服部半蔵達の襲撃を受けた上田……
城には、民と兵士達の亡骸が寝かされていた。
「ったく、せっかくの祝いの席が台無しになってしまったなぁ……
民にまで、犠牲を出すとは……
だが、これが狸との戦か……
しかし、お前等六人がいてくれたおかげで、この程度で済んだ。
なぁ……我が勇士達。
霧隠才蔵
アナスタシア
猿飛佐助
海野六郎
筧十蔵
そして、伊佐那海……」
「え?私も勇士?」
キョトンとした顔を浮かべながら、伊佐那海は幸村に問いかけた。幸村は、伊佐那海の頭の上に手を置きながら頷いた。
「そうだとも、お主も我が勇士だ」
「明日花達は?幸村ぁ!」
佐助の隣に座っていた肩下まで伸ばしした白髪を耳下で結った少女が口を開いた。その声に気付いた幸村は、手に持っていた煙管を加えながら、少女に話をした
「何を言う、お主も立派なわが勇士だ」
「でもさっき『お前等六人がいてくれたおかげで、この程度で済んだ』って……
あれって、明日花達は含まれてないって意味じゃないの?」
「そういう意味ではない。お主等は、別の意味の勇士だ」
「別の意味?」
「そうだ」
「……フーン。
そういうことにしとくよ」
幸村と話を終えた途端、少女を後ろに座っていた黒髪を耳下で結った男が、彼女の頭を思いっ切り叩いた。少女は打たれた箇所を抑えながら、涙目で振り返り男を睨んだ。
「叩かなくたっていいじゃん……」
「その様な恥たない口の訊き方をするからでしょ」
「いいじゃーん」
「良くありません。何なら、もう一発殴りますか?」
「遠慮しとく」
「ハハハハ!
優助、それくらいにしとけ。儂はそんな気にしてない」
「ほら、幸村だってああ言って」
「黙りなさい」
「はい」
優助が落ち着いたのを確認すると、黙っていた才蔵が口を開いた。
「このガキとオッサン誰だ?」
「そういえば、私も初見だわ」
「父さんの事、オッサンっていうな!弱者!」
「おいガキ、今何言った?
それから、人に向けて指差すな」
少女の言葉が癇に障ったのか、才蔵は少女の頭を鷲掴みにしながら少女の顔を自分の顔に寄せた。しかし少女は、恐怖を感じていないのか、平気な顔で才蔵をにらんだ。
「頭鷲掴みにして睨めば、ビビると思った?弱いくせして」
「!この…」
「止めなさい!」
そう言いながら、優助は立ち上がり才蔵と睨み合っていた少女の頭を叩いた。
「痛ったぁ……佐助ぇ!」
頭を抑えながら、明日花は隣に座っていた佐助の背後に隠れた。そんな彼女を見ながら、ため息をした優助は才蔵の方を見ながら口を開いた。
「すみません……失礼な事を」
「いや、別に……」
すると、左隣に座っていた伊佐那海が、佐助の後ろに隠れている少女の肩を叩きながら話しかけた。
「ねぇねぇ、アンタ名前は?まだ聞いてなかったでしょ?アタシ、伊佐那海」
「山本明日花!」
「へぇ、明日花ちゃんかぁ」
「こちらも自己紹介させて貰います。
僕は山本優助。真田忍隊副隊長と兵士達の刀の師を務めています」
「マジで……親子?」
「明日花の性格は、紫苑譲りです」
「紫苑?誰だ?」
「追々話します」
「ゴッホン
そろそろ、儂の話を聞いてくれぬか?」
咳ばらいをした幸村は、皆を見た。才蔵達は幸村の咳払いに、反応しその場に腰を下ろしながら、幸村に話しかけた。
「何だよ?話って」
「実はな、一匹の狸がこの上田を奪おうとししていてな、一度懲らしめたのだが全然懲りてはおらぬのだ」
「?どうして?」
