その後ろを歩く伊佐那海は何か思いついたかのような声で、才蔵に話し掛けてきた。
「ねーねー、気晴らしに甘味食べ行こうよ!」
その言葉に、伊佐那海の前を歩いていた鎌之介が、不味そうに舌を出しながら振り返り言った。
「何で、んなもの食わなきゃ何ねぇんだよ!」
(こいつ等、うるせぇ……)
「アンタには話してないでしょ!
だいたい、何でここにいるのよ!勇士でもないくせに!」
「あのオッサン(幸村)が、勇士になるならいても良いって言ったんだよ!」
「い、いつの間にそんなことを……」
「嘘くさーい」
「出雲から帰って来て、才蔵が寝込んでいる時にさぁ……」
出雲から帰ってきた後……
『お前が、才蔵にくっ付いてきた手だれか?』
『おうよ』
『才蔵と戦う約束があるとか……
しかし、このままではそれも叶わんのう……』
『は?どういうことだよ?』
『生憎、才蔵は今、儂の下で働いておってな……
簡単に言えば、才蔵は儂のモノだ。
手に入れたければ、まず儂を倒さねば』
『ふうん……』
舌を出し、上唇を一舐めした鎌之介は、鎖鎌を取り出し鎌の先端を幸村に向けた。
『じゃあ、速攻でテメェを殺して、奪うまでよ!!』
『……つまらんのう』
『何がだ?!』
『熱を出しては冷めるのも早い……
快楽は、長く体の内に留めておくほうがよい。
ゆっくり…ゆっくりと……
待って耐えて、快楽の大波を待つ……
己の瀬戸際まで追い詰めそして……
一気に放つ。
その方が、気持ちよかろう……なぁ?』
『ああ……オッサン、スゲェな!!』
『その時が来るまで、ここにおればよい。
才蔵もいるし、それに聞けば明日花と知り合いみたいだな?』
『白ガキと化け狐とは、一度戦ったことがあってリベンジ(再挑戦)しようと待ってたけど、結局来なくてよぉ。
白ガキと戦ったてても面白いしな!』
『そうかそうか。
それじゃあ、ここにいれば退屈はしないぞ?』
『いよっし!!乗った!!』
「ってな、感じだ」
一通り、話をした鎌之介……
「何それ?!軽!!
ねぇ才蔵!!おかしいよねぇ……!」
鎌之介の話を聞いた伊佐那海は、才蔵がいる方に顔を向けたがそこには彼の姿はどこにもなかった。
その頃、伊佐那海達から離れた才蔵は一人上田の町をブツブツと独り言を言いながら歩いていた。
「ったく……
アイツ等といると、うるさくてかなわねぇ……
ゆっくり考え事もできやしねぇ。
(何か、大事なところがボヤ化された気がする)」
六郎の眼から何かを抜かれたせいか、出雲の地下で見たものがうろ覚えになっていた才蔵……
(伊佐那海の簪が奇魂だった以上、刺客も増えるだろう……
いやいや……そもそも奇魂ってなんだ?
明日花の首飾りも気になる……
あぁ、クソォ!!
色々あり過ぎて、訳分かんねぇ!!
伊佐那海のあの不思議な力……
あれは奇魂が引き起こしているのか?)
『アタシ、天涯孤独なの。だから、頼れるの才蔵しかいないの』
(……
時間がもったいねぇ…
もっと腕を上げねぇと……一旦、伊賀に帰ってみるか……)
“ドーン”
通りかかった家の壁が、突然粉々に壊れ中から何かが吹っ飛んできた。
「か、筧さん?!」
吹っ飛んできたのは十蔵だった。十蔵は向かいに積まれていた桶にぶつかり、体を起こしながら言った。
「あ奴、何て馬鹿力だ」
「あ奴?」
「無銭飲食だ!
注意した途端、暴れ出しおって」
「違う!!」
その声が聞こえてくると、店の壁から大男が現れ十蔵が壊した壁をさらに壊し出てきた。
「拙僧は神仏に仕える徒なり!!よって、拙僧の行いは仏の行いなり!!
仏には、酒も飯も喜んでふるまう者であろうが!!」
「何を抜かす!!神だ仏だと偽って、ただ飯食っている破落戸ではないか!!」
(このガタイで、僧かよ……)
「人は、神仏に金を払って拝むだろうが!!
神の使いである拙僧が、腹をすかしておるのだ!!飯ぐらい布施と思わんか!!」
「頭おかしいんじゃねぇか?!
とっとと金払えってんだよ!」
「持っておらん!!」
「こいつ……
おおかた、あちこちただ飯行脚してたんだろ?
何が神の使いだ!この破落戸が!!」
「破落戸ではない!!拙僧は、聖なる目的で旅をしておるのだ!!見よ!!」
大男は、後ろを振り向き背中に下がっている垂れ幕を才蔵と十蔵に見せた。
その垂れ幕には『妹捜し』と書かれていた。
「思いっ切り私情じゃねぇか」
それを見ながら才蔵は呆れて言った。一緒に見ていた十蔵は顔に手を当て、ため息をついた。
「拙僧の名は、三好清海入道!!
