外伝続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
「……通常より大規模な測定、ねぇ」
五和から聞かされた話に、俺達は揃って顔を見合わせた。
「ねえ、通常より大規模って……」
アリアが露骨に嫌そうな顔をする。
「一体、何をするつもりなの?」
「申し訳ありません。詳しい内容までは聞いていないんです」
五和が首を横に振った。
「ただ、皆さんの能力が特殊である可能性を考慮して、複数の研究機関が合同で測定を行うことになったそうです」
「……面倒くさそう」
ロッテが一言でまとめた。
うん。
まったくもって、そのとおりである。
「まあ、仕方ないだろ」
俺は肩を竦めた。
学園都市側からすれば、俺達は身元不明の能力者だ。
しかも、三人揃って原石である可能性が高いときた。
慎重になるのも当然だろう。
「それでは、明日は午前九時にお迎えに上がります」
「了解」
「分かったわ」
「はーい」
俺達が返事をすると、五和は小さく頭を下げた。
「それでは、失礼します」
そう言って玄関へ向かう。
だが、途中で何かを思い出したように足を止めた。
「ああ、そういえば……」
「ん?」
「学園都市では、能力の強さを六段階で評価するそうです」
レベル0からレベル5まで。
……うん、知ってる。
だが、ここは知らないふりをしておこう。
「へぇ、そうなのか」
「はい。レベル5に認定されている方は、現在七人しかいないそうですよ」
「七人?」
ロッテが首を傾げる。
「そんなに少ないの?」
「はい。学園都市でも特に優れた能力者の方々ですから」
五和が頷く。
「皆さんも、かなり高い評価を受けるのではないかと思います」
「そうか?」
「はい。もしかすると、皆さんの中からレベル5に相当する方が現れるかもしれませんね」
「……へぇ」
俺は曖昧に相槌を打った。
いやいや。
そんな簡単にレベル5が増えるものなのか?
……まあ、俺達の力が学園都市の基準でどう評価されるのかは分からないけど。
「それでは、今度こそ失礼します。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみー!」
五和を見送り、玄関の扉が閉まる。
そして、数秒後。
「……絶対、面倒なことになるわね」
アリアが断言した。
「なるね」
ロッテも頷く。
「……何でそうなる前提なんだよ」
「ヒエンだから」
「ヒエンだし」
「お前らなぁ……」
俺は思わず苦笑した。
まったく、信用がないことで。
◇
その後、俺達はしばらく雑談を続けた。
学園都市のこと。
明日の能力測定のこと。
そして、今後の生活について。
気づけば、時刻はすっかり夜になっていた。
「……さて、私はそろそろ寝るわ」
アリアが立ち上がる。
「私もー。今日は疲れちゃった」
ロッテも大きく伸びをした。
「おう。おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみー!」
二人がそれぞれの部屋へ向かい、リビングには俺だけが残された。
静かな夜だった。
テレビは消えており、聞こえてくるのは空調の小さな作動音くらいだ。
「……ふぅ」
俺はソファから立ち上がり、窓際へと歩いていく。
シャッ。
カーテンを開くと、そこには夜の学園都市が広がっていた。
無数の明かりが灯る建物。
整然と並ぶ道路。
遠くに見える高層ビル群。
昼間とはまた違った、美しい光景だった。
(……綺麗だな)
素直にそう思う。
だが、この街の裏側には、決して綺麗とは言えないものも存在している。
学園都市の暗部。
能力開発の裏で行われている非人道的な研究。
そして、統括理事長アレイスターの存在。
(……さて、どうしたもんかね)
俺達は、あくまで帰還方法を探すためにここへ来た。
原作の事件に積極的に介入するつもりはない。
だが、もし目の前で誰かが危険な目に遭っていたら、見捨てることもできないだろう。
……まあ、その時はその時だ。
「……さて、と」
いよいよ明日は能力測定。
学園都市での最初の大仕事になる。
今日はさっさと休んで、明日に備えるとしよう。
そう思った、その時だった。
ピクリ。
「……ん?」
不意に超直感が反応した。
ほんの一瞬。
何かが引っかかったような感覚。
俺は窓の外へ視線を向ける。
「…………」
しかし、特に異常は見当たらない。
誰かに狙われているような気配もない。
(……何だ、今の?)
