Infinite possibility world ~ ver Servant of zero   作:花極四季

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アニエスとの初めての共同作業があると言ったな、アレは嘘だ。

最近(超絶今更)グラブル始めたけど、何か闇と水ばかり充実してきた。
闇に関してはバザラガ、レディグレイ、ヴァンピィちゃん、ダヌアと召喚にはバハムート。水はヨダルラーハ、リルル、ミラオルと、無課金にしては充実してるんじゃね?と軽くドヤ顔してみる。



第二十一話

闇色の霧が辺りを支配しランプの光が映える頃。食堂に赴くことなく淡々と責務に没頭するルイズは、ふと窓の外をへと視線を向ける。

遥か遠くで仄かに灯る、空に浮かぶ星のような点の数々を見て、溜息を吐く。

視線の先は、王都トリスタニアのある方向。しかし、地平の彼方にあるそれは一切の姿を隠しており、目に付くことはない。

 

「ヴァルディ、遅いな……」

 

脳裏を支配するのは、彼女の変化の基点であり、その日から常に傍らに居続けてくれた青年の姿。

ハルゲキニアに於いては敵ないしは畏怖の象徴であるエルフその人であり、そんな彼はルイズの使い魔である。

エルフが使うとされる先住魔法は使わない――それとも使えない?――らしいが、常人離れした身体能力から繰り出される剣術は、スクウェアメイジであったワルドさえも圧倒した実績を持つ。

人柄に関しても一級品で、品行方正を地で行くかと思えば、決してへりくだる訳でもなく常に我を貫く意思の強さを持ち合わせている。

それは典型的な貴族が平民に対して好き勝手するようなそれではなく、あくまでも対等な目線で対話を行うと言う意味であり、器の違いは最早語るまでもない。

 

そんなルイズにとっては身分不相応なぐらいに優れた存在である彼とは、現在別行動をしている。

彼女は始祖の祈祷書の祝詞を考えることでここ最近の時間を浪費している。

特例で授業に出ることも免除され、事情を知る者からも知らぬ者からも、羨望と嫉妬の視線を向けられることは少なくない。

何せ、世間では彼女は「ゼロ」のルイズ――その名のとおり、魔法を使えないことで付けられた蔑称であり、彼女の人間性を構築するに至った楔でもある。

なまじヴァルディが優秀で目立つ存在であるが故に、不釣り合いだの二度と魔法は使えないだのお零れに預かっているだの、賤民思想にどっぷりと浸かった学生にとっては、まさに悪意を向ける格好の的である。

しかし、それが表立って行われることはない。何故ならば、彼女の傍らにはヴァルディが常に居るからだ。

仮に傍に居ずとも、後日何かしらの形で情報が漏洩されようものなら、どのような報復が待っているか。

ドットであるとはいえ、圧倒的な武力でギーシュを倒した手腕を直接見た者は殆どであり、土くれのフーケを捕縛したと言う実績も、彼の功績が殆どであるとまことしやかに囁かれていることも、彼の実力に箔をつける要因となっている。まぁ、実際その通りなのだが。

そんな彼が抑止力となり、彼女への誹謗中傷は形を潜めたが、根幹を絶った訳ではなく水面下では悪意の渦が静かに回転を生み続けている。

そう、何も変わってはいない。彼女の取り巻く環境も、立場も、本質的な意味では何一つ変わってなどいないのだ。

だからこそ、ルイズは此度の不本意極まりない行事にも粉骨砕身で取り組もうとしている。

これは誰でもない、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのみに託された使命。

偶然が偶然を重ねて結んだ縁が、様々な経験を通して今ここに巡り巡って返ってきている。

偶然の結果――そう揶揄する者もいるだろう。しかし、そんなことを言うのは同じ学生ぐらいだろうし、それを言えばお前達も魔法の使えるのは親に恵まれたからだろうに、と浅慮な同輩に呆れる他ない。

そう言う理由もあって、今回の件に関しては後ろめたい要素はないので、殊更励めるいう訳である。

 

