすぎて……もう引退じゃが……あの祟り狐も……今は力失って…ただの狐じゃ。今なら……()()()()()()。あんたの…両親の仇ば討ちたいなら討てばよか。両親殺されたあんたとその弟にはその権利があると。あの狐をどうするかは……あんた達が決め』

 

 

小狐を生かすのも殺すのも自分達の自由……その選択を問われた幼い少女…那美は考える。

 

その問いを受けてから数日後……那美は一匹の小狐の過去を夢で見る。

 

そして……小狐の悲しき過去を知った那美は前にいる狐に話しかけた。

 

 

『何年か経ったらあなたの封印…また解けちゃうんだって。だからわたし……おばーちゃんと約束したの……』

 

 

両親を殺された少女は…()()()()()()()()()()小狐に静かに話す。

 

 

『あなたを優しい子に育てるって』

 

 

少女が出した答えは復讐ではなく……小狐と共に歩み、その優しい心を取り戻すことだった。

 

 

『あなたも辛かったんだよね?大切な人を殺されて……人間に絶望して……。祟り狐なんて呼んじゃってごめんね?あなたには…弥太(やた)君がくれた…大切な名前があるんだよね?』

 

 

それは遠い昔……

 

売薬商(ばいやくしょう)の優しい少年が狐の少女に与えた名前。少年以外に……数百年呼ばれていなかった彼女の名前……

 

 

()しく…()くへ。たとえ離れていても……優しいあなたがずっと幸せでいられる様に…そう願って名付けられた名前…』

 

 

少女はその名前を…

 

 

久遠(くおん)

 

 

呼んだ。

 

数百年ぶりに呼ばれたその名前に小狐は反応する。そして少女は小狐を優しく抱き…

 

 

『私は…那美(なみ)

 

 

自身の名を告げた。

 

 

『お互いに……悲しい事や……辛い事いっぱいあったけど……友達に……なれるよね?久遠?』

 

 

少女は瞳に涙を溜めながら久遠に優しく笑いかけた。その様子を見た久遠も変化し、話し始めた。

 

 

『な……み……?』

 

 

『うん』

 

 

『くおんと……なみ……ともだち?』

 

 

『うん。友達だよ久遠』

 

 

『くおんも……なみと……ともだちになりたい』

 

 

ここで映像は一端終わる。

 

 

「この少女、那美さんは俺より一つ年上の先輩なんだが、幼少期に祟り狐として復活した久遠に両親を殺されたんだ。那美さんの両親は小さな神社の神主をしていた……ただの一般人だったんだ」

 

 

俺はさらに説明する。

 

 

「当初は両親を殺された久遠に憎しみを抱いていた那美さんだったけど……彼女は久遠の夢移しの能力で、久遠の過去を知った後、決めたんだ。『この子を元の優しい子に育てよう。友達になろう』って」

 

 

そして俺はさざなみ寮での那美さんと久遠の生活風景を見せる。

 

 

「そして二人は友として……家族として……今まで二人三脚で頑張ってきたんだ。那美さんは、もう自分のような悲しい人を出さないために退魔師になることを選び、久遠もそんな那美さんを支えるために一緒に歩むことを決めた。そんな二人に……俺はかつて助けられた。だが平穏に日常を謳歌していたある日、遂に恐れていたことが起こった」

 

 

そして俺は久遠が祟り狐として復活した日の戦いのことを話した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「那美さんの姉である薫さんの様子が日に日におかしくなっていったんだ。俺もこの人にはいつもお世話になっていたから、その変化には気付いてた」

 

 

俺は話を続ける。

 

 

「ある日、久遠の夢移しの能力で二人の過去を知った俺は那美さんに話を聞くために彼女がバイトをしている神社に話を聞きに行ったんだ。

 

那美さんも久遠の過去はある程度調べていたみたいで色々教えてくれた。そして帰ろうとしたとき、薫さんとすれ違った。だがその様子は明らかにおかしかった。まるで何かに(こら)えるような表情をしていたからだ。

 

そして心配になった俺は使い魔を薫さん達の側に置いて一旦、家に帰った」

 

 

そしてあの日の映像を見せながら話した。

 

 

「しばらくして使い魔から報告があった。薫さんが動き出したと。そして俺は急いで神社へと向かった。そのときに俺が見たのはグッタリしている久遠に刀を向ける薫さんの姿だった。それを見た俺はすぐにその間に割り込んだ」

 

 

 

ガキン!!!!!!!

 

 

 

画面の俺は間一髪…久遠に振り下ろされようとしていた刀を割り込んで止めることに成功していた。

 

目の前の薫さんは、驚いたように目を見開いた。

 

 

『薫さん……事情は分かりますが久遠に刀を向けるのはあまり……関心できませんね!』

 

 

そして力を込めて刀を押し返した。

 

薫さんは大きく跳躍して後ろへと下がる。

 

薄い赤色のオーラを身体に纏っているのか身体能力が飛躍的に向上していた。

 

 

 

ヒュン!!

 

 

 

ガキン!!!!!!

 

 

 

そして再び薫さんが俺に斬りかかる。

 

それを十字受けで受け止め、再度弾き飛ばす。画面の俺は薫さんの刀の間合いを見切り、かわしている。

 

薫さんは攻撃をしながら大きな声で言った。

 

 

『君がなぜ邪魔をしにきたのかも……分かってる。大方ウチの邪魔をしにきたのだろう。だがウチは久遠を斬らねばならない。久遠を斬らなきゃいけないんだ!!』

 

 

薫さんの声には感情の揺れがはっきりと出ていた。涙を浮かべながら……刀を振るっていた。

 

 

『やめて薫ちゃん !久遠は必ず私が止めるから!必ず私がなんとかするから!だからお願い!!もうやめて!!』

 

 

『無理だ!もうすぐ久遠の封印が解ける!もう一度封印するなんて……ウチには自信がない!!だから久遠は……殺すしかないんだ!!』

 

 

 

ヒュン!!

