外伝続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
ロンドンで一泊した翌日。
俺達は五和と共にイギリスを発ち、日本へと向かった。
ちなみに、五和達には俺達が一時的な記憶喪失に陥っていると説明してある。
覚えているのは、自分達の名前と能力に関することくらい。
それ以外については、ほとんど記憶が曖昧という設定だ。
何しろ、異世界からやって来た魔導師とその仲間達です、なんて説明したところで、簡単に信じてもらえるとは思えない。
……いや、この世界には本物の魔術師がいるんだけどさ。
だからといって、異世界から来たことまで明かす必要はないだろう。
そもそも、俺達三人にはこの世界での身分が存在しない。
戸籍もなければ、身元を証明できるものもないのだ。
そこで、何らかの事故に巻き込まれた影響で記憶を失い、気づいた時にはロンドンにいた、生まれつき特殊な力を持つ能力者。
つまり、原石ということにしておいた方が、まだ説明がつくという結論に至ったのである。
……まあ、これもこれで相当怪しい話なんだけどな。
それでも、何もかも正直に話すよりはマシだろう。
そんなわけで。
飛行機で日本へ渡った俺達だったのだが――
「……まさか、ここまで時間がかかるとはなぁ」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
というのも、日本へ到着してからというもの、学園都市への入場手続きが思いのほか難航していたのだ。
理由はもちろん、俺達の身元である。
名前と能力以外の記憶が曖昧。
身分証明書もなければ、戸籍も確認できない。
おまけに、三人揃って生まれつき特殊な力を持つ原石らしいときた。
……うん。
俺が審査する側だったとしても、簡単には通さないと思う。
五和達が色々と手を尽くしてくれてはいたものの、学園都市側の確認には相応の時間が必要らしい。
その間、俺達は天草式の協力を受けながら、学園都市の外で待機することになった。
幸い、寝泊まりする場所には困らなかったし、生活に必要なものもある程度は用意してもらえた。
もっとも、ただ待っていただけではない。
俺達も帰還できない原因を調べるため、何度かプリズムフラワーの状態を確認していた。
しかし、結果は変わらなかった。
起動そのものは正常。
相棒にも異常は見られない。
それなのに、世界間転移だけが成立しない。
……まったく、困ったものである。
他にも、この世界について五和から話を聞いたり、今後の生活について相談したりと、それなりにやることはあった。
とはいえ、いつまでも学園都市の外にいるわけにもいかない。
何しろ、情報収集が目的なのだから。
そんなこんなで、何日かが過ぎ――
大覇星祭が終了した後。
ようやく、俺達三人に学園都市への入場許可が下りたのだった。
「……やっとかぁ」
「本当に長かったわね……」
「もう待ちくたびれたよー!」
アリアとロッテも、心底疲れたような声を漏らす。
いや、気持ちはよく分かる。
俺だって、ここまで待つことになるとは思わなかった。
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
五和が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いやいや、五和が謝ることじゃないって。むしろ、色々と助けてもらってるしさ」
「そう言っていただけると助かります」
五和がほっとしたように微笑んだ。
「それでは、行きましょうか」
「ああ!」
こうして俺達は、ようやく学園都市の巨大な入場ゲートへと辿り着いた。
そして――
「……おお」
「わぁ……!」
ゲートを抜け、目の前に広がる街並みを見た瞬間、俺達は揃って足を止めた。
道路を自動で清掃するロボット。
建物の壁面に設置された大型モニター。
近未来的なデザインの高層建築物。
そして、制服姿の学生達で溢れる街並み。
どこを見ても、普通の街とは一味違う。
「……未来都市みたいね」
アリアが感心したように呟く。
「実際、科学技術に関しては俺達の世界より進んでいる部分もありそうだな」
「ねえねえ、ヒエン!」
「ん?」
