続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
「……で、まだ続くんですか?」
思わず、そんな言葉が口から出た。
現在、俺達は学園都市のとある研究施設にいる。
理由はもちろん、能力測定だ。
既に基礎的な能力から身体能力、反応速度に至るまで、色々と調べられたわけだが、どうやら最後に総合測定が残っているらしい。
いや、まあ、必要なことだってのは分かるんだけどさ。
正直、そろそろ腹が減ってきた。
『ガウ』
俺の肩に乗ったヒッツも、小さく鳴いて同意する。
「だよなぁ、相棒。終わったら何か食べに行こうぜ」
『ガウッ!』
「ヒエン、また食べ物のこと考えてるでしょ?」
隣から呆れた声が聞こえた。
リーゼアリアだ。
ちなみに、先ほどまで別室で待機していた二人も、総合測定の前に合流している。
「いやいや、腹が減っては戦ができぬって言うだろ?」
「今は戦ってないじゃない」
「それはそう」
「認めるの早いね……」
リーゼロッテが苦笑する。
まあ、実際そのとおりだしな。
そんなやり取りをしていると、白衣を着た研究員がこちらへ歩いてきた。
「お待たせしました。それでは、最後の測定に移りたいと思います」
「了解です」
俺は軽く返事をして立ち上がった。
さて、と。
ここからは少し気をつけないとな。
何しろ、ここは学園都市。
科学技術が発達した巨大な都市であると同時に、色々と厄介な事情を抱えた場所でもある。
特に――
(……アレイスター)
頭に浮かんだ名前を、すぐに意識の奥へ押し込める。
あの人物がどこまでこちらを把握しているのかは分からない。
だが、少なくとも俺から余計な情報を与えるつもりはなかった。
だから、今回の測定でも使うのは死ぬ気の炎と、その応用だけ。
魔力を用いた魔法については極力伏せる。
もっとも、死ぬ気の炎だって、この世界の超能力とは根本的に異なるものなんだけどな。
「では、大空さん。こちらへお願いします」
「分かりました」
俺は指定された位置へ移動した。
正面には、先ほどまでの測定とは異なる、頑丈そうな装置が設置されている。
観察室には複数の研究員が集まり、こちらを注視していた。
「これから能力の出力と制御精度を確認します。まずは安全な範囲で能力を発動してください」
「了解です」
軽く息を吐く。
先ほどの測定では既にコンタクトフォームを披露しているが、現在は一度解除している。
俺は改めて意識を集中させた。
「コンタクトフォーム」
その瞬間、両腕に黒い籠手が展開される。
死炎の籠手改〈ヒートグローブ改〉。
全身のバリアジャケットは展開しない。
普段着のまま、籠手だけを装着した状態。
これがコンタクトフォームだ。
死ぬ気化と籠手の展開を組み合わせた形態であり、出力そのものは真・スピリットフォームと変わらない。
もちろん、だからといって常に全力を出しているわけではない。
今は必要最低限の出力に抑えている。
「……先ほどと同じ装備ですね」
研究員が興味深そうに端末を操作する。
「こちらも能力によって生成されたもの、という認識でよろしいでしょうか?」
「ええ、まあ。そんな感じです」
嘘は言っていない。
全部を説明していないだけだ。
「では、まず出力を抑えた状態で、標的に攻撃をお願いします」
「はい」
俺は右手にオレンジ色の炎を灯した。
大空の炎。
その炎を小さく収束させ、正面の標的へと向ける。
「フレアレイ」
放たれた炎弾が、測定用の標的へ命中する。
ドンッ!
