それでは第1話です
カルナが謎の声に呼びだされ、それに応えたと知覚した瞬間、彼は上空4000mに放り出されていた。
勿論、重力に従って地面に向かって急速に落下する。
しかしカルナが取り乱す事は無い。
何故ならカルナは『魔力放出(炎)』のスキルによりいざとなれば炎を翼のように広げて飛行する事ができるからだ。
まあ、スキルがなくても普通に怪我を負う事なく着地しそうなものだが。
それよりもカルナが考えるべき事が2つあった。
順当に考えれば、今自分は彼を呼びだした召喚者のところにいるはずだ。
しかしここは上空4000m。
まわりには、
別の世界で月の裏側の聖杯戦争で見たような格好、所謂学ランを着た「ヤハハハハハハハッ!!」と呵々大笑する少年。
同じく月の裏側の聖杯戦争にいたあの生徒会長にも通じるような気品が感じられる少女。
そして三毛猫を抱えたまま落下する大人しそうな少女しかいない。
だが彼らとの間に魔力のパスは存在しない。
一応念の為に落下しながら確認したところ、令呪も持っていないようだ。
それどころか、あるべきマスターとの魔力の繋がりを感じない。
魔力が世界に満ちているのだ。
そのためマスターからの魔力供給もないのに存命できているサーヴァントという状態になっている。
自らの体と一体化している黄金の鎧は完全な状態であり、十全な魔力を己の内に感じる。
(イレギュラーな方法で呼び出されたとは思っていたが、やはり聖杯以外の何かが関わっているようだな。マスターが存在しない、あるいはまだ繋がりがないという状況で魔力は十全。生前の俺もここまで良い状態だったことは無い。)
そこまで考えたが、先にもう一つの考えるべきことの方が重要だ、と思い直した。
この3人の少年、少女をこの状況から助け出すか否か。
勿論助けを求められれば己が身を呈してでも助け出す。
だが彼らは助けを求めていない。
それならば自分と一緒に呼び出されたような者たちだ。
おそらく彼らもあの謎の声に呼び出されたのだろう。
何かしらの力を持っているはず。
もしくは呼び出した何者かがこのまま彼らを殺すこともないであろうし、なんらかの対策を講じているはず。
カルナはひとまず様子見をする事にした。
(もしも彼らの力がこの状況を打破できるようなものではなく、召喚者が何も対策をしていないと分かったら、俺が助ければいい。)
そうして彼らが上空4000mから落下したには遥かに弱い勢いで湖に落ちそうだと分かり、助ける必要はないと判断した。
そして彼は炎の翼を広げて岸辺の地まで飛んだ。
カルナが待っていると、すぐに3人とも泳ぎ終え、陸に上り各々服を絞り、三毛猫は身震いして水滴を飛ばしていた。
すると気品のある少女が
「信じられないわ! 問答無用で引きずり込んだ挙句、空に放り出すなんて!」
と悪態を吐く。
すると少年が
「右に同じだ、クソッタレ。石の中にでも呼び出された方がまだマシだ」
と同意した。
猫と一緒にいた少女は「大丈夫?…なら良かった」と三毛猫に話しかけていた。
まるで三毛猫と会話しているようにも見える。
「でも石の中だと普通は動けないのではなくて?」
「「俺は問題ない」」
少女からの問いに偶然にも少年と同じ返答をしてしまう。
「ところでここは何処なんだろう?」
と先ほどから静かに袖がない見慣れない衣装の水を絞り出しつつ訪ねてきた。
少年が
「さあな。落ちてる最中に世界の果てっぽいのが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?