「上田は、いろいろ便利で戦をするなら絶好の場所なんだ」
伊佐那海の疑問に、佐助の肩にいた鼬の頭を撫でながら明日花が伊佐那海の質問に答えた。
「フ~ン……こんな山奥の小さなお城なのに?」
「小さいは余計だ、小さいは」
「戦でも始まるの?」
「そうだな。
この信濃の国と甲斐の国を治めていた武田家が滅んでから十四年……
そして、太閤秀吉が亡くなってから一年……
今までコソコソ裏で動いていた狸が、ようやく本性を現しおったわ」
「裏で動いてたって………
前々から動き始めてるよ。父さん、そうでしょ?」
「いいから、大人しく幸村様の話を聞きなさい」
「はーい」
「儂には、この信州上田を、国の民を守る義務がある。
そのため、儂はこの場からは動けん。だから」
「だから、俺等を使い外部の情報を聞くってか?」
「まぁ、そういうことだな」
「くだらねぇ……
俺には関係のない話だ」
立ち上がり、襖を開けた才蔵は表へと出て行った。そんな才蔵を伊佐那海は心配した表情を浮かべた。
夜……
才蔵は部屋を出た後、城の屋根の上で仰向けになりながら月を眺め、昼間のことを思い出していた。
『命拾いしましたね?』
「……」
『どうやら応援部隊が来たようですし……引き揚げるとしますか。
しかし、がっかりしましたよ?強いと言っときながら……
異名だけが、この世を歩くみたいですね?』
その言葉を才蔵に言い放つと、半蔵は煙のようにその場から姿を消した。才蔵は月の光に自分の両手をかざし眺めた。
(……
情けねぇ…あいつ(伊佐那海)を守りきれなかった……俺はもっと強かったはずだ……
暗殺が生業だった俺が、柄でもないことをしたから調子が狂ったんだ……)
ふと何かが切れたり当たったりする音が聞こえた。下を覗くと、そこに佐助が稽古をしていた。
「けっ!
バカじゃねぇのか?お前?」
「!」
才蔵の声にと気配に気付いた佐助は、才蔵の声がした方に顔を向けた。
「いくら一生懸命やったって、無駄なもんは無駄なんだよ」
「……
話す価値なし」
「んだと!
集団でしか動けない腰抜け猿が偉そうに!」
屋根から飛び降り、才蔵は佐助に殴りかかろうとした。だが佐助は、才蔵の攻撃をかわし、才蔵の額に頭突きした。その反動に才蔵は一瞬意識を無くし掛けたが佐助はそれを承知の上か、才蔵の腹に蹴りを入れた。受けた蹴りの勢いで、才蔵は近くにあった池に落ちた。
「何しやがる。猿野郎!
ムカつくんだよ!意味もない修業しやがって!」
「我、己の弱さ知る。故に技磨く。
幸村様、我必要。だから強くなる。
上田、守る。真田、守る。これ、我の務め」
「守だと?
そういうのが嫌いなんだよ!」
「否!」
「は?」
「お前、自分弱いの認めない」
「この」
立ち上がり佐助を殴ろうとした途端、何かが頭にぶつかってきてまた才蔵は尻を突いた。
「一度ならずに二度までやり……!」
池から這い上がった才蔵に、佐助は手を差し伸ばした。
「這い上がれ、何度でも。お前必要」
「……」
「その力。幸村様必要。
お前強くなれる。誰かのために」
「いいことを言うなぁ、佐助。
お主がそんなに喋ったのは久しぶりに見たぞ」
「ゆ、幸村様!」
顔を赤くして、佐助はその場を立ち去った。
「おぉ、逃げたか」
逃げていく佐助を見送った幸村は才蔵の方へ振り向き口を開いた。
「どうする?そこから這い上がるか?」
「……
何度でも、這い上がってやるさ」
「なら、お前にぜひ頼みたいことがある」