鈍い衝撃音が響いた。
装置に表示された数値を見て、研究員達が何やら話し始める。
「出力は安定していますね」
「熱量だけでは説明できない衝撃も確認できます」
「先ほどの測定結果とも一致しています。やはり単純な発火能力ではなさそうですね」
研究員達が端末を操作しながら議論を続ける。
俺はその様子を眺めながら、内心で少し安心した。
(……よし。とりあえず問題なさそうだな)
もっとも、これはかなり抑えた出力だ。
こんなところで本気を出して施設を壊したら、後が面倒だし。
「次は制御精度を確認します。複数の標的を同時に狙っていただけますか?」
「了解」
正面に五つの標的が現れる。
それぞれ位置も高さも異なっていた。
俺は右手を構え、炎を分割する。
「フレアレイ」
五発の炎弾が同時に出現した。
それぞれが異なる軌道を描き、指定された標的へ飛んでいく。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
五つの着弾音が、ほとんど間を置かずに響いた。
「……全弾命中」
「着弾までの時間差も極めて小さいですね」
「五つの攻撃を同時に制御しているのか……?」
研究員達が端末を確認する。
「これほどの同時制御を、特別な補助装置なしで……」
(……いや、補助してくれてるんだけどな)
ちらりとヒッツを見る。
『ガウ?』
(何でもない。ありがとな、相棒)
『ガウッ!』
小さく尻尾を振るヒッツ。
相変わらず頼りになる相棒である。
もちろん、制御そのものを全部任せているわけじゃない。
俺自身の魔力操作やマルチタスク能力も関わっている。
もっとも、今回使っているのは死ぬ気の炎なので、魔法としての制御を見せているわけではないが。
それでも、相棒の補助があると細かい調整がしやすいのは確かだ。
その後も、いくつかの測定が続いた。
炎の出力調整。
氷の形成。
複数対象への同時攻撃。
いずれも、俺にとっては普段から使っている技術だ。
ただし、今回は威力よりも精度を重視している。
大きな力を見せるだけなら簡単だが、どれだけ細かく制御できるかも重要だからな。
「それでは、次は防御性能を確認させてください」
「防御ですか?」
「はい。こちらから段階的に出力を上げた攻撃を行いますので、能力によって防いでください」
「分かりました」
俺は軽く頷いた。
さて。
防御なら色々と方法はある。
ラウンドシールドやラウンドディフェンダーを使うこともできるが、今回は魔法を伏せている。
となれば、死ぬ気の炎で対応するのが無難だろう。
俺は右手を軽く振り、大空の炎を正面へ広げた。
零地点突破の応用による、エネルギーの中和。
大空の炎が持つ調和の性質を利用し、攻撃の威力を軽減する。
ただし、何でも無条件に無効化できるわけではない。
相手の攻撃の性質や出力によっては、対応しきれない場合もある。
「準備はよろしいですか?」
「いつでもどうぞ」
装置から光弾が発射された。
それが炎に触れた瞬間、勢いを失って霧散する。
「……え?」
研究員が目を瞬かせた。
「攻撃エネルギーの一部が減衰しています。熱への変換……ではない?」
「出力を上げます!」
続けて放たれる光弾。
しかし、結果は同じだった。
俺はその場から一歩も動かず、攻撃を受け止め続ける。
(……まあ、これくらいなら問題ないか)
大空の炎による調和。
その性質を利用すれば、相手の攻撃を中和したり、性質を変化させたりすることができる。
もっとも、相手の攻撃が強力であればあるほど、こちらにも相応の出力や制御が求められる。
今回の攻撃は、まだ十分に対応できる範囲内だった。
「……大空さん」
「はい?」