気のせい……とは思えない。
だが、何に反応したのかまでは分からなかった。
「……まあ、警戒だけはしておくか」
そう呟き、俺はカーテンを閉めた。
異世界転移に、帰還不能という予想外の事態。
そして学園都市への移動。
ここ最近、色々ありすぎた。
疲れが溜まっているのも事実だろう。
「相棒、今日はもう寝ようぜ」
『ガウ』
肩に乗っていたヒッツが小さく鳴く。
俺はその頭を軽く撫でると、自分の部屋へと向かった。
◇
翌朝。
ドンドン。
「…………」
……ん?
ドンドン。
「ヒエン、起きろー!」
扉の向こうから声が聞こえる。
ロッテだ。
「今日は能力測定でしょー!」
……ああ。
そうだった。
「……起きてるー?」
「今起きたー」
「それ、起きてなかったってことじゃん!」
「細かいことは気にするなー」
「もう!」
扉の向こうから呆れた声が聞こえてきた。
俺は身体を起こし、時計を見る。
午前七時。
……早い。
いや、普通か。
最近は色々あって、少し生活リズムが乱れていたからな。
俺はベッドから抜け出し、洗面所で顔を洗う。
それから着替えを済ませ、リビングへ向かった。
「おはよう」
アリアが声をかけてくる。
「おはよー!」
ロッテも手を振った。
「おはようさん」
俺は軽く挨拶を返し、テーブルへ目を向ける。
そこにはトーストに卵料理、サラダ、そして飲み物が並んでいた。
「おっ、美味そう」
「簡単なものだけどね」
「アリアが作ったのか?」
「ええ」
「ありがとな」
席に着き、早速朝食をいただく。
……うん。
普通に美味い。
「美味いな、これ」
「そう? よかったわ」
アリアが少し嬉しそうに微笑んだ。
ロッテも満足そうに食事を進めている。
こういう何気ない時間があると、少し気持ちが落ち着くな。
……まあ、今日はこの後が問題なんだけど。
◇
朝食を終え、出発の準備を整えた頃。
ピンポーン。
インターホンが鳴った。
「ん?」
モニターを確認すると、そこには五和の姿が映っていた。
『おはようございます』
「おはよう」
『お迎えに上がりました』
時計を見る。
午前八時四十分。
約束より少し早いが、ちょうど準備も終わったところだ。
「了解。すぐ行くよ」
『はい。お待ちしています』
通信を切り、二人へ声をかける。
「よし、行くか」
「ええ」
「……面倒くさーい」
ロッテが露骨に嫌そうな顔をする。
「まあまあ。終わったら何か美味いものでも食べに行こうぜ」
「本当!?」
「おう」
「よし! 頑張る!」
……現金な奴である。
まあ、気持ちは分かるけどな。
こうして俺達は、五和と共に能力測定施設へと向かった。
◇
「……でかっ」
施設を目の前にした瞬間、思わずそんな言葉が漏れた。
「大きいね……」
ロッテも目を丸くしている。
そこにあったのは、巨大な研究施設だった。
複数の建物が連なり、その周囲には厳重な警備設備が設けられている。
敷地内を行き交う研究員達の姿も多い。
どうやら、相当な規模の施設らしい。
「こちらです」
五和の案内で建物の中へ入る。
受付で必要な確認を済ませ、研究員の案内に従って廊下を進んでいく。
……のだが。
(……見られてるな)
先ほどから、妙に視線を感じる。
すれ違う研究員達が、ちらちらとこちらを見ているのだ。
「……見られてるわね」
アリアが小声で呟く。
「見られてるね」
ロッテも同意する。
「まあ、仕方ないだろ」
俺は肩を竦めた。
「原石らしい三人組が来たんだから、興味を持たれて当然だって」
「……それにしたって、露骨じゃない?」
「まあなぁ」
俺も苦笑する。
