番外編が思いつかないのでIF編ですはい。
ちょっと変えました。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ハイスクールD×D①
ヒエンside
膝の上で丸くなっていた相棒が、ふいに顔を上げた。
「どうした、ヒッツ?」
「ガウ……」
四肢にはまった虹色の腕輪が、淡く光っている。
ヒッツはどこか遠くの音を聞くように耳を動かし、それから俺の袖を前足で叩いた。
意識を向けると、一つの想いが伝わってくる。
何かを、強く願っている。
けれど、その何かまでは分からない。言葉として聞こえるわけでも、相手の顔が見えるわけでもなかった。
「イマジンストーンが受け取ったのか?」
「ガウ」
「別の世界から?」
相棒が頷く。
俺はヒッツを抱き上げ、その顔を覗き込んだ。
「場所は辿れそうか?」
「氷炎」
呼ばれて振り向くと、リニスがこちらを見ていた。
「……まだ何も言ってないぞ?」
「行きたいと顔に書いてあります」
「そんなに分かりやすかった?」
「ええ。ですから、まず説明してください」
ごもっとも。
俺は相棒へ届いた想いについて、分かっている範囲を話した。
リニスは最後まで聞いてから、ヒッツへ目を向ける。
「向こうの様子は、着いてから確かめることになるんですね」
「ガウ」
「うん。何を願ってるのかも、まだ分からないし」
「では、到着したら連絡をください。すぐに戻らない場合もです」
「分かった。何かあったら相談するよ」
そう約束して、持ち物を確かめる。
荷物の中には、まだ使い手の決まっていない、新しいインテリジェントデバイスも入っていた。
今日は、これも持ったままでいいか。
ヒッツを肩へ乗せ、扉の前に立つ。
「それじゃ、行ってきます」
「気をつけて」
見送るリニスへ手を振り、俺は相棒と一緒に扉を開いた。
◇
最初に聞こえたのは、女の子の声だった。
部屋に置かれたテレビの中で、可愛らしい衣装の少女が杖を構えている。
魔法少女もののアニメらしい。
そして、その前に座っていた人は。
「…………」
「…………」
でかい。
肩も、腕も、胸板も。
鍛えている、という言葉だけでは済まないほど立派な身体だった。
そんな身体に、可愛らしい衣装と猫耳。
俺は扉の取っ手を握ったまま、肩のヒッツを見た。
相棒も、俺を見た。
……うん。見間違いではないらしい。
「ええと。突然すみません」
いつまでも黙っているわけにもいかない。
「俺、大空氷炎といいます。こちらにいる誰かの想いを、この相棒が受け取って……それを辿って来たんですけど」
説明しながら思った。
事情を知らない人からしたら、相当怪しいぞ、これ。
ところが、相手は俺の背後へ目を向け、大きな目をさらに開いた。
「異世界……?」
「え?」
「ヒエンたんは、異世界から来たにょ?」
ヒエンたん。
早速、親しみのある呼び方をいただいた。
「まあ、そうなるけど……分かるんですか?」
「ミルたんも、行ったことがあるにょ!」
その名前を聞いて、頭の中で何かが引っかかった。
ミルたん。
魔法少女の衣装。
この、規格外の身体。
……待てよ。
「魔法少女になるために、行ったにょ!」
勢いよく立ち上がった身体が、驚くほど軽く動く。
俺は反射的に足運びへ目を向けながら、記憶を辿った。
もしかして、ここは。
「でも、なれなかったにょ……」
ミルたんの肩が落ちた。
視線がテレビへ戻る。
俺も画面を見て、浮かんだ作品名を胸の内に留めた。
ハイスクールD×D。
まだ断定するには早いけれど、心当たりとしては十分だった。
「魔法少女に、なりたいんですね」
「なりたいにょ」
答えに迷いはない。
「ずっと、なりたいにょ」
肩のヒッツが、俺の頬へ前足を添えた。
相棒に届いたのは、この願いか。
俺はミルたんへ向き直った。
「よかったら、少し話を聞かせてもらえますか?」
◇
部屋へ入る許可をもらい、扉を閉じる。
