小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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本を交換するだけの簡単なお仕事です

気で強化した拳を伊織に三発打つが全て紙一重で躱される。

更に足払いをかける様に伊織の足を払うが、後方に跳び一回転して着地する。

今日は敵に攻撃を当てる為の訓練をしていて、伊織は僕の一段階程上の実力まで落としてもらい訓練している。

伊織が普通に躱していたら、何年経っても当たる事はないが、僕の一段階上に合わせてくれる、しかも片手に酒瓶を持ってたまに飲みながら躱してるので、当てる事は出来るはずだ。

 

「(でも、もうすぐ一分経つのにまだ当たらない

本当に僕より一段階上なのかな?やっぱり僕が下手くそなだけ?)」

 

そう考えていると、伊織のポケットの携帯から一分の経過を告げるアラームが鳴り響く。

伊織は携帯を止めると、すぐさま攻撃に移る。

いつもの様な神速の拳ではなく、僕のレベルに合わせた速度で攻撃してくれる。

伊織の攻撃を防ぎ、時には受け流し、そして僅かに出来た無防備なボディに一撃入れようと拳を放つ。

 

「ぷっ!」

 

「っ!」

 

僕の一撃が届く前に、伊織は口に含んだアルコールを僕の目に向かって吹き付けた。

目潰しだ、アルコールが目に入り、痛みのあまり両手で目を抑え数歩後退するが、伊織は無防備になった僕の腹部に重い一撃を放つ。

 

「同レベルや格下の奴と戦う時は、こういった手を使う事がよくある

あたしは酒を使ったが、砂を手に隠してやる奴もいる

その時は怯むな、目の痛みを堪え、視覚以外の感覚を使え、でないとサンドバッグだ」

 

伊織は僕の頭を掴み、強引に目を開かせ、ペットボトルの水で洗い流す。

 

「それに口から来る攻撃にも気をつけろ、今は目潰しで済んだが、ドラゴンや悪魔なんかはブレスや魔法を放つ奴が多くいる

漢なら、そういう場合は敢えて近づけ、後ろに引いても射程距離が長い奴もいるからな、捕まらねぇ自信があるならそれでもいいがよ」

 

まだ痛むが開くようになったので伊織は修行を再開する。

朝の訓練は祐奈との待ち合わせの時間まで続き、結局今日も伊織に一撃も当てられず訓練は終った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式から一ヶ月経ち、クラスの皆が友達を作っている中僕は未だに友達が出来ずボッチだった。

訓練とアウトドアな裕奈と遊んでいる僕は、今子供達の間で流行している戦隊物や魔法少女物が分からないせいで皆の話に着いていけてない。

魔法少女なんて、なのは様か、まどかちゃんしか知らない。

更に僕は内気な上に元高校生という事もあり、かなり落ち着いているせいで子供達のテンションに着いていけない……なんて言い訳をしてみる。

なんて情けない、伊織もあれだけ言っていたのにこのざま、絶対に呆れられる。

 

皆が楽しくお勉強をしている中、僕一人でだけが暗い雰囲気になる。

今は算数の授業中だが、流石に小学一年生レベルの計算が解らない程、僕も馬鹿ではない。

語学や歴史系が苦手だったので、そこは真面目に受けようと思うが、僕は元々工業系の学科で理数系は出来た方だったので基本算数は聞き流している。

伊織との訓練で疲れているのでとても眠い、最近伊織の訓練は接近戦の練習、気の制御と強化、纏う気の防御アップ、攻撃防御魔法の習得がメインとなっている……今だに灯りの魔法しか使えないが。

小麦粉の魔術は伊織では教えられないので、訓練時間外に練習しているが、光の処刑は未だに使えていない。

 

「(そういえば、最近の訓練は実戦向きなのが多くなってる気がするなぁ、僕も結構実力が上がってきたし、もしかして伊織も認めてくれたのかな?)」

 

そう思うと眠気は覚め、暗かった気持ちは晴れて行き帰宅したら直ぐに自主トレしようとメニューを考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。

 

今日はこれで全教科終了し、この後はホームルームならぬ帰りの会がある。

いつもの様に周りの生徒達は元気一杯に担任に別れの挨拶をして、それぞれ帰宅する。

 

「ゆかりー!一緒に帰ろ!」

 