 

 

 

俺の頬が刀にかすり少し血が出る。

 

薫さんの動きも徐々に速くなってきている。

 

そこで俺は炎の剣を出して対抗した。

 

 

炎の剣(ファイアエッジ)

 

 

右手に炎を纏わせ刀身を伸ばす。80cm程のショートソードの長さくらいに調節し、こちらからも薫さんに斬りかかった。

 

 

『炎を固定化させた!?くっ!?』

 

 

 

ガキン!!!!!!!

 

 

 

薫さんは霊剣・十六夜で俺の炎の剣を受け止める。

 

俺は冷静に薫さんの動きを見極めながら、炎の剣を振るう。薫さんは俺の剣を受け流すのに必死であるのか、防戦一方であった。

 

俺はブリッツアクションを発動させ、腕の振るうスピードを上げた。そして、薫さんの刀を下から上へすくいあげるように振るった。

 

 

『なっ!?』

 

 

その結果…

 

 

 

キン!!

 

 

 

薫さんは刀から手を放してしまい、霊剣・十六夜は地面へと刺さった。俺はその間に薫さんをリングバインドで固定し、動けないようにした。

 

 

『くっ……』

 

 

薫さんはなんとか逃れようともがくがリングバインドはびくともしない。

 

 

『ヒエン君なぜ邪魔をする!?君には関係ないだろう!?これは神咲家の問題だ!!』

 

 

薫さんが吠えるように俺に言葉を投げ付ける。

 

 

『薫ちゃん!そんな言い方……『那美は黙ってなさい!!』……っう』

 

 

那美さんは俺を庇ってくれるが、薫さんのあまりの剣幕に萎縮(いしゅく)してしまう。

 

 

「このときの俺はどうしても薫さんに久遠を殺してほしくなかった。久遠は俺にとっても大切な仲間で妹分だったから……。確かに薫さんの言うとおり、これは神咲家の問題だ。那美さんは両親を殺されて……薫さんも身内を何人も亡くしてる。俺なんぞ部外者も良いところだ。だけど……どうしても放っておけなかったんだ」

 

 

画面の俺は話す。

 

 

『久遠は……友達なんです。確かに俺は二人の……神咲家の問題に関係なんて全くありません。他人です。他人も良いところです。でも……久遠が関わってくるのなら…話は別です』

 

 

『『………』』

 

 

『久遠は俺の妹分なんです。大切な友達なんです』

 

 

『『………』』

 

 

『そんな久遠が今苦しんでる。だから助ける……ただそれだけです』

 

 

俺の言葉を聞いた薫さんは……

 

 

 

『そんなのは詭弁(きべん)だな……』

 

 

 

俺の言葉を一蹴(いっしゅう)した。

 

 

『だいたい君に何ができる?久遠を助けるということは……祟りだけを消し去ると言っているようなものだぞ?

 

祟りとは一種の呪いのようなモノだ。恨み ・ 怒り ・ 憎しみ ・ 憎悪 ・ 悪意などといった感情が具現化したモノと言ってもいい。祟りだけを消し去るなんて奇跡……まだ誰も成し遂げたことはないんだ。

 

それに封印が解けた久遠の強さは尋常じゃない。正直、今のウチでも勝てるかどうか……だから久遠を祟りから救うには…殺すしかないんだ』

 

 

俺はモニターを止める。

 

 

「確かに薫さんの言うとおり封印が解けた久遠の強さは尋常じゃない。だが、このとき手がない訳じゃなかったんだ。俺は俺なりに勝算があったからこそ行動に移した。それが俺の能力……死ぬ気の炎だ」

 

 

俺はグローブを現すと炎を灯し、皆に見せる。

 

 

「この炎の力は【調和】の能力を有している。調和とは物事の釣り合いがとれることを意味する。簡単に言えば周りを調和の能力で癒すことができるんだ。それは……()()という形を持たないものも例外じゃない。すなわち調和の能力で祟りを浄化することも可能だったんだ」

 

 

俺は画面を進める。

 

 

『要は……久遠の封印が解ける前に、久遠の祟りを浄化すればいいんですよね?』

 

 

『そうだ。だがそんなものできるはずが……『できますよ?』っなに!?』

 

 

『俺にはその力がある。この炎にはその力があるんです』

 

 

そして俺は倒れている久遠の方に歩みよったのだが……そのとき久遠の身体を黒い障気が包む。そして久遠自身からとてつもない大きな力を感知した。

 

俺はその力が溢れる前に砲撃を放った。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォンン!!!!!

 

 

 

『ヒエン君!?まさか……もう封印が!?』

 

 

『そんな久遠!?』

 

 

二人が慌てるが、俺はすぐに薫さんのリングバインドを解除し、地面に刺さっている霊剣・十六夜を薫さんに渡し、戦闘体勢を整えた。

 

そのとき……

 

 

 

バギアアアァァァァァァン!!!!!!

 

 

 

バチバチバチバチバチバチッ!!!!!