思う所があるとすれば、それはゲルマニアとの同盟の為に婚姻と言う名の人質として扱われる、アンリエッタその人にある。

ウェールズ・テューダー。今は亡きアルビオン王国の皇太子であり、レコン・キスタによって国を滅ぼされ新たに「神聖アルビオン共和国」なるものが設立されたらしい。

情報伝達の技術が発展していないハルゲキニアにとって、遠くからの情報は人伝の噂が伝播していくことでしか得られない。

ほぼ間違いなく、最低でも一週間前には設立されていたことだろう。

時期的に、祈祷書が授与された時とも重なることからも、ほぼ間違いない。

アンリエッタは焦っている。一日でも早く同盟を結ばなければ、次に狙われるのは国力で劣るトリステインだと理解しているから。

その為に、生死不明となったウェールズへの想いを封印し、ただの「王女アンリエッタ・ド・トリステイン

」としての役目を果たそうとしている。

それに対して、思う所があれどとやかく言える立場ではない。ならばせめて、賜った役目をしっかりと果たし、彼女に憂いなく娶られてもらいたい。

幼い日々を共有し、立場は変われど変わらず友人として接してくれるアンリエッタ。

トリステイン王国の姫、貴族の三女。そんな身分など意味の無い幼少より培われた絆は、決して誰かが肩代わりできるものではないと、それだけは胸を張って言える。

今でこそしがらみで昔のようにはいかないかもしれない。それぐらいに、二人の立場の差は遠く、広い。

――だが、それでも。アンリエッタが他でもないルイズに祝詞を読んでもらいたいと、姫としての立場ではなく、あくまで友人として望んだというのであれば、その気持ちを汲み取らずにいられようか?

 

「ミス・ヴァリエール。夕食をお持ち致しました」

 

ノックの音が数回。後から聞こえてくる声は、馴染み深いメイドの声。

 

「入っていいわよ」

 

「失礼します」

 

告げて部屋へと入って来たのは、シエスタ。トリステイン魔法学院にてメイドとして働いている少女だ。

そして――学院内に於いて、ヴァルディの次に信を置いている人物でもある。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

机の上に置かれる夕食。

しかしそれは貴族に振舞うような豪華絢爛なものではなく、シエスタ達が普段食べるような賄い食そのものであった。

普通の貴族ならば怒り狂うであろうそれは、他ならぬルイズ自身の提案によって出されるようになったのだ。

 

「……うーん、疲れた身体に染み渡るわ~」

 

「そう言ってもらえると嬉しいですよ、ミス・ヴァリエール」

 

「もう、誰の目も無い時は――」

 

「ルイズさん、ですよね。すみません、どうにも警戒してしまうと言いますか」

 

このような呼び方をされるに至ったギーシュとの決闘騒ぎから、この関係は継続している。

自分が認めた人間以外の目が無い時には、今のように振舞うということ。

ルイズ自身、良くも悪くも魔法が使えないと言う理由から、貴族的な思想がトリステイン国民とは思えないぐらいに薄い。下手をすれば、ゲルマニア以上。

魔法を使えないからこそ、使えることの素晴らしさが分かる。同時に貴族であるが故に、魔法が使えない平民の尊さが理解できる。

どっちつかずの宙ぶらりんであることで、貴族と言う存在に猜疑を抱き、平民と言う存在に恩義を感じずにはいられない。

貴族が全員平民を見下している訳ではないのは理解している。それでも、自分達にとっては遠い存在であると達観し、俯瞰した視点で見ていることは確かだ。

どんな形であれ、上下関係と言うものは存在する。だがしかし、貴族と平民ではそんな言葉では済まされない「壁」がある。

魔法と言う絶対的能力――奇跡の御業と言って差支えない現象を起こすが故に、使えない者にとってはそれが如何に優れており、恐れるべき力であるか。

持つ者と、持たざる者。どんなに崇高な言葉を並べ立てようとも、その「壁」が消えることは決して無いだろう。

 

「気持ちは分かる――なんて言っても同情にしか聞こえないわね。せめて壁にサイレントを掛けることが出来れば気苦労させないで済むんだけど」

 

