大空の炎の力を操る転生者   作:Gussan0

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どうもΣ(゚Д゚)

今回、趣向を変えてモノマネさせてみました。

では、どうぞ∠( ゚д゚)/


IFシリーズ
もしもスパロボ世界にいたら……


ヒエンside

 

 今日の俺は、至って平和である。

 

 仕事を終わらせ、昼食前には、新しく顔を合わせた人たちとも挨拶をした。

 

「兜甲児だ。噂の魔法使いって、あんたか?」

「ヒエン・オオゾラです。噂の内容によっては、ちょっと訂正したいところが……」

 

 答えると、甲児さんが笑った。

 隣にいた女性も、口元を緩める。

 

「弓さやかです。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 もう一組は、獅子王凱さんと、卯都木命さん。

 

「魔法で救助や治療も手伝っていると聞いた。俺たちとも、何か協力できるといいな」

 

 凱さんの言葉に、俺は頷いた。

 

「はい。俺も、皆さんが普段どんなことをしているのか聞いてみたいです」

「それなら、少しずつ話そう」

 

 命さんも、微笑んで頷いてくれた。

 

 そんなふうに、新しい知り合いが増えた昼だった。

 

 食堂の隅で、相棒とナハトに囲まれながら、休憩していた。

 

「ほら、ナハト。そっちはお前の分。相棒のを取らない」

「きゅう」

 

 白い小狐が、皿の前で座り直す。

 ヒッツは自分の分を確かめてから、俺を見上げた。

 

「ガウ?」

「うん。今日は皆の分もある。出してやってくれ」

 

 ヒッツが大きく口を開く。

 そこから、小さなライオンたちが次々に飛び出した。

 

 アカッツ、アオッツ、ミドッツ、キッツ。

 リボンを揺らすムッツとアイッツ。

 最後にピッツが降り立ち、先にお菓子へ向かいかけたアカッツを、前脚で止める。

 

「ガウ」

「ガォ……」

 

「そうそう、順番。ピッツ、ありがとな」

 

 小さく分けたお菓子を、それぞれの皿へ置いていく。

 七匹が食べ始めると、ナハトも自分の皿へ顔を寄せた。

 

 その様子を見て、俺はつい笑った。

 

「何か、配給担当になった気分だな」

 

 変身魔法を応用し、姿はそのまま、声だけを変える。

 聞き覚えのある、ゼロの仮面越しの声。

 その響きに合わせて背筋を伸ばした。

 

「――諸君。最後の一枚を巡って争う必要はない。私が食べれば、問題は解決する」

 

 ゼロを真似て、片手を胸の前へ上げた。

 

 ピッツの耳が動く。

 ヒッツが口元を押さえるように前脚を上げ、ナハトは「きゅっ」と短く鳴いた。

 

 声を自分のものへ戻し、相棒たちを見る。

 

「どう? 声が同じでも、台詞でだいぶ違うだろ?」

 

 すぐ後ろから、吹き出す音がした。

 

* * *

 

「……お前、何やってんだよ」

 

 振り返ると、デュオがいた。

 片手には飲み物。もう片方の手で、口元を覆っている。

 

「モノマネ。こいつら、結構反応してくれるんだよ」

「今の、ゼロか?」

「変身魔法の応用。声だけ借りて、話し方は俺が真似してる」

 

「魔法を、そんなことに使ってんのかよ……」

 

 呆れた声だったが、デュオの口元はまだ緩んでいた。

 

 デュオが空いている椅子へ腰を下ろす。

 通りかかったガロードまで、何だ、と覗き込んだ。

 

「他にもできるのか?」

「聞いたことのある人なら。ほら」

 

 ヒイロの声へ切り替え、表情を消す。

 視線をまっすぐ前へ置き、言葉を短く切った。

 

「任務了解。プリンを確保する」

 

 デュオの肩が、びくっと動いた。

 

「……おい」

 

「障害は排除した。残る問題は、スプーンだ」

 

「やめろって! 何でそこだけ真剣なんだよ!」

 

 ガロードまで俯いている。

 アカッツが、楽しそうに前脚を上下させた。

 

 おお。好評。

 