「空飛ぶ車とかないの?」
「いや、流石にまだ見てないな」
「えー、ないの?」
「知らん。少なくとも、今のところは見当たらないぞ」
「ちぇー」
ロッテが残念そうに唇を尖らせた。
いや、何を期待していたんだ、お前は。
まあ、気持ちは分からなくもないけど。
そんな二人の様子を眺めながら、俺は改めて周囲を見渡した。
(……本当に来ちまったんだな)
学園都市。
前世で何度も目にした場所だ。
小説で。
漫画で。
アニメで。
何度となく見てきた世界が、今こうして目の前に広がっている。
何とも不思議な気分だった。
とはいえ、いつまでも感慨に浸っているわけにはいかない。
何しろ、今の俺達は帰還方法も分からない遭難者のようなものなのだから。
「それでは、まずは学園都市側で必要な手続きを済ませましょう」
五和が声をかけてくる。
「住居や身分に関することも、こちらで相談していただけるそうです」
「おお、それは助かる」
いや、本当に助かる。
戸籍や身分証明の問題は、どうにもならないわけじゃない。
だが、正規の手段を使えないとなれば、色々と面倒なことになる。
下手をすれば偽造に手を出す羽目になりかねないし、できればそんなことは避けたい。
それに、学園都市で生活するなら、こちらの制度に従った方が後々都合もいいだろう。
……もっとも、どこまで信用していいかは別問題だけどな。
◇
それから、いくつかの確認や手続きを経て。
俺達が学園都市側の用意したマンションへ案内された頃には、既に夕方になっていた。
「……おお」
思わず声が漏れる。
目の前にあるのは、なかなか立派な高層マンションだった。
オートロックに監視カメラ。
建物の入口からして、セキュリティはしっかりしているらしい。
……いや、待てよ。
監視カメラが多いのは、俺達を監視するためだったりしないよな?
……うん。
考えないことにしよう。
「こちらです」
五和に案内され、エレベーターで上階へ移動する。
そして、部屋の扉が開かれた瞬間――
「……広っ!」
ロッテが真っ先に声を上げた。
「本当にここを使っていいの?」
アリアも少し驚いている。
それもそのはず。
案内された部屋は、三人で暮らすには十分すぎるほどの広さがあった。
ゆったりとしたリビング。
設備の整ったキッチン。
浴室に洗面所。
それぞれが使える個室まで用意されている。
家具や生活に必要なものも、一通り揃っているようだ。
「……すごいな、これ」
俺も思わず感心してしまった。
正直、もっと簡素な部屋を想像していたんだけど。
「今回の件は特殊な事例ですので、学園都市側も皆さんを一時的な保護対象として扱っているそうです」
五和が説明する。
「保護、ねぇ……」
アリアが意味ありげに呟いた。
「監視の間違いじゃないの?」
「……否定はできません」
五和が困ったように苦笑する。
まあ、そりゃそうだろう。
正体不明。
身元不明。
おまけに能力の詳細まで不明。
そんな三人組を、何の警戒もなく受け入れる組織があったら、そっちの方が心配になる。
「別に気にしないさ」
俺は肩を竦めた。
「俺達だって、立場が逆なら同じことをするだろうしな」
「……ありがとうございます」
五和が少し安心したように微笑む。
「ただ、部屋の設備に何か問題があった場合は遠慮なくおっしゃってください」
「ああ、分かった」
「それと、私もしばらく近くに滞在する予定ですので、何かあれば連絡してください」
「了解」
「分かったわ」
「はーい!」
俺達がそれぞれ返事をすると、五和は軽く頭を下げた。
「それでは、また明日」
「おう。今日は色々ありがとな」
「いえ。それでは失礼します」
そう言って、五和は部屋を後にした。
扉が閉まる。
そして、室内に静寂が訪れた。
「……ふぅ」
ようやく一息つけるな。
「疲れたーっ!」
そう叫ぶなり、ロッテがソファへ飛び込んだ。
「ちょっと、ロッテ。行儀が悪いわよ」
アリアが呆れたように注意する。
「えー? アリアだって座ってるじゃん」
「私はちゃんと座ってるの」
「同じじゃん」
「全然違うわよ」
……相変わらず仲がいいな、この二人。
そんなやり取りを眺めながら、俺もソファへ腰を下ろした。
さて。
せっかく三人だけになったことだし、今後について話し合っておこうか。
