小麦粉使いの魔法使い   作:蛙顏の何か

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Happy Birthday

細長い塔の様な煉瓦の建物には、幾多もの歯車が忙しなく回り続け、

窓から外を視れば、海岸線が広がり、灯台の様にも思えるが、内部構造や外見からは、この建物は時計塔の様にも見える。

木製の今にも崩れそうな足場に一人の人間が立ち惚けていた。

 

人間は今意識を取り戻したかの様に辺りを見回し、今の状況を確認しようと動こうとするが、その前に声が響いてきた。

 

 

ーーーーーー汝、何を望むーーーーーー

 

 

塔全体に響き渡る様だが、何故かその声はとてもクリアに聞こえてくる。

声は男か女かも分からない、子供か老人かも分からない、人間が非人間かも分からない。

ただ、それらの色々な声が同時に聞こえてくる。とても透き通ったな声で。

 

「ーーーーー!!ーーー!?ーーーー!!?」

 

人間は何かを発しようとするが、その喉からは何も出てこない。

人間は喉を抑え困惑し続けるが、再び『謎の声』は響き渡る。

 

 

ーーーーーー汝、何を望むーーーーーー

 

 

 

『謎の声』は再び問う、人間の困惑する姿など気に留めないかの様に、人間は問われた事以外は発っせないかの様にその喉からは何も出てこない。

 

辺りは歯車の機械音しか聞こえず、『謎の声』も響きやんだ。

人間はゆっくりと音のない深呼吸を繰り返し、響き渡ってきたであろう上を見上げ、一言言い放つ。

 

 

「____家族を返せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

平日の昼間から、あたしは明石家のソファーに背中を預け、煎餅をバリバリと食べながらマグカップの熱いお茶をすすり、深夜に録画していたアニメを観る。

家主である夕子は、先程から台所で何かを作っておりいい臭いが漂ってきて腹が減るが、そんな事はどうでもいい。今はアニメ鑑賞が大事だ。

 

「貴女、人の家で我が物顔で寛いでないで少しは手伝いなさい」

 

夕子はエプロンを外しながら台所から出てくると、リモコンを手に取りテレビを一時停止にさせた。テレビでは、せっかく主人公が敵を無双しようとするシーンなのに、いきなり止められテンションが一気にダウンする。

 

「おい!今いいとこなんだよ!」

 

「ならなんで家のテレビで観てんのよ!!自分の家で観ればいいじゃない!」

 

「家にテレビがねぇんだよ!!」

 

「嘘おっしゃい!この間料理作りに行った時は居間にちゃんとあったじゃない!」

 

「はっ、居候に見事に破壊されたよ……

信じられっか?あいつの料理は家電も破壊するんだぜ?」

 

 

今回は縁が料理を運ぶ最中に転び、たこ焼きの様な何かが薄型テレビを貫通したのだ。

前の観葉植物同様、家のテレビは使い物にならなくなり、テレビの後ろの壁まで破壊しての大損害。今回ばかりはあたしも泣きそうになったよ…

それを聞いた夕子は何かを悟った様に何も言わなくなった。

 

「……あんたも大変だったのは良く分かったけど、今日くらいは手伝いなさいよ」

 

「は?なんでだよ、今日なんかあんのか?」

 

それを言った瞬間、夕子は仕事用の魔法拳銃であたしの頭を撃ちやがった。

痛てぇ、コント用の魔法弾だったからよかったが、夕子は本気で早撃ちをしたせいで反応が遅れた。これが実弾だったら即死だったであろうが夕子があたしを殺す気がないのは分かっていたので素直に当たってやった。

 

 

「本当に呆れたわ、一緒に住んでいるのに、そんな事も覚えていないなんて……」

 

「だからなんだよ、勿体ぶらずに早く言えよ」

 

夕子はため息をつくと、魔法拳銃をテーブルに置き、ジト目で此方を見据える。

 

 

「今日は、縁君の誕生日でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の名前は明石 裕奈、バスケットと家族が大好きな小学一年生。

今日は幼なじみのゆかりの誕生日、お母さんからはパーティーの準備があるから6時まで遊んでくる様に言われてる。

ゆかりには内緒のパーティー、お母さんは、さぷらいずパーティーだって言ってたからゆかりをビックリさせるの!

 

帰りの会が終わって、急いでゆかりの教室まで走る。

学校が終わったらいつもゆかり達と遊んでいるから、これはいつもの事で、廊下を走らない様に注意する先生の声もいつものこと。

 

「ゆかりぃーー!!今日もサッカーしよ!」

 

1年D組の教室に着きドアを思いっきり開けてゆかりの名前を叫ぶ。

ゆかりはいつもの様にランドセルを背負ってこっちに来る。ゆかりの隣には仲良しのアキラが付いて来てるけど、その隣にはもう一人居た。

同じクラスの朝倉 和美だ、夏休みが終わってからゆかりとよく一緒に居る事が多くて、休み時間になると良くこのクラスに来ている。

 

ゆかりと朝倉はよく二人で難しい話をしていて、何だか仲間外れにされている気分だけど、二人が楽しそうに話してるから、いつも何も言えない。

二人が仲良くしていると、何だか胸の辺りがモヤモヤする。初めてアキラを連れて来た時もこんな風になったけど、私いったいどうしちゃったんだろう?