「じゃあ、次。絶対に本人が言わないシリーズ」

「最初から言わねえよ、あいつは!」

 

 デュオに突っ込まれつつ、一度、自分の声へ戻した。

 

* * *

 

「じゃあ、まずキラ」

 

 声を切り替え、少し困ったように眉を下げる。

 

「アスラン。僕はもう決めたんだ」

 

 隣のテーブルで、シンが顔を上げた。

 ルナマリアも、こちらを見る。

 

「今日から、面倒な仕事は全部アスランに任せる」

 

 シンが、口へ運びかけたスプーンを止める。

 

「僕は君を信じてる。だから、僕の分の当番表にも、君の名前を書いておいたよ」

 

「信じるって、そういう意味じゃないでしょ……!」

 

 ルナマリアが口元を押さえた。

 俺は間を置かず、アスランさんの声へ変える。

 

「キラ。俺は、こんなことをするために戻ってきたんじゃない」

 

 少し声を低くし、机へ手を置いた。

 

「お前の部屋の掃除まで、当番表に入れるな!」

 

 ガロードが、とうとう声を上げて笑った。

 デュオは顔を片手で覆っている。

 

「一人で喧嘩させんなよ……!」

 

「次、シン」

「俺!?」

 

 本人が近くにいたので、一度目を合わせてから声を借りる。

 

「あんたって人はぁっ!」

 

 シンと、同じ声が響いた。

 

「ヨーグルトの蓋についたところまで、全部持っていく気かよっ!」

 

 ルナマリアが俯いた。

 シンは一瞬黙って、それから眉を寄せる。

 

「何で、そんなことで怒るんだよ!」

 

 その本物の声で、デュオの肩がさらに揺れた。

 

「今の、どっちが喋ったんだ……!」

 

 俺は自分の声へ戻し、両手を広げる。

 

「声は同じ。台詞だけ違う。そこが大事」

「大事にするところ、そこか!?」

 

* * *

 

 こちらの様子に気づいたロックオンが、少し離れた席から顔を向けた。

 フェルトも、その隣にいる。

 

 俺は真顔になり、刹那の声へ変えた。

 

「刹那・F・セイエイ。買い出しへ向かう」

 

 ロックオンの眉が、ぴくりと動く。

 

「目的は特売。卵は、一人一パックまでだ」

 

 右手を、ぐっと握る。

 

「俺一人では……二パック買えない」

 

 ロックオンが、口元を押さえて横を向いた。

 フェルトは目を伏せ、肩を小さく揺らしている。

 

「……それは、そうね」

 

 その返事が聞こえ、俺も笑いそうになった。

 けれど、声は次へ切り替える。

 

「君たちには、失望した」

 

 ティエリアの声で、周りを見渡した。

 

「休憩時間に仕事の話を持ち込むとは。今、僕は昼寝の予定を遂行している」

 

「してないだろ! 目、開いてんぞ!」

 

 デュオが突っ込む。

 ロックオンは、もうこちらをまともに見られなくなっていた。

 

「お前な……あいつに聞かれたら、今の説明を求められるぞ」

 

「ちゃんと説明するよ。絶対言わないシリーズです、って」

「それで納得すると思うか?」

 

 ……しない気もする。

 

 けれど、ガロードがまだ笑っていたので、俺は続けた。

 

 今度は、アムロさんの落ち着いた声。

 

「僕にも見える。冷蔵庫の奥に隠した、君のプリンが」

 

 人差し指で、遠くを示す。

 

「名前を書いても無駄だ。もう、スプーンは用意してある」

 

「それ、ただのつまみ食いだろ!」

 

 ガロードが膝を叩く。

 ヒッツは前脚で顔を隠し、キッツとムッツがくっつくように身体を揺らしていた。

 

* * *

 

「……何の集まり?」

 

 かなめと、マオさん、クルツさんが近づいてきた。

 俺は手を振りかけ、そのまま姿勢を正す。

 

「肯定だ。今回の作戦目標は、布団から出ないことにある」

 

 宗介の声。

 

 かなめの足が止まった。

 

「目覚まし時計は、既に無力化した。千鳥にも、俺は不在だと伝えてくれ」

 

