思ってたのとなんか違う 作:もちすぎ
胸部から血を流し、動かなくなった麦野。一応“視”てみると、弾はしっかり急所に当たっていた。
俺は麦野に近づき、彼女のスカートをめくった。別に変態的なアレじゃない。用があるのはスカートの下にあるホットパンツ、そのポケットに入っている携帯電話だ。
ポケットから携帯電話を抜き取った瞬間、ピーピーとなりだした。流石
「もしもし」
『もしもし、じゃないわよ! こいつと来たら! 『
電話に出ると、予想通り麦野の『電話相手』が出た。どうやら、自分の
「いやいや、先に命を狙われのはこっちだぜ?」
『うるさいうるさいうるさーい! アタシの邪魔をする奴は全員死ねばいいのよ! ていうか、殺してやる!!』
「まあ待て、早まるな。取り引きしないか?」
『取り引きぃ? こいつと来たら! これ以上面倒な事やるかっつーの!』
「いいのか? このままだったらあんた、貴重なlevel5を死なせた責任を負うばかりか、麦野の代わりに次に俺を殺しに来るであろう『スクール』に手柄を取られるぜ」
俺がそう言うと、『電話相手』は電話の向こうで“ぐぬぬ”と唸りだした。よっぽど『スクール』に手柄を取られるのが嫌らしい。
『……聞くだけ聞いてやるわ』
「感謝する。単刀直入に言おう──俺を暗部で雇わないか?」
◇◇◇◇◇◇
この二週間で痛感した事がある。それは、自分の非力さだ。
二週間のあいだ、暗部に追われていた事もそうだが、普通に金がなくて餓死しかけた。
『
それと正直、そろそろ暗部から逃げるのが辛くなってきた。日に日に襲撃してくる奴らが強くなっていく。麦野を倒した今、次に来るのは土御門元春か垣根帝督だろう。勝てる気がしねえ。
そこで、俺は暗部に入る決心をした。
俺としても初志貫徹を貫き、平和に生きたかった。しかしそれをするには、俺は弱すぎた。自由とは強い奴の特権なのだ。
しかし暗部に生きる事を決めたはいいが、ある問題が浮上した。どうやって暗部に入るのか分からなかったのだ。一応学園都市中を“視た”けど、暗部の受付はなかった。何ともアホな事をしたものだが、あの時はそのくらい切羽詰っていたのだ。
それともう一つ、暗部の窓口に辿り着いたところで、果たして俺は暗部に入れるのだろうか?
俺に出来る事といえば、精々監視カメラの代わりくらいだ。ちなみに、監視カメラは一つ10万円程度だ。どう考えても俺を雇うより普通にカメラを買った方がいい。
そこで今回の一件だ。
暗部に堕ちているlevel5、麦野沈利。彼女を倒し、彼女のポストに入れ替わる形で俺が暗部に入る。これが俺が考えた計画だ。そのため、多少無理をしてでも麦野を倒した。
次に戦ったら多分負ける。今回だって、部下を伴って突撃されたり、ビルごと吹き飛ばされたら死んでた。一応麦野の性格上、そうはならないだろうとは予想してたけど。
まあそんな訳で、俺は麦野の『電話相手』に取り引きを持ちかけたのだ。向こうとしても、優秀な
それに、断れないよう保険もかけておいたしな。
◇◇◇◇◇◇
『アンタを雇うねえ〜。確かに悪い話じゃないけど、上に聞いてダメだった時面倒くさい! やっぱ死んで!』
『電話相手』はたっぷり数分悩んだ末、そう結局付けた。どうやら千里山を暗部で雇うメリットより、面倒くささの方が勝った様だ。
それを聞いた千里山は、最後の手段をとった。
「お前、警備員の変装して第四学区を歩いてるだろ。口調と違って大人びた容姿してるじゃねーか」
電話の向こうで『電話相手』がハッと息を呑んだ。
「衛星電話なぞ使いやがって。お陰で電波を辿るのが大変だったぜ」
その気になれば、千里山は携帯電話の電波を“視る”事ができる。千里山は電波を辿って、『電話相手』を特定したのだ。
「取り引きに応じなければ、今からオメーを殺す」
『……こいつと来たら、仕方がないわね。良いわ、貴方は今から暗部の一員よ』
先程までと違い、随分と大人びた口調で『電話相手』が告げた。恐らく、こちらが本来の口調なのだろう。