「うん、今行くよ」

 

教室の外では裕奈が手を振りながら僕の事を待ってくれていた。

 

「三峰君、ちょっといいかしら?」

 

急いで祐奈と帰ろうとしたが、突然担任の先生に呼ばれた。

特に悪い事もしてないし、問題になる様な事した覚えもないので、何かと思い訪ねる。

 

「何ですか?先生」

 

「貴方、今帰ろうとしていたけど、ダメでしょ

今日は図書委員のお仕事があるんだから」

 

図書委員、内気な僕は委員決めの時に押し付けられ、不本意だが、この仕事を預かっている。

その仕事は教室に置いてある本を図書館島に居る図書館探検部の人に交換して貰うだけの仕事が月に一度ある。

今日はどうやら、図書委員として始めての仕事の日らしい。

僕以外にも、もう一人女の子がなっていた筈だ、確かにあれだけの量の本を女の子一人に持っていかせる訳には行かないし、そんな事をすれば男が廃る。

 

「ごめんなさい忘れてました、すぐに行ってきます

そういう事だから裕奈、ごめんけど先に帰ってて」

 

「えー!!一緒に帰れないの!?

しょうがないな〜、なら私も一緒に行ってあげるよ

いいよね、先生!」

 

どうやら裕奈も着いて来るらしく、担任の先生もそれで了承しているので、特に問題はなく同じ図書委員の女の子と共に図書館島へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この麻帆良には、摩訶不思議な場所が多くあり、その中でも一際謎が多いのはこの図書館島だ。

世界全ての本がこの図書館に揃っていると言われる程でそこの司書長でもこの図書館の本を全部知っている訳ではないらしい。

しかも、図書館探検部によると、この図書館島には秘密のエリアがあるらしく、売れば何百万という本が山の様にあるそうだ。

 

「(世界樹もそうだけど、皆この図書館島の事を不思議に思わないのかな?

でも麻帆良の人達って頭のネジが数本外れてる事が多い程、なんかはっちゃけてるよね、そんなアホばかり集めてきてるのかな?

それともまさか、巷で有名なチュパカブラ!?ここの皆がオッペケペーなのはチュパカブラに頭の中をチュウチュウされてるから!?)」

 

なんだか思考が迷走し始めていると、目的地の図書館島に到着した。

中に入るとそこには巨体な本棚に隙間なく収納されている本の数々。

 

「すごーい!本がいっぱいある!!」

 

図書館の壮大さに裕奈ははしゃぎ回る。

僕も初めて見たのでここまで凄いとは思っていなかった、隣の図書委員の子も驚いている。

本を交換したら見て回ろうと思い、早く仕事を済ませようと受付まで早歩きで行く。

受付には、フード付きの白いローブ着た人が立っている。

 

「(身長からして大人っぽいから司書の人かな?それにしてもローブせいで顔が解らないけど、この人なんか匂いが薄いなぁ)」

 

伊織との訓練で、目隠しして戦う事が多い僕は、五感が鋭くなっている。

これで魔法が苦手な僕は、探知魔法の代わりに音や匂いなどで相手を見つける事が出来るが、

この人はその匂いが薄い、いくら体を洗っても、人間の体臭や口臭は消える事はない、まぁ、幽霊だったら話は別だが

 

「あのぉ、教室の本を交換しに来たのですが……」

 

「ふふ、態々ご苦労様です

交換の本なのですが、少々手違いがありまして、いつもはここで受け渡ししているのですが、今日は下の階に置いてあるんですよ

すいませんが、あの矢印の通りに進んで下さい」

 

胡散臭い笑方をする司書の指差す方を見ると、矢印を描いた看板が置いてあった。

矢印を目で追って行くと、司書の言うとおり下に繋がる階段まで指していた。

 

「(なぜ看板を設置する暇があって本を持って来てないんだよ!と言うか、なんでこの司書室内でフード付きのローブ着てるんだよ、怪しすぎるよ!

もしかしてこの人ツッコミ待ちなのか?それともただコスプレしたいだけの人なのか!?)」

 

「はい、わかりました」

 

同じ図書委員の子が勝手に了承し、ツッコミが出来ぬまま矢印に従い階段を降りて行く。

一瞬、ローブの司書の胡散臭そうな笑みが見えた気がするが階段を下りる前に、もう一度受付に居る司書を見ると、そこには誰もいなかった、やっぱり幽霊?

