BRAVE10~もう一つの物語   作:花札

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伊佐那海を助けに来た佐助……


だが、伊佐那海は「帰らない」と言い放った。


闇からの奪還

明け方……

 

 

座敷牢にいる伊佐那海のもとへ、政宗と小十朗が入ってきた。すると伊佐那海は、二人と顔を合わせないように背を向けた。

 

 

「話してぇんだが、こっち向いてくれねぇかな?

 

えーっと……?

 

 

そういや、名前聴いてなかったな!お前名前は?」

 

「……」

 

(素直に答えるはずもあるまい)

 

「人と話すときは、相手の目ぇ見ろって教わんなかったか?!」

 

 

政宗は、背を向ける伊佐那海の頭を鷲掴みにして、自分の方へ向かせた。

 

 

「で、名前?」

 

「……

 

 

伊佐那海」

 

「俺ぁ、伊達政宗ってんだ。

 

よろしくな、伊佐那海」

 

「よろしく?

 

何それ?!人さらっといて!意味わかんない!!」

 

「これから長い付き合いになるかもしんねぇからね。奇魂共々」

 

「!!」

 

「しっかし徳川が、見つけらんねぇえ訳だよ。まさか、簪だったとはなぁ……」

 

「アタシ、何も知らないから!!

 

 

これだって、単なるお守りで……

 

特別な物なんかじゃ……」

 

「お守り?」

 

「アタシのお守りだって……お守りだったのに……

 

(これのせいで、皆傷ついた……

 

才蔵……)」

 

「ふぅん……お守りかぁ」

 

(こんな女童に『宝』とは……

 

殿の言うことは、誠であろうか)

 

「伊佐那海、一つ聞きてぇ事がある」

 

「何?」

 

「お前と一緒にいたあの白い髪を伸ばしたガキ……

 

アイツの名は、何ていうんだ?」

 

「何で、そんなこと聞くの?」

 

「十年前に、ガキを一人ここへ連れてきた。白い髪を生やしたガキだ。

 

だが、そいつは一晩のうちに座敷牢をぶち壊し、行方不明になっちまったんだ」

 

「それとあの子と何か関係でもあるの?」

 

「もしかしたら、そいつがその逃げ出したガキの可能性があるんだ。

 

で、アイツの名前は?」

 

「……知らない」

 

「あぁ?」

 

「アタシ、あの子から名前聴いてないもん」

 

「……そうか。

 

 

ま、ともかくお前にはしばらくここにいてもらう」

 

「!!」

 

「奇魂を託されたお前にも、何かあるんじゃねぇかと思うんでな。」

 

 

近くに置いてあったぬいぐるみを手で上へ投げながら政宗は話した。伊佐那海は政宗の言葉に驚き、政宗を見つめた。そんな伊佐那海に政宗は上へ投げていたぬいぐるみを、伊佐那海に押し付けた。

 

 

「なあに、そう怯えんな。

 

 

欲しい物は、何でもやる。ガキを泣かせる趣味はねぇからな。

 

ああ、言っとくが上田に帰せってのは無しな」

 

「……そんなこと言わない」

 

「そりゃあなによりだ。

 

行くぞ、小十郎」

 

「私は片倉小十郎と申します。

 

御用がありましたらお呼び付けを。それでは失礼いたします」

 

 

政宗に続いて、小十朗は牢の外へ出た。すると政宗は、何かを思い出したかのように手を叩いて、口を開いた。

 

 

「そうそう……

 

 

昨夜、ここに忍んできた輩がおってなぁ……

 

一人は逃したが、女一人は捕らえてある。お前が喋らなくてもそいつに訊くさ。あの白ガキの事もな」

 

 

それだけを言うと、政宗と小十郎は牢を去って行った。伊佐那海は持っていたぬいぐるみを手から落とし、目に涙を溜めながらその場に座り込み、手をついて下を向いた。

 

 

(佐助とアナだ……

 

 

捕まったって……

 

アナ……酷い事されちゃうのかな…

 

 

アタシのせいだ……

 

今までのこと全部……出雲や上田で起きた事全部…アタシのせい……)

 

 

 

 

地下牢の天井から吊らされているアナスタシア……

 

 

手下達がごちゃごちゃと騒いでいる中、ふと窓の方を見ると佐助が放った梟が首を動かしながら何かを伝えていた。

 

 

(何?伊佐那海が、帰らないって?!

 

せっかくコイツ等の足止めしてやってんのに、佐助ったら!!)

 

「おい!水持ってきたぜ!!

 

さぁ、いい加減目ぇ覚まし」

「バカ!!こいつは」

 

 

アナスタシアの技を知っていた忍が、水をかけてしまった仲間に声を上げて怒鳴った。

 

 

「伊賀亜流氷術槍氷華!」

 

 

氷の槍を放ち、敵が気を失った隙にアナスタシアは手足首を縛っていたロープを噛み千切って解き、その場に着地した。

 

 

「さて、聞き分けのないお嬢ちゃんを迎えに行こうかしら!」

 

 

 

 

座敷牢の床で横になっている伊佐那海……

 

 

「全く、佐助は頼りないわね」

 

 

その声に気付いた伊佐那海はすぐに起き上がり、声がした方に顔を向けた。そこには鍵を指で回しながら入ってきたアナスタシアだった。

 

 

「アナ?!