「何で、寝坊の報告だけそんなにきっちりしてるのよ……!」

 

 かなめが口元を押さえる。

 クルツさんは、マオさんの肩へ手を置いた。

 

「駄目だ。その声で不真面目なこと言われると……!」

 

 俺は、今度はテッサさんの声へ変える。

 

「皆さん。艦長として、重大なお知らせがあります」

 

 マオさんが、嫌な予感を察したように眉を上げた。

 

「本日から、朝の点呼は、私が起きてから行います」

 

 両手を机へ置き、真剣な顔を作る。

 

「私が二度寝をした場合は、皆さんもお休みください。これは命令です」

 

 クルツさんが、マオさんの肩へ額をつけた。

 

「……それ、実現してほしい……」

「あんたは、笑う前に真面目に起きなさい」

 

 マオさんはそう言ったものの、声の最後が少し震えていた。

 

 ピッツが、俺を見上げる。

 俺は親指を立てた。

 

「大丈夫。今のところ、皆笑ってる」

 

「グル……」

 

 少し、納得していない顔だった。

 

* * *

 

 次はアスカの声へ変える。

 背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。

 

「シンジ先生。あたしに勉強を教えてください」

 

 近くの席で、ミサトさんがカップを置いた。

 

「……ちょっと」

 

「その代わり、おやつは全部あげます。あたし、今日はとっても素直だから」

 

 ガロードが、椅子の背へ身体を預けた。

 

「声と動きが、全然合ってねえ……!」

 

 そこから、シンジの声へ切り替える。

 

「ミサトさん。お話があります」

 

「……今度は、そっち?」

 

 ミサトさんの声へ、首を傾げる仕草で応じる。

 

「今日から、お小遣いは僕が管理します。冷蔵庫のビールも、一本ずつ申請してください」

 

「それは、本人にも言われたくないわね……」

 

 ミサトさんは苦笑していたが、カップを持つ肩は揺れていた。

 

「何の話してるの?」

 

 さらに、アルトとランカさんが来る。

 俺は顔を上げ、シェリルさんの声へ切り替えた。

 

「あたしの愚痴を聞けえっ!」

 

 アルトの目が、見開かれた。

 

「今日は歌わないわよ。買った靴のサイズが合わなかった話を、最初から最後まで聞いてもらうんだから!」

 

 ランカさんが、両手で口を覆う。

 アルトは、困ったような顔で横を向いた。

 

「……妙に、迫力があるな」

 

「声、本当に同じだから……!」

 

 ランカさんの言葉を聞いて、俺はさらに胸を張った。

 

 これは、かなり受けている。

 

 次は、こちらへ飲み物を取りに来たドモンさんに気づき、拳を握る。

 

「この俺の右手が――」

 

 ドモンさんの声に、本人が足を止めた。

 一緒にいたレインさんが、目を丸くする。

 

「――熱い。焼き芋を直接持つべきではなかった」

 

 握った拳を、ゆっくり開く。

 

 レインさんが顔を背けた。

 ドモンさんは黙って俺を見ていたが、やがて、短く言った。

 

「……冷ましてから持て」

 

 その真面目な返答で、デュオがとうとう机へ突っ伏した。

 

「本人が返すなよ……!」

 

 俺は最後に、マスター・アジアの声へ変え、堂々と胸を張る。

 

「よいか、ドモン! まずは洗濯物を畳め! 修行は、それからじゃ!」

 

 ドモンさんの眉が動く。

 

「小僧もじゃ! 靴下を片方ずつにするでない!」

 

 レインさんが、とうとう笑い声を漏らした。

 

「……でも、言われたら、ちゃんとやりそうね」

 

 自分の声へ戻し、俺も頷く。

 

「俺はやる。絶対やる」

 

 言ってから、少し考えた。

 

「……これは、本人も言うかもしれないな」

 

「今さら、そこを確認するのかよ!」

 

 デュオに突っ込まれ、小ライオンズまで一斉に鳴いた。

 

* * *

 

「……また面白そうなことしてんじゃねえか!」

 

 カミナが、シモンとニアを連れて近づいてきた。

 俺は顔を上げ、そのカミナの声へ変える。

 

