亡国の戦姫   作:ジト民逆脚屋

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これで、ラスト!


日出国の戦乙女

私が奴に会ったのは、第一回モンド・グロッソの本戦だ。

奴は変わり者だったよ、いつもチューリップハットを被り琴に似た弦楽器を弾きながら唄を口ずさむ。

話しかければ哲学的で否定的な返し、皆は彼女を敬遠していたが、私は嫌いではなかった。

私のもう一人の親友も、対人関係に難がある。だからこの程度、答えを返すだけマシと言える。

 

奴が変わり者なら、奴の機体も変わっていた。装甲や各部スラスターには統一性が無く、武装も榴弾砲と機銃のみ。

速度の点では並よりは少し上だが、ただそれだけ。これだけなら、話にならないただの噛ませ犬だろう。

しかし、実際は違った。

奴の戦い方は特徴的だった、逃げ回る。これだけだ、たったそれだけの戦法なのに、誰も奴を捕まえられない。

逃げ回る奴を追う内に、榴弾砲の爆風と機銃により、いつの間にか削られ落とされる。

身震いしたよ、奴の戦い方は。私が強敵だとマークしていた相手が次々と落とされていく。この時点で、奴を噛ませ犬扱いする者は誰一人として居なくなっていた。

 

奴を知る者に聞けば奴は、空軍のエースパイロットというのだ。

奴の国は、私も聞いた事が無い名前の国だったが、奴と国の名前の響きから辛うじて、北欧の一国だと分かった。資源に乏しく技術も無い。軍備すらもまともに無く、自分の乗る戦闘機も他国からの払い下げの旧式、そんな環境で故郷の空を周囲の大国から守り続けたパイロット。

なるほど、強い訳だ。空での戦いを、劣る者が勝る者に勝つ為の方法を知っているんだから。

 

とうとう、決勝戦の時が来た。相手はやはり、北欧の空の英雄、自身の国を守る為に空を駆る者。

私は笑っていた、嬉しかった。ここに来て漸く会えた、私と同等の相手に。今までの相手は、つまらなかった。誰も彼も同じ様に向かって来るだけ、策も易々と破れるような陳腐な小細工、何よりも皆、『空を飛んでいなかった』

だが彼女は違う。私と親友が夢を乗せた翼、歪んでしまった翼で『空を飛んでくれていた』

これで嬉しくない訳が無い、私の顔を見て奴はドン引きしていたが、嬉しいものは嬉しいのだ。仕方ない。

 

決勝戦の始まりを告げるゴングが鳴ると同時に、奴は榴弾砲と機銃を掃射し、私と距離を取った。

爆炎から飛び出せば、奴は高い空の中に居た。私がノーダメージなのを確認すると、眉をしかめ更に距離を空け始めた。

私の機体は近接特化、奴は射撃型。逃げるのは必然だが、奴の逃げは他とは格が違い過ぎる。

爆風の衝撃で私や自分を浮かしたり、急反転したと思ったら私を蹴りつけ真逆の方角へ飛んだりと、完全には読みきれない。一番驚いたのは、試合中に発生した雨雲に何の躊躇いも無く突入し、中から榴弾を浴びせてきた事だ。私も遅れて突入したが、中は荒れ狂っていてとてもではないが、攻撃など出来る様なものではなかった。

 

辛抱堪らず雲から脱出すれば、奴は遥か彼方に逃げながら攻撃を仕掛けていた。急いで回避するも、回避し仕切れず数発直撃してしまった。

私の機体の耐久力は高いとは言えない。奴も同じだろう、私の攻撃により奴も削れている筈だ。

決着の時は近い。

 

気付けば、夕日が沈み始めていた。これ程長く飛んだのは、いつ以来だ?あぁ、満足だ。お前に出会えたことを、誇りに思う。

私の最後の一刀が奴に届く一瞬、奴がスラスターを吹かし離脱を図ったが、奴の機体は限界を超えていたようだ。奴の動きに応えられず、私の一刀により落ちていった。

勝負は私の勝ちで終わった。奴とはまた、飛びたいものだ。

 

 

 

 

私は話をしようと思いあの決勝戦の後、仕事の合間を縫って奴の国を訪ねた。

どうやら、奴の国は併合されるようだ。国がこんな状況なのだ、奴に会うのは難しいだろう。

奴に会えないなら、軽くこの国を見て回ろうかと近場で景色の良い場所が無いかと聞くと、奴がいた。

何をしているのか、仮にも国の英雄が普段通りのチューリップハットにフライトジャケット姿で彷徨いている等考えられない事だった。

聞けば、併合先の国から国家代表のオファーがきていたが、断ったというのだ。

私が何故と聞けば、ただ一言

 

「私は何を何度言われても、『あの子』以外と飛ぶ気は無い」

 

こう言った。どうやら、併合先の国の技術者達が奴の機体のコアを初期化していたようだ。

何という愚かな事をしてくれたのだろう、コアを初期化するという事は、それまでの経験も何もかもが消えるという事だ。

 

国家代表のオファーを断るのも仕方ない、だが奴は、国家代表だけでなく軍も辞めていた。

奴にとっての空は、あの相棒と飛ぶ空だった。だが、その空はもう無い。

これからどうするのかを聞いた。良ければ、日本で教員をやらないか、専門の教育機関が出来るんだ。とも伝えたが、奴は頷かなかった。

女が一人生きていくには充分な金銭と保証を貰ったから、生まれ故郷の町で子供達に楽器と唄を教えるそうだ。笑いながら言っていたよ。

 

 

 

 

奴と別れてから忙しい日々が続いた。休みもまともに取れなかったが、来週から二週間程纏まった休みが取れたのだ。

さて、なにをするかと考えてみると、一枚の絵葉書が目に入った。

ああ、そうだ。久々に奴に会いに行くとしよう、奴の生まれ故郷の町にある店で、ホットベリーティーなんかを飲み、奴の奏でる弦楽器を聞きながらゆっくりと話をしよう。

そうと決まれば、早速連絡を入れよう。来週からはゆっくりと過ごせそうだ。


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