ちなみに、リーゼ姉妹は現在、人間の姿でいる。
使い魔としての本来の姿は、必要になった時だけ見せる予定だ。
いきなり姿を変えて余計な注目を集めるのも避けたいしな。
そんなことを考えていると、やがて大きな待機室へ案内された。
「測定の準備が整うまで、こちらでお待ちください」
研究員が頭を下げる。
「分かりました」
俺達が返事をすると、研究員は部屋を後にした。
五和も測定の立ち会いに関する確認があるらしく、一旦席を外すことになった。
待機室には俺達三人だけが残される。
「……結構いるわね」
アリアが呟いた。
「何が?」
「研究員よ」
「ああ、確かに」
廊下ですれ違った人数だけでも相当なものだった。
通常より大規模な測定になるとは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
「今も外にいっぱい人がいるよ」
ロッテが耳を澄ませながら言う。
「聞こえるのか?」
「うん。足音とか、話し声とか」
「流石だな」
感心して頷く。
ロッテの感覚は鋭い。
今は人間の姿だが、それでも普通の人間とは比べものにならない感覚を持っている。
「……大丈夫かしらね」
アリアが小さくため息を吐いた。
「何が?」
「研究員さん達」
「……おい」
何故そっちを心配する。
すると――
コンコン。
待機室の扉が叩かれた。
「失礼します。準備が整いました」
研究員が顔を覗かせる。
「まずは、リーゼロッテ・グレアムさんからお願いします」
「はーい!」
ロッテが元気よく立ち上がった。
「じゃ、行ってくるね!」
「おう。頑張れよ」
「無茶しないようにね」
「分かってるって!」
そう言って、ロッテは研究員について部屋を出ていった。
その背中を見送りながら、俺はふと思う。
(……大丈夫だろうか)
いや、ロッテのことじゃない。
研究員達の方だ。
……まあ、流石に大丈夫だろう。
そう思っていたのだが。
数十分後。
その予感は、見事に的中することになった。
◇
待機室には、俺とアリアだけが残されていた。
「…………」
「…………」
特にやることもない。
アリアは備え付けの雑誌を読んでいる。
俺は窓の外を眺めていた。
学園都市。
こうして実際に来てみると、やっぱり不思議な気分になる。
原作の登場人物達も、今この街のどこかで生活しているのだろう。
御坂美琴。
白井黒子。
初春飾利。
佐天涙子。
そして、上条当麻。
……まあ、今すぐ会いに行くつもりはないけどな。
せっかくの機会だし、いつか会ってみたいとは思う。
そんなことを考えていた、その時だった。
ドォンッ!!
「……ん?」
遠くから鈍い音が響いた。
俺とアリアが同時に顔を上げる。
「……今の何?」
「さあ?」
首を傾げる。
すると、続けて――
ガタンッ!!
何か大きなものが倒れるような音。
そして。
『機材を停止しろ!』
『出力が想定を超えています!』
『測定対象は無事か!?』
廊下の向こうから、慌ただしい声が聞こえてきた。
「…………」
「…………」
沈黙。
アリアがゆっくりと雑誌を閉じる。
「……ロッテかしら?」
「……多分」
いや、絶対そうだろ。
他に何があるというのか。
それから数分後。
待機室の扉が開いた。
「終わったよー!」
入ってきたのはロッテだった。
本人は至っていつもどおり。
怪我もなければ、服が乱れている様子もない。
何の問題もなさそうだ。
……本人は。
問題は、その後ろから現れた研究員達である。
何というか。
疲れていた。
ものすごく疲れていた。
……まだ一人目なんだけど?