 

どうやって、ここに?」

 

「男なんて、チョロイもんよ。

 

さ!さっさとここを出るわよ!」

 

「(アナ……傷だらけ……)

 

アタシ、絶対帰らない!!

放っておいて!!」

 

 

佐助が言った通りの反応だった。アナスタシアは腰を下ろし、伊佐那海の背中に手を置きながら優しく声をかけた。

 

 

「そんなことできないわ。皆心配してるのよ?」

 

「……」

 

「落ち着いたら、行きましょう。ね?」

 

「アタシが……」

 

「?」

 

「アタシが帰ると、皆に迷惑かけるの!!そんなの嫌!!絶対!」

 

 

泣きながら、その場に蹲り訴える伊佐那海……

 

そんな伊佐那海にアナスタシアは、肩を持ち伊佐那海を起し顔を上げさせた。

 

 

「皆を傷つけるのが、怖いのね?

 

全てを自分の責任だと感じてる。自分さえいなくなればいいと思っているのね?」

 

「……」

 

「伊佐那海」

 

「?」

 

「アンタは、可哀想な物語の主人公ってわけ?」

 

「!!」

 

「人が傷つくのは見たくない……

 

だから目を伏せ、耳を塞ぐのね?

 

 

一番、楽な道だわ!

 

自分を哀れんで、何も見なければ苦しまないものね……

 

 

でも」

 

 

何かを言い掛けたアナスタシアは、伊佐那海の服を掴み上げ顔を近付けさせた。

 

 

「私は許さないわ!そんなこと!

 

あなたは勇士でしょう?だったら、戦いなさい!!逃げて、何が解決するというの?!」

 

「た…戦うって……

 

アタシなんか……強くないし」

 

「力が強いことが全てじゃないわ。前に進む勇気も強さよ!」

 

「でも……」

 

「大丈夫。あなたの心の中にもあるわ。勇ましい強さが……そうでしょう?!」

 

 

自分の胸に手を置き、厳しくだが優しく話すアナスタシア……

 

 

アナスタシアの言葉に、伊佐那海は励みと勇気を貰い目から涙を流した。

 

 

(そうだよ……自分の事だもん。

 

泣くのが嫌なら、立たなくちゃ)

 

 

涙を拭いていると、牢の扉が開きそこから佐助が姿を現した。

 

 

「退路確保!行くぞ!」

 

「承知。

 

さっ、立てる?」

 

「大丈夫」

 

「……

 

伊佐那海」

 

「?」

 

「誰も、自分傷つくの恐れない。

 

我も、才蔵も、明日花も……幸村様も」

 

「アタシも……」

 

 

下を向きながら佐助の話を聞いていた伊佐那海は、意を決意したかのように顔を上げて佐助に言い放った。

 

 

「アタシも、勇士だから!!(一緒に立ち向かう)」

 

 

 

 

その日の昼……

 

 

伊佐那海の様子を見に来た政宗と小十郎……

 

 

だが、そこを見張っていたはずの見張り人は皆気を失い、倒れていた。

 

 

「どういうことだ?!これは」

 

「見張りが尽くやられています!!」

 

 

嫌な予感がした政宗と小十郎は、すぐに伊佐那海がいる座敷牢へ向かい、扉を勢いよく開いた。

 

だがそこに、伊佐那海の姿は泣く中は物家のからだった。

 

 

「連れ去られた……

 

 

だから、申し上げたでしょう!!宝なれば、狙われると!!

 

ここは大丈夫などと驕るから、このような事に!!

 

 

少しは行動を……?政宗様?」

 

 

何も口答えしない政宗の様子に疑問を感じた小十郎は、後ろを振り返り政宗の方を見た。すると、政宗は腹を抱えて突然高笑いをした。

 

 

「やりやがるじゃねぇの!!」

 

「はい?」

 

「この俺ん所から、宝奪い返すなんざ、見上げた野郎だよ。すげぇじゃねぇの!

 

アイツだろ?あいつなんだろ?!この俺と対等に渡り合えんのはよ!!

 

 

こりゃ、ぜひ一度お目にかかりたいねぇ……

 

 

真田幸村」




数日後……


伊佐那海が幸村の元へ帰還してしばらく経った日、才蔵達も帰還した。出迎えていた幸村に、十蔵は才蔵の傍にいた鎌之介の事を説明した。話をする彼の後ろにいた明日花は、優助の姿を見つけると一目散に彼の元へ駆け寄った。

駆け寄ってきた彼女の頭に優助は手を置き、笑みを見せた。彼の顔を見て、安心したのか明日花も笑みを溢し優助に抱き着いた。


そんな光景を、才蔵は何となく眺めていた。


「いくつになっても、明日花は甘えん坊だのぉ」

「あんなに怯えてたのに、父親に会った途端ケロッとしてやがる」

「そう言うな。

ああ見えても、明日花は佐助や十蔵と肩を並べて戦える忍だぞ?」

「それは今回の旅で知った」


先に城へ入る明日花と優助の姿を見ながら、才蔵は答えた。
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