「今の防御は、どのような原理なのでしょうか?」
「えーっと……俺の炎には、相手のエネルギーを中和する性質があるんですよ」
「中和……」
研究員が考え込む。
その隣では別の研究員が、何やら難しそうな数式を端末に入力していた。
(……これ、説明が難しいんだよなぁ)
死ぬ気の炎と魔法は別物だ。
それに、学園都市の超能力とも根本的に仕組みが違う。
だから、彼らがどう解釈するのかは分からない。
まあ、そこは専門家に任せよう。
変なことにならなきゃいいけど。
◇
それからしばらくして。
「以上で、大空さんの総合測定は終了となります」
「おお、終わった!」
思わず両手を上げる。
長かった。
いや、本当に長かった。
「お疲れさま、ヒエン」
「お疲れー!」
リーゼアリアとリーゼロッテが声をかけてくれる。
「ありがとな。いやー、腹減った!」
「結局それなんだ……」
「だって腹減ったもん」
そう言うと、二人は顔を見合わせて笑った。
「では、続いてお二人の最終確認を行います」
「分かりました」
「はーい!」
リーゼアリアとリーゼロッテが研究員に続いて移動する。
俺は邪魔にならない位置まで下がり、二人の測定を見守ることにした。
まずはリーゼアリア。
彼女の得意分野は、幻影を利用した攪乱だ。
後に学園都市側から『幻影黒猫〈ファントムキャット〉』という能力名を与えられることになる。
「それでは、開始してください」
「分かりました」
アリアが軽く頷く。
次の瞬間。
測定用の空間に、複数の彼女の姿が現れた。
「……三人?」
「いや、四人です!」
「待ってください。こちらのセンサーでは五人と表示されています!」
研究員達が驚いたように画面を確認する。
俺は思わず笑みを浮かべた。
(……おお、やってるやってる)
幻影は、ただ姿を見せるだけじゃない。
相手の認識を惑わせ、どれが本物なのか判断しづらくする。
さらに、光学迷彩や認識阻害を組み合わせれば、視覚情報だけを頼りに見破るのは困難だ。
もっとも、俺の場合は超直感があるので、見破ること自体は難しくない。
だからといって、彼女の技術が低いわけじゃない。
実戦では、一瞬の判断の遅れが勝敗を分けることもある。
そういう意味で、実に厄介な能力だ。
「続いて、リーゼロッテさん」
「はい!」
今度はリーゼロッテの番だ。
彼女の得意分野は、速度と機動力。
こちらも後に『迅影黒猫〈シャドウキャット〉』という能力名を与えられることになる。
「それでは、開始してください」
「はーい!」
測定開始の合図とともに、彼女の姿が視界から消えた。
「速い!」
研究員の一人が声を上げる。
次の瞬間には、離れた位置に設置された標的の前へ移動していた。
そして、軽やかな動きで次々と指定地点を通過していく。
壁を蹴り、空中で身体を捻り、着地と同時に方向転換。
その動きには、ほとんど無駄がない。
(……相変わらず身軽だなぁ)
あの二人は、それぞれ得意分野が違う。
アリアは幻影や認識阻害による攪乱。
ロッテは速度と身体能力を活かした近接戦闘。
だからこそ、互いの長所を活かした連携もできるわけだ。
やがて、リーゼロッテの測定も終了した。
「お疲れ、二人とも」
「うん!」
「ヒエンもね」
「よし! じゃあ飯に――」
「まだ結果発表が残ってるでしょ」
「……そうでした」
リーゼアリアに指摘され、俺は肩を落とした。
ううむ。
飯への道のりは遠い。
◇
それから、さらにしばらく待たされた後。
俺達は別室へと案内された。
そこには先ほどの研究員達が集まっており、正面の大型モニターには測定結果が表示されていた。
……何というか。
皆さん、少し疲れてません?