 

 

 

『うっ!?』

 

 

『くっ……』

 

 

『きゃ』

 

 

俺、薫さん、那美さんの三人に凄まじい衝撃波のようなものが襲い掛かかる。

 

前方に雷のようなものが落ちる。

 

徐々に煙が晴れてくる。

 

そこにはある人物が立っていた。

 

 

「俺が久遠の祟りを浄化しようとした丁度そのとき……久遠の封印が解かれてしまったんだ」

 

 

俺達の前に巫女服を着た成人女性が立っていた。その姿は久遠の記憶にいた女性巫女、みつの姿にそっくりであった。

 

狐を彷彿(ほうふつ)させるような耳に、五本に増えた狐の尻尾。美しく伸びた金色の髪。

 

まさに妖狐と呼ばれるモノにふさわしかった。俺達の前に過去に神社仏閣を破壊し回った【(たた)(ぎつね)】が復活したのだ。

 

 

「休憩しよう。それで準備が整ったら話すから」

 

 

俺達は軽く休憩をとることにした。

 

 

 

─────────

───────

────

 

 

 

俺は皆の体調を気遣いながら話すように注意する。

 

俺は久遠が祟り狐として復活した場面から話す。

 

 

『封時結界』

 

 

画面の俺は八束神社全体を覆うほどの結界を展開する。空間全体が少しだけ明るくなる。このときは夜であったため、視界全体を照らした。

 

 

『アアアアアアアアアア!!!』

 

 

久遠は雄叫びをあげながら、黒い障気を出している。

 

 

「このときの久遠はあの黒い障気に支配されて暴走していた。相対して分かった。恨みや憎悪、悪意といった黒い感情をあの障気からは感じた。あれが祟りだったんだ」

 

 

画面の俺は薫さんに話しかけた。

 

 

『いけそうですか薫さん?』

 

 

『ヒエン君……』

 

 

彼女は俺の顔をジッと見る。その目には少し戸惑うような感情があった。

 

 

『ふむ。その調子では無理そうですね。だったら……後ろで休んでいて下さい。邪魔です』

 

 

俺の予想外の言葉に驚いたのかつぼみ達も口を半開きにさせる。

 

 

『いつまでも過ぎたことをグチグチ悩んでる人と一緒に戦いたくありません。だから下がっていてください。正直、足手まといです師匠』

 

 

『ほう……言うじゃないか。出来の悪い弟子が。前から思っていたが……君は少し礼儀というものを知らないようだなバカ弟子』

 

 

『泣きながら動物を虐待してた銃刀法違反の犯罪者に言われたくありませんクソ師匠』

 

 

『あれは事情が事情だったからな。言い訳はしない。だが……君に色々言われるのはなんだか癪だ。この件が終わったら覚悟しておくことだバカ弟子』

 

 

『了解ですクソ師匠』

 

 

「な、なんか映画見てるみたいっしゅ」

 

 

えりかがポツリと呟く。

 

そして続きが流れる。

 

今まで不安そうにしていた那美さんも俺達の会話を聞いてポカーンとしている。

 

 

『那美は下がっていなさい』

『那美さんは下がっていてください』

 

 

師弟そろって後ろにいる那美さんに口を揃えて告げた。

 

 

『は、はい…』

 

 

那美さんは戸惑いながらも返事を返した。

 

ここで月影から質問が来る。

 

 

「師匠といっていたけどあの人の弟子なの?」

 

 

「ああ。武器戦闘の経験を積むために数週間ほど弟子入りさせてもらったんだ」

 

 

「そうなの」

 

 

そして続きが流れる。

 

まず俺は戦えない那美さんを安全な所に移動させるために薫さんに時間稼ぎをお願いした。

 

そして俺は久遠の攻撃を防いだ後、那美さんを社務所の端に連れていく。そして相棒に那美さんの護衛を頼み、俺は薫さんと共闘しながら久遠と戦っていく。

 

 

『はぁああああ!!!!』

 

 

しかし薫さんの攻撃を久遠はその鋭い爪で易々と受け止める。久遠の身体は相当強化されているのか、生半可な攻撃では全く効いている様に見えなかった。

 

 

『はあっ!!』

 

 

薫さんは刀を押し込みながら振り切り、久遠を退ける。そして更に追撃に前に出て刀を打ち込んでいく。

 

刀には霊力が込められ、淡い霊気の光が炎のように取り巻く。

 

薫さんはそのまますごい速さで斬りかかる。だがそれ以上の力と速さで久遠は両手の爪を振るう。

 

薫さんは刀で上手く久遠の攻撃を受け流していく。久遠の外した攻撃が地面や木を大きく削り取っていく。

 

その間に俺は足元に死ぬ気の炎を纏い、久遠の後方へと回り込み、炎を纏った拳で殴り付けた。

 

 

剛炎の衝撃(ブレイズインパクト)!』

 

 

だが俺の拳は易々と受け止められ、全く動くことができなかった。

 

そして久遠が片方の手で俺を攻撃してこようとしたとき……

 

 

『ウチがいることを忘れてもらっては困る!!神気発勝(しんきはっしょう) ……神咲一灯流(かんざきいっとうりゅう) 真威(しんい)楓陣刃(ふうじんは)!!』

 

 

光刃と化した光の斬撃が久遠に振るわれた。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォンン!!!!!!

 

 

 

久遠は勢いよく神社の本堂へと吹き飛ぶ。

 

 

「今、薫さんが使った技が退魔という人には認識できない妖怪や怪異、魑魅魍魎(ちみもうりょう)と戦うための剣技、神咲一灯流(かんざきいっとうりゅう)の技だ」

 

 

俺は解説しながら先を進める。

 

 

 

ボガアアアアァァァァンン!!!!!!