「よし。それじゃ、ちょっと現状確認でもするか」
俺がそう言うと、二人の表情が少し真面目になった。
「まずは帰還方法についてだけど……」
アリアが口を開く。
「結局、原因は分かったの?」
「……いや、まだだ」
俺は首を横に振った。
「今のところ、何が原因なのか分からない」
それが正直な答えだった。
プリズムフラワーの力に異常はない。
相棒にも、これといって問題は見つかっていない。
起動そのものはできている。
だというのに、肝心の世界間転移が成立しないのだ。
「故障とかじゃないの?」
ロッテが尋ねる。
「相棒に限って、そんなことはないと思うんだけどな」
俺は肩にいるヒッツへ視線を向けた。
『ガウッ!』
相棒も自信ありげに鳴いている。
うんうん。
頼もしい限りだ。
これまでにも何度となく世界を渡ってきたが、こんなことは初めてだった。
だからこそ、今回の事態は異常なのだ。
「じゃあ、一体何が原因なのよ?」
アリアが眉をひそめる。
「……それが分かれば苦労しないんだけどなぁ」
「それもそうね……」
しばし、沈黙が落ちる。
原因不明。
だからこそ厄介だ。
ただ、いつまでも悩んでいたところで答えが出るわけでもない。
「まあ、今は考えても仕方ないさ」
俺は空気を切り替えるように言った。
「まずは情報収集だ。帰還方法については、手掛かりが見つかってから改めて考えよう」
「……そうね」
「うん」
二人も頷く。
今できることから、一つずつ。
それが一番だろう。
「それより……」
アリアが話題を変えた。
「明日の能力測定についてなんだけど」
「あー……」
ロッテが露骨に嫌そうな顔をする。
「面倒くさーい」
「まあ、そう言うなって」
俺は苦笑した。
「向こうからすれば、俺達の能力を調べたいのは当然だろ?」
「それは分かってるけどさぁ……」
ロッテがソファの背もたれに身体を預ける。
そんな彼女を横目に、アリアが腕を組んだ。
「それで、ヒエン」
「ん?」
「どこまで見せるつもりなの?」
……来たか。
能力測定。
学園都市が誇る能力開発技術の一つ。
当然ながら、俺達にとっては未知の分野だ。
そもそも俺達の力は、この世界の超能力とは根本的に仕組みが違う。
下手なことをすれば、余計な注目を集めかねない。
「……使う魔法は制限しようと思ってる」
俺は少し考えてから答えた。
「まあ、そうよね」
アリアも頷く。
「それは私も賛成」
ロッテも同意した。
学園都市は、科学技術と能力開発に関しては相当な水準にある。
だが、魔法についてはどうだろうか。
……いや、俺は知ってるんだけどね?
この世界には、科学とは別に魔術の世界が存在している。
しかも、学園都市の統括理事長であるアレイスターは、その両方に深く関わっている人物だ。
そんな場所で、俺達が魔法を堂々と使うのは得策じゃない。
もっとも、必要な時まで使わないと決めつけるつもりもないけどな。
命に関わる状況なら、話は別だ。
「とりあえず、各自の得意分野を中心に見せる方向でどうだ?」
「そうね。私は幻影系でいこうと思ってるわ」
アリアが答える。
「認識阻害に幻影、分身の生成。それから光学迷彩あたりかしら。それなら、ある程度は説明がつくでしょうし」
「なるほど」
確かに妥当だろう。
アリアの得意分野なら、能力として見せても不自然ではない。
もちろん、測定装置がどう反応するかは分からないけど。
「ロッテは?」
「私は身体強化系かな」
ロッテが答える。
「体術が得意だし、反射神経とか五感の強化とか。あとは機動力を見せればいいかなって」
「ふむふむ」
こちらも問題なさそうだ。
ロッテの身体能力なら、十分に強力な能力として評価されるだろう。
……さて。
問題は俺だな。
「「それで、ヒエンは?」」
二人の声が綺麗に重なった。
「俺か?」
少し考える。
炎熱と凍結。
大空の炎による調和。
夕の炎による安定。
超直感による危険察知や見切り。
あとは、死ぬ気の炎による身体能力の強化もあるな。
これらをどう説明するか。
「そうだな……」
俺は指を折りながら答えた。
「基本は炎と氷。あとは調和と安定の性質を利用した制御、それから超直感による危険察知や反応速度あたりを見せようかと思ってる」
「…………」
「…………」
……あれ?