ミルたんはテレビの再生を止め、俺が座れるように場所を空けてくれた。
そのとき、脇にあった荷物を片手で持ち上げる。
俺は、その腕を見た。
身体の動きに伴って、内側を巡る力が変化している。
さっき立ち上がったときにも感じたものだ。
「どうしたにょ?」
「いや、力があるんだなって」
「魔法少女になるために、頑張ってるにょ!」
胸を張るミルたん。
原作での規格外ぶりは知っている。
けれど、画面や文章で知るのと、目の前で見るのとでは大違いだった。
あれ、普通なら両手で持つと思うんだけど。
「この子も、魔法の世界の子にょ?」
「ああ。俺の相棒で、名前はヒッツ」
「ガウ」
「よろしくにょ、ヒッツたん」
相棒は前足を上げて挨拶した。
ミルたんが嬉しそうに笑い、それから俺を見る。
「ヒエンたんは、魔法を使えるにょ?」
「うん。魔導師だからな」
「本物にょ……?」
期待のこもった声だった。
俺は机の上の空いた小皿を指さす。
「これ、借りてもいい?」
了承をもらってから、魔法を使った。
小皿がゆっくり浮き上がり、ミルたんの目の高さまで移動する。
「おお……!」
大きな目が、小皿を追った。
俺はそれを一周させ、元の位置へそっと戻す。
「こういうのとか。あとは、怪我の治療や、空を飛ぶ魔法も使えるよ」
「空を……」
ミルたんはテレビを見た。
画面の中では、魔法少女が空を飛んでいる。
少しの間それを見つめてから、俺へ向き直った。
「ヒエンたん。ミルたんも、魔法を使えるようになるにょ?」
「まず、少し調べさせてもらってもいいかな」
「調べるにょ?」
「ミルたんの中にある力が、どう動いてるか確かめたいんだ。痛いことはしないけど、嫌なら言ってくれ」
頷いてもらい、ヒッツにも協力を頼む。
座ったままの状態を確かめてから、立ち上がり、腕を曲げ伸ばししてもらう。
次に、先ほどの荷物を持ち上げてもらった。
そのたび、同じ変化が起きる。
「……やっぱり」
「分かったにょ?」
「ああ。ミルたん、魔力があるよ」
動きが止まった。
「ミルたんに?」
「うん。それどころか、もう使ってる」
「……にょ?」
丸くなった目に、俺は自分の腕を指さして説明した。
「立ったり、物を持ったりするとき、魔力が身体の動きを支えてるんだ。自分で、そのつもりで使ってない?」
「ないにょ。力を入れてるだけにょ……」
「力を入れることと、魔力で身体を強くすることが、自然に結びついてるんだと思う」
もちろん、この身体を鍛えたのはミルたん自身だ。
魔力が全部代わりにやっていた、なんて話ではない。
鍛え上げた肉体へ、無意識の身体強化が重なっている。
「ミルたん……魔法、使ってたにょ?」
「身体を強くする方に、自然と使ってたんだな」
ミルたんが、自分の手を見つめた。
ゆっくり握り、開く。
「じゃあ、杖から魔法を出すことも……」
「覚えるための練習は必要だよ。でも、ミルたんが習いたいなら、俺に教えられることはある」
顔が上がる。
「お願いするにょ」
まっすぐな返事だった。
◇
「ミルたんがなりたいのは、ミルキーみたいな魔法少女?」
「そうだにょ! ヒエンたんも知ってるにょ?」
「少しだけ。可愛く変身して、魔法を使う感じかな」
「困っている人も助けるにょ」
その言葉に、俺は頷いた。
それから、荷物へ目を向ける。
「……変身か」
持ってきたケースを取り出した。
ヒッツへ考えを伝えると、相棒がケースとミルたんを交互に見る。
魔力はある。
身体の中で使ってもいる。
なら、それを意識して扱うために、力を貸してくれる相棒がいれば。
「会わせたい奴がいるんだけど」
ケースを開く。
中に収まっていたのは、銀色の縁に桃色の宝石を収めた、ハート型のペンダントだった。
「可愛いにょ……」
ミルたんが身を乗り出す。
「これも、魔法の道具にょ?」
「ああ。デバイスっていう、魔導師を支えてくれる道具だよ」
俺はペンダントを手に取り、声をかけた。
「話は聞こえてたか?」
『はい。聞いていました』
