思ってたのとなんか違う 作:もちすぎ
麦野が『
少しずつだが、確実に千里山の
しかし、未だ千里山を捉えられずにいた。
理由は単純だ。麦野の学習能力より、千里山の回避方法の引き出しの方が多いのだ。
「(こいつ、学園都市に来てからまだ二週間だろ。どうしてこんなに戦い慣れてやがる!)」
麦野の怒りの大きさに呼応する様に、先程よりも大きい『
千里山と麦野の距離はもう5メートルもない。人外じみた身体能力を誇る麦野。しかし、麦野はその5メートルを中々詰められずにいた。
単純に千里山の足が速い、というのもあるが、それよりも千里山の走り方のほうに問題がある。彼は麦野の“嫌がる走り方”をしてくるのだ。
人には、いや生物にはすべからく癖がある。動かしやすい筋肉、動かし辛い筋肉。したく無くてもしてしまう、
千里山は能力により、麦野の筋肉を“視る”事でその癖を綿密に把握。麦野が追いかけ辛いルートを常に選択し、麦野が走り辛い走り方を強要していく。
麦野は直線距離を全力で走るのは得意だが、緩急をつけてジグザグに走ったり、障害物を跳躍してかわす事は苦手だ。それ故千里山はジグザグと走り、障害物の多いルートを選択して逃げる。
「level5の癖に、しゃらくせえ真似してんじゃねェゾ! チキン野郎!」
「ッ!?」
激昂する麦野が取り出したのは、『
麦野は
千里山は頭上で拡散されていく『
割れたガラスの破片が千里山に食い込むが、そんな事を気にしている場合ではない。
千里山が廃ビルに入った次の瞬間、先程まで千里山が立っていた道路に『
「オイオイ、鬼ごっこの次は隠れんぼか?」
麦野は廃ビルのコンクリートの壁に『
『
「(この狭い廃墟の中じゃあ
麦野の『
そして落下するビルは自分の重みに耐え切れず、あっという間に瓦礫の山と化すだろう。
そうなれば、千里山は確実に死ぬ。
未だ千里山の詳しい能力はわかっていないが、第五位のように物理的に作用する類の能力では無いはずだ。
そこまで考えて、麦野の足がズキリと痛んだ。どうやらブーツで走り過ぎたせいで、足の皮が剥けたらしい。
冷静に自分の体を見てみると、他にも様々な傷を負っていた。
様々な物が散乱している廃墟を走り抜けたせいで、大小様々な切り傷が身体中にある。
慣れていない走り方をしたせいで、筋肉が嫌な痛みを湛えている。
無理に走り続けたせいで、肺が悲鳴を上げている。息も絶え絶えだ。
能力を使い過ぎたせいで、頭も痛い。
『
──気が済まない。
このまま瓦礫に埋めてハイおしまい、では麦野の気が済まない。
千里山を追い詰め、いたぶり、恐怖に慄く顔に直接『
幸い、状況的にはこちらが圧倒的に有利だ。この廃ビルはそこそこ高いが、それでも階層には限りがある。いつかは逃げる場所がなくなる。
その上、例え階段を降りて逃げようとしても『
麦野は勝利を確信し、ニンマリと笑いながら階段を登った。
◇◇◇◇◇◇
下の階を“視る”と、麦野が『
念の為、もう一度第二学区にある風紀委員と警備員の訓練施設にある情報ステーションを“視”ておく。
俺がしている事は、要はカンニングだ。
戦いの最中、俺は風紀委員と警備員の訓練施設にある高位能力者との戦い方や、逃げ方のマニュアルなどをこっそり盗み“視”ている。そうする事で、俺は戦い方のバリエーションを増やしているのだ。
他にもスポーツ医学の本を“視”たりする事で、麦野の身体に負荷をかけられる走り方をする事ができたりと、逃げながら色々とやっている。
麦野から逃げながら、悠長に他の事を“視る”事なんて出来るのか? という疑問もあるだろう。
結論から言えば可能だ。10場面ほどまでなら、同時に“視”ても余裕で処理出来る。
御坂美琴をはじめとする『
普通そんな途方もない情報量を受け取れば、脳が混乱してしまう。しかしそうはならず、すべて無意識下で処理している。
恐らく、俺の『
そういう訳で、他にも色々と“視”ながら麦野を“視る”と、奴はもう六階まで来ていた。ここまで近づいてくると、もう声が聞こえてくる。
──さあ、大詰めだ。
◇◇◇◇◇◇
「おい『
麦野が大声を上げた。現在彼女がいるのは七階だ。八階にいるのであろう千里山は聞いているはず。しかし、隠れているであろう奴は返事を返さない、そう麦野は考えていた。
「良いぜ、『
「なっ!? てめえ!?」
麦野の予想に反して、千里山は返事を返した。それも上の階からではなく、
千里山はロープの様なものにぶら下がり、振り子のように動いていた。そしてその勢いのまま窓を蹴破り、麦野の方に突っ込んだ!
麦野の位置と刺客把握しての完璧な奇襲。
動揺で演算が狂う麦野。いやそもそも、こんな近くまで接近されては不用意に『
それ故麦野は、『
「暗部を舐めんなァ!」
窓ガラスの破片を無防備に受けながら、麦野は千里山の方へと動いた。千里山の勢いの着いた蹴りを脂肪の厚い部分──胸で受け止めた。
「コヒュ!」
肺の中の空気が押し出され、ただでさえ階段を上る事で少なくなっていた空気を全て吐き出した。それどころか、口から血が流れでる。
しかし麦野は激痛の中、少しも怯む事なく千里山の足を掴み、そのまま後方まで投げた。
「ぐあっ!」
数メートル程ノーバウンドで飛んだ千里山は、先に地面に辿り着いていたガラスの破片が広がる地面に叩きつけられた。
背中には無数の破片が突き刺さり、じわじわと血が滲んでいた。
何とか立ち上がるが、その体はフラフラとしており、立つのがやっと、という感じだ。しかし、その顔に浮かんでいるのは敗北ではない。
「なあ麦野沈利、俺の能力がどんなものか知ってるか?」
千里山の問いかけに、麦野は答えを返さない。ただ無言で千里山を睨みつけるだけだ。
「名前くらいは知ってるだろ? 検体名『
一息。
「じゃあどうしてこんな地味な能力者である俺が、暗部なんかに追われてるのかっていうとな、“視”てしまったからさ。この街の闇を。そう例えば、第七学区の研究所で行われている実験とか」
千里山の言葉に、麦野は大きく目を見開いた。
第七学区の研究所、そこは麦野が能力開発を受けている場所だ。もちろん第七学区には麦野が能力開発を受けている研究所以外にも無数に研究所があるが、わざわざこのタイミングで言うという事は、麦野が所属している研究所の事だろう。
「『
麦野は答えない。
「さっきから『
千里山はそう言いながら、ポケットから拳銃を取り出した。自分を殺しに来た暗部の男から奪ったものだ。使い方は、既に“視”てある。
千里山は人を撃ったことはまだそれ程ないが、それでもこの距離なら外さない。
「楽勝だ、超能力者」
よく狙いをつけて、千里山は引き金を引いた。