番外編が全く内容思いつかないので、方向性変えてIF編書いてみました。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
異世界カルテット①
ヒエンside
「……俺、そんなに学校が好きそうに見えるか?」
見知らぬ校舎を前にそう呟くと、右隣のなのはが困ったように笑った。
「私に聞かれても……」
「でも、今日はお休みだったよね?」
「そうなんだよ。しかも、学校まで変わってるし」
フェイトは校門の向こうを見上げ、不思議そうに首を傾げた。二人の通う小学校とも、俺の高校とも違う校舎が、青空の下に建っている。肩の上のヒッツも「ガウ?」と小さく鳴き、俺と同じように辺りを見回していた。
ほんの少し前まで、俺たちは家にいた。なのはとフェイトが遊びに来ていて、茶を用意しようとしたところに、見覚えのないボタンがあったのだ。
赤い、大きな、いかにも押してくださいというボタン。
もちろん、即座に押したわけじゃない。誰の持ち物でもないと分かった時点で、ヒッツと調べた。二人にも見てもらったが、爆発物や攻撃用の術式らしいものは見つからなかった。超直感にも、差し迫った危険の感触はなかった。
だからって、正体まで分かったわけじゃないのに。
『何か起きたら、すぐ戻るぞ』
そう言って俺が押すと、視界が真っ白になった。反射的に二人へ手を伸ばして、次に足が地面を捉えたときには、ここにいた。
「……押す前に、もう少し考えるべきだったな」
「それは、私も止めなかったから」
フェイトが言った。
「私も。ヒエン君だけのせいにはしないよ。でも、まず帰れるか確かめよう?」
「ああ」
なのはの言葉に頷き、周囲へ意識を広げる。整えられた植え込みの向こうに校舎があり、窓のいくつかが開いている。そこから人の話し声がかすかに聞こえてきた。俺たち以外にも誰かがいるらしいが、今のところ敵意を向けられている様子はない。
「フェイト、周りを頼めるか。なのはは、近くに誰か来たら教えてくれ」
「分かった」
「うん」
校門脇にある、小さな建物の扉を借りることにした。ヒッツが俺の肩から降り、その前に立つ。
「相棒、家へつなごう」
「ガウッ」
小さな四肢にある虹色の腕輪が輝いた。見慣れた光が扉を縁取る。
けれど、その向こうに家の景色は現れなかった。
「……つながらない?」
俺は扉の取っ手から手を離した。ヒッツが一度こちらを見上げ、もう一度試す。光は生まれる。だが、向こう側が開かない。
「ヒエン、少し待って。もう一度、私にも見せてもらえる?」
フェイトが屈み、光の消えた扉を見た。
「光は出てるけど、いつもと違うね……。ヒッツも、困ってるみたい」
「ああ。無理に続けるより、いったん止めよう」
なのはにも様子を見てもらったが、この場で原因を特定することはできなかった。通信も試した。家からの返事はない。
胸の奥が、少し重くなる。家を出る予定すらなかったんだ。帰りが遅ければ、心配するに決まっている。
「……帰って謝る相手が増えたな」
「帰ったら、一緒に説明しよう」
なのはが言う。その横で、フェイトも頷いた。
「そのためにも、今はここのことを調べよう。私たちを知ってる人がいるかもしれない」
「そうだな。相棒も、ありがとな」
差し出した手にヒッツが額を寄せる。小さな頭を撫でてから抱き上げると、俺の肩へ戻ったヒッツは、なのはたちにも顔を向けた。なのはがその前足をそっと撫でる。
「よし。三人と一匹、はぐれないようにな」
「ヒエン君がいちばん先に走っていかないでね?」
「分かったって。何かあったら、ちゃんと相談する」
「うん。私たちも一緒にいるんだから」
フェイトが隣で微笑んだ。二人のほうがずっと年下だが、これまで一緒に戦ってきた仲間でもある。頼れるところは頼る。そう決めて、俺は改めて校舎へ目を向けた。
そのときだった。
『そこの三人も、教室へ来てくれるかなぁ』