 

階段を下りた先には、また矢印があり示していた先には、明らかに巨体な本棚の上を歩く様に示している。

 

裕奈に声を掛けようと思ったが、そういえば一階に置いて来たことを思い出し、同じ図書委員の子……名前は覚えてない、とにかく背の高い黒髪のポニーテール美少女に意見を伺おう。

 

「……行かないの?」

 

やっぱり麻帆良の人間は頭のネジが外れてる。

最初は驚いてたみたいだが、何故か適応した。それともこの子、寡黙な子だけど肝が据わるのか?

 

流石にこんな危ない道を女の子に先に渡らせる訳には行かないので、僕が先に歩く。

下を見れば何故か底が見えない、断崖絶壁とはまさにこの事。

 

「(と言うか!ここ図書館だよね!なんでこんな道通らなきゃ行けないの!?これも図書委員の仕事なの!?)」

 

僕は虚空瞬動がまだ使えないので、落ちれば多分死ぬ。

なので本当に慎重に進むと、後ろからポニーテール美少女が着いて来るので後ろには戻れず、前に進み続ける。

 

一本道の本棚の通路を進み続け、向こう側が見えて着た所で、何か踏みつけた。

何かと思い足元を見ようとした瞬間、僕は後方へ跳び、先程まで僕がいた場所に何かが通過した。

その正体は矢だった、トラップか何かは知らないが、真横の本棚から跳んで来た矢を一瞬で察知し躱したのだ。

 

だが、僕は間違いをした、それは回避した方向だ。

後方に回避するのは間違ってはいないが、今の状況を考えて見て欲しい。

ここは一本道でなおかつ後ろには同じ図書委員の女の子が、しかも足元は断崖絶壁、彼女に向かって来る僕を本を持っている彼女はとても回避なんて出来ない。

そのままぶつかってしまった僕と彼女は、二人揃って底の見えない虚空に落ちていく。

 

「(やばいやばいやばい!!落ちてる!むっちゃ落ちてる!!

マジでマズイよ!僕、虚空瞬動使えないから飛べないよ!どうすんだよ僕!!)」

 

落下しながら頭をフル回転させるが、全く思いつかない。

とりあえず、道ずれにしてしまった女の子を此方に引き寄せ、守る様に抱き締める。

 

「(こうなったら気の鎧で全力防御だっ!!このまま死んでたまるかあ!!そして生きてあの司書を一発ぶん殴ってやるぅ!!)」

 

気を女の子含めて最大出力で全体を纏わせる。

すると下が見え、図書館なのに何故か滝と湖があった。

と言うかやばいよ!これだけの落下速度で水面に激突したら体バラバラになるよ!

せめてこの子だけでもと、女の子を強く抱き締め、気を女の子の方に多く注ぐ。

 

水面から三十メートル、死を覚悟した時、突然落下速度が減少し、プールサイドから飛び込む程度までになり水面に叩きつけられる事なく落ちる。

 

突然減少した落下速度に疑問を思いつつ、泳ぎ辛い衣類のせいで身体か重く、やっとの思いで岸に出ると、女の子は震えていた。

あの子も落下の時に死を覚悟したのだろう、僕だって手足が少し震えている。

 

「大丈夫、大丈夫だよ

僕達はちゃんと生きてる、生きてるんだよ」

 

震えている彼女を抱きしめ、お互いが生きている事を伝えながら優しく背中を摩る。

女の子も震えは次第に収まっていき、ゆっくり深呼吸する。

 

「ありがとう三峰、もう大丈夫だよ」

 

女の子はまだ少し震えはあるが、落ち着いた様なので、僕も離れる。

そういえばこの子、僕の名前を覚える様だけど、僕が彼女の名前を覚えてないのってかなり失礼なんじゃ……

 

「あの…その……

非常に失礼だし、今更なんだけど、君の名前なんて言うの?僕忘れちゃって……」

 

それを聞いて彼女は、ポカンと唖然としてたが、直ぐに笑い出した。

さっきから寡黙で、無表情だった彼女からは信じられなかったので、逆に僕の方が唖然としていた

 

「ふふふ、私は大河内 アキラ(おおこうち あきら)、同じ図書委員だから、覚えておいてね」

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