口笛が響く城下町……霧に包まれた道を笠を被った旅人が、鎖を回しながら歩いていた。その歩く道には、血塗れで倒れる数人の人影があった。
「変わらないねぇ……信濃は」
翌朝……
庭で組み手をする明日花と優助。明日花の蹴りを優助は、難なく腕で受け止めそれを見た彼女は、蹴りの次に拳を作り殴り掛かった。拳を優助は払い避け、宙を舞い身動きできなくなったのを狙い、明日花を蹴り飛ばした。彼女は地面に転がり飛ばされ、腕を押さえながら彼を睨んだ。
「蹴るなんて卑怯!」
「これは組み手です。卑怯ではありません」
「意地悪ー!」
「あのねぇ……」
膨れる明日花に、優助はため息を吐いた。
縁側に座り、明日花は優助から傷の手当てをして貰っていた。優助は、手から水の玉を出しそこに彼女の腕を入れもう片方の手で、傷の手当てをした。
“ドーン”
爆風の音が聞こえ、音がした方に目を向けると鎖を振り回し風を起こす鎌之介と、それから逃げる才蔵の姿があった。
「全く、朝っぱらから騒がしい方々ですこと」
「賑やかで良いじゃん!」
その頃、城下町を歩くアナスタシア。ふとざわつく声が聞こえ、その声の方に目を向けた。町の一角に民が群がっていた。
「こりゃあ酷い……」
「医者呼ぶか?」
「呼ぼうにも、もう手遅れだ」
「誰がこんな事を……」
野次馬をかき分け、アナスタシアは現場を見た。
硝子のような破片が体にいくつも刺さっていた。
見て明らかにもう息はしていない……亡骸は六つもあり、一つ一つの胸に、留めかのように硝子の槍が刺さっていた。
(何か潜り込んでるわね……)
「!?」
何かの気配を感じたのか、優助は動かしていた手を止め辺りを見た。
「?父さん、どう……!?」
同じようにして気配を感じたのか、明日花は辺りを見回した。気配は才蔵と佐助にも分かり、二人はほぼ同時に庭へ降りた。
「さすが、隊長。
気配に気付くなんて」
その声に、優助は立ち上がり前方にいる者を凝視した。笠を被り鎖を回す一人の男。
「やはり君でしたか……」
「知ってんのか?」
「彼は、元武田軍の者……名は木曽義将」
「まだ俺の名前を覚えてたとは……嬉しいねぇ」
「裏切り者が何を今更……」
「な~に……
少しばかり頼まれたんでね……ここにいる宝を持った巫女を、徳川に連れて行くようにってな」
「?!」
「まぁ、夜を楽しみな。
今は軽くご挨拶だ」
義将が指を鳴らすと、どこからか硝子の槍が飛び才蔵達の頬を傷付け、明日花の腕に掠った。彼女は傷口に目をやるが、すぐに背後から優助の服を掴み、怯えた様子で義将を見た。
「あれ?隊長、いつの間にガキで来たんだ?」
「この子は預かっている子です。別に僕の子ではありません」
「おや、そうかい……顔立ちが似てたから、そうかと思ったが違ったか。
まぁいいか……あ、そうだ」
「?……!」
義将が何かを投げた……その瞬間、優助の脚から大量の吹き出しその場に倒れた。
「優!!」
「優助!!」
「隊長さんは厄介なんでな。
そんじゃあ、また夜に」
煙玉を落とし、煙と共に義将は姿を消した。
「優!優!」
突き刺さった硝子を、優助は引き抜き破片を捨てた。出てくる血を、明日花は水の玉を作り傷口に当てた。水の玉は見る見る内に赤く染まっていった。
「何を突っ立っているんです……佐助、早くこの事を幸村様に!」
「諾!」
「才蔵、手ぇ貸して!父さんを」
「あ、あぁ」
手拭いで自身の脚を縛り止血した優助は、才蔵の肩を借り立ち上がり縁側に座った。
「すみません……」
「どうってことねぇよ……
それより、あいつ」
「先程も言いましたように、彼は武田軍にいた部下です」
「父さん、アイツ……徳川って」
「えぇ……戦時中、彼は我々を裏切り、徳川の部下へ移ったんです」
「そうだったのか」
「それより明日花、傷は」
「明日花のより、父さんの傷の方が」
「僕は平気です」
「優助!!」
声が聞こえ、三人は同じ方向に振り向いた。六郎と共に、幸村が佐助に釣られてやって来たのだ。
「幸村」
「話は佐助から聞いた」
「……」
「才蔵、お主は伊佐那海の傍におれ」
「応」
「佐助、お主は明日花だ」
「諾」
「何で?私は別に」
「彼の事です。恐らく、君を人質にする可能性が」
「……」
「彼は勘が鋭い人ですから、先程の嘘は見抜いているでしょう」
「……」