 

 

 

すると久遠が勢いよく跳びでて、再び俺達の前に着地する。

 

そして俺達は臨機応変に対応しながら久遠と戦っていく。

 

主に前衛が薫さん、後衛が俺で攻めていく。

 

鎖で久遠を拘束し、盾で攻撃を防ぐ。そして射撃魔法で援護しながら補助魔法で薫さんの攻撃力を強化していく。

 

だが久遠も負けじと雷を放ったり、鋭い爪で攻撃している。

 

 

神気(しんき)発勝(はっしょう)…』

 

 

そのとき薫さんは刀を肩に担ぎ、刀身を炎の様に光らせる。

 

 

真威(しんい)楓陣刃(ふうじんは)!』

 

 

光刃と化した光の斬撃が久遠へと放たれる。

 

 

『まだだ!(つい)太刀(たち) (はやて)!』

 

 

そして薫さんは振り下ろした刀を切り返し、続けて光の斬撃を放つ。

 

 

(せん)太刀(たち) 弧月(こげつ)!』

 

 

霊撃の三連撃の最後の一撃が久遠に放たれた。

 

久遠は薫さんの高速の斬撃を続けて受けたことで姿勢を崩した。

 

 

『師匠!退いてください!!』

 

 

『!?分かった!!』

 

 

そこで俺は追撃として砲撃や速射砲を前方に放った。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォォンン!!!!!

 

 

 

その影響か神社はすっかり荒れ地と化していた。本堂は崩れ、軽くクレーターまでできていた。

 

 

 

ヒュン!!

 

 

 

だが久遠が勢いよく飛び出してきたことから、大して効いているようには見えなかった。

 

そして久遠は薫さんに高速で近付くと、手をかざし至近距離で強力な雷を放った。

 

 

『ちぃ!?』

 

 

薫さんは刀を構え、霊気を纏いガードしたが……久遠は刀の先を掴み、そこから直接雷を流した。

 

 

『ぐ、ぐああああ!?』

 

 

『師匠!?』

 

 

身体に直に電流を流された薫さんは白目を向き、直立不動のまま気絶してしまう。それを見た俺はすぐに動く。

 

 

形態変化(カンビオフォルマ) 攻撃形態(モードアタッコ) 死炎の手甲(ミテーナ・ディ・ヒート)!!」

 

 

久遠は薫さんを抱えて投げ飛ばそうとしていたが、俺は久遠を横から勢いよく殴り付けた。

 

 

剛炎の加速(ブレイズアクセル)!』

 

 

 

ドガアアアアアァァァァン!!!!!

 

 

 

だがその一撃は片手で軽く止められてしまう。

 

 

『なに!?』

 

 

そして黒い障気で持ち上げられた薫さんは勢いよく地面へと投げつけられてしまうが、着物を着た金髪の女性が薫さんを受け止めたことにより事なきを得る。

 

 

「この人は十六夜(いざよい)さんといって薫さんの刀に宿る精霊なんだ」

 

 

「せ、精霊……」

 

 

「き、綺麗な方です……」

 

 

皆が驚く。

 

だがその間にも戦いは続く。

 

久遠はターゲットを俺へと変え、攻撃を開始する。俺の右手を掴んだまま、片手で俺を持ち上げ地面に何度も叩きつけた。

 

 

 

ドンドンドン!!!!!!

 

 

 

そしてそのまま勢いよく社務所の中へと俺を投げ飛ばした。

 

 

 

ドヒュン!!!!

 

 

 

ドガアアアアアァァァンン!!!!!

 

 

 

「くぅ……」

 

 

「大丈夫ですよ久遠ちゃん」

 

 

すると一緒に見ていた小狐形態の久遠は顔を伏せる。つぼみは久遠を慰めるために優しく身体を撫でる。

 

 

「あー……久遠。別にもう解決したんだから気にするな」

 

 

俺は先を進める。

 

そこからは苛烈に攻められた。

 

無数の黒い障気がムチのようにしなりながらこちらに向けられ、鋭い風のカマイタチまで襲いかかってくる。

 

このままではやられると悟った俺は囮としてフェイク・シルエットで幻影を15体生み出し、転送魔法で皆のいる社務所の端へと転移したのだった。

 

転移を完了させてから……しばらく体力の回復に努めていた俺だったが、久遠が社務所に真っ直ぐ向かっていることが判明する。

 

久遠を浄化するための作戦を全員に簡単に伝えた後、薫さんが目覚めるまでの時間稼ぎのために俺は久遠の元へと向かった。

 

久遠に対抗するためにフルドライブになった後、分身三人を生み出し共に久遠と戦っていく。

 

分身三人が必死に隙を作り、久遠にヒートバーナー超爆発(ハイパーイクスブロージョン)を食らわせることに成功する。だがそれでも久遠の祟りを浄化するには至らなかった。

 

そして俺は久遠に対抗するためフルドライブの出力を最大まであげる。

 

久遠の怒りを満ちたような視線が俺を捉える。

 

彼女は動き出した。

 

 

『アア……アアアアァァア!!!!』

 

 

そして一跳びで空中にいる俺に迫ってきた。

 

久遠は腕を振りかぶり鋭い爪を……

 

俺も腕を振りかぶり炎の拳を……

 

互いにぶつけ合った。

 

 

 

ガキイイイイィィィィンン!!!!!