頭上のスピーカーから、妙に間延びした男の声がした。
* * *
案内された教室の前で足を止める。磨かれた廊下も、壁に貼られた掲示物も、ごく普通の学校のものに見えた。ただ、扉の向こうから感じる気配は普通じゃない。人間ばかりではないうえに、相当な力を持つ者もいる。それなのに聞こえてくるのは、どこか緊張感に欠ける言い争いだった。
「ヒエン君?」
「いや……ちょっと、驚くかもしれない」
なのはが聞き返す前に扉を開けると、豪華なローブを着た骸骨が目に入った。そのそばには黒い翼を持つ美女が控え、別の席では青髪の女の人が不満そうに腕を組んでいる。緑の服の少年に、ジャージ姿の少年。さらに軍服姿の金髪の少女までいた。
……いや、待て。見覚えがあるぞ。
一人に心当たりがあるだけなら、まだ分かる。だが、教室を見渡すほどに、別々の作品の登場人物が頭に浮かんでくる。思わず入口で立ち止まった俺を、なのはが不思議そうに見上げた。知っている顔がいるからといって、説明できる状況じゃなかった。俺だって、どうしてこの面子が揃っているのか聞きたい。
「あ。やっと普通っぽい人が来た」
緑の服の少年が、こちらを見て言った。
「お前、それ俺を見てから言ってるよな?」
ジャージの少年が自分を指す。
「見た目の話だよ。見た目」
「なら俺も入れろよ!」
うん。ちょっと安心した。少なくとも、入った途端に全員で殺し合いという場所じゃなさそうだ。
なのはとフェイトも教室へ入り、俺の両脇に立った。なのはは骸骨の人物に驚いたようだったが、相手がこちらを見ると、ぺこりと頭を下げた。フェイトもそれに倣い、少し緊張した顔で教室の中を見回している。
「やぁ、よーうこそ。君たちも入っておいで」
教壇には、道化師のような化粧をした男が立っていた。声の主はこの人か。
「まず、聞いてもいいですか」
俺が声をかけると、男はゆったり頷いた。
「構わないよ。何が聞きたいのかなぁ?」
「ここはどこで、俺たちはどうして呼ばれたんですか。元の場所へ戻る方法も知りたいんですが」
「俺もそれ聞きたい!」
ジャージの少年が手を挙げた。何人かの視線が、教壇へ集まる。
「君たちには、ここで学校生活を送ってもらうんだよ」
「……それ、答えになってなくないですか」
思わず口から出た。緑の服の少年が深く頷く。
「そう! 俺もそう思う!」
教壇の男は笑みを崩さない。詳しい話を聞き出そうにも、今この場ですんなり説明する気はなさそうだった。
なら、ほかの人からも話を聞きたい。俺たちだけが知らないこともあるだろう。
「……大空氷炎です。こっちは高町なのはと、フェイト・テスタロッサ。それから相棒のヒッツです」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「ガウ!」
肩の上でヒッツが鳴いた途端、何人かがこちらへ身を乗り出した。
「えっ、何それ。ライオン?」
金髪の、長い耳を持つ少女が目を輝かせる。
「小さいけど、普通の動物じゃないよね?」
「ああ。俺の相棒だよ」
ヒッツが胸を張る。その様子に、なのはが小さく笑った。
「あたしはアウラ。ねえ、その子、触ってもいい?」
「ヒッツが嫌がらなければ。いきなり引っ張ったりはしないでやってくれ」
「そんなことしないって!」
アウラと名乗った少女に、ヒッツが前足を片方持ち上げた。まずは挨拶、ということらしい。
「……君たちは、同じ場所から来たのか?」
低い声がした。骸骨の人物だった。
近くで見ると、やっぱり迫力がすごい。なのはたちが身構えないように、というより、俺自身が妙な反応をしないように気をつけて頷く。
「はい。一緒にいたところから、ここへ。あなたも、あのボタンを?」
「うむ。私はアインズ・ウール・ゴウンという」
「アインズさんですね」
名前を口にしたところで、横の黒翼の女性がわずかに目を細めた。……呼び方、まずかったか?
