続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
ヒエンside
「それじゃあ、まずは自己紹介から始めようかぁ」
ロズワール先生が黒板に大きく文字を書く。配られた紙には今日の予定らしきものが並んでいたが、帰還方法についての説明は見当たらない。俺が紙を裏返して確かめていると、隣の席からカズマが身を寄せてきた。
「何か書いてあるか?」
「いや。裏は真っ白」
「だよなあ……」
そろって表へ戻したところで、教壇の先生と目が合った。
「そこの二人。相談はあとにして、前を向いてもらえるかなぁ」
「はい」
「すみません」
妙な場所に連れてこられたっていうのに、私語を注意される感じは普通の学校と変わらない。カズマと顔を見合わせて、そっと姿勢を正した。
自己紹介は、なかなか順調には進まなかった。
アインズさんが名乗れば、その配下らしい人たちが背筋を伸ばす。アクアという青髪の女性は自分を女神だと紹介し、カズマが頭を抱えた。本人はいたって真剣で、何かと声が大きい。
「ちょっとカズマ! なんでそこでため息つくのよ!」
「お前、自己紹介くらい普通に終わらせられないのかよ!」
「普通に名乗っただけじゃない!」
その言い分も、間違いではないんだろう。傍らでヒッツが耳を伏せたので、俺はそっとその背を撫でた。
めぐみんの番では、爆裂魔法への熱意が教室いっぱいに広がった。演説が長くなりかけたところを先生が切り上げる。なのはは感心したように聞いていたが、校庭での実演を提案された途端、カズマが椅子から腰を浮かせた。
「やめろ! 初日から校庭を吹っ飛ばすな!」
「まだ吹っ飛ばしていません!」
「これからやるつもりだっただろ!」
……魔法の紹介にも、いろんなやり方があるもんだ。
軍服姿の人たちは、名前を告げるときの姿勢からして違った。ターニャの号令に揃って立ち上がる様子に、俺もつられて背筋を伸ばす。なのはやフェイトも、さっきまでとは少し違う顔で見ていた。
その一方で、スバルの自己紹介にはずいぶん勢いがある。名前を呼ばれた銀髪の少女が慌てて止めに入り、近くの桃色の髪の少女から冷たい一言が飛んだ。
名前を覚えるだけでも、なかなか大変だぞ、このクラス。
「では、次はヒエン君たちにお願いしようかなぁ」
呼ばれて椅子を引く。さっき入口でも名乗ったが、今度は教壇の横へ移動して、黒板に自分の名前を書いた。ヒッツは机に残り、前足を揃えてこちらを見ている。
「大空氷炎です。呼び方はヒエンでいいです。高校三年で、好きなことは食べることと、身体を動かすこと。……あとは、まあ、困ったことがあったら声をかけてくれれば」
「おお、まともな自己紹介だ」
カズマの声に、思わずそちらを見た。
「そんなことで感心するなよ。やりにくいだろ」
「いや、安心したんだって。王様とか軍人とか女神とか、さっきから濃すぎるんだよ」
「カズマ。あなた、女神に向かって濃いって何よ」
アクアさんが抗議を始めたので、俺は話が戻ってくる前に挨拶を締めた。
「帰る方法も調べたいと思ってます。よろしくお願いします」
拍手をもらって席へ戻ると、なのはが教壇の横へ進んだ。俺が書いた字の下に自分の名前を丁寧に書き、振り返って頭を下げる。
「高町なのはです。小学生です。お父さんとお母さんが喫茶店をやっていて、私も時々お手伝いをしています。えっと……ここのことはまだ分からないことばかりですけど、みなさんと仲良くなれたら嬉しいです。よろしくお願いします」
教室を見回した顔に、いつもの笑みが浮かぶ。知らない相手ばかりで緊張もしているだろうに、自分からちゃんと声をかけられる。ああいうところは、昔からなのはの強さだと思う。
続いて立ったフェイトは、黒板に名前を書いてから少しだけ息を整えた。
「フェイト・テスタロッサです。なのはとは同じ学校に通っています。ヒエンとも、前から一緒に魔法の練習をしたりしていて……二人とも、大切な友達です。よろしくお願いします」
頭を下げるフェイトに拍手が送られる。その中で、カズマが俺のほうへ顔を向けた。
「……今、魔法って言ったか?」
「言ったな」
「お前も使えるの?」
「ああ。三人とも」
カズマは教壇から戻ってくるフェイトを見て、それから俺を見た。何か言おうと口を開いたところで、先生が手を叩く。
「質問の時間は、もう少し待っておくれよ。それから、そちらの小さなお友達は?」