「ロッテ、何かあったの?」
アリアが尋ねる。
「ん?」
ロッテが首を傾げた。
「別に?」
……絶対、何かあっただろ。
「本当に?」
「うん!」
満面の笑みで頷くロッテ。
その後ろで、研究員の一人が小さく咳払いした。
「リーゼロッテ・グレアムさんの測定は終了しました。続いて、リーゼアリア・グレアムさんをお願いします」
「あ、はい」
アリアが立ち上がる。
「頑張ってねー!」
ロッテが手を振った。
「ええ。まあ、ほどほどにやってくるわ」
そう言い残し、アリアは研究員について部屋を出ていった。
再び待機室。
今度は俺とロッテだけになる。
「……で?」
「ん?」
「何やったんだ?」
「何って?」
「さっき、すごい音がしてたぞ」
「ああ、あれ?」
ロッテが思い出したように頷く。
「ちょっと殴っただけだよ」
「……何を?」
「測定用の機械」
「……どれくらいの力で?」
「ちょっと」
……信用ならない。
非常に信用ならない答えである。
「……機材、壊したか?」
「二台」
「十分だよ!?」
俺は思わず額を押さえた。
いや、待て。
二台って何だ、二台って。
「だって、力を測るから殴ってくださいって言われたんだもん」
「……まあ、そりゃそうなんだけどさ」
「ちゃんと手加減したよ?」
「……そうか」
手加減して二台か。
……研究員の皆さん、本当に申し訳ありません。
「怒られた?」
「ちょっとだけ」
「……ちょっとで済んだのか」
流石は学園都市。
予備の機材も豊富なのだろう。
……いや、そういう問題じゃない気もするけど。
そんなやり取りをしていると、今度は廊下の向こうから別の声が聞こえてきた。
『……え?』
『何だ、これは!?』
『映像が追えない!』
『対象が複数いるぞ!?』
『いや、待て! どれが本物なんだ!?』
「…………」
「…………」
俺とロッテは顔を見合わせた。
「……アリア?」
「……多分」
今度はそっちか。
俺は深くため息を吐いた。
どうやら、今日の研究員達は相当大変らしい。
◇
それからさらに数十分後。
待機室の扉が開いた。
「終わったわ」
アリアが戻ってきた。
こちらも至って普段どおりである。
……ただし。
その後ろにいる研究員達は、何というか、遠い目をしていた。
……まだ二人目なんだが?
本当に大丈夫だろうか。
「どうだった?」
俺が尋ねる。
「普通よ」
「……本当に?」
「ええ。幻影を見せたり、姿を消したりしただけ」
「……そうか」
それだけで、あの騒ぎになるのか。
まあ、学園都市の測定機器がどこまで対応できるかは分からないけど。
「それでは、最後に……」
研究員が手元の資料を確認する。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「大空氷炎さん」
「はい」
「お待たせしました。こちらへお願いします」
……ついに俺の番か。
「頑張ってね」
アリアが声をかけてくる。
「機材壊さないようにねー!」
ロッテも手を振った。
「お前が言うな!」
思わずツッコミを入れてしまった。
まったく。
人のことを何だと思ってるんだか。
俺は軽く息を吐き、研究員の後について歩き始めた。
(……さて、どれくらいの出力でやるか)
正直、判断が難しい。
この世界の能力測定が、どの程度の出力を想定しているのか分からないからだ。
いきなり本気を出すわけにはいかないし、かといって何も見せないわけにもいかない。
……まあ、手探りでやるしかないか。
◇
案内された測定室は、想像以上に広かった。
壁際には大量の観測機器。
天井には複数のカメラ。
さらに、ガラス張りの観察室には大勢の研究員達が集まっていた。
……多くない?
明らかに多くない?