 

 

 

互いに後方へと吹き飛ぶが俺は両手から炎を出して体勢を立て直してブースターで突貫し、久遠は黒い障気を操り足場にして突っ込んでいく。

 

 

『おおおおおおお!!!!』

 

 

『アアアアアア!!!!』

 

 

 

炎の拳と鋭い爪が幾度もぶつかり合い激突する。

 

互いに空中で高速で打ち合うことで周囲に激突音が響く。

 

 

 

ドオン!!!!!!!!

 

 

 

そして何度目かとなる久遠との激突で離れると、体力の消費を抑えるため炎の質を剛から柔へと切り替え、技を放つ。

 

俺は両手に炎の円盤を生み出し久遠へ放ち、久遠も風のカマイタチを連射で放った。

 

炎の円盤と風のカマイタチが激突するが、炎の円盤が2つとも一刀両断される。

 

俺にそのままカマイタチがくるが咄嗟に横にかわし、砲撃を放つ。

 

 

火炎の砲撃(フレイムバスター)!!』

 

 

『雷!!』

 

 

久遠は右手をふるい、雷の砲撃を放ってきた。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォォンン!!!!!

 

 

 

炎の砲撃と雷の砲撃が激突する。それを制したのは今度は炎であった。

 

炎の砲撃が久遠に直撃し、爆発が起こる。だが久遠は強力な爆発の中を突っ込んでくる。

 

そして右腕に電撃を纏い、切れ味が増した爪を振るってくる。俺も対抗するために攻撃形態(モードアタッコ)を使い、最大強化してから技を放った。

 

 

大爆発の加速(ビッグバンアクセル)!!』

 

 

三度技が激突する。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォォンン!!!!!

 

 

 

『ぐ……ぐぐぐぐぐ!!!!』

 

 

『アアアアアア!!!!』

 

 

俺と久遠を中心に爆発が起こる。

 

だが中心にいる俺達は未だにパワー比べをしていた。

 

互いに声をあげながらさらにパワーを込める。

 

 

『お、おおおおおおおお!!!!』

 

 

『アアアアアアアアア!!!!!』

 

 

そして打ち勝ったのは俺であった……。

 

のだがフルドライブをいきなり最大出力で使ったツケからか、身体全体に負荷がかかり、少しだけ硬直してしまった。

 

その隙を見計らって久遠は俺と激突していた右手をわざと引き、俺の体勢を崩す。

 

そして空いている左手に雷を纏わせた。

 

画面の俺は咄嗟に防御魔法ラウンドシールドを展開して最大まで強化する。

 

久遠は雷を纏った左手を俺へと振るい、ラウンドシールドと激突する。火花を散らしながら拮抗するが……

 

 

 

ピシ……ピキキ……

 

 

 

ラウンドシールドはヒビ割れ、ついにその凶刃が俺へと向けられる。

 

画面の俺は咄嗟に炎を纏いクロスガードする。そして身体中の魔力をバリアジャケットの防御へと全てまわした。

 

そして……勢いよく切り裂かれ地面へと吹き飛ばされた。

 

 

『グフッ!?』

 

 

俺の口から勢いよく血が出る。

 

 

ビクッ……

 

 

中学生組がビクリと震える。

 

俺が地面へと落ちている間に久遠は爪の猛威をふるい、高速で俺の身体を切り裂いていく。そして地面に激突したあと……勢いよく蹴り飛ばされてしまった。

 

 

 

ドゴオオオオオォォォンン!!!!!!

 

 

 

そのまま社務所まで吹き飛ばされ、俺は仰向けに倒れる。

 

このとき意識が朦朧としていたことを何となく覚えている。

 

 

『ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……』

 

 

俺はなんとか起き上がり、自身に目を向ける。

 

所々切り裂かれ黒スーツもボロボロになり……出血も酷かった。頭から血もいくらか流れていた。

 

改めて見てみたがボロボロになっているのが分かった。大ケガどころではない。瀕死の重傷といっても過言ではなかった。

 

俺の側では十六夜さんと那美さんが必死に治癒能力を使って治療していた。

 

 

ドガン!!

 

 

そんな音が響いた。

 

 

薫さんが久遠相手に一人で戦っている。

 

だがなんとか攻撃をいなしているといった感じであった。そこで俺は十六夜さんに顔を向けていた。

 

 

『いざ……よい…さん。俺はいいから……薫さんの……サポート……を…』

 

 

『こんな時に何を言っているのですか!?』

 

 

『速く…薫さんの……サポートに……回復なら……大丈夫…です。……相棒』

 

 

那美さんの頭の上にいる相棒が俺にフィジカルヒールをかける。那美さんのヒーリングの効果もあってなんとか立てるまでに回復した。

 

それでもフラフラであったが。

 

そして俺は再び分身を三人出し、薫さんの援護に行くように頼む。

 

 

「ふっ…。そういうことか…」

 

 

薫さんは俺をチラリと見たあと少し笑い、再び久遠に立ち向かう。

 

そんななか…俺は再び十六夜さんに話しかける。

 

 

『お願いします……。もう時間がないんです。俺はもう……動けるようになったので……大丈夫です』

 

 

『勝算があるのですね?』

 

 

『あります……だから速く薫さんのサポートに…』

 

 

『分かりました……那美様、ヒエン様のことよろしくお願いします』

 

 

『は、はい』

 

 

そして十六夜さんは刀に宿った。

 

俺は那美さんに手短に話す。

 

 