そして『電話相手』はアッサリと千里山を暗部に迎え入れた。その仕事ぶりは、先程の『電話相手』と同じ人物だとは思えないほどスムーズだ。
「ん、ありがとよ。ところで早速なんだが、病院の手配をしてくれないか? ガラスの破片とか瓦礫が背中に刺さってて死ぬほど痛えんだわ」
『了解したわ。じゃあ早速こちらからも一つ、横で寝ている『
「なんだ、殺してないって気づいてたのか。まあ、いいぜ。というより、元からそのつもりだ」
そう言って、千里山は隣で横たわる麦野を肉眼で見た。胸には注射器の様なものが突き刺さっている。アレは千里山が撃った麻酔弾だ。
『それじゃあ今から紙に病院までの地図を書くから、能力で“視”て自力で行ってくれる?』
「了解した」
『電話相手』は紙にペンを走らせ、千里山達のいる廃ビルから病院までの地図を書いた。
『それじゃあ、私は次の仕事があるから失礼するわね」
「了解。それじゃあまた」
『あ、そうそう。貴方と麦野、二人で暗部の小組織『アイテム』を結成してもらうから。今は二人しかいないけど、良さそうなのが見つかったら、正規メンバー増員してくから』
「ちょ、まっ! ちくしょう、切りやがった。
目の前には、麦野が瓦礫を積んで通れなくした階段。千里山にこの瓦礫を排除する術はない。
麦野を起こして瓦礫の排除を頼もうものなら、排除されるのは千里山の方である。
現在位置、廃ビルの七階。学園都市に八人しかいないlevel5の一人、千里山冬至。ただの瓦礫を前にして手詰まりである。
◇◇◇◇◇◇
「……ん、うみゅう。ふわあぁぁ……アレー? どこにいったのかにゃーん?」
とある病院の一室で、麦野沈利は目を覚ました。いつものぬいぐるみを抱いていなかったせいか、大分目覚めは悪い様だ。
眠い目を擦りながらぬいぐるみを捜すことしばし、漸く自分が置かれている状況を思い出した。
自分は『
暗部で任務に失敗することは即ち死だが、どうやら自分は運が良かったらしい。
「よう、目覚めたの──うおおっと! いきなり『
訂正。どうやら今日の運勢は最悪の様だ。
麦野は毎日、欠かさず占い雑誌を買っている。眠っていたため今日の分は買っていないが、きっと今日の運勢は最悪だっただろうと思った。
麦野の病室にフルーツの盛り合わせを持って入ってきたのは、誰であろう先程自分を撃った千里山だった。
とりあえず寝起きに『
ここで再戦をしようかとも思ったが、一旦は止めておく事にした。なにせ、情報が全くないのだ。殺すのは情報を聞き出してからでも遅くはない。
それに暗部で培った麦野の感が告げている、今千里山に戦う気はないと。こっちだけがアツくなるのは、滑稽な気がする。麦野は完璧主義者なのだ、リベンジするなら向こうも本気になった時でなくては気が済まない。
「なぁーんでアンタがここに居るのよ? 後、ここはどこ?」
「ここはお前の『電話相手』が手配した病院だ。それで俺がここに居る理由だが──口で説明するよりこれを見た方が早いな」
そう言って千里山は、ポケットから丁寧に折りたたまれた紙を取り出した。麦野はそれを千里山の手から引っ手繰り、凄まじい速度で読み始めた。
そして麦野は一気に最後まで読むと、呆れ返った顔で千里山を見た。
「……オイオイ、これ本気か?」
「マジだ」
書類の内容は、『アイテム』についてである。麦野と千里山の二人を正規メンバーに据え、他の幾人もの下っ端構成員と成る事が書かれている。他の正規メンバーについてはまだ検討中、との事だ。
また暗部の仕事はいつ入ってくるのか分からないことと、敵勢力の襲撃に備え、『アイテム』の正規メンバーは常に一緒に行動する様に、とも書かれている。他の正規メンバーがいない以上、当然麦野と千里山の二人で過ごす事になる。
「リーダーは麦野でいいぜ」
「なんでアンタちょっとやる気なのよ……」
「いや、久しぶりに人とまともに話したからな。ちょっと嬉しくなっちまった」
「ああ、そう」
「そういう経験ない?」
「ねーわよ」
千里山が少し嬉しそうに話し、気だるそうに麦野が返した。
こうして、二人っきりの『アイテム』が始まったのである。