「いいか、シモン。穴は小さく、予定は細かく。今日は慎重に、一歩ずつだ」

 

 カミナが、口を開けたまま止まった。

 シモンが、隣で肩を震わせる。

 

「兄貴の声で、それ言うと……!」

 

「おい! 慎重にやる時くらい、俺にだってあるぞ!」

 

 俺は、すかさずシモンの声へ変えた。

 

「兄貴。今日はもう掘らない。俺は、布団から出ないって決めたんだ」

 

 今度はカミナが、声を上げて笑った。

 シモンが、こちらへ身を乗り出す。

 

「何で、俺まで怠ける方なんだよ!」

 

 ニアが二人を見比べ、楽しそうに微笑んだ。

 

「同じ声なのに、いつもと違うお話になるんですね」

 

「そう、それ。言わなそうなことを言うのが、今回の趣旨だから」

 

「じゃあ、私たちもやってみて!」

 

 別の席から、ユリカさんの声がした。

 アキトさんとルリも、こちらへ顔を向けている。

 

「いいんですか?」

「どんなふうになるのか、聞きたいなって」

 

 では、お言葉に甘えて。

 俺は声を借り、きりっと姿勢を正した。

 

「恋愛の話は後にしてください。私は今、書類の方が大切なんです」

 

 アキトさんが、横を向いた。

 ルリは、ユリカさんを見ている。

 

「……それなら、助かります」

「ルリちゃん!?」

 

 続いて、ルリの声。

 顔は、なるべく無表情にする。

 

「本日の艦長は、大変落ち着いています。特に指摘することがなく、少々退屈です」

 

 ルリが一度、瞬きをした。

 ユリカさんの目が輝く。

 

「それ、今度本当に言ってもらいたい!」

「機会があれば」

 

 淡々とした本物の返事に、アキトさんの肩がさらに揺れた。

 

* * *

 

 スレッタとミオリネ、ニカ、チュチュも、少し離れたところへ来ていた。

 

「声だけでも、こんなに変わるんですね……」

 

 スレッタが感心したように言う。

 俺は自分の喉を示した。

 

「姿を変える魔法の応用。話し方は、普段見たり聞いたりしてるのを真似してる」

 

 そのまま、スレッタの声へ切り替えた。

 

「では、皆さん。これから三時間、私のお話を聞いてください。質問は、全部終わってからお願いします」

 

「さ、三時間!?」

 

 本人が、同じ声で聞き返す。

 ニカが口元を押さえ、チュチュは顔を背けた。

 

「ずいぶん堂々としたな、おい……!」

 

 次は、ミオリネの声。

 俺は顎を少し上げた。

 

「スレッタ。面倒なことは、全部任せるわ。私は今日一日、褒めてもらう係だから」

 

 ミオリネの眉が、ゆっくり上がる。

 

「……あんた、それ言わせたいだけでしょ」

 

「違う違う。言わなそうな方向へ寄せた結果だから」

 

「褒めてもらう係って、何するんですか……?」

 

 真面目に考え始めたスレッタへ、ミオリネが向き直る。

 

「何もしないの。今のは冗談!」

 

 デュオが、机へ肘をついたまま俯いた。

 さっきから、笑いを立て直す暇がないらしい。

 

 昼に挨拶した甲児さんたちも、近くの席で見ていた。

 甲児さんが、にっと笑う。

 

「俺のもできるか?」

「声を借りるだけなら。じゃあ……」

 

 声を変え、両手を膝へ置いた。

 

「さやかさん。本日の俺は、一歩も前へ出ません。全部、後ろから応援いたします」

 

 さやかさんが、口元を押さえた。

 甲児さんは一度ぽかんとしてから、こちらを指す。

 

「俺、そんなにかしこまって喋るかよ!」

 

「だから、そこも込みです!」

 

 凱さんも、肩を揺らして笑っていた。

 俺はその顔を見て、また余計に張り切った。

 

「では、凱さんも」

 

 表情を引き締め、あの力強い声へ切り替える。

 

「みんな、ここは俺に任せてくれ!」

 

 命さんが、こちらを見る。

 