「それを言うなら、ルイズさんの方こそ……。ここ数日、ずっと姫殿下へ捧げる祝詞に没頭していますけど、体調の方はよろしいのですか?」

 

「うん、寝不足とかにはなってないわ。何せ、授業は免除だしね。授業の為に早起きしなくていいってのは楽でいいわ」

 

「あはは……」

 

苦笑いするシエスタ。

砕けた態度も反応も、ルイズにとっては心地よい。

貴族として振舞わなければならない、堅苦しい空気とは無縁なこの場は、ルイズにとっての唯一と言って良い心安らげる場所であり、聖域だ。

たまにキュルケが校則違反上等の問答無用アンロックで入ってくるが、今は夜故にそこまで心配する必要もなく、昼間は授業中なのでまた然り。

付け加えるならば、キュルケ自身が今回の件が干渉して良いことではないとぼんやりと理解していることもあって、極力邪魔をしないよう配慮していることも要因となっていた。ルイズはその事実を知らないが。

 

「エリィとルーシーも心配していましたよ?」

 

「ああ、あの二人」

 

シエスタが呼んだ二名の名は、同じメイド仲間であり、ルイズとはシエスタとヴァルディを通しての知り合いである。

ヴァルディが給仕の真似事をするようになって、メイド達と交流を深めていくところから始まり、シエスタとの繋がりがルイズとの縁を結んだ。

当然、当初は怯えられた。

無理もない、ルイズも所詮平民にとっては十把一絡げの「貴族」に過ぎない。大半の貴族にとって、平民がそれ以上の存在になり得ないように。

――故に、関係は膠着し、平行線を辿り続ける。いずれその流れが、人類を殺すとしても。

魔法とは、即ち甘い毒だ。

その甘さに釣られ、群がり、貪り――そして、最後の最後に毒と気が付き、死に至る。

それがいつの日の出来事かは分からない。――でも、これだけは言える。

このまま行けば、トリステインはその毒に犯されるよりも早く滅亡するということ。

 

悲しいかな、国力に劣るトリステインは他国と同盟を組むことでしか国力を補う手段はない。

時間を掛ければ別、なんて甘い考えは持っていない。

魔法と言う絶対的な力に固執し、無自覚の内に発展を否定するトリステインは、緩やかな時の流れの中で早々に朽ちていく運命にある。

この度同盟を組むに至ったゲルマニアは、国力を見れば世界トップクラス。トリステインとは比較することさえも烏滸がましい国力の差がある。

トリステインの貴族がそれを野蛮と否定するのは、ブリミル信仰を絶対としているのもあるだろうが――それ以上に、無意識に現実から目を背けようと意固地になっているからではないだろうかと、ルイズは確信に似た何かを得ていた。

否定してしまえば、今まで培ってきたもの全てが崩れてしまうから。

自己を確立する上で八割以上を占めているものが砕けてしまえば、それは最早自分ではなくなる。

なまじ強く信じ込んでいるが故に、一度折れれば二度と立てなくなるかもしれない。

潜在的な恐怖が、自己防衛本能に繋がり、発展を否定し――遂には停止する。

トリステインの貴族という立場から現実的に見据えているが故に、それが分かってしまう。

トリステインの骨子であるマザリーニ枢機卿は当然として、恐らくアンリエッタも理解していることだろう。

そして、仮に同盟を結べたとして、次はどうなる?――簡単だ。ゲルマニアに国力を吸い上げられ、吸収、合併……最悪存在そのものがなくなってしまうことだろう。

ブリミル信仰が如何に尊いと謳おうとも、魔法が万能だと吼えようとも、一度縋ってしまえばただの負け犬の遠吠え。

力こそが正義、なんて武力を肯定する思想を持ち合わせているつもりはないが、現実問題トリステインが国として弱いが故に現状があることに変わりはない。

愛する者を喪い、自国を存続させる為にその身を犠牲にし、その果ての徒労だとすれば――神は、ブリミルは、どこまでアンリエッタを苦しめれば気が済むのだと憤らずにはいられない。

 

「ルイズさん?」

 