宝石が、声に合わせて明滅する。
「喋ったにょ!?」
「インテリジェントデバイスっていって、自分で考えて、使い手と話せるんだ」
差し出された両手へ、そっと置く。
大きな指が、慎重にペンダントを支えた。
『初めまして』
「初めましてにょ。ミルたんだにょ」
『よろしくお願いします、ミルたん』
返ってきた挨拶に、ミルたんの顔がほころぶ。
「こいつは、ミルたん自身の魔力を使って、魔法を発動する手助けをしてくれる。変身を補助する機能もあるんだ」
「変身……」
「ちゃんと使えるか、一緒に確かめよう」
ミルたんは手の中を見つめ、大切そうに頷いた。
◇
確認の途中で、玄関の呼び鈴が鳴った。
「あ、イッセーたんにょ」
やっぱり。
聞き覚えのある名前に、胸の内で頷く。
「今日、来てもらう約束をしてたにょ」
「そうだったんだ」
ミルたんが玄関へ向かう間に、俺はリニスへ連絡を入れた。
無事に着いたこと。
出会った相手の魔力を調べ、魔法を教える話になっていることも伝える。
分かったことを説明し、後でまた話す約束をして連絡を終えた。
玄関から声が聞こえる。
「こんばんは、ミルたん。……誰か来てるんですか?」
「ヒエンたんにょ!」
「お友達ですか?」
部屋へ入ってきたのは、記憶にある茶髪の少年だった。
兵藤一誠。
ただ、今がいつなのかまでは、顔を見ただけでは分からない。
一誠は俺を見て、続いて足元へ視線を下げた。
「ライオン……使い魔ですか?」
「俺の相棒。名前はヒッツ」
「ガウ」
ヒッツが前足を上げる。
一誠も軽く片手を上げてから、俺へ向き直った。
「兵藤一誠です」
「大空氷炎。よろしく」
「ヒエンたんに、魔法を教えてもらってるにょ!」
ミルたんの説明に、一誠の目が少し大きくなった。
「魔法を?」
「ああ。本人の魔力を調べて、これからどう練習するか話してたところ」
一誠の視線が、ミルたんの手の中へ移る。
「そのペンダントも、氷炎さんが?」
『私は、ミルたんの魔力操作を補助します』
「……自分で話す道具なんですね」
驚きはしたものの、一誠はすぐに話を聞く姿勢になった。
魔法そのものを初めて見る反応ではない。
俺は座る場所を勧め、ここへ来た事情を説明した。
異世界という言葉にはさすがに驚いていたが、一誠は途中で否定せず、最後まで聞いてくれた。
「……部長にも話を聞いてもらっていいですか? この町のことなら、俺より詳しいので」
「ミルたんがよければ、俺は構わないよ」
「いいにょ」
頷いてもらい、一誠が連絡を入れる。
待つ間、俺たちはデバイスの確認を続けた。
◇
訪ねてきたのは、リアスと朱乃だった。
名前を知っていても、紹介される前から呼ぶわけにはいかない。
改めて互いに名乗り、ヒッツのことも紹介する。
「一誠から、大まかな話は聞いたわ。異世界から来た魔導師なのね」
「ええ。こちらへ来たばかりなので、この町の事情も聞けると助かります」
「私たちも、あなたの魔法について知りたいわ」
リアスの視線が、ペンダントへ向いた。
ミルたんが大切そうに持ち上げる。
「この子が、お手伝いしてくれるにょ」
『よろしくお願いします』
宝石が明滅すると、朱乃が興味深そうに目を細めた。
「使い手と相談できるんですね」
「ええ。確認した限りでは、ミルたんとの適合も問題ありません。これから、変身を試すところです」
リアスは、まずミルたんへ目を向けた。
「私たちも見ていて構わないかしら?」
「見てほしいにょ」
返事は、はっきりしていた。
「魔法少女になるところ、見てほしいにょ」
一誠が頷く。
「はい。見てます」
俺は周りの物を片づけ、立つ場所を空けた。
使い方と、元に戻る手順も、もう一度確認する。
そこでミルたんが尋ねた。
「ヒエンたん。この子、お名前は?」
「まだ決まってないんだ。ミルたんが付けてあげたら?」
『ぜひ、お願いします』
ミルたんは少し考えた。
テレビへ目を向け、それからハート型の宝石を見る。