「……明日考える。今日はもう、面倒なことは何もしない!」

 

 凱さんが、額へ手を当てた。

 命さんは、口元を覆っている。

 

「同じ声なのに……すごく、違う……!」

 

 凱さんは少し笑ってから、俺へ顔を向けた。

 

「その使い方なら、俺じゃなくてもよさそうだな」

 

「そこが、一番の狙いでして」

 

 俺が胸を張ると、ピッツが前脚で膝を叩いた。

 少し、強く。

 

 ……今、楽しいところなんだけどな。

 

* * *

 

「次は、カレン」

 

 自分で言ってから、その声へ変える。

 腕を組み、余裕のある顔を作った。

 

「今日のヒエンは、文句なしに落ち着いてるわ。あたし、もう一言も注意するところがないくらい」

 

 ガロードが、机へ顔を伏せた。

 シンまで、口元を押さえる。

 

「本人の前じゃ、絶対言えないやつだろ……!」

 

「はい、続いてアンジュ」

 

 今度はその声で、にこやかに微笑む。

 

「私、もう怒らないわ。あんたが余計なことを言ったら、毎回最後まで聞いて、よくできましたって褒めてあげる」

 

 デュオが、片手を上げた。

 

「……お前、それは」

 

「いや、言わないだろ? だから面白いんじゃん」

 

 笑い声に混じって、少し離れたところで椅子の動く音がした。

 俺は、まだそちらを見なかった。

 

 次に借りるのは、ラクスさんの声だ。

 髪も顔も変えないから、見た目はいつもの俺。

 そこへ、あの柔らかな声が重なる。

 

 少し顎を引き、柔らかく微笑んだ。

 

「皆さん。話し合いは、もう面倒ですわ」

 

 ガロードが顔を上げた。

 デュオの口が、開く。

 

「本日の意見の相違は、腕相撲で決着をつけましょう。勝った方には、プリンをもう一つ」

 

 ぶふっ、と音がした。

 

「……ラクスに何言わせてんだ、お前!」

 

 デュオが、飲み物を持った手をテーブルへ置く。

 ガロードは膝へ顔を伏せていた。

 

「声だけ本人なのに、言ってることがひどい……!」

 

 相棒が、小さく喉を鳴らした。

 ナハトも尻尾を揺らし、ムッツとアイッツは顔を寄せ合っている。

 

 よし。

 この方向でいこう。

 

 俺は椅子の背へもたれ、今度は堂々と腕を組んだ。

 声を、マリューさんのものへ切り替える。

 

「書類? 嫌よ。今日はもう働きたくないわ」

 

 少し落ち着いた、柔らかい声。

 そこから、きっぱり言い切る。

 

「艦長権限で、全部アスランに回してください」

 

「……っ!」

 

 近くの席で、誰かが肩を震わせた。

 見れば、ミサトさんがカップを口元へ持ち上げたまま止まっている。

 

「マリューに、それは言わせちゃ駄目でしょう……」

 

 そう言う本人の声も、笑っていた。

 

 気づけば、周りの席からちらちら視線が来ている。

 誰も大声では笑わない。

 ただ、俯いたり、口を押さえたりする人が増えていた。

 

 ……いける。

 

 俺は、さらに調子に乗った。

 

「では、次。今日だけ急に怠け者になったヨーコさん」

 

 紹介だけは自分の声で済ませ、また魔法で声を変える。

 

 デュオが、もうやめとけと言いたそうに手を上げる。

 けれど、まだ笑っていたので、続けた。

 

「いい? 今日の訓練で一番大切なのは、動かないことよ」

 

 机へ肘をつき、頬杖をつく。

 

「弾が当たるかどうかは、向こうの都合でしょう? 私はここで、お昼寝してるから」

 

 ガロードの肩が、小刻みに揺れた。

 

「……そんなヨーコ、見たくねえ……」

 

 声が、完全に笑っている。

 

 その時、ピッツが俺の袖を引いた。

 

「ガウ」

「ん? ピッツも何かやる?」

 

 袖を引く力が、少し強くなる。

 ヒッツは俺の後ろを見ていた。

 ナハトまで、伏せている。

 

