思ってたのとなんか違う   作:もちすぎ

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 原作では詳しく描写されていないが、ここに来て初めて実感した。学園都市は正しく“学生の為の街”だ。

 ゲーセンやファミレスが乱立し、居酒屋などの施設はほとんどない。それに閉店時間がやたらと早い。大体6時になる頃にはほとんどの店が閉まる。

 これは完全下校時刻という制度のせいだ。6時になる頃には店を閉め、バスやモノレールは停止させなければならない。

 だから学園都市では、夜になったらほとんどの人間が通りからいなくなる。暗くなったら家に帰る、なんとまあ健全なことだ。

 しかしここは学園都市、健全なままで終わるはずもなく。

 

 夜に店を閉めさせる本当の理由は、暗部が動きやすくなるように、だ。目撃証言を減らすのはもちろん、流れ弾で普通の学生が死ぬ心配も無くなる。そして何より、アンチスキル以外の人がいなくなれば、格段にターゲットが見つけやすくなる。

 そしてここでいうターゲットとは、ずばり俺の事だ。

 

「オイオイ、新しいlevel5は逃げるだけの玉無し野郎かよ! 少しは真面目に戦ったらどうだい?」

「うるせえ! 俺は女の子とは戦わない主義なんだよ!」

「あぁン? この私を前にして“女の子”だと……」

 

 クソが! それ(戦闘)が出来てたらはなから追われるような事にはなってねえんだよ!

 今俺の事を追いかけてるのはあの麦野沈利だ。学園都市の暗部から逃げること二週間、遂にlevel5を導入してきやがった。

 しかもあの野郎、逃げてる俺に民間人ごと『原子崩し(メルトダウナー)』を放とうとしやがった! そうされたら、俺は自分からあいつの方に行くしかない。まったく、上手い手だ。流石暗部、といったところか。

 

 いや、この場合運が良かったと喜ぶべきか。派遣されたのが『スクール』だったら、今頃愉快なオブジェクトになっていたな。だって垣根とか音速で動けるんだろ? 俺の能力じゃどうしようもない。後、普通にスナイパーとかに撃たれたら死ぬしね。

 

 それに比べて、麦野の『原子崩し(メルトダウナー)』は俺の『万里透視(テレスコープ)』と相性がいい。

 『原子崩し(メルトダウナー)』は本来“粒子”又は“波形”のどちからの性質になる電子を強制的に“曖昧なまま”にして操る能力だ。そして俺は空気中の電子が“視え”る。麦野が能力を使って攻撃しようとした瞬間、電子の動きでその弾道を予測することが出来る。

 元々『原子崩し(メルトダウナー)』はその強力すぎる能力故に、狙いを定めるのに時間がかかる。電子の動きをよく観察し、麦野の視線を透視すりゃあ、避けれないほどじゃあない。

 

 そしてこうして逃げているだけで、俺は勝つことが出来るのだ。

 

 

   ◇◇◇◇◇◇

 

 

 学園都市に七人しかいなかった(・・・・・)level5の第四位、麦野沈利がその依頼を受けたのは早朝のことだった。

 

 麦野が第三学区の個室サロンで寝ていたところ、ピーピーと携帯電話が鳴った。麦野はその音で目を覚ますと、気だるげに携帯電話に手を伸ばし、顔を枕にうずめたままゴミ箱に放り投げた。ホールインワンである。

 すると今度は携帯電話ではなく、サロン備え付けの固定電話が鳴り出した。それを聞いた麦野は、躊躇なく固定電話のコンセントを極小の『原子崩し(メルトダウナー)』で焼き切った。

 ピーピー、途端にゴミ箱の中で再び鳴り出す携帯電話。

 

「聞こえないにゃーん」

 

 麦野は猫撫で声でそう言いながら、いつも一緒に寝ているボロボロのぬいぐるみの手を持って、ぬいぐるみの耳に当てた。そのままいやいや、とぬいぐるみの顔を振る。

 それでもなおピーピー、と鳴り続ける携帯電話。

 

「……」

 

 ブチッ、と何かが切れる音が響いた。次の瞬間、麦野は布団から飛び出し、携帯電話を掴むと通話ボタンを押して怒鳴った。

 