『久遠に呼び掛けて……やってくれ…。那美さんの声なら……久遠に届く……はずだ。頼む……もう時間がない』

 

 

『うん……分かってる。私、やるよ』

 

 

那美さんは持っている短刀をギュッと持つと……立ち上がる。

 

 

『だけどヒエン君はそこで休んでないとダメだからね!!そんなにボロボロなんだから!!』

 

 

『大丈夫。無理は……しない』

 

 

『約束だからね!』

 

 

そして那美さんは薫さんと戦っている久遠の元へと歩いていく。そして久遠に呼び掛けた。

 

 

『久遠!!』

 

 

すると久遠がピクリと反応する。

 

 

『久遠!私よ、那美よ!!』

 

 

『……な………み……』

 

 

那美さんは声をかけ続ける。

 

 

『久遠!私はココにいるよ!!だから祟りなんかに……恨みや悪意なんかに……負けないで!!』

 

 

『アア……な………み…………アアアアアア!!!!』

 

 

『久遠思い出して!私達の思い出を!!さざなみ寮での…皆との……家族との大切な思い出を思い出して!!』

 

 

すると久遠から出る黒い障気の勢いが弱まっていく。

 

 

『アアアアアア………アアアアア!!!!』

 

 

だが祟りにまだ操られている久遠は那美さんに向けて強力な雷を放った。

 

 

 

バリバリバリバリ!!!!!

 

 

 

だが分身が那美さんを庇い消滅する。

 

 

『久遠!くおーーーーん!!』

 

 

那美さんは諦めずに久遠に呼び掛け続ける。

 

そして頭を抱えて……その場で座り込む。

 

久遠は何かを振り払うように頭を振り、再び叫び声を上げ、那美さんに雷を向ける。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

続けて分身が那美さんを庇い消滅する。

 

 

『久遠!がんばって!!』

 

 

すると久遠は意識が次第に戻ってきたのか、泣きそうな目で那美さんをジッと見つめる。

 

 

『な………み…………た…す……け……て』

 

 

『久遠!?』

 

 

『くお……ん………もう……だれ………も……きず…………つ…………け……た……く………な………い…』

 

 

『うん。助ける……助けるから……必ず助けるから……久遠!!』

 

 

そのとき那美さんは短刀を久遠へと向け……

 

 

『薫ちゃん!奥義お願い!!』

 

 

『あ、ああ!任せろ!!……いくぞ十六夜』『お任せを』

 

 

那美さんと薫さんはそれぞれの霊剣を構える。

 

 

『『神気発勝(しんきはっしょう)……』』

 

 

那美さんは霊剣:雪月(ゆつき)を……薫さんは霊剣:十六夜(いざよい)を……それぞれ構えた。

 

 

『『神咲一灯流(かんざきいっとうりゅう)……』』

 

 

真威(しんい)桜月刀(おうげつとう)!』

 

 

『奥義 封神(ふうじん)楓華疾光断(ふうかしっこうだん)!!』

 

 

那美さんと薫さんは互いの叫び声と共に自身の放てる最大の技を久遠へと放った。

 

 

 

ドゴオオオオォォォォンン!!!!!!

 

 

 

久遠は巨大な光に飲み込まれる。

 

 

だが……

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

 

 

久遠の黒い障気はしぶとく残っていた。

 

 

『そんな!?』

 

 

『これでもダメなのか!?』

 

 

那美さんと薫さんが絶望的な顔をする。

 

 

「このとき久遠の祟りは俺の砲撃による浄化、那美さんの呼び掛け、二人の技と奥義による霊撃でかなり障気の量を減らしている。そこで起死回生の一手として俺はある二人を生み出した」

 

 

そして久遠の前に……

 

 

【みつ】と【弥太】の二人が現れた。

 

 

「「「え、えええー!?」」」

 

 

中学生組が驚く。

 

 

「この二人は相棒が記憶から生み出してくれた分身なんだ」

 

 

俺は軽く説明してから画面を進める。

 

 

『キツネ……』

 

 

『久遠……』

 

 

【みつ】と【弥太】は久遠の方にゆっくり近付き話しかけた。

 

 

『み……つ……?や………た……?』

 

 

久遠が驚く。

 

すると黒い障気の威力がみるみる弱まっていく。

 

 

『キツネ……いいえ久遠……あなたなんでそんなに悲しそうな顔してるのよ?私に似てる癖に…』

 

 

『そうだよ久遠…。あのとき僕と約束したでしょ?幸せになるって…それなのにそんな悲しそうな顔してちゃダメだよ?』

 

 

『みつ…………やた………くおん……ずっと………ずっと……あいたかった……』

 

 

久遠は涙を流しながら……二人へゆっくり近付いていく。

 

 

【みつ】と【弥太】は久遠に優しく笑いかけ、近付いてきた久遠を二人一緒に優しく抱き締めた。

 

 

『私もまた会えて嬉しいわ……久遠。それと……あなたに言わなきゃいけないことがあるの。…あのとき……急にいなくなっちゃってごめんね…?ずっと……探してくれてたんでしょ?……ありがとう……本当にごめんね……』

 

 

『ううん……くおん……また…みつに…あえて……うれしい……』

 

 

久遠はみつに抱き付く力を込める。

 

 

『久遠……話は聞いたよ。ごめんね……僕があのとき君を置いていったせいで……君をこんなに悲しい目に合わせてしまった。こんなのじゃ……僕は君の亭主失格だ……』

 

 