「……ミルキーハート」
確かめるように、もう一度。
「ミルキーハートがいいにょ」
『ミルキーハート。私の名前として登録します』
「気に入ったにょ?」
『はい。ありがとうございます』
ミルたんが嬉しそうに笑う。
俺は一歩下がった。
「それじゃ、呼んであげて」
ペンダントを胸元へ持ち、ミルたんが息を吸う。
「ミルキーハート!」
桃色の宝石が光った。
「セットアップにょ!」
『Yes, my master. Stand by. Ready.』
ミルたん自身の魔力が、デバイスへ応える。
『Set up.』
光が全身を包み込んだ。
身体を支えていた魔力の一部が、ミルキーハートの補助を受けて術式へ導かれる。
大きかった光の輪郭が変わっていく。
バリアジャケットが形を取り、伸びた光が手の中へ収まった。
白い杖。
先端には小さな翼の飾りと、銀色のハート型のフレーム。その中央に、桃色の宝石が輝いている。
光がほどけた。
そこに立っていたのは、魔法少女の衣装を纏った美少女だった。
「……えっ」
一誠の声が漏れた。
リアスと朱乃も、変身前と変身後の違いを確かめるように見つめている。
ミルたん自身は、すぐには動かなかった。
空いた手を持ち上げ、指を開き、握る。
「……ヒエンたん?」
変わった声に、自分で目を丸くした。
「うん。気分はどう?」
「へいき、にょ」
『身体状態に異常はありません』
俺は鏡を差し出した。
「確かめてみて」
ミルたんが覗き込む。
そのまま、動かなくなった。
首を傾けると、鏡の中の少女も同じように動く。
頬へ触れ、髪へ触れ、それから杖を見た。
「これ……ミルたん、にょ……?」
「ああ。ちゃんと変身できてる」
ミルたんの目に、涙が溜まった。
「ミルキーハート」
『はい、マスター』
「ミルたん、なれたにょ……」
『はい。よくお似合いです』
俺は口を挟まず、少し待った。
ずっと願っていたのだ。
今は、ゆっくり確かめてほしい。
「ありがとう、ヒエンたん」
ミルたんが、涙を拭いながら笑う。
「ありがとう、ミルキーハート」
「どういたしまして」
『これから、よろしくお願いします』
ヒッツも嬉しそうに鳴いた。
一誠が、深く息を吐く。
「……本当に変身できたんですね」
「似合ってるにょ?」
「はい。すごく驚きましたけど……似合ってます」
返事を聞いて、ミルたんの笑顔がさらに大きくなった。
◇
元に戻れることを一度確認してから、もう一度セットアップしてもらった。
今度は、変身姿のまま過ごすためだ。
「身体の大きさが変わってるからな。歩くのも、物を持つのも、その姿で慣れていこう」
「分かったにょ」
「あと、服装も変えられるぞ」
「お洋服も?」
「ああ。普段は私服にして、練習や戦闘ではバリアジャケットを使う感じだな」
ミルたんがミルキーハートへ相談すると、宝石が明滅した。
服装の話し合いが始まる。
その間に、戦闘時の姿は「ミルキーフォーム」、杖の姿は「ミルキーロッド」と呼ぶことも決まった。
やがて、ミルたんの希望を取り入れた普段着へ衣装が変わる。
杖は、美少女姿を維持したままペンダントへ戻った。
「これなら両手も空くな」
「お出かけもできるにょ」
「うん。元の姿だと、結構目立つだろうし」
「よく見られるにょ」
一誠が何か言いかけ、結局、頷くだけに留めた。
俺たちは座り直し、今度は互いの事情を話すことにした。
◇
「俺は高校三年生で、時空管理局の嘱託魔導師をしてる」
そう切り出すと、リアスが頷いた。
「私と朱乃も三年生よ。同い年なら、もう少し気楽に話してくれていいわ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。俺のことも氷炎で」
「ええ。私もリアスで構わないわ」
「私は朱乃でお願いしますね」
呼び方を確かめてから、説明を続ける。
「魔導師は、魔力を使って魔法を扱う人の呼び方。管理局に勤めてる人だけを指すわけじゃないんだ」