何故か二人が黙り込んでしまった。
「……ヒエン」
「ん?」
「それ、抑える気ある?」
アリアが真顔で尋ねてきた。
「……やっぱり抑えてないか?」
「全然抑えてないと思う」
ロッテまで頷いた。
……解せぬ。
「いや、ほら。俺達って原石っていう設定だろ? だったら、ある程度は誤魔化せるかなって」
「その基準がおかしいのよ」
アリアが即座に突っ込んできた。
「だいたい、原石って世界中でも五十人程度しか確認されていないんでしょう?」
「まあ、そうらしいな」
「そんな珍しい存在が三人も一緒に現れた時点で、十分目立ってると思うんだけど?」
「……確かに」
それは否定できない。
いや、でもさ。
この街、原作知識から分かっているだけでも、相当治安が悪いんだよなぁ。
暗部組織なんてものまで存在しているし、下手をすれば普通に命を狙われる可能性だってある。
そんな場所で能力を制限しすぎて、いざという時に対処できなかったら本末転倒だ。
「……まあ、言いたいことは分かるよ」
俺は頬を掻いた。
「でも、能力測定で全力を出すつもりはないから安心してくれ。あくまで必要な範囲で見せるだけだ」
「本当でしょうね?」
「本当だって」
「……ヒエンの『必要な範囲』って、結構信用できないのよね」
「ひどくない!?」
俺、そんなに信用ないの!?
「ちなみに、一つ聞いていい?」
アリアが続ける。
「死ぬ気モードには絶対にならないと駄目なの?」
「いや、必ずしもそういうわけじゃないぞ」
俺は首を横に振った。
「死ぬ気化だけでも炎は使えるし、籠手を展開すればコンタクトフォームで対応できるからな」
死ぬ気化と死ぬ気モードは別物だ。
死ぬ気モードになれば額に炎が灯るが、死ぬ気化の段階ならそれもない。
さらに、コンタクトフォームなら普段着のまま死炎の籠手改〈ヒートグローブ改〉を展開できる。
出力自体もフルドライブと変わらない。
つまり、全身にバリアジャケットを纏わなくても、十分に対応できるわけだ。
「だったら、そっちを中心にした方がいいんじゃない?」
「そうだな。必要以上に目立つのも避けたいし」
俺は頷いた。
「基本は死ぬ気化とコンタクトフォーム。必要なら死ぬ気モードも使う。そんな感じでいこうと思う」
「……まあ、それなら」
アリアが少し安心したように息を吐いた。
「でも、調和とか安定とか、普通の能力者に説明できるの?」
「……そこは頑張る」
「研究員さん達が?」
「俺も頑張るよ!?」
「じゃあ、研究員さん達も頑張って」
ロッテが真面目な顔で頷く。
「……何故だ」
俺は思わず天井を見上げた。
何故、二人ともそんな反応なのだろうか。
……本当に解せぬ。
◇
それから俺達は、数十分ほど話し合いを続けた。
そして、今後の行動について、いくつかの方針を決めた。
まず、能力測定では必要以上に力を見せないこと。
そして、外部に魔法の仕組みを知られないようにすること。
さらに、万が一の戦闘では、それぞれが本来の力を使える状態を確保しておくことだ。
「それで、戦闘時の姿についてなんだけど……」
アリアが口を開く。
「私達も、必要なら元の姿に戻った方がいいわよね?」
「ああ。そっちの方が動きやすいだろ?」
「そうね」
リーゼ姉妹は元々、使い魔としての姿を持っている。
その姿の方が能力を発揮しやすい場面もあるだろう。
ただし、学園都市の人間にどう見られるかは別問題だ。
「でも、いきなり姿を変えたら驚かれない?」
ロッテが尋ねる。
「まあ、そりゃ驚くだろうな」
「だよね」
「だから、普段は無理に変身する必要はないさ。必要な時だけでいい」
俺はそう答えた。
「俺も基本はコンタクトフォームで対応するつもりだし、状況に応じて切り替えればいい」
「なるほどね」
アリアが頷く。
もちろん、本格的な戦闘になれば話は別だ。
相手の実力によっては、フルドライブやオーバードライブを使う必要が出てくるかもしれない。
だが、今からそこまで考えても仕方がない。
まずは、できるだけ目立たずに生活すること。
そして、必要な時には躊躇わずに力を使うこと。
その二つを両立させるのが大切だろう。
(……まあ、あの街で目立たずに生活できるかは怪しいけどな)
何しろ、学園都市である。
原作を知っている身としては、平穏無事に過ごせる自信があまりない。
……いや、俺が事件に首を突っ込まなければいいだけなんだけど。
でも、目の前で誰かが困っていたら放っておけないしなぁ。
うん。
考えれば考えるほど、嫌な予感しかしない。
そんなことを考えていた時だった。
ピンポーン。
「……ん?」
突然、インターホンが鳴った。
時計を見る。
まだ夕方だ。
誰だろう?