いや、原因は何となく分かるんだけどさ。
「それでは、今回の測定結果についてご説明します」
代表らしい研究員が口を開いた。
「まず、リーゼアリアさんとリーゼロッテさんについてですが、お二人とも非常に優秀な能力をお持ちです」
「ありがとうございます」
「えへへ」
「総合的な評価として、お二人は強能力者――レベル4に相当すると判断しました」
モニターに二人の名前が表示される。
リーゼアリア・グレアム。
レベル4『幻影黒猫〈ファントムキャット〉』。
リーゼロッテ・グレアム。
レベル4『迅影黒猫〈シャドウキャット〉』。
「レベル4って、結構すごいんですよね?」
ロッテが尋ねる。
「はい。学園都市でも上位に位置する能力者です」
「へぇー!」
嬉しそうに声を上げるロッテ。
アリアも満足そうに微笑んでいる。
「二人とも、おめでとう」
「ありがとう、ヒエン」
「ありがとー!」
俺も素直に祝福する。
レベル4。
学園都市でも相当な実力者として扱われる階級だ。
もちろん、二人の本来の力がそれだけで測れるわけじゃない。
だが、こちらの世界で生活するうえでは、十分な評価だろう。
「それでは、続いて大空氷炎さん」
「はい」
研究員がこちらへ向き直った。
「あなたの測定結果についてですが……正直に申し上げて、非常に特殊です」
「……はあ」
「炎熱、凍結、身体能力の強化、エネルギーの中和。それらを高い水準で扱いながら、同時に精密な制御を行うことができる」
研究員はモニターを操作した。
「通常の能力分類では、説明が難しい部分もあります。しかし、今回確認できた出力と応用性、そして今後の研究価値を含めて総合的に評価した結果――」
画面が切り替わる。
そこに表示された文字を見て、俺は思わず固まった。
超能力者〈レベル5〉。
第8位。
氷凍炎焔〈アイスフレイム〉。
「…………」
「ヒエン?」
「…………」
「ヒエン、大丈夫?」
アリアが心配そうに覗き込んでくる。
俺はゆっくりと口を開いた。
「……あの」
「はい?」
「レベル5って、七人じゃありませんでしたっけ?」
「これまでは、そうでした」
研究員が頷く。
「しかし、今回の測定結果を受け、あなたを新たな超能力者として認定することが決定しました」
「……マジですか」
「はい」
……いやいやいや。
ちょっと待て。
レベル5って、そんな簡単に増やしていいものなの!?
確かに、能力測定を受ける以上、ある程度の評価は覚悟していた。
でも、まさか八人目になるとは。
(……これ、絶対面倒なことになるやつじゃん)
学園都市のレベル5。
第一位の一方通行。
第二位の垣根帝督。
第三位の御坂美琴。
第四位の麦野沈利。
第五位の食蜂操祈。
第六位は……まあ、色々と謎が多い人物。
そして第七位の削板軍覇。
そこに俺が加わるって?
(……勘弁してくれよぉ)
もっとも、レベル5の順位は単純な戦闘力だけで決まるわけじゃない。
学園都市側の研究価値や応用性など、色々な事情が絡んでいる。
今回、俺が第8位になったのも、既存の七人とは別枠で新たに認定されたからなのだろう。
……それにしたって、目立ちすぎだろ。
そんな俺の心境など知らず、ロッテが嬉しそうに声を上げた。
「すごいじゃん、ヒエン!」
「おめでとう!」
「……あ、ありがとう」
いや、嬉しくないわけじゃないんだけどさ。
それ以上に、嫌な予感がするんだよなぁ。
特に、あの窓のないビルの住人に関しては。
「なお、大空さんについては、通常の能力開発によらない能力者――いわゆる『原石』として扱う方向で調整されています」
「原石、ですか」
「はい。削板軍覇さんと同様、非常に珍しい存在です」
なるほど。
そういう扱いになるのか。
少なくとも、魔導師だの異世界だのと説明するよりは都合がいい。
もっとも、これで全部をごまかせるとは思っていないけど。
「それと、もう一つ確認させてください」