「では、その管理局というのは?」
「いくつもある世界――次元世界をまたいで、魔法に関わる事件や事故、救助なんかに対応している組織だよ。俺は学校に通いながら、必要なときに協力してる」
リアスは急かさず、話を聞いていた。
「危険な遺産の調査や回収も仕事の一つだ。それを、ロストロギアって呼んでる」
「遺産というのは、古い魔法の道具のようなもの?」
「それもある。昔の文明が残した、高度すぎて今では正しく扱う方法が分からない技術や知識なんかも含まれるよ。中には、世界を巻き込むような危険な物もある」
朱乃が、ミルキーハートへ目を向ける。
「この子も、その一つというわけではないんですね」
「うん。こいつは仕組みを理解して使っているデバイスだから。珍しい道具が全部ロストロギアになるわけじゃない」
ミルたんも、その説明に頷いた。
「世界の間は、どうやって移動するんですか?」
一誠が尋ねる。
「俺たちはヒッツの力を使ってるけど、管理局には世界の間を航行する船もある。関わりのある船だと、アースラっていう艦船があってね」
「船が、そのまま活動拠点にもなるのかしら?」
「そう。移動するだけじゃなく、調査や通信、現場で動く人への支援もする。操縦する人も、状況を調べる人もいて、それぞれ役割があるんだ」
「氷炎さんも、乗ったことが?」
「あるよ。艦長のリンディさんをはじめ、世話になってる人たちがいる」
そこで一度、お茶へ手を伸ばした。
「今回は管理局の任務じゃない。ヒッツに届いた願いを辿って、自分の意思で来たんだ」
リアスは、その点を確かめるように頷いた。
「分かったわ。では、こちらからも説明するわね」
悪魔、天使、堕天使。
人間社会の裏側にある勢力と、自分たちの立場。
リアスは簡潔に話し、一誠たちが悪魔へ転生して眷属になったことも教えてくれた。
仲間の名前には、アーシアやゼノヴィア、ロスヴァイセも挙がる。
俺は知識を口にせず、質問しながら聞いた。
やがて、最近のレーティングゲームの話になった。
「サイラオーグとの試合を終えたばかりなの。皆にも、少し落ち着く時間が必要だわ」
そこで、時期がはっきりした。
サイラオーグ戦のあと。
なら、俺が想像していたよりも物語は進んでいる。
一誠がリアスを見る表情にも、二人の距離にも、積み重ねてきたものがあった。
そして、ジュニア側の物語が始まるのも、この頃だったはずだ。
知っていることは、役に立つときに使えばいい。
まずは目の前の人たちと、ちゃんと付き合っていこう。
◇
「それじゃ、ミルたん」
話が一区切りしたところで、俺は向き直った。
「これからも、俺から魔法を習いたい?」
「習いたいにょ」
返事は即答だった。
「ミルキーハートと一緒に、ちゃんと魔法を使えるようになりたいにょ」
「なら、弟子として教えるよ」
ミルたんが背筋を伸ばす。
「ただ、最初から派手な魔法を次々やるわけじゃない。魔力を感じる、動かす、必要な分だけ出す、止める。まずは、それを何度も繰り返してもらう」
「魔法少女になるための、練習にょ」
「ああ。俺の師匠にも、基礎はしっかり教わったからな。そこは、ミルたんにも覚えてもらうよ」
「よろしくお願いしますにょ、ヒエンたん」
「こちらこそ。よろしく、ミルたん」
ヒッツも一声鳴く。
俺は次に、魔力量を改めて確認させてもらった。
適合や身体への影響を調べた記録に加え、落ち着いた状態での流れも追う。
ヒッツとミルキーハートの記録を照らし合わせて。
「…………」
俺は黙った。
「ヒエンたん?」
「悪い。もう一度だけ、確認させて」
結果は変わらなかった。
額へ手を当てたくなる。
いや、元から規格外だとは知ってたけどさ。
「魔力量、俺たちの基準ならオーバーSSSランクくらいあるな……」
「それは、どのくらいなの?」
リアスの問いに、俺は顔を上げた。
「そっちの悪魔の階級へ、そのまま置き換えることはできない。ただ、使える魔力の量が、とんでもなく多い」