視線が机に集まると、ヒッツがぱっと顔を上げた。
「ヒート・スピリッツ。普段はヒッツって呼んでます。俺の相棒で……」
「ガウッ!」
机の上で胸を張ったヒッツに、なのはが笑った。俺も釣られて口元が緩む。
「ま、こんな奴です。よろしくお願いします」
さっきより少し賑やかな拍手の中で、アウラがこちらへ手を振っていた。ヒッツも前足を上げて応えている。早くも、俺より愛想がいい気がするぞ。
* * *
ひととおりの説明が終わって休み時間になると、教室のあちこちで椅子を引く音がした。もともとの仲間と話し込む人もいれば、ほかの席を訪ねる人もいる。
俺が配られた紙を畳んでいる間に、なのはとフェイトのところには、銀髪の少女がやってきていた。
「なのはちゃんと、フェイトちゃん、だったわよね。私はエミリア。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします、エミリアさん」
「よろしくお願いします」
なのはに続いてフェイトも立ち上がると、エミリアさんは少し屈んで二人と目を合わせた。
「知らないところに急に来ちゃって、びっくりしたでしょう。大丈夫?」
「はい。帰れないのは心配ですけど……」
フェイトは言いかけて俺のほうを見たが、すぐにエミリアさんへ視線を戻した。
「一緒に来られたので。それに、みなさんも同じなんですよね」
「ええ。私たちも、まだよく分かっていないの」
「じゃあ、何か分かったら教え合いませんか? 私たちも、もう少し調べてみます」
なのはの言葉に、エミリアさんが頷く。その髪の近くから小さな灰色の猫が顔を出すと、二人がそろって目を丸くした。
「こんにちは。僕はパック。二人とも、リアと仲良くしてあげてね」
「猫さんが……」
フェイトが驚いている横で、なのはが一度だけ俺を見る。気持ちは分かる。動物の姿をした知り合いならいるが、だからって初対面の猫が喋って驚かないわけじゃない。
「パックさん、ですね。よろしくお願いします」
なのはが挨拶し直すと、パックは小さな手を振った。
「君たちの小さなお友達とも、お話ししてみたいな」
そのヒッツは、俺の机の隣でアウラに頭を撫でられていた。向かいにはマーレもいて、そっと手を伸ばす順番を待っている。
「ほら、マーレも触ってみなよ」
「う、うん。……いいですか?」
「本人に聞いてみてくれ」
俺がそう答えると、マーレはヒッツの前へ手を差し出した。ヒッツは匂いを確かめるように鼻を寄せてから、その手に頭を擦りつける。
「あ……柔らかい」
「だろ」
思わず俺まで頬が緩んだ。ヒッツは目を細め、気持ちよさそうに撫でられている。さっきまで知らない場所にいた緊張が、少しずつ薄れていくようだった。
「なあ、ヒエン」
カズマが声をかけてきたのは、そのときだ。スバルも一緒に椅子を持ってきて、近くへ腰を下ろす。
「お前らの魔法って、どんなのなんだ? あの子たちも使えるんだろ?」
「いろいろあるぞ。攻撃も防御もあるし、物を運んだり、治療に使ったりもする」
「生活にも使えるのか。それは便利そうだな」
「便利だよ。洗い物とか、修理とか」
「お前、魔法が使えて最初にそこ挙げるの?」
「毎日のことだからな。馬鹿にできないぞ、洗い物」
カズマが妙に納得した顔をした。冒険の話より、こっちのほうが通じるかもしれない。
「でも、さっきの二人も戦えるってことか?」
スバルが尋ねると、なのはがこちらへ振り返った。エミリアさんたちとの話が一段落したらしい。
「はい。私もフェイトちゃんも、魔導師なので」
「魔導師……」
スバルはなのはの小さな手に目を落とした。カズマも、さっきまでより少し真面目な顔になっている。
「危ないこともするのか?」
聞かれたなのはは、すぐには答えず、フェイトと顔を見合わせた。
「することも、あります。でも、危ないからって、助けたい人をそのままにはできないので」
「私たちだけじゃ無理なときは、ちゃんと相談します。ヒエンも、ほかの人たちもいるから」
フェイトの言葉に頷く。いろんなことがあって、ようやくそう言えるようになったんだ。俺自身も含めて。
「二人とも、頼りになるよ。ただ、今は学校に来てるんだから、戦う話ばっかりしなくてもいいだろ」
「いや、お前らを戦わせようってわけじゃねえよ。ちょっと気になっただけだ」
スバルが慌てて手を振った。なのはは「はい」と笑ってから、自分の胸元にそっと手を添える。