「何でしょう?」
研究員の視線が、俺の肩へ向けられた。
「その小さなライオンについてですが……」
『ガウ?』
ヒッツが首を傾げる。
「ああ、こいつですか?」
「はい。測定中もずっと一緒にいましたが、能力によって生み出された存在なのでしょうか?」
「ええ。俺の能力の副産物みたいなものですね」
「なるほど……自律して行動できるのですか?」
「できますよ。相棒、挨拶」
『ガウッ!』
ヒッツが前足を上げた。
「おお……!」
「可愛い……」
研究員の何人かが思わず笑みを浮かべる。
……うん。
やっぱりヒッツは可愛いよな。
本人に言ったら、どういう反応をするか分からんけど。
「他にも同様の存在がいるのでしょうか?」
「まあ、何体かは」
「もしよろしければ、後日詳しい検査を――」
「あー、すみません」
俺は研究員の言葉を遮った。
「こいつらにも意思がありますし、負担になるような検査は遠慮させてください」
口調は穏やかに。
だが、断る意思だけははっきりと伝える。
ヒッツ達は研究材料じゃない。
俺の大切な相棒であり、仲間なんだからな。
「……承知しました。無理にお願いするつもりはありません」
「ありがとうございます」
研究員が引き下がったのを確認し、俺は小さく息を吐いた。
……よし。
とりあえず、これで一段落かな。
◇
研究施設を出た頃には、すっかり時間が経っていた。
「終わったぁー!」
俺は大きく伸びをする。
外の空気が気持ちいい。
「お疲れさま、ヒエン」
「二人もな。いやー、長かった」
「でも、レベル5だって!」
ロッテが楽しそうに笑う。
「八人目なんでしょ? すごいじゃん!」
「いや、すごいのは分かるけどさ……」
「けど?」
「……絶対面倒だろ、これ」
俺がそう言うと、二人は揃って笑った。
「ヒエンらしいわね」
「せっかくなんだから、もう少し喜べばいいのに」
「いやいや、喜んでるよ? 喜んでるけどさ」
俺は頭を掻いた。
「……まあ、なるようになるか」
『ガウッ!』
「おう、相棒。そうだな」
ヒッツの頭を軽く撫でる。
まあ、今から心配していても仕方がない。
それよりも――
「……あ」
「どうしたの?」
「大事なこと忘れてた」
「何?」
俺は真剣な顔で二人を見た。
「飯、食いに行こうぜ!」
「「……あはははっ!」」
何故か二人に大笑いされた。
……解せぬ。
◇
それからしばらくして。
俺達は学園都市の街中を歩いていた。
道路を走る清掃ロボット。
建物に設置された大型モニター。
行き交う学生達。
見慣れた日本の街並みに似ているのに、どこか未来的な雰囲気が漂っている。
「それにしても、すごい街だよね」
ロッテが周囲を見回しながら言う。
「だな。科学技術だけなら、こっちの世界も相当なもんだよ」
「ヒエン、あれ何?」
「ん?」
アリアが指差した先には、自動で道路を清掃するロボットがいた。
「ああ、清掃ロボットだな」
「へぇ……」
二人とも興味津々だ。
俺も最初に見た時は驚いたけど。
(……そういや、あれって確か)
原作のことを思い出しかけた、その時だった。
「きゃあっ!」
少し離れた場所から、悲鳴が聞こえた。
「ん?」
視線を向ける。
どうやら、荷物を積んだ小型の運搬車両が制御を失ったらしい。
車両が歩道へ乗り上げ、その先には買い物袋を抱えた女性と小さな子供がいた。
「危ない!」
アリアが叫ぶ。
だが、その時には既に俺は地面を蹴っていた。
(……間に合う!)
魔力による身体強化は使わない。
死ぬ気化によって高めた身体能力だけで十分だ。
瞬時に二人の前へ回り込む。
両腕には、先ほど解除したばかりの死炎の籠手改を再び展開する。
「コンタクトフォーム!」
迫ってくる車両。
俺は正面から力任せに受け止めるのではなく、車体の側面へ手を添えた。
足を踏み込み、進行方向をずらす。
同時に、大空の炎を薄く纏わせ、車体にかかる衝撃を和らげる。
ギギギギッ!