「あ?……ええ、何でもないわ」

 

掌が赤くなるぐらいに拳を握り締めていた事実に、ルイズは今更ながら気付く。

それを取り繕うように手を仰ぎ、先の言葉が出た。

 

「それならいいんですけど。それにしても、ヴァルディさんまだ帰って来ないんですね」

 

「――――……うん」

 

忘れていた筈の胸の空虚が、シエスタの言葉で思い起こされる。

確かに、いつ帰ってくるとは言っていなかったし、こうなる可能性は十分に考慮出来た。

しかし、普段傍にいることが当たり前過ぎて、離れると言ってもそんなに長時間になるとは考えてもいなかった。

それを怠慢だと言われれば、返す言葉もない。しかし、そう思ってしまうのも致し方ない事。

そして、意識してしまえば途端に溢れ出す不安。

ちゃんと戻ってくるのか?私に愛想を尽かしたのではないか?窮屈な生活に耐え切れなくなったのではないか?――そんな、ネガティブな考えばかりが募る。

 

ルイズと言う少女は、元来とても弱く、脆い。

魔法が使えないという劣等感、それによって変わる露骨な周囲の対応、自分を見る目。それは、幼い頃の人格を形成するにあたって、当然の如く悪い影響を及ぼした。

自尊心と言う膜に包まれたモノは、突けば破れ、落とせば容易く割れてしまう代物。

防波堤と呼ぶにはあまりにも頼りないソレで、今の今まで壊れずにいられたのは、最早奇跡に等しい。

いや、もしもヴァルディが現れてなかったら……。使い魔さえも呼べない存在という烙印を押され、進級出来ずに家族からも見放され、最後には――――……

最悪が脳裏を過り、思わず身を震わせる。

そんな有り得たかもしれない未来を想像し、ヴァルディへの執着がより一層深まっていく。

手放してしまった後悔と、そんな身勝手で彼の意思を否定しようとした自分に嫌気が差す。

疲労が溜まり、精神的に不安定になっていることは否めない。

 

「大丈夫ですよ」

 

ルイズの心中を察したかのように、シエスタは彼女の手をそっと握り、諭すように語りかける。

 

「ヴァルディさんは戻ってきます。あの人は、約束を違えるような人ではありません」

 

「……そう、かもしれないけど」

 

「貴方が信じないで、誰が信じると言うんですか。他の誰かが信じるのと、貴方が信じるのとでは、価値も重みも何もかもが違うんです。今はまだ分からないかもしれませんが、それだけは間違いないと断言します」

 

シエスタの真剣な色を宿した瞳が、ルイズの視線を射抜く。

揺れることの無い視線。そこに、先の言葉が偽りではないことを告げていた。

自らの頬を叩き、頭を振り、弱った思考を振り払う。

ここでヴァルディを信じないということは、彼がルイズへ向ける信頼に泥を塗ることになる。

それは、あまりにも不敬だ。人として、やってはいけない無礼だ。

貴族らしい、なんて冠詞は最早不要。

平民だろうが貴族だろうが、正しいことは正しいし、間違っていることは間違っている。

理不尽や不条理を跳ね除ける力がなくとも、正しさを胸に秘めてそれを貫く気概があれば、それは誠実さとなり、自分に返ってくる。

その結果が、シエスタとの絆を生んだと理解しているか故に、それは確かな自信となって表れる。

もし、シエスタとの関係が何かしらの形で公になった時は――胸を張って言おう。

シエスタは、私の自慢の友達だって。

 

「……シエスタ」

 

「はい」

 

「ありがとね」

 

「……どうしたしまして」

 

互いに微笑みあう姿を、二つの月が照らす。

孤独による空虚が、少しだけ埋まった気がした。

 

 

 

 

 