「それでは、大空さん。測定を始めさせていただきます」
「了解です」
「まずは、能力発動時の基礎データを確認します。可能な範囲で能力を発動してください」
「分かりました」
俺は軽く頷き、静かに集中する。
さて、と。
今回は、あまり派手な格好にはならないようにしよう。
全身のバリアジャケットを展開する必要はない。
死ぬ気化と籠手だけで十分だ。
「……セットアップ」
小さく呟く。
次の瞬間、身体の奥から死ぬ気の炎が巡り始めた。
そして、両腕に黒い籠手が展開される。
死炎の籠手改〈ヒートグローブ改〉。
普段着のまま籠手だけを装着した、コンタクトフォームだ。
額に炎は灯していない。
だが、出力そのものは真・スピリットフォームと変わらない。
……もっとも、今はそこまで出すつもりもないけどな。
ちなみに、この籠手については能力の副産物ということにしておく。
原石なら、こういう現象が起きても不思議じゃないだろ。
……多分。
きっと。
恐らく。
ピピピピピッ!!
「……ん?」
突然、観測機器が反応した。
観察室がざわつく。
『身体能力に変化を確認!』
『神経系の反応速度も上昇しています!』
『脳波にも変動あり!』
『装備の出現も確認! どういう原理だ!?』
研究員達が慌ただしく端末を操作している。
俺はその様子を眺めながら、首を傾げた。
……そんなに珍しいのか?
いや、まあ、珍しいんだろうな。
俺にとっては普段から使っている力だけど、こっちの世界じゃそうじゃない。
そりゃ驚くか。
「……では、次の測定に移ります」
研究員が少し興奮した様子で告げる。
「まずは炎の出力を確認させてください」
「ああ、分かりました」
俺は右手を前に出した。
そして、掌に意識を集中させる。
ボッ。
オレンジ色の炎が灯った。
大空の炎。
ただそれだけ。
本当に、小さな炎を出しただけだった。
しかし――
『……熱源を確認!』
『通常の燃焼反応と一致しません!』
『エネルギー反応が安定しすぎている……?』
観察室が再び騒がしくなる。
研究員達が何やら議論を始めた。
……うーむ。
これくらいなら大丈夫だと思ったんだけど。
「大空さん、もう少し出力を上げられますか?」
「できますけど……どれくらいまで?」
「まずは現在の二倍程度でお願いします」
「了解」
俺は炎を少しだけ強めた。
すると、計測機器の数値が変化する。
『出力上昇を確認!』
『制御は安定しています!』
『熱量の変化が予測値と一致しません!』
……ああ、なるほど。
どうやら、炎の性質そのものが珍しいらしい。
死ぬ気の炎は、普通の火とは違うからな。
見た目は炎でも、単純な燃焼現象じゃない。
ましてや、大空の炎には調和という特殊な性質まである。
そりゃ、科学的に説明しろと言われても難しいだろう。
「では、次は飛行試験です」
「飛行?」
「はい。飛行能力もお持ちだと伺っていますので」
「ああ、なるほど」
俺は頷いた。
それなら簡単だ。
足元へ炎を巡らせ、背中にオレンジ色の炎を広げる。
次の瞬間、炎が翼のような形を取った。
そして――
フワリ。
俺の身体が地面から浮かび上がる。
そのまま数メートルほど上昇し、空中で静止した。
「……こんな感じでいいですか?」
観察室へ声をかける。
しかし、返事がない。
「……あれ?」
ガラス越しに見える研究員達は、何故か揃って固まっていた。
『……飛んだ』
誰かが呟く。
『……飛びましたね』
別の誰かが答える。
『……飛んだな』
さらに別の研究員が頷いた。
……いや、見れば分かるだろ。
俺はゆっくりと着地する。
「……大丈夫ですか?」
『あ、はい! 問題ありません!』
慌てて返事が返ってきた。
……本当に大丈夫か、この人達。
何となく不安になってきた。
◇
続いて行われたのは、温度変化試験だった。
測定室の中央には、大きな金属ブロックが設置されている。
厚さもかなりある。
どうやら、耐久試験も兼ねているらしい。
「こちらの対象へ、凍結能力を使用してください」
「了解です」
「可能な範囲で構いませんので、出力を確認させてください」
「分かりました」
俺は右手を金属ブロックへ向けた。
さて。
凍結能力なら、あれでいいか。
掌へ炎を集中させる。
「零地点突破・ファーストエディション」
次の瞬間――
パキッ。
小さな音が響いた。
そして。
バキバキバキバキッ!!