車輪が地面を擦る。
車両は横滑りしながら進路を変え、歩道の端で停止した。
「……よし」
周囲を確認する。
巻き込まれた人はいない。
車両も横転していない。
どうやら、上手く止められたようだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます……!」
女性が何度も頭を下げる。
隣の子供も、驚いた顔でこちらを見上げていた。
「怪我は?」
「だ、大丈夫です」
「そっか。よかった」
俺は笑って頷いた。
その時だった。
「ちょっと! 何があったんですか!?」
背後から声が聞こえた。
振り返る。
そこには、二人の少女がいた。
一人は、頭に花飾りをつけた少女。
もう一人は、肩までの黒髪をした少女。
……ん?
あれ?
(……ちょっと待て)
見覚えがある。
いや、ありすぎる。
「初春! こっちこっち!」
「佐天さん、待ってください!」
少女達がこちらへ駆け寄ってくる。
俺は思わず目を瞬かせた。
(……初春飾利と、佐天涙子?)
まさか、こんなところで出会うとは。
いや、学園都市にいるんだから、会う可能性は当然あるんだけどさ。
それでも、いきなり遭遇するとは思わなかった。
「すみません! 何か事故があったみたいですけど、大丈夫ですか?」
初春が心配そうに尋ねてくる。
「ああ、もう大丈夫。怪我人もいないみたいだし」
「そうですか。よかったぁ……」
ほっと胸を撫で下ろす初春。
一方、佐天は停止した車両と俺の籠手を交互に見ていた。
「……あれ?」
「ん?」
「もしかして、お兄さんがあの車を止めたんですか?」
「まあ、一応」
「ええっ!? すごいじゃないですか!」
佐天が目を輝かせる。
「それって能力ですか!?」
「んー、まあ、そんな感じかな」
「へぇー! どんな能力なんですか?」
……おお。
なかなか積極的な子だな。
原作どおりというか、何というか。
「えっと、炎と氷を扱う能力かな」
「炎と氷!?」
佐天が驚いた声を上げる。
「それって二つの能力を使えるってことですか!?」
「いや、一つの能力の応用って感じ」
「へぇー!」
その隣で、初春がふと何かに気づいたように顔を上げた。
「……炎と氷?」
「ん?」
「もしかして……」
初春は俺の顔を見つめる。
そして、少し戸惑いながら尋ねてきた。
「あの、失礼ですけど……お名前を伺ってもいいですか?」
「ああ。大空氷炎っていうんだ。よろしく」
「大空……氷炎……」
初春の目が大きく見開かれた。
「ええええっ!?」
「うおっ!?」
突然の大声に、俺は思わずのけぞる。
「ど、どうしたの!?」
佐天も驚いている。
初春は俺を指差しかけ、慌てて手を引っ込めた。
「さ、佐天さん! この人、もしかして……!」
「え?」
「新しく認定された、八人目のレベル5の……!」
「…………え?」
佐天の動きが止まる。
そして、ゆっくりと俺へ顔を向けた。
「……レベル5?」
「あー……」
俺は頬を掻いた。
……うん。
どうやら、もう情報が出回り始めているらしい。
(……早くない!?)
思わず空を仰ぐ。
とはいえ、初春は風紀委員〈ジャッジメント〉の一員だ。
一般にはまだ知られていなくても、能力者に関する情報が関係部署へ伝わっている可能性はある。
……いや、それにしたって早いだろ。
「えっ、ちょっと待ってください!」
佐天が慌てて声を上げる。
「お兄さん、レベル5なんですか!?」
「……まあ、今日そう言われたばかりなんだけどな」
「今日!?」
佐天がさらに驚く。
初春も、こちらを見つめたまま固まっている。
……ああ、うん。
何となく分かってきた。
これ、絶対に話が長くなるやつだ。
『ガウ』
肩に乗ったヒッツが小さく鳴いた。
(……相棒)
俺は心の中で呟く。
(なんか、早速面倒なことになりそうだぞ)
『ガウッ』
……何でそんなに楽しそうなんだよ。
こうして俺は、学園都市に来て早々、思いがけない出会いを果たすことになったのだった。
……いや、まだ何も起きてないけどな?
多分。
きっと。
そうだといいなぁ……。
また投稿しやすー。