「見るだけなら、小さい魔法でも……あ、教室で使ってもいいのかな」
廊下へ出ようとしていたロズワール先生を呼び止めると、先生は楽しそうに振り返った。
「危なくないものなら、構わないよ。机や窓を壊さないようにねぇ」
「はい。気をつけます」
なのはが手のひらを上に向ける。その少し先に、桜色の薄い光が生まれた。小さな円形の盾だ。光の輪郭は揺らぐことなく留まり、窓から差す日と重なって、なのはの指先を淡く照らした。
「こういうふうに、攻撃を防いだりできます」
カズマとスバルが顔を寄せる。何かを撃つつもりではないと分かると、近くの席からも視線が集まった。
「これ、触っても平気か?」
「はい。大丈夫です」
スバルが恐る恐る指先で押す。小さな盾は、その場に留まったまま指を受け止めた。
「おお……光ってんのに、ちゃんとある」
「強く叩いたりはしないでくださいね」
「しねぇって! せっかく見せてもらってんのに!」
その返事に、なのはが嬉しそうに笑う。フェイトは横から盾を見て、「上手」と小さく声をかけた。なのはも少し照れた顔をしてから、光を静かに消した。
派手な爆発も、すごい威力の砲撃もいらない。目の前で見て、触って、なるほどと頷く。それだけでも、十分に魔法の話はできるんだよな。
「なのは。今のは、詠唱が要らないのか?」
声のしたほうを見ると、ターニャが立っていた。視線は光が消えた場所と、なのはの胸元を行き来している。
「いつも使っている魔法なので。それと、デバイスにも手伝ってもらっています」
「デバイス?」
「魔法を使うのを助けてくれるものです。私のはレイジングハートっていうんですけど……」
なのはが赤い宝石を示すと、ターニャは少し身を乗り出した。勝手に手を伸ばさず、なのはの説明を待っている。
「私のはバルディッシュです」
フェイトも隣で自分のデバイスを見せる。二人が交互に説明するのを聞きながら、俺は机へ片肘をついた。自分たちが使う道具なら、二人のほうが詳しく話せる。俺が口を挟むところでもない。
「ヒエンは、そのデバイスっていうのを持ってないのか?」
スバルの質問に、俺はヒッツを指差した。
「いるぞ。そこ」
ヒッツは今、マーレの手に頬を預けている。スバルが一度そちらを見て、もう一度俺を見た。
「……どこ?」
「だから、ヒッツ。あいつが俺のデバイス」
アウラの手が止まる。マーレも目を丸くし、話を聞いていたカズマが机の上を覗き込んだ。
「いや、お前、さっき相棒って」
「相棒だよ」
「道具なの? 生き物なの?」
「魔法の手助けもしてくれるし、自分で考えて動く。腹も減る。で、俺の相棒」
ヒッツが顔を上げ、「ガウ!」と一声鳴いた。説明に満足したらしく、俺のほうへ歩いてくる。伸ばした手へ飛び乗ってから、いつものように肩へ収まった。
「……なんか、そこは分かった気がする」
スバルが笑った。アウラはまだ聞きたいことがありそうだったが、そこでチャイムが鳴る。
ターニャは二人へ礼を言って自分の席へ戻り、エミリアさんも「またあとでね」と手を振った。持ち寄った椅子を片づけながら、カズマが俺を見る。
「お前の魔法は、また今度な」
「ああ。必要になったらな」
「できれば、飯とか出してくれるやつで頼む」
「食い物を何もないところから作れるわけじゃないぞ」
期待した顔をされても、そこはどうにもならない。カズマが残念そうに椅子を戻す向こうで、なのはが小さく笑っていた。
席に戻ったフェイトと目が合う。さっきより、ずいぶん柔らかい表情だ。
「少し、話せたね」
「ああ。なのはもな」
「うん。ほかの人の魔法も、いろいろ聞いてみたいな」
帰りたい気持ちは変わらない。それでも、ただ不安な顔で座っているだけの時間ではなくなった。名前を覚えて、少し話して、次に話す約束をする。知らない場所での一日目としては、悪くない。
戻ってきたロズワール先生が、教卓に手を置いた。
「さて。それでは、授業を始めようかぁ」
俺はようやく、手元に筆記用具がないことを思い出した。
「……先生、鉛筆を借りてもいいですか」
「あっ、私もお願いします」
「私も……」
なのはとフェイトまで続いたところで、後ろからスバルの笑い声が聞こえた。
「魔法が使えても、そこは一緒なんだな」
うるさい。俺たちだって、学校に来るつもりじゃなかったんだよ。
また投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)