「構わぬ」
アインズさんの一言で、その人は口を閉じた。
「先ほど、元の場所へ戻る方法と言っていたが。何か試したのかね?」
教室の空気が少し変わった。軍服姿の少女も、黙ってこちらを見ている。
「普段使っている移動手段を試しました。ただ、今回はうまくつながらなくて。原因もまだ分かっていません」
何もかも説明する必要はない。それでも、試したことと結果くらいは話せる。
「私たちも一緒に確認しました。もう少し調べてみるつもりです」
フェイトが続けた。
「ほかにも帰り方を試した方がいたら、あとでお話を聞かせてもらえませんか?」
なのはが教室を見回す。俺だけに質問が集中しかけていた空気が、それで少しほぐれた。
「その件なら、私も情報を共有したい」
軍服の少女が口を開く。
「ターニャ・デグレチャフだ。君たちの調査した内容も、差し支えない範囲で聞かせてもらいたい」
「分かった。俺たちからも頼むよ」
見た目どおりの子供として話していい相手じゃない。そこは、受け答えだけでも十分伝わってきた。
すると、緑の服の少年がひょいと手を上げた。
「俺はカズマ。サトウカズマだ。……で、お前はその子たちの兄貴か何か?」
「いや、兄妹じゃないよ。一緒に遊んだり、困ったときに助け合ったりする仲間だ」
「ヒエン君には、いつもお世話になってます」
なのはがにこっと笑って答えた。間違ってはいないけど、そう改まって言われると、どうにも落ち着かない。
「俺だって、二人に助けてもらってるだろ」
「うん。これからも、ちゃんと頼ってね」
フェイトの返事に頷くと、カズマは少し意外そうに俺たちを見比べた。
「へえ。年、結構離れてそうなのに仲いいんだな」
「俺は高校三年で、二人は小学生だからな。まあ、いろいろあって」
「高校生か! よかった、話が合いそうな奴が増えた!」
ジャージの少年が身を乗り出してきた。差し出された手を握ると、勢いよく上下に振られる。
「俺はナツキ・スバル! よろしくな、ヒエン!」
「よろしく。……お前、元気だな」
「そりゃ、いつまでも暗い顔してらんねぇだろ。そっちの二人も、よろしくな!」
「はい。よろしくお願いします、スバルさん」
「よろしくお願いします」
なのはに続いてフェイトも挨拶を返すと、スバルは満足そうに笑った。その隣で、カズマが空いている席を親指で示す。
「立ち話もなんだし、座ったらどうだ? 俺たちだって、まだ来たばっかりで何も分かってないんだよ」
「そうなのか。じゃあ、分かることから教え合おうぜ」
「おう。帰り方が分かったら、真っ先に教えてくれよな」
少しだけ、肩の力が抜けた。帰り方は分からない。集められた理由も分からない。知っている名前が並んでいるからといって、この人たちのことまで分かったつもりにはなれない。
でも、話はできる。
「ヒエン君」
なのはに呼ばれて振り向くと、教壇の人がこちらを見ていた。
「仲良くなるのは結構だけれど、そろそろ席についてもらえるかなぁ」
「あ、はい」
空いている席へ向かい、椅子を引く。なのはは椅子に腰掛けて机の中を覗き、フェイトは鞄を持っていないことに気づいたように、空の両手を見下ろした。教科書どころか筆箱もない。学校生活と言われても、こっちは本当に身一つだ。
肩から机へ降りたヒッツが、俺の手を前足で軽く叩いた。視線を追うと、なのはが心配そうにこちらを見ている。大丈夫、と頷いてみせると、彼女も少し表情を緩めた。フェイトとも目を合わせてから、俺は教壇に向き直った。
「それじゃあ、改めて。君たちの担任を務める、ロズワールだよ」
教壇から、楽しそうな声が響いた。俺は頬杖をつきかけ、やめる。
前を見れば、骸骨の大魔法使い。少し横には、軍服姿の少女。後ろのほうでは、カズマが青髪の女性に何か小声で抗議していた。
……まずは、先生の話を聞くか。
帰るために調べることは山ほどある。その前に一つだけ、はっきりしたことがあった。
このクラス、絶対に静かな授業にはならない。
気分転換で描きましたはい。
では、また∠( ゚д゚)