 

もしかしたら、病気になっちゃったのかな……帰ったらお母さんに聞いてみようかな…。

 

「今日もサッカー?この前からバスケットが多かったからそれでもいいけど、相変わらず負けたこと引きずってるの?」

 

「それがゆーなだから仕方ないよ、今まで一回も和泉が居たチームに勝ったことないから、どうしても勝ちたいんだよ」

 

アキラが言うように、私達は亜子のいたチームに勝った事が一度もないけど、いっつもサッカーばっかりしてる訳じゃない。

野球やバスケ、ドッチボールにバレー、かくれんぼに鬼ごっこ、数えたらキリがないくらい、いっぱい遊んでいるけど、どれも私とゆかり二人でなら何にも負けなかった、年上の人が相手でも負ける事はなかった。

だけど、サッカーだけは勝てなかった。相手は亜子一人のなのに、私達は無敵の二人なのに……

 

「うん!今日こそ私達は亜子に勝つ!!」

 

「意気込み充分だね〜

今日こそって言ってたけど、今のところ勝率はどれくらい?」

 

「13戦中、0勝12敗1引き分けだから勝率もへったくれもないよ

それに引き分けになったのは和泉さんが用事で家に帰ったからであって完全に負けしかないね」

 

「ゆかりん達みたいな超人が三人いてそれじゃあ、本当に完敗だね〜

まぁ、確かに和泉はサッカーになると豹変するからね、体育のサッカーでも一騎当千だし、これは今日も負けかもね」

 

「なら朝倉もやってみる?朝倉って意外に運動も出来るから案外いい線いくかもよ?」

 

アキラの誘いに断られるかと思ったけどあっさりOKしてくれた。

皆で遊ぶのは楽しいからいいけど、亜子一人に皆で行って大丈夫かな?まぁ大丈夫だよね、亜子強いし。

 

今日こそは絶対に勝つと、もう一度声を高らかにあげ、ゆかりの手を引っ張り亜子のいるグラウンドへ皆で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぅぅ〜〜」

 

「そんなに頬を膨らませないで……今日はせっかく勝ったんだから、もっと喜びなよ」

 

「あんなの勝ったなんて言えないよっ!!」

 

完全下校時刻となりアキラと朝倉と別れて帰りの路地につくが、裕奈は先程から怒ってばかりだ。

今回のサッカーは僕等の勝利で終わったが、確かにあんな手を使って勝ったとは言い難いかもしれない。

 

和泉さん一人に相変わらず悪戦苦闘する僕等を見兼ねて朝倉が作戦を立てたのだが、それが凄かった。

なんと和泉さん一人にアキラを含め五人ものマークをつけて居たのだ。

流石の和泉さんもこれにはどうする事も出来ず、エースの和泉さんを封殺された相手はもはや紙の砦、僕と裕奈が攻撃、朝倉が指揮を担当して相手を圧倒しての大勝利だが、それでは裕奈が納得いかない。

和泉さんもこれは試合だから仕方ないと敗北を認めていたが、裕奈の望む勝利とは、和泉さんと真っ向勝負。この様な搦め手は裕奈の望む物とはかけ離れており、怒っているのも仕方ないのだろう。

 

「朝倉も裕奈の勝ちたいって願いも汲み取って作戦を考えてくれたんだから、文句を言っちゃいけないよ

今度やる時に朝倉の作戦に納得がいかなかったら自分でその希望を言わなくちゃ朝倉だって作戦の立て様がないよ」

 

「う〜、わかった、今度はちゃんと言う

亜子にもちゃんと謝って、正々堂々勝負して今度こそ勝つ!!」

 

「(うんうん、やっぱり裕奈はこうでなくっちゃ

しかし朝倉の作戦もなかなかえげつなかったなぁ、和泉さんも軽く涙目だったし、なんて鬼畜な作戦を思いつくんだ

朝倉 和美、恐るべし……)」

 

朝倉だけは敵に回すまいと思っていると、明石家に到着した。今日も伊織は仕事らしく、今晩は明石家にお世話になる。

 

「ただいまーー!!」

 

「お邪魔します、あれ?なんか真っ暗」

 

玄関に入ると、家中が真っ暗であり何処も灯りが付いていない。

今日は夕子さんは家に居るらしいが、もしかしたら買い物に行ったのかもしれない。

灯りを付けようと、壁のスイッチをオンにするが全く付く気配がない。ブレイカーが落ちたのかもしれないが、ここで灯りの魔法を使う訳にもいかず、仕方なく台所にあるライトを取りにいく。

 

暗い空間に目が慣れて行き、リビングのドアを開けると、パンッ!!と何かが破裂する音が二回響き、辺りには火薬の様な臭いと共に灯りが照らされる。

 

「縁君!お誕生日おめでとう!」

 

「ゆかりおめでとー!」

 

夕子さんと裕奈の祝いの言葉と共に伊織が僕の頭に手を置く。

破裂音の正体はクラッカーであり、辺りには紙吹雪が舞っている。

 