その出会いは、お世辞にも円満とは言い難いものだった。

傭兵としてその身を戦いに捧げた者として、多少の事では動じない精神を身に着けていたつもりではあった。

しかし、今回は違った。

情報収集も兼ねて荒くれ共が集まるような酒場にまで足を運んだは良いものの、そこで図体ばかりの男に絡まれた。

女だと見下し、舐め回すように私の身体を下卑た視線で観察される。

女が剣を取る、などただの平民が武器を持つと言う行為以上に馬鹿にされる所業であることは理解している。

だが、私はそんな先入観で他者を評価する奴が大嫌いだ。

ソイツは割と悪い意味で有名な奴で、普段は貴族と平民と言う格に対して非難を口にし、都合良く自分よりも弱そうな者が出てくれば、貴族が自分達へとやってきた事を平然と行う、まさに無法者として渋い目で見られていた。

私は思った。滑稽で、哀れで――なんて、虫唾が走る光景だろうか、と。

身分制度そのものにとやかく言及したい訳ではない。魔法があろうとなかろうと、差はどこにでも出る。

平等なんて、無味乾燥な理想論でしかない。

平等に満たされ、平等に愛し愛され、平等な立場で生を謳歌する。――なんて、つまらない光景だろう。

瞼の裏に投影される想像は、どこまでも平坦で、色の無い世界。

私は、そんな世界は許容できない。一度、色を失いかけた私にとって、そんなものは無価値であると誰よりも理解できる。

私が気に食わないのは、二枚舌で内弁慶な男そのものの在り方だ。

貴族に叛逆する気概もない癖に、鬱憤の捌け口を弱者へと放つその姿を、奴は省みたことは無いのだろう。そうでなければ、あのような恥知らずを繰り返す筈がない。

今までは、自分には関わりの無いことだと無視を決め込んでいたのだが、そのツケと言わんばかりにその男はいやに私に絡んできた。

生理的に受け付けない風体をしている上に、性格まで合わないと来れば、雑に扱うのも当然で、寧ろ問答無用で斬りかからなかっただけ有情だと自分で自分を褒めてやりたいぐらいだ。

そんな私も、遂に堪忍袋の緒が切れ、手を出したまでは良かったが――そこからが、私の運命を変える転換期となった。

 

怒りによってほつれていた私の意識は、目の前に立ち塞がった巨大な何かによって引き戻される。

それは、かつて私が見つけ、使いように困りインテリジェンス・ソードのデルフリンガーと交換で引き取ってもらった、重圧な大剣。

オーク鬼ぐらいしか振るえないであろうと言う程に重く重圧なソレは、大剣の影から僅かに覗かせる細腕によって支えられていると気付き、戦慄した。

その刹那の隙を突かれ突き飛ばされた私は、為すすべなく尻餅をつき、使い手の姿を見上げる。

見たこともない美貌を持つ青年だった。だが、そんなことよりも、私はあの剣を扱える実力に魅入られていた。

油断していたとはいえ、並の武器を扱う手合いであればここまで無様を晒すことはない。

基本的に一人ですべてこなしてきた私にとって、複数の敵を相手取ることは当たり前で、不意打ちに関しても独力で対処してきた。

オーク鬼の住処を単独で制圧したこともある。それこそ、ただの傭兵相手ならば眠っていたとしても十分対処できる自信があった。

自惚れと思われても仕方ない。しかし、それを裏打ちする実績を上げて来たことも事実で。

だからこそ、目の前の男に惹かれた。そして、知りたいと思った。

何者なのか、どれぐらい強いのか……沸いては出てくる興味の感情を、抑えることは出来なかった。

 

それから、私は彼――ヴァルディを呼び止め、どうにか話し合いができる状態まで持っていくことが出来た。

その場をセッティングしてくれたのが彼だと言うのが些か配慮不足であったが、気にし過ぎても仕方ないとすぐに忘れることにした。

とりとめの無い会話から始まり、食事にありつく。

名前ぐらいしか知らない店で、店長と思わしき男は無駄に個性的だが、料理の質は素晴らしいの一言に尽きる。値段も手頃で贔屓にしたいぐらいだ。

思いがけない出会いの連続で満たされていく感覚に思わず酔いしれそうになるが、これらは副次的要因でしかない。

 