「朝からやかましいなクソ馬鹿!! 応答する気がないことぐらい分かんないの!?」

『こいつときたら! こっちだって朝から仕事なんかしたくねえっつーの!』

 

 麦野の予想通り、電話の相手はいつも麦野に仕事の連絡をしてくる謎の女性だった。

 

『とびっきりの依頼よ! 新たなlevel5が生まれたから、そいつを始末しなさい!』

「はぁ!?」

『まあ、今回ばかりはその反応も分かるわ。けど、つべこべ言わずやりなさい! 相手はlevel5だし、報酬は弾むわよ!』

 

 その依頼の突飛押しもなさに麦野は一瞬面食らったが、すぐに冷静さを取り戻していく。

 『電話相手』の口ぶりから、今回の依頼は断れるようなものではない。また学園都市の上層部の依頼であるなら、新たなlevel5が生まれたなどという突飛押しもない話も信憑性が高い。

 生まれたてとはいえ、level5を倒す。報酬はどうでもいいが、それは中々に魅力的だ。

 

 麦野は超のつくほどの完璧主義だ。

 学園都市の頂点に君臨するlevel5でありながら、決して満足していない。

 自分より上の序列にいるlevel5全員に勝つ、それが麦野の目的であり、暗部に堕ちた理由の一つでもある。

 新たなlevel5、それがどの序列になるのかは分からない。しかし先立って潰す機会があるというのなら、潰しておこう。麦野はそう考えた。

 

「いいよ、受けてあげる。情報をよこしな」

『最初っからそうやって素直に言う事聞いときなさいよねっ!』

 

 テロン、という音と共にサロンに設置されているパソコンにメールが届いた。

 麦野は早速メールを開き、中にあったファイルに目を通していく。凄まじい速度だが、内容は全て暗記している。

 

「オイオイ、アンタ無能か? 全然情報が足りてえじゃねえーか」

『無能だとぉ! こいつときたら! そいつがこの街に来てまだ二週間しか経ってないのよ。むしろそんだけ集めてやっただけでも感謝しなさいっつの!!』

「二週間? へえ……」

 

 普通暗殺の際は、相手のことを徹底的に調べてから行う。それは相手が強ければ強いほど、だ。

 しかし新たなlevel5、千里山冬至について書かれている情報は極めて少ない。肝心の能力ですら、『万里透視(テレスコープ)』という名前だけで、どの様な能力なのかわからないのだ。普通ならもっと、下っ端に情報を集めさせてから事にあたる。

 

 麦野ははじめ、千里山は自分や垣根帝督の様に何らかのバックが付いており、それ故情報が遮断されていると推測した。

 しかし、件の男千里山は学園都市にきてから僅か二週間。暗部に身を墜とすには少々日が浅すぎる。詰まる所、本当に学園都市の上層部は千里山についての情報を掴めていないのだろう。

 そして千里山の情報を収集する前に、一刻も早く自分(level5)を使ってでも殺したい何か(・・)が彼にはある。そう麦野は確信した。

 

「(面白い。この街の闇が無理をしてでも命を狙う新たなlevel5。そいつをこの私がサクッと殺してやろう)」

 

 こうして、麦野沈利は依頼を引き受けたのである。

 

 

   ◇◇◇◇◇◇

 

 

「チッ! まだ『万里透視(テレスコープ)』のところには辿り付かねえのかよ」

「す、すみません、麦野さん。あの、また距離を離されました」

「離されました、じゃねえんだよ。サッサと追いつけ」

「は、はい!」

 

 イラつく麦野の言葉に、暗部の末端である運転手の男は恐る恐る答えた。

 

「(どう考えたって偶然じゃない。これも『万里透視(テレスコープ)』の能力の一つか?)」

 

 麦野が千里山を殺す為に動き出してから二時間、未だ麦野は千里山に近づけずにいた。少しでも接近すると、此方の動きを察知しているのか、動いた分だけ引き離されてしまうのだ。

 此方は車、向こうは徒歩。それ故直接的な速度は此方が速い。しかし千里山は車の通れない裏路地や、建物の中を通る事で麦野の追跡を振り切っている。

 もちろん色々と追跡方法を変えている。しかし今回もまた見事に逃げ切られた。恐らくこのままでは堂々巡り。故に、

 

「これじゃあラチがあかない」

「え?」

「アンタ、もういいわ。車停めて」

「分かりました」

 