金属ブロックの表面が、一瞬にして白く染まった。
凍結。
それも、ただ表面に霜が付いただけではない。
金属そのものが急激に冷却され、厚い氷に覆われていく。
俺は凍結の進行を確認しながら、出力を調整した。
……うん。
これくらいでいいだろう。
そう思っていたのだが。
『対象表面の温度が急低下!』
『マイナス二十度!』
『三十度を下回りました!』
『まだ下がるのか!?』
観察室が騒がしくなる。
どうやら、想定以上の結果だったらしい。
俺はすぐに炎の供給を止めた。
それに伴い、凍結の進行も止まる。
ただし、既に形成された氷が消えるわけではない。
金属ブロックは、すっかり氷に覆われていた。
「……こんなもんでいいですか?」
俺が尋ねる。
しかし、返事がない。
「……あのー?」
数秒後。
『データを保存しろ!』
『解析班に回せ!』
『単純な冷却能力では説明できないぞ!』
『炎を使っていたはずだろう!?』
『どういう原理なんだ!?』
……うん。
何やら大変そうである。
俺は凍りついた金属ブロックを眺めた。
(……ちょっとやりすぎたか?)
いや、でも出力は抑えたんだけどなぁ。
まあ、壊してはいないし。
……大丈夫だろ。
多分。
◇
「……それでは、次の測定へ移ります」
研究員が小さく咳払いした。
何となく、疲れているように見える。
……まだ途中なんだけど、大丈夫だろうか。
「次は身体能力の測定です」
「了解です」
大型の測定機器が運び込まれてくる。
パンチ力。
脚力。
瞬発力。
反応速度。
どうやら、学園都市の技術を使って、身体能力を細かく測定するらしい。
……うーむ。
どうしよう。
全部、得意分野なんですけど。
「まずはこちらへお願いします」
研究員に指定された場所へ移動する。
正面には、衝撃を測定するための装置が設置されていた。
「こちらの測定装置へ、拳を打ち込んでください」
「全力でなくてもいいんですか?」
「はい。まずは安全な範囲でお願いします」
「分かりました」
俺は軽く頷いた。
全力なんて出せるわけがない。
本気で殴ったら、測定機どころか施設まで壊しかねないからな。
俺は軽く拳を握る。
そして、死ぬ気の炎をほんの少しだけ強めた。
あくまで測定用。
出力はかなり抑えている。
「……よし」
軽く踏み込み、拳を突き出す。
ドンッ!!
鈍い衝撃音が響いた。
そして――
「……あ」
思わず声が漏れた。
測定機の中央部分が、見事に凹んでいた。
……かなり凹んでいた。
「…………」
「…………」
俺と研究員が無言で見つめ合う。
数秒後。
「……すまん」
反射的に謝ってしまった。
研究員は額を押さえる。
「……いえ」
少し間を置いて。
「予備がありますので……」
「……本当にすみません」
何だか申し訳なくなってきた。
……うん。
次はもっと手加減しよう。
いや、十分手加減したつもりだったんだけどなぁ。
◇
その後も、身体能力測定は続いた。
脚力。
瞬発力。
持久力。
いずれも、研究員達の予想を大きく上回る結果になったらしい。
……いや、俺としてはかなり抑えているんだけど。
そして、次に行われたのが反応速度の測定だった。
「こちらへお願いします」
測定室の中央へ案内される。
周囲には、複数の発射装置が設置されていた。
「これから様々な方向から模擬弾を発射します。可能な限り回避してください」
「了解です」
「なお、危険を感じた場合はすぐに中断してください」
「分かりました」
俺は軽く頷き、構えを取った。
さて、と。
超直感を使えば、これくらいなら問題ないだろう。
『それでは、開始します』
開始の合図が鳴った。
次の瞬間。
パシュッ!