私が切り出したかった本命――それは幼い頃に見た、魔石と呼ぶに値する紫色の石の所在。

記憶力も確かではない時期の出来事である筈なのに、その時に見た紅蓮を忘れることは無い。

偶然、私はその時村を出ていた。

好奇心に駆られたのか、目的があったのか、それは分からない。

そんなことは重要ではなく、その気まぐれに等しい子供の行動一つが、私の命運を決めたというだけの話。

住んでいた村一帯の大地が隆起し、雷が降り注ぎ、住民は石に変えられ――そんな悪夢のような光景を、遠くから見つめることしか出来なかった。

駆けつけようとするよりも早く、村を滅茶苦茶にした奴らの一人に遭遇し、必死で逃げた。

しかし、所詮は子供の足。どう足掻いたところで大人に敵う筈もなく、村人達と同じ運命を辿るであろう私の命は、後の義理の父となる男によって救われた。

村を焼き払ったものと同じ紅色が、敵を焼き尽くす光景を見て――何故か、綺麗だと思った。

同じ炎である筈なのに父が放ったそれからは、気高さと力強さだけを感じた。

暴力と破壊のみに支配された、あの炎とは違う。それが分かってしまっただけで、安心感を覚えた私は気絶したのだった。

そうして助けられた私は、恩人である男に育てられ、今に至る。

 

思えば、あの時を切っ掛けに一度私は死んだのだろう。

平穏で、何事もなく、家族と笑顔を共にして生きていく権利を剥奪された私は、最早過去の自分と同じとは言えない。

別人と言って差支えない私が、過去の出来事に引き摺られるのは間違っている。――そう自分を納得させようとも、割り切れない。

だから私は、趣味と実益を兼ねた仕事を初め、表向きは真面目に暮らし、裏では傭兵として腕を磨ぐ。

雌伏の時を超え、いずれは村を滅ぼした奴らに報いを受けさせたいと、黙々と力を付けて来た。

だけど、個人の力では限界がある。

義父を騙すことになる為、大手を振って行動出来ないこともあって、実力を高めることはともかく、肝心の魔石に関しては殆ど成果を得られず仕舞い。

そんな時、ヴァルディに出会った。

私と肩を並べ、戦える力を持つ猛者を。

 

会話をするに連れて確信していったが、ヴァルディと言う男は今時珍しいぐらいに誠実で無垢な男だ。

瞳の奥に宿る信念の色は、木端貴族にも平民にも無い力強さがある。

私が女だからと馬鹿にすることもなければ、気のせいか寧ろ尊敬の念さえも感じる。

不思議な奴だ。まるで子供のような視点で物事を見ているかと思えば、常人離れした強さの片鱗を見せ付けた。

だからだろうか。本来ならば初対面故にもっと警戒すべき筈なのに、すっかり毒気を抜かれていた。

表情こそ硬いが、目を見れば分かる。

コイツを疑うこと程馬鹿らしいことはない、と。

寧ろ私の要求ばかり一方的に押し付けて、それに頷くヴァルディを見て心配にさえなる。コイツ、詐欺に遭い易いタイプだ。

もしかして、貴族の護衛とやらも不当な契約でやらされているんじゃないか?と邪推さえしてしまう。

……まぁ、そこまで気にする関係でもないし、言及はしないでおいたが。

 

かくして、私とヴァルディは一時的な協力関係を結んだ。

魔石へ繋がる情報を得て、いざ確かめようと言う時だというのに、どうにもヴァルディに気を取られて落ち着かない。

私の予想では、今回の件は簡単に終わりそうにない。恐らく、ヴァルディにも負担を掛けることになるだろう。

だが、不謹慎にもそれを望んでいる自分がいる。

彼の実力を見ることが出来る機会だと、童心の如くそわそわしてしまう。

そんな心境をおくびにも出さず、私はヴァルディをトリスタニアの家に案内した。




【悲報】アニエス、初対面でルイズよりもヴァルディを理解してしまう。

ルイズはルイズでシエスタとイチャイチャしてるしで、もうこれ(このままで)いいんじゃね?

次回、次回こそケーキ入刀(意味深)があるから……勘弁してクレメンス。
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