一つ確認したいんだが、お前達にも変な手紙が来たか?」
と答えた。
この世界が亀の背中かはさておき
(手紙?声に呼び出されたわけではないのか)
しかし他の3人は手紙に呼び出されたらしい。
「そうだけど、"お前"は止めて。私の名前は久遠飛鳥よ。そっちの猫を抱いてる貴女は?」
「……春日部耀。以下同文」
「よろしく、春日部さん。そっちの黄金の鎧の貴方は?」
一瞬ランサーと名乗ろうとしたが、これは恐らく聖杯戦争ではない。
真名を名乗っても特に問題はないと判断し
「俺はカルナ。隠しているわけではないのだが姓はない」
そう名乗ると、少年が反応を示した。
「カルナって、インドの叙事詩の『マハーバーラタ』の英雄アルジュナの好敵手だった男の名前じゃねぇか。黄金の鎧っぽいのも有るし
、熱狂的なファンがコスプレしてんのか?それにしては良く出来てるな?」
アルジュナの名前を聞き、必然的に最期の戦いを思い出す。
思わずあの悔しそうな顔が浮かぶ。
だがそれよりも今、彼には訂正しなければならない点があった。
「コスプレというものが何の事を指しているかわからないが、この鎧は我が父スーリヤより授かったものだ。馬鹿にしているのでは無いのは理解している。だがこの鎧を偽物などとは言わないでくれ」
と少しの威圧を込めて言った。
この少年が自分を馬鹿にしている訳でなく、悪気が無いのも分かっているが、誇りでもあり『父の威光を汚さず、報いてくれた人々に恥じる事なく生きる』という自らの信念の象徴とも言える鎧を作り物と言われるのは我慢ならなかった。
そう言われた少年は怖気付く事もなく
「そうか、それはすまない、この通りだ」
と真摯に頭を下げて謝った。
「分かってくれたならそれでいい」
そして顔を上げた後の彼の目は、先ほどとは一転して喜色と好奇心に染まっていた。
「つまりは本気と書いてマジで本物のカルナかよ!
こいつはスゲェ!呼び出された状況もそうだが、いきなりファンタジーじゃねえか!叙事詩の中の英雄に会えるなんて、ついてるぜ!
なあ、少しばっかし力試しさせてくれねぇか?
正直全力で戦っても勝てるかわからないくらいにアンタは強いのは感じる。叙事詩の内容の通りならデタラメな強さだってのも分かってる。それでも神話の人物と戦えるかもしれないってチャンスを逃すつもりは更々ねぇからな!!」
これぞ人生で最高の瞬間とばかりにヤハハハハハハハッ!と笑いながら興奮気味に一気に捲し立てた。
自らの武芸を競う事はカルナも好きでもある。
それに自らの力を認められた上で戦いを挑まれるのは悪い気分ではない。
少なくとも彼のように力のあるものからの賞賛は誉である。
しかしカルナは
「手合わせするのは構わないが、少し待て。俺とお前が戦えばかなり激しいものになるのは確実だ。どちらかが死ぬまで決着はつかない可能性もある。そんな戦いで周りを巻き込む事もないだろう。それともう一つ。俺も含め久遠と春日部が名乗ったのに、お前はまだ名乗っていないだろう?」
と断った。
「ええ、よろしくカルナさん。カルナさんの事も気になるけど、まずはそうね。野蛮で凶暴そうなそこの貴方の名前は?」
「それもそうか。少し興奮しすぎてたぜ。んじゃ言われた通り名乗らせてもらおうか」
そこで一息つくと名乗りを始めた。
「見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻十六夜です。
粗野、凶悪で快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、
用法と用量を守った上で、適切な態度で接してくれよ?お嬢様」
「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜くん」
「逆廻か、了解した」
「おう、俺もカルナって呼ぶし、カルナも俺の事は十六夜って呼んでいいぜ。あとお嬢様、説明書用意しとくから覚悟しとけよ?」
こうして全員の名前を把握した。
名前からして極東の国の少年少女らしい。
「で、呼び出されたはいいけど何で誰もいねえんだよ。この場合、招待状に書かれた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」
「俺は招待状では無かったがな」
「へぇ、なんか色々状況も異なるようだし、そこら辺も含めてそこに隠れてる奴に事情を聞くか?」
「なんだ、貴方も気付いていたの?」
「当然。これでもかくれんぼは負けなしだぜ?」
「……風上に立たれたら嫌でも分かる」
三者三様に隠れて見ていた人間に気付いていたようだ。
害意も無いようなので様子見していたが、この分なら問題はなさそうだ。
しばらくすると観念したかのように、兎の耳をした少女が愛想笑いをしながら茂みから出てきた。
黒ウサギsideの視点から2話は始めると予告しよう!
はい、すいません、調子のりました。
更新日時は未定です。