「ちょっと見てくる」
俺はソファから立ち上がり、玄関のモニターへ向かった。
そこに映っていたのは、見覚えのある人物だった。
「……五和?」
『あ、すみません』
モニター越しに五和が頭を下げる。
『少しお話がありまして……』
「話?」
『はい。よろしいでしょうか?』
「ああ、ちょっと待っててくれ」
俺は玄関へ向かい、扉を開けた。
そこには、どこか申し訳なさそうな顔をした五和が立っていた。
「どうしたんだ?」
「実は、先ほど学園都市側から連絡がありまして……」
「……ほう?」
何だろう。
何となく嫌な予感がする。
「明日の能力測定についてなのですが……」
五和が一拍置く。
「予定が少し変更になりました」
「変更?」
「はい」
五和が頷く。
「どうやら、学園都市側も皆さんの能力に強い関心を持っているようでして……」
「…………」
俺は無言で振り返った。
いつの間にか、アリアとロッテも玄関の近くまで来ていた。
「……嫌な予感しかしないわね」
「私も」
……奇遇だな。
俺も同感だ。
「それで、具体的には?」
俺が尋ねると、五和は少し言いにくそうに答えた。
「通常の測定に加えて、複数の専門研究員による詳しい検査も行われることになったそうです」
「……はい?」
「設備についても、通常より大規模なものを使用する予定だとか……」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙。
何とも言えない空気が流れる。
そして――
「……ヒエン」
アリアがゆっくりとこちらを向いた。
「ん?」
「何やらかしたの?」
「まだ何もしてないぞ!?」
「本当に?」
「本当だって!」
いや、マジで!
まだ学園都市に来たばかりだぞ!?
能力測定だって明日なんだから、何かやらかすも何もないだろうが!
「……でも、ヒエンだし」
ロッテがぼそりと呟く。
「おい、ロッテ」
「だって……」
「だってじゃない!」
そんな俺達のやり取りを見て、五和が困ったように苦笑していた。
……いや、笑い事じゃないんだけどなぁ。
何しろ、ここは学園都市。
原石として扱われている俺達三人に、研究者達が興味を持つのは当然だろう。
だが、それだけで済むのかどうか。
(……アレイスターの耳にも入ってるんだろうなぁ)
そう考えると、少しばかり気が重い。
もっとも、だからといって逃げ出すわけにもいかない。
ここで生活する以上、ある程度の協力は必要だろうし。
「……まあ、なるようになるか」
俺は小さくため息を吐いた。
「とりあえず、明日は予定どおり行けばいいんだよな?」
「はい。集合時間や場所については、改めてご案内します」
「了解。わざわざありがとうな」
「いえ。それでは、失礼します」
五和が頭を下げる。
俺達も軽く挨拶を返し、彼女を見送った。
扉が閉まる。
そして――
「……ヒエン」
「ん?」
「明日、本当に大丈夫なんでしょうね?」
アリアがじっとこちらを見る。
「大丈夫だって。俺だって、好き好んで騒ぎを起こしたいわけじゃないし」
「……そうね」
アリアは一度頷き――
「騒ぎの方から寄ってくることが多いものね」
「……否定できないのが悲しい」
俺はがっくりと肩を落とした。
ロッテが隣で笑っている。
……まったく。
どうしてこうなるんだか。
まあ、今から悩んでも仕方がない。
明日は明日の風が吹く、ってやつだ。
……ただし。
この時の俺達は、まだ知らなかった。
翌日の能力測定をきっかけに、俺達の存在が学園都市の一部で大きな注目を集めることになるとは。
そして、それがこの世界での新たな騒動の始まりになるということも。
次は能力測定だー。
では、またく(`・ω・´)