「あ、そういえば、今日は僕の誕生日だったね」

 

「なんだよ、自分の誕生日なのに忘れてたのかよ」

 

「仕方ないわよ、どっかの誰かが去年誕生日を忘れたせいで祝い損ねたんだから」

 

「あー、わかったわかった、あたしが悪かったって、だから今日はその分豪勢に祝うんだろ

ちゃっちゃが始めようぜ」

 

伊織は指で耳栓にして夕子さんのお説教を遮断して、豪華な料理の乗ったテーブルに席ついた。

夕子さんもため息をついて諦め、気をとり直して笑顔に戻ると、大きな紙封筒を僕に渡した。

 

「誕生日プレゼントよ、開けてみて」

 

言われた通りに紙封筒を丁寧に開けると、中からは一冊の料理本が入っていた。

子供向けの料理本の様だか、それでも百種類ほどの品数が載っており、和洋中色々ある。

 

「それでしっかり、料理の勉強をしてね

うん、結構真面目に」

 

夕子さんは真顔で最後の方をかなり強調して言っていたが、僕にかかれば、どんな料理もパパッと三ツ星料理に大変身だ。心配する事は何もない。

テーブルに座る伊織にも期待していいよと、自身たっぷりの表情で視線を送ると、伊織は何かから目を背ける様に手で顔を覆っていた。どうしたのかな?伊織の嫌いな料理でもテーブルに並べられてたのかな?

まぁ、それはおいて置いて、夕子さんにお礼を言い、出来たら夕子さんにもご馳走すると言ったら顔が青ざめていた。貧血かな?鉄分豊富な料理を作らないとね。

 

「次は私だね!はいゆかり!誕生日プレゼント!」

 

今度は裕奈からプレゼントを貰うと、額縁に入った絵を渡された。

絵にはクレヨンで描かれた三頭身程の人間が五人程描かれておりどれもニコニコ笑顔で笑っていた。

 

「これがお母さんで、これはお父さん

こっちがイオリさんで、これがゆかり、これは私」

 

裕奈が描かれている人物をそれぞれ説明する。

何故額縁に入っているのかは分からないが、確かに服装や装飾品なども描かれて誰だかよく分かる。

こんな笑顔で過ごしたい、この絵は裕奈の理想の日々なのかもしれない。

 

「ありがとう、大事にするよ!」

 

「私の旦那はもうすぐで帰ってくるからその時にプレゼントを渡すけど、

その前に、伊織からも貰わないとね」

 

夕子さんは視線を向けると、伊織はグラスに注いだワインをもう飲んでおり、それを目撃した夕子さんは伊織の頭を叩いた。

 

「それで?なにかないの?

あの後、三時間程探したんでしょ?まさか無い訳がないわよね?」

 

「わぁった!わかったよ!

 

ほらよ縁、これやるよ」

 

夕子さんに詰め寄られた伊織は観念して、自分の指に嵌めていたシルバーの指輪を投げ渡す。

指輪にはエンブレムのマークが彫られており、指輪全体にはラテン語の様な文字も彫られていた。

 

これは伊織の魔法媒体だが、いつも付けているやつは古くから使っているのか所々傷があるのだが、これは新品の様に綺麗で傷一つない。

 

「そいつは予備だ、かなりいい素材を使ってるからな、おめぇの下手くそな手品(魔法)も少しはマシになるんじゃねぇか?

それに、あたしのやった棒っきれ(子供用の魔法の杖)もへし折れてるから丁度いいだろ」

 

裕奈がいるので、所々隠して話してたが、これはとても嬉しい。

子供用の魔法媒体よりも魔法が行使しやすく、これならもしかしたら、僕でも灯りの魔法以外の魔法も行使出来るかもしれない。

 

「へぇ〜、貴女の事だから変な物を買ってくるんじゃないかと心配してたけど、なかなかいい物を選んだじゃない」

 

「おめぇはあたしを何だと思ってんだ…

今はおめぇの指に合わねぇから今度首にかけるチェーン買ってやるよ」

 

「うん…うん!ありがとう!絶対に上手くなってみせるよ!」

 

指輪を大切に握りしめ、伊織に精一杯のお礼を言う。

今日は本当にいい日だ、誕生日を人に祝ってもらうなんていつ以来だろうか。

中学生後半からは、家族からも祝ってもらう事はなくなり、いつも誕生日なんて特に何もしないで過ごしていた。

だから、誰かに祝ってもらうなんて嬉しすぎて裕奈と一緒にはしゃぎ回ってしまう。

 

「こらこら、嬉しいのは分かるけど、先にお料理を食べなさい

この大飯食らいが食べ尽くすわよ」

 

「こんなに食えねぇよ」と伊織は反論するが、確かに伊織が食べなくてもせっかくの料理が冷めてしまうので直ぐに食事にしよう。

 

四人で賑やかに食事をしている途中、裕奈のお父さんが帰宅した事により更に賑わい、その夜は楽しい誕生日パーティーが続いた。

 

 

 

 




9月20日産まれ、乙女座なゆかりん
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