 デュオの笑いが、とうとう声にならなくなった。

 ガロードは、こちらを見ないようにしている。

 

 ……あれ。

 

「お昼寝する前に、少しお話ししてもいいかしら?」

 

 今、俺が出しているのと、同じ声。

 ただし、聞こえたのは、俺の後ろからだった。

 

* * *

 

 ゆっくり振り返る。

 

 ヨーコさん。

 マリューさん。

 ラクスさん。

 

 そして、その両側に――。

 

「……へえ。今日は、あたしが注意するところ、一つもないんだ?」

 

 カレン。

 

「余計なことを言うたびに、褒めてあげるんだったかしら?」

 

 アンジュ。

 

 五人とも、微笑んでいた。

 

 慌てて魔法を解く。

 自分の声で話そう。今だけは、絶対に。

 

「……どのへんから?」

 

「ヒエンは落ち着いてる、って、あたしに言わせたあたり」

 

 カレンの答えに、視線が泳ぐ。

 アンジュが、にこりと笑った。

 

「続きの、私が怒らなくなるところも聞いたわよ」

 

 そこから、全部ですね。

 

 ヨーコさんが、一歩近づいた。

 

「私は、もう狙われても寝てることになったのね?」

 

「……なってないです」

 

「それから、私の仕事はアスランへ全部回すのだったかしら?」

 

「……回しません」

 

 マリューさんにも答える。

 最後に、ラクスさんと目が合った。

 

「ヒエンさん。私たちのお話も、最後まで聞いてくださいますね?」

 

「はい」

 

 即答だった。

 

「その返事ができるなら、最初から落ち着いてやりなさいよ」

 

 アンジュに言われ、背筋がさらに伸びる。

 

 食堂の隅の、通路を塞がない場所へ移る。

 ヨーコさんが、そちらを示した。

 

「じゃあ、少し座りましょうか」

 

 椅子ではなく、足元へ向けられた視線。

 俺は大人しく膝をつき、正座した。

 

 前には、五人。

 横には、ヒッツ、ナハト、小ライオンズ。

 周りには、さっきまで一緒に笑っていた大勢の人たち。

 

 ……随分、立派な会場になってしまった。

 

* * *

 

「モノマネをして、皆と楽しむことまで駄目とは言わないわ」

 

 マリューさんが、俺の顔を見る。

 

「でも、私が仕事を放り出すような話を、私の声で言うのは困るわね」

 

「はい。すみません……」

 

「途中から聞いた人が、事情を知らなかったら?」

 

「本当に言ったように聞こえるかもしれません」

 

「ええ。冗談にするなら、そこも考えてください」

 

 頷く。

 自分の中では、言わないはずの台詞だから冗談、だった。

 けれど、聞く側が最初から付き合ってくれているとは限らない。

 

 カレンが、腕を組んだ。

 

「それと、自分を褒める台詞を、あたしの声で言わない」

 

「……はい」

 

「今日のあんた、落ち着いてる? 今、どこに座ってるのよ」

 

 足元を見る。

 

「……床です」

 

 少し離れた席で、誰かが吹き出した。

 シンが慌てて顔を背け、ルナマリアがその袖を引いている。

 

 アンジュが、こちらへ顔を寄せた。

 

「私も、今のあんたを褒めるところはないんだけど。最後まで聞いて、何て言ってほしかったの?」

 

「……調子に乗るな、と」

 

「分かってるじゃない」

 

 柔らかな声だった。

 いつもの強い声より、今はそっちの方が堪える。

 

 ヨーコさんが、ヒッツたちへ目を向けた。

 

「途中で、この子たちが知らせてくれてたわよね?」

 

 ピッツが、俺をじっと見ている。

 

「はい。止まるところ、何回かありました」

 

「笑ってもらえたからって、どんどん先へ進めばいいわけじゃないでしょう」

 

「……はい」

 

「次は、一度止まって。周りも見てね」

 

 俺は頷いた。

 横では、ナハトが小さく鳴いている。

 

 最後に、ラクスさんが穏やかに口を開いた。

 

「お話し合いが面倒だから腕相撲で決める、というのも、少し困りますわね」

 