『くおん……やたと……また……あえて……うれしい。だから……そんな……かなしいかおしちゃ……だめ……。くおん……なみたちと………たのしく……くらせてるよ?ちゃんと……しあわせに……なってるよ?くおん……やたとの……やくそく……まもれてるよ?……だから……そんなかおしちゃ……だめ……』

 

 

久遠は弥太に抱き付く力を込める。

 

【みつ】と【弥太】そして久遠は……優しく笑いあった。

 

すると久遠に纏わりついていた黒い障気が分離する。

 

その間に俺は準備を完了させる。

 

そして残った最後の分身がファーストエディションで黒い障気を拘束しようとするが、障気は逃げ回る。

 

こちらも氷で逃げ場を塞ぐように囲むが逃げられていく。

 

だがそのとき……

 

 

神咲一灯流(かんざきいっとうりゅう) 封月輪(ふうげつりん)!!』

 

 

那美さんが障気の動きを止めた。

 

 

『ヒエン君!今のうちに!!』

 

 

『サンキュー那美さん……』

 

 

その間に俺は右手を黒い障気……祟りに狙いを定め、右手を前方に突き出し、そして炎の翼を展開させる。

 

 

『これで……終わりだ。エネルギー全開!!』

 

 

そして俺は巨大な砲撃を祟りへと……放った。

 

 

『ヒートバーナー超爆発最大出力(ハイパーイクスプロージョンフルパワー)!!」

 

 

 

ドオオオオオォォォォォンン!!!!!

 

 

 

祟りに巨大なオレンジの砲撃が直撃する。

 

俺は魔力と体力を全て込める。

 

 

『アアアアアァァァアアア!!!!!』

 

 

そして……祟りは叫び声のようなものをあげて浄化されていった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「あのとき久遠と分離した憎しみや悪意という感情……祟りの根源となっていたモノはあの砲撃で完全に消え去った」

 

 

「くぅ……」

 

 

そのとき久遠が抱きついてくる。

 

 

「よしよしもう泣くな。もう全部解決しただろ?」

 

 

だが久遠はなかなか離れようとしなかった。

 

 

「あらら……」

 

 

俺はしばらく久遠の背中を撫で続ける。

 

 

「ヒエンさんはあのあとどうなったんですか?」

 

 

するとつぼみが聞いてきた。

 

その顔を見ると目はかなり赤かった。

 

 

「……すぐに病院に運ばれて二日後に目覚めた。ケガはさっき出てきてた那美さんと十六夜さんがヒーリング能力で治癒してくれたよ」

 

 

「そうですか……」

 

 

つぼみは少し落ち込みながら俯いた。

 

 

「少しいいかしら?」

 

 

月影が手を上げる。

 

 

「どうした?」

 

 

「みつさんはどうしていなくなったか、貴方は知っているの?」

 

 

俺は全員を見て、言った。

 

 

「ああ、知っている。少し那美さんから聞いたからな。そもそもこの子が祟り狐になってしまった原因は当時の時代背景にある」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

皆は静かに俺の話を聞く。

 

 

「この子の大切な人達……みつがいなくなったのはあの嵐が原因で起きた土砂崩れの災害を鎮めるために、濁流の川に神の供物として身を投げたからだ。

 

そして弥太は、流行り病を流行らせた元凶として……神に捧げる供物として村人達に殺されてしまった」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

俺は久遠に話が聞こえないように、彼女の耳を押さえながら話す。

 

 

「そもそもみつや、弥太が殺された理由……それは江戸時代初期、田舎の村では自然災害や、疫病といった流行り病から村を救うために生贄が必要とされていたからだ。

 

現代では日本の医学は目覚ましい発展を遂げているが、数百年前までは病気や自然災害は祟りや悪霊の仕業、もしくは神の怒りなどが普通に信じられていた。

 

だから当時の日本では、生贄や供物なんて言う猟奇的な行為は正当化されていたんだ」

 

 

俺は久遠を見る。

 

 

「この子は過去に大切な人達を亡くして……心に大きな傷ができた。そしてそれが原因で暴走し……たくさんの人達の命を奪ってしまった。小さな純粋で優しい小狐に大きな傷跡が残ってしまった。だけど……」

 

 

そしてジッとその顔を見つめる。

 

 

「この子はもう間違えない。この子はもう暴走することはない。なぜならこの子には信じるものが……守るべき大切なものが既にあるからだ。そうだろ久遠?」

 

 

久遠はポフンと巫女形態になると話し始めた。

 

 

「くおん……なみと……みんなと……やくそくした。たいせつなひとたち……まもる」

 

 

そして続けて久遠はつぼみ達を見て言った。

 

 

「つぼみも……みんなも……ともだち。くおんのたいせつな……ともだち」

 

 

「久遠ちゃん!!」

 

 

するとつぼみが久遠を優しく抱きしめた。

 

それを俺達は優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全て話し終えた俺は一息つく。

 

 

「これらが主に俺がこの半年で関わった大きな事件だな」

 

 

「た、たった半年ですか!?」

 

 

つぼみが大きな声をあげる。

 

 

「うん」

 

 

PT事件は四月中旬だし、久遠の祟り狐のときは七月の始めだったし。ここにくる前は十一月の中旬になってたから丁度半年である。

 

 

「す、すごいね……」

 

 

コロンが少し苦笑していた。

 

 

「皆話を聞いてどうだった?」

 

 

俺の質問に皆は神妙な表情で答えた。

 

 

「そ、想像以上でした……」

 

 

「すごかったっしゅ……」

 

 

「言葉が出てこないです」

 

 