右。
俺は僅かに身体を傾ける。
模擬弾が頬の横を通り過ぎた。
パシュッ!
左後方。
軽く足を引いて回避。
パシュッ!
上。
頭を下げる。
パシュパシュパシュッ!!
今度は複数方向からの同時攻撃。
俺は一歩踏み込み、身体を捻りながら弾道の隙間を抜けた。
さらに続く攻撃。
右。
左。
背後。
上方。
死角からも容赦なく模擬弾が飛んでくる。
だが――
(……見える)
超直感。
それは単純な未来予知ではない。
相手の動きや周囲の状況から危険を察知し、攻撃の兆候を捉える。
そして、その情報を瞬時に判断へと結びつける。
もちろん、全ての攻撃を無条件で回避できるわけではない。
だが、今回のような試験なら十分だ。
俺は次々と飛来する模擬弾を、最小限の動きで回避し続けた。
そして――
『……測定終了です』
「……ふぅ」
俺は構えを解いた。
どうやら終わったらしい。
指定された位置へ戻り、観察室を見上げる。
「……どうでした?」
返事がない。
……あれ?
さっきまであんなに騒がしかったのに。
妙に静かである。
「……何か問題でも?」
俺が尋ねると、研究員達が顔を見合わせた。
『い、いえ……少々予想外だっただけです』
「……そうですか」
まあ、問題ないならいいか。
そう思っていたのだが。
『……未来予知ではないな』
観察室の奥から、小さな声が聞こえた。
年配の研究員らしい。
『はい。少なくとも、一般的な予知系能力の反応とは異なります』
『演算による予測とも考えにくい』
『だが、感覚強化だけで説明できるのか?』
『……分からん』
研究員達が何やら議論している。
どうやら、超直感について話しているらしい。
……まあ、そうなるよな。
そもそも、俺自身だって超直感の仕組みを科学的に説明しろと言われたら困る。
こればかりは感覚的な部分も大きいし。
何より、学園都市の超能力とは根本的に違うものなのだから。
◇
それからも、いくつかの測定が続いた。
炎の制御精度。
凍結範囲の調整。
複数の標的に対する同時攻撃。
防御能力。
どれも普段から使っている技術ばかりだったが、研究員達にとっては珍しいものだったらしい。
そのたびに観察室が騒がしくなり、測定機器の数値が何度も確認されていた。
……いや、本当に大変そうだな。
そんなことを考えていると、ようやく研究員から声がかかった。
「大空さん」
「はい?」
「最後に、総合測定を行わせていただきます」
「総合測定?」
「はい。これまでの測定結果を踏まえ、複数の能力を組み合わせた際の制御性能を確認します」
「なるほど」
つまり、炎や氷、身体能力などを組み合わせて使ってみろということか。
……うん。
それなら、普段からやっていることだな。
「分かりました」
俺は軽く頷いた。
「それで、何をすればいいんですか?」
「これから複数の測定装置を同時に起動します。指定された条件に従って能力を使用してください」
「了解です」
俺は軽く肩を回した。
ようやく最後か。
正直、結構長かったなぁ。
これが終われば、ようやく帰れる。
……いや、帰るって言っても、マンションにだけど。
そんなことを考えながら、俺は指定された位置へ移動した。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
この総合測定こそが、研究員達にとって最大の難題になるということを。
ヒエンside END
◆◆◆
第三者side
学園都市。
とある研究施設の観察室。
「……どう思う?」
一人の研究員が、周囲へ問いかけた。
その視線の先には、これまでの測定結果が映し出された大型モニターがある。
炎熱。