 麦野は次の一手を打つ事にした。

 先程も行ったが、麦野は完璧主義だ。何度も出し抜かれるなど、我慢ならない。それ故、普通では躊躇する様な選択肢でも、ためらう事なく選ぶ事ができる。

 その一手とは、『原子崩し(メルトダウナー)』による強行突破である。

 監視カメラの映像から千里山の位置を割り出し、そこに向けて『原子崩し(メルトダウナー)』を適当に叩き込む。当然その直線上にある建物や人間は吹き飛ぶが、そんなことは麦野の知った事ではない。

 

 麦野が右腕を突き出すと、不健康な緑色の光の玉が浮かび上がった。

 後はそれを、タブレット上に映し出された千里山の位置情報めがけて放つだけである。

 

「あァン?」

 

 麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を放とうとした正にその瞬間、千里山が此方に向かって動き出したのだ。

 千里山が何らかの能力によって麦野を監視している事は最早疑いようがない。麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を放とうとしている事は把握しているはずだ。にも関わらず、麦野の方に向かってくる。その意味は、

 

「(私に真っ向から戦って勝てると思ってんのか?)」

 

 そう麦野は推測した。

 学園都市の闇に堕ち切っている彼女は、見知らぬ民間人を助けるために動く、などという発想が出てこない。

 

「ひゃははははは! はぁ……舐められたもんだわ、ホント。まあ、ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

 

 そして麦野はブチ切れた。千里山が自分に勝てると思っていることが、酷く不快に感じられたからだ。

 麦野は極大の『原子崩し(メルトダウナー)』を躊躇無く放った。そして千里山が死んだ事を確認する前にもう一度、更にもう一度──何本もの『原子崩し(メルトダウナー)』を続けざまに撃ち込んでいく。

 一撃でも当たれば、いや擦りでもすれば容易く人を肉塊にする『原子崩し(メルトダウナー)』。その証拠に、麦野と千里山の間にあった建物や道路は粉微塵に吹き飛んでいる。

 しかし、変わらず千里山はそこにいた。

 

「アンタ、私の『原子崩し(メルトダウナー)』をくらって、何で生きてるわけ?」

「そいつは哲学的な質問か?」

「質問に質問で返すなって、小学校で教わらなかったのかにゃーん?」

「ッ!?」

 

 突如、麦野が千里山に向けて『原子崩し(メルトダウナー)』を放った。千里山はそれを済んでのところで、しかし確実にかわす。

 

「(こいつ、明らかに私が『原子崩し(メルトダウナー)』を放つ前から避ける動作に入ってやがったな。テレパス系か? いや、そうなら根っこのところでは私と同じ能力だ。何も感じないはずがない。それなら、もっと別の……)」

 

 考え込む麦野を見て、今度は千里山の方が声を掛ける。

 

「おい、人と話してるときに攻撃するなって小学校で教わらなかったのか?」

「あぁン? よっぽど死にたいみたいだね、アンタ」

 

 何とも陳腐な挑発だが、麦野にはそれで十分だったようだ。今度は先程よりも小さい『原子崩し(メルトダウナー)』を、──しかし四発も放つ。

 

「うおっと!」

 

 一本が頬を掠め、一本が脇の下をくぐり、他の二本が数瞬前まで腹部があったところを通過する。済んでのところで『原子崩し(メルトダウナー)』を避けた千里山は、背を向けて麦野から逃げ出した。

 激昂する麦野は、『原子崩し(メルトダウナー)』を振りまきながら追いかけていく。

 

「オイオイ、新しいlevel5は逃げるだけの玉無し野郎かよ! 少しは真面目に戦ったらどうだい?」

「うるせえ! 俺は女の子とは戦わない主義なんだよ!」

「あぁン? この私を前にして“女の子”だと……」

 

 千里山が何気無く放ったその一言が、やたらと麦野を不愉快にさせた。逃げる千里山の背中に向かって、先程よりも多くの『原子崩し(メルトダウナー)』を放つ。

 千里山はまるで背中に目が付いているかのような動きでそれをかわしていく。それを見た見た麦野は一層怒り、更に多くの『原子崩し(メルトダウナー)』を放つ。

 level5同士の戦いは、まだまだ始まったばかりである。




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