「本当に、そうです……」

 

「ヒエンさんも、ご自分の話を聞く前に、そう決められたら困るでしょう?」

 

 今なら、よく分かる。

 五人と腕相撲で決めていい問題でもないし、勝ったら全部なかったことになる話でもない。

 

「皆さんが言わないことだからって、好きに言わせすぎました。すみませんでした」

 

 もう一度、頭を下げた。

 

* * *

 

「……笑ってた時は、ここまでになると思わなかったな」

 

 甲児さんの小声が聞こえた。

 さやかさんが、その肘を軽くつつく。

 

「だからって、今また笑わないの」

 

 命さんは口元を押さえ、凱さんも少し困った顔をしていた。

 シモンが、カミナへ小声で言う。

 

「兄貴。止めに入らなくていいの?」

 

「今は、あいつがちゃんと話を聞くとこだろ」

 

 そこは、庇ってくれないらしい。

 

 ユリカさんがルリの方へ顔を寄せた。

 

「五人とも、すごく落ち着いてるね……」

「騒いでいたのは、ヒエンさんの方ですから」

 

 聞こえてます。

 でも、反論できません。

 

 ミオリネは腕を組み、ニカと顔を見合わせていた。

 スレッタは心配そうにこちらを見ている。

 

 チュチュが、小さく息を吐いた。

 

「……声の使い分けより、そっちを覚えた方がよさそうだな」

 

 その通りだった。

 

 そこで、ラクスさんが観客の方へ目を向ける。

 

「皆さんも、随分楽しんでいらしたようですね」

 

 デュオの肩が止まった。

 ガロードが背筋を伸ばす。

 アルトは、目を逸らした先にランカさんがいたので、また視線を戻した。

 

 ミサトさんが、カップを置く。

 

「……ごめんなさい。止める前に、笑っちゃったわ」

 

「俺も、もう一個くらいならって思ってた」

 

 ガロードが続ける。

 デュオは一度頭を掻いてから、五人へ向き直った。

 

「悪い。俺たちも、面白がって乗せたところはある」

 

 俺は、顔を上げた。

 

「でも、続けたのは俺だから。止めようとしてくれたのも、分かってたし」

 

 カレンが、俺とデュオを見比べる。

 

「じゃあ、次はお互いに止まりなさい。楽しかったからって、そのまま行かない」

 

「はい」

「分かった」

 

 返事が、重なった。

 

* * *

 

 ようやく話が終わり、正座を解いた。

 アオッツが足元へ鼻先を寄せ、ナハトが膝へ前脚を置く。

 

「うん。今日は、もうやらない」

 

 ピッツの頭も撫で、席へ戻った。

 カレンが、冷めたお茶を寄せてくれる。

 

「ほら。喉、乾いたでしょう」

「……ありがと」

 

 受け取りながら、俺は五人を見た。

 

「あと、ちゃんと言います。皆さんは、さっきみたいなことを言う人じゃないです。そこは、俺も分かってます」

 

 マリューさんが、少し表情を緩めた。

 

「ええ。それなら、次は気をつけてね」

 

 ヨーコさんも頷く。

 

「人の声を使わなくても、あんた自身の話で十分盛り上がるんだから」

 

 俺は照れかけて、口を閉じた。

 ここで調子に乗るのは、さすがに違う。

 

 アンジュが、その顔を見て眉を上げる。

 

「何? まだ一言あるの?」

 

「……ないです。今は、お茶を飲みます」

 

 カレンが、小さく笑った。

 

「よろしい」

 

 俺は大人しくカップへ口をつける。

 ヒッツたちも、それぞれの皿へ戻っていった。

 

 少しして、最後に残ったお菓子を一枚取る。

 すると、ラクスさんがこちらを見た。

 

「最後の一枚は、腕相撲ではなく、皆さんで分けてくださいね」

 

 手元の皿は、空だった。

 

「……はい」

 

 小さく割って、隣へ渡す。

 食堂のあちこちで、また肩が震えた。

 

 今度は、五人の口元も少し緩んでいた。

 




はい。

ちょっと書いててたのしかった。

では、また∠( ゚д゚)
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