凍結。
飛行。
身体能力の強化。
反応速度。
そして、特殊なエネルギー制御。
いずれも、通常の能力測定では考えにくい結果を示していた。
「……単純な発火能力ではありませんね」
一人の研究員が口を開く。
「炎を発生させるだけでなく、その形状や出力を自在に制御しています」
「それに、凍結能力も確認されています」
「しかし、通常の温度操作能力とも異なる」
「身体能力の強化についてはどうだ?」
「神経系や筋肉の反応に変化は確認できています。ただ、それだけで今回の数値を説明するのは困難です」
次々と意見が飛び交う。
だが、誰も明確な結論を出せずにいた。
「……一体、何系統の能力なんだ?」
誰かが呟く。
しかし、その問いに答えられる者はいなかった。
そもそも、学園都市の能力者は通常、一人につき一つの能力を持つ。
その能力を応用することで、複数の現象を引き起こすことはある。
だが、今回の測定対象はどうだろうか。
炎を操り、氷を生み出し、空を飛ぶ。
さらには、常人離れした身体能力と反応速度まで備えている。
それらが全て一つの能力に由来していると考えるには、あまりにも幅が広すぎた。
「……原石、か」
年配の研究員が呟いた。
その言葉に、室内が静まり返る。
原石。
能力開発を受けることなく、生まれつき特殊な力を持つ天然の能力者。
世界でも極めて珍しい存在であり、その能力の仕組みには未解明な部分が多い。
「……確かに、原石ならば通常の能力理論に当てはまらない部分があっても不思議ではありません」
「しかし、それだけで説明がつくのか?」
「少なくとも、現時点では他に適切な分類がありません」
研究員達が考え込む。
今回の測定対象は、大空氷炎だけではない。
リーゼアリア・グレアム。
リーゼロッテ・グレアム。
この二人についても、既に通常の能力者とは異なる結果が確認されていた。
幻影や認識阻害を扱うリーゼアリア。
そして、極めて高い身体能力と機動力を発揮するリーゼロッテ。
いずれも、強能力者に相当する可能性が高い。
だが――
「……問題は、大空氷炎だな」
責任者が口を開いた。
モニターに表示されたデータへ視線を向ける。
「現時点で確認されている能力だけでも、相当なものだ」
「はい。しかも、本人は出力を抑えている可能性があります」
「……何?」
「測定中の様子から判断すると、まだ余力を残しているように見えました」
その言葉に、室内が再び静まり返る。
もし、それが事実なら。
今回確認された数値ですら、彼の本来の実力の一部にすぎないということになる。
「……総合測定の結果を待とう」
責任者が静かに告げた。
「全てのデータが揃い次第、上層部へ報告する」
「了解しました」
研究員達が頷く。
能力測定は、まだ終わっていない。
だが、この場にいる何人かは既に予感していた。
もし、この測定結果が正しいのであれば。
学園都市に、新たな超能力者が誕生するかもしれない。
現在、学園都市に存在するレベル5は七人。
その人数が、近いうちに変わる可能性があるのだ。
そして――
後日、全ての測定結果と総合評価を経て、三人の能力者が正式に認定されることになる。
リーゼアリア・グレアム。
レベル4。
幻影黒猫〈ファントムキャット〉。
リーゼロッテ・グレアム。
レベル4。
迅影黒猫〈シャドウキャット〉。
そして――
大空氷炎。
レベル5。
氷凍炎焔〈アイスフレイム〉。
学園都市に誕生した、八人目の超能力者。
その存在が、今後この街にどのような影響を及ぼすのか。
この時点では、まだ誰にも分からなかった。
他の測定については次回、簡単に説明しやす。
では、また( ゚д゚ )クワッ!!