「ミルたん、そんなにあるにょ?」
「ああ。だから、なおさら基礎を固めよう」
俺は手のひらに、小さな魔力の光を灯した。
「大きな力を出せることと、狙った通りに使えることは別なんだ。最初は、これくらい小さく出す練習から」
「ちっちゃいにょ」
「うん。これを同じ大きさで保って、自分で止める」
ミルたんが手を上向きにする。
肩と腕へ、魔力がこもった。
「まず、肩は楽にしていい。物を持ち上げようとしなくて大丈夫」
「こうにょ?」
「そう。今まで身体を強くしてたときの感覚を、少しずつ確かめよう」
『マスター。手のひらへ集まる分を、一緒に確認しましょう』
ミルキーハートが声を添える。
何度か試すうち、ミルたんの手に小さな光が浮かんだ。
「でき――」
「そのまま。その大きさで」
嬉しくて力が入ったのか、膨らみかけた光が揺れる。
ミルたんが息を吐き、もう一度、小さく整えた。
「うん。じゃあ、今度は消してみよう」
すぐには消えなかった。
俺は急かさず、魔力の動きを見守る。
『集める操作を、ゆっくり止めてみてください』
「止める……」
光が弱まり、やがて消えた。
ミルたんは自分の手を見つめ、それから俺を見た。
「できたにょ」
「ああ。今、自分で出して、自分で止めた」
嬉しそうに笑う。
俺も頷いた。
「じゃあ、もう一回。同じ大きさで」
「はいにょ!」
派手なことは何もない。
けれど、ミルたんは真剣だった。
できたら繰り返す。
違ったら、どこで変わったかを確かめる。
ミルキーハートも全部を代わりに操作するのではなく、本人が感覚を覚えられるよう、言葉を選んで補助していた。
◇
「今日は、ここまでにしよう」
何度目かの練習を終えたところで、俺は声をかけた。
「まだできるにょ?」
「分かってる。でも、今日の感覚を整理する時間も取ろう。自主練は、今やった範囲でな」
『記録を見ながら、私と復習しましょう』
「分かったにょ!」
元気な返事に、俺も笑う。
見ていた一誠が、感心したように言った。
「知らない世界に来た日に、弟子までできるんですね……」
「俺も、出かける前には思ってなかったよ」
「でも、落ち着いてますよね」
「まあ……並行世界とか異世界とか、何度か飛ばされたこともあるからな」
「何度か?」
リアスが聞き返した。
「一回や二回じゃなくて」
一誠が、何とも言えない顔になる。
「それ、大変じゃないですか」
「大変だったよ。知らない場所に放り出されたら、普通に心細いし」
俺は隣のヒッツを撫でた。
「でも、多少は慣れてきたな。まず周りを確かめて、話せる人と話して、帰る方法や連絡を確認する。分からないことは、一つずつ調べればいいから」
「それでも、できれば自分で行き先を選びたいわね」
「本当にそれ」
リアスの言葉へ、思わず強く頷いた。
「今回は自分で来たし、家にも連絡できてる。それだけで、随分違うよ」
「ヒエンたん」
ミルたんが、こちらを見る。
「また、来てくれるにょ?」
「ああ。弟子にしたんだから、ちゃんと教えに来るよ」
そう答えてから、リアスへ顔を向けた。
「今度、魔法の練習に使える場所も相談していいかな。人目につかなくて、周りに迷惑をかけない場所があると助かる」
「ええ。こちらで使っている場所もあるから、確認しましょう」
「ありがとう。助かる」
ミルたんが、胸元のペンダントへ話しかける。
「次までに、復習するにょ」
『はい、マスター』
俺はそのやり取りを眺めながら、出してもらった菓子を一つ手に取った。
足元でヒッツが顔を上げる。
「分かってる。お前の分もな、相棒」
ミルたんが笑い、新しい小皿を差し出してくれた。
世界を越えて、最初にできたのは魔法少女志望の弟子。
そのうえ、知っている物語の登場人物たちと、お茶を飲んでいる。
なかなか忙しい一日だ。
けれど。
ミルキーハートと楽しそうに話しているミルたんを見て、俺も笑った。
あの願いを辿って来て、よかったと思った。
では、また∠( ゚д゚)