「……予想以上よ」

 

 

そうだよな。

そうなるわな。

 

あ、そうだ。

この面子なら心配ないと思うがこれだけは伝えておきたい。

 

 

「皆に一つだけお願いがある。久遠についてなんだが、その……この子にはこれからもいつも通りに接してあげてほしい」

 

 

「ヒエンさん……怒りますよ?」

 

 

するとつぼみがムッとした表情で俺に言う。

 

 

「久遠ちゃんは既に私達の大切な仲間です。嫌うわけないじゃないですか」

 

 

他の面子も笑いながら頷いてくれた。

 

 

「そうか。ありがとう」

 

 

俺は皆に頭を下げた。

 

 

「……ありがとう」

 

 

すると久遠も続けて頭を下げた。

 

 

「良かったな久遠」

 

 

「くう……よかった」

 

 

そして俺は気が抜けたのかイスにどっかりと座り込んだ。

 

 

「ふー」

 

 

そして時計を見たら時刻は既に17時を過ぎていた。

 

 

「あ、もうこんな時間か」

 

 

「もうそろそろ遅いし、皆は帰りなさい。あ、ヒエン君は残ってね。私と後で病院にいくわよ?」

 

 

「あ、はい」

 

 

薫子さんに言われて解散することになった。

 

先に皆だけ帰ることになった。

 

なんかずるい。

 

 

 

ヒエンside end

 

◆◆◆

 

第三者side

 

 

 

「今日は色々大変だったね」

 

 

「私もうお腹ペコペコだ~。あとなんかとっても疲れた」

 

 

「もう大分遅い時間ですし……それにスケールの大きな話ばかりでしたし仕方ないですよ」

 

 

「…………」

 

 

現在つぼみ達は植物園から四人で帰っていた。

 

すると……

 

 

「あー!いたー!!」

 

 

「「ん?」」

 

 

「えりかー!一体どこいってたのよー!!」

 

 

前からファッション部員の女の子達がやってきた。

 

 

「あーごめんごめん。ちょっと色々あってね……本当に……色々……」

 

 

えりかの脳裏に今回並行世界の秘密やら、過去に関わった事件やら色々スケールの大きなことを語った少年の姿がよぎった。

 

 

「それでゆりさんはファッションショーに出てくれるの?」

 

 

「は!?」

 

 

えりかは当初の目的を忘れていた。

 

ダークプリキュアの襲撃やら、コロンの復活やら、その他もろもろあったためすっかり忘れていたのだ。

 

 

「それがさ……まだ……OKもらってないんだよね……」

 

 

えりかは部員から目をそらしながら話す。

 

 

「「「「えええぇぇぇ!!??」」」」

 

 

ファッション部員四人の悲鳴を聞くとえりかは全速力で踵を返し、一気にゆりの前へとやってきた。

 

 

「ゆりさん!ファッションショーに出てもらえないでしょうか!?」

 

 

「「お願いします!!」」

 

 

側にいたつぼみといつきも頭を下げる。

 

 

「あ……うん」

 

 

ゆりは少し唖然としながらも静かに頷いた。

 

 

「本当ですか!?」

 

 

「「「「やったーーー!!!!」」」」

 

 

ゆりからOKが出たので皆で喜ぶ。

 

だがつぼみといつきがあることに気付く。

 

 

「でもゆりさんの服……まだ一枚も作ってないんですけど」

 

 

「採寸もしてないのに間に合うのかい?」

 

 

だがそこは皆の頼れるファッション部部長、来海えりか。彼女に不可能なことなどなかった。

 

 

「私を誰だと思ってんの?別に測らなくたってゆりさんのスリーサイズくらい一発で分かるよ!!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

えりかの驚くべき発言にゆりも驚く。

 

 

「む?むむ?むむむ?」

 

 

「…………」

 

 

えりかは両手を顔の前に持ってくると、まるでカメラを構えるようなポーズとなる。

 

そのままゆりを観察するように周りを動き回る。

 

 

「分かった!ゆりさんのスリーサイズは……ゴニョゴニョゴニョゴニョ」

 

 

「…………は!?なんで分かるの!?」

 

 

どうやら当たっていたらしい。

 

どこぞの戦闘民族が使っているスカウターをも凌ぐ正確性である。

 

 

「えりか流石です!」

 

 

「よーし!そうと決まったらフェアリードロップで皆でゆりさんの服を作ろうー!!」

 

 

「「「「「おー!!!!」」」」」

 

 

そしてえりかの実家であるファッションショップ:フェアリードロップに全員で向かうことになった。

 

そしてつぼみとえりかは、一人遅く歩いているゆりを両側から支えると……笑顔で言った。

 

 

「「ゆりさん行きましょう!!」」

 

 

「え?」

 

 

「「それーーー!!!!」」

 

 

「え、え?」

 

 

そして三人で走り出し、元気よく向かうのだった。

 

ゆりも少し戸惑いながらも……笑いながら走っていた。

 

その顔は少し憑き物がとれたかのように晴れやかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、文化祭には()()()()()()()()()()()も誘いましょう」

 

 

文化祭まであともう少しであった。

 




すいません。
もう一度言いますが決してなのはをけなしている訳ではありません。むしろリスペクトしてます。

この作品が不快だと感じる方はお気に入り解除してくださっても構いません。

後書きでも同じようなことを書いてしまい申し訳ありません。

ですが最近こういった意見が多くなってきたのでかかせていただきました。

どうかご了承下さい。


次回は文化祭回。

では、また(・∀・)ノ

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