生き別れになった妹を探して、諸国をめぐっておる!!」
「(何が入道だ……)
テメェみてぇな化けもんの妹なら、化けもんみてぇな女だろうが……
上田には、そんな奴いねぇぞ!他をあたれ!」
「そうか」
(案外素直な)
「待て!!」
去ろうとする清海に、十蔵は怒鳴り声を上げ清海を呼び止めた。
「貴様のような暴漢、見逃すわけにはいかん!!」
「筧さん……(余計なことを)」
「食事代と壊した店の修理代の分、働かんか!!」
「それは話がおかしい。
もとはと言えば、拙僧にいちゃもんをつけたのお主が悪い。お主が金を払え!」
「何だと?!」
「お主が軽々と、飛ばされなければこんな大事には至らなかったろう……
弱過ぎる!」
「無礼にもほどがあるぞ、貴様!!」」
ブチ切れた十蔵は、肩に背負っていた火縄銃を持ち構えた。
「某が弱いかどうか、思い知らせてくれる!!」
「ほっとけよ!!こんなバカ!!」
「武士が愚弄されて、黙っておれるか!!
こ奴の精根、叩き直してやる!!」
清海に向かって銃口を向ける十蔵……
すると清海は、銃口を手に持ち下へ振り払った。
「仏に銃口を向けるとは、何事だ!!この罰当たりめが!!」
「誰が仏だ!!……うぬ?!」
銃口を再び清海に向けようと、銃を上げると清海に掴まれていた銃口が反対方向に折れ曲がっていた。
「さ……さ…さ…紗彩!!」
(この坊主、素手で銃身を曲げやがった?!
つーか、筧さん……
銃に名前着けてたのかよ…)
清海は地面を踏み鳴らし、十蔵目掛けて拳を向けてきた。才蔵は咄嗟に十蔵の服の襟を掴み、その場から離した。払った拳の気迫のせいか、向かいにあった壁を凹ませた。
「やり過ぎだ!!くそ坊主!!」
「お前等こそ、大人しく神々の制裁を受けよ!!さすれば、許される!!」
「うさんくせぇ御託、並べやがって!!」
才蔵はクナイを取り出し、清海に投げ放った。
「ヌウッ……墳!!」
体に力を入れた清海……
その勢いで、清海に放ったクナイを弾き飛ばした。
「は?!(弾いた?!しかも、筋肉で?!)」
「いよーしお主ら……
よほど神の怒りを受けたいと見える。なれば拙僧が信ずる、全ての神仏で屈服させよう!!
南無阿弥陀仏!!」
清海は手に持っていた鉄棍棒を振り回し、勢い良く地面に叩き付けた。叩き付けた地面がひび割れ、才蔵は飛び上がり屋根の上へ移った。揺ら付いた地面に、十蔵は立っていられない様子だった。
それを狙って、清海は鉄棍棒を十蔵目掛けて振り下ろしてきた。
「六根……」
「しまった!!」
「清浄!!」
鉄棍棒は見事に十蔵に当たり、十蔵は当たった衝撃で吹っ飛ばされてしまった。
「筧さん!!」
吹っ飛ばされた十蔵の方に行こうとした瞬間、清海が鉄棍棒を振り上げ才蔵がいた屋根を壊した。その攻撃をよけっ隣の屋根に移ろうとした才蔵に、清海は鉄棍棒を持ち替え振り下ろしてきた。
だがその時、どこからか鎖が清海の鉄棍棒に絡ませ攻撃を防いだ。鎖が飛んできた方に目を向けると、そこには鎌之介がいた。
「楽しそうじゃねぇか!才蔵!
俺も交ぜろ!テメェに、貸し作っといてやる!!」
「バカ!!
それを離せ!!鎌之介!!」
「あ?……!!」
才蔵の言葉に、鎌之介は首を傾げたがその意味は、突然体が引っ張られたことにより発覚した。
「お主も、この不信心者共の仲間か!!
説法してやるから、降りて来い!!」
「おわ!!」
「力じゃ勝てねぇって!!離せ!!」
「悔い改めよ!!」
清海に振り回され宙を舞う鎌之介……
落とされた先には才蔵がおり、才蔵は落ちてくる鎌之介を受け止めようとせず避けた。鎌之介は体を、屋根の瓦に打ち付けられ打った箇所を押さえた。
「痛……
この筋肉ダルマ!!」
「だから、鎖鎌を離せって!!」
「あ?……うわ!!」
「悪霊」
「山本流水術水拘束!!」
地面から水のロープが現れ、清海の腕に巻き付き動きを封じた。
「騒がしいと思い来てみれば……
何です?このムサイ男」
その声の方向に顔を向けると、そこに優助と団子を口にする明日花の姿があった。明日花は団子を食べながら清海に近付きながら、厭そうな目で清海を見上げた。
「何か、ムッサ~い」
「明日花!!そいつに近付くな!!」
「大丈夫だよ!
父さんの技で動きは封じてい」
「墳!!」
気合を入れるような声と共に、水が弾く音が響いた。明日花は驚き、清海を見上げ優助は目を見開きながら彼を見た。
「嘘?!」
「まだおったか!!不信心者が!!」
粉々になった木の根を振り払った清海は、明日花の方に体を向かせ鉄棍棒を振り下ろしてきた。
「南無阿弥陀仏!!」
「明日花!!」
“ドーン”
「?!」
明日花がいた地面は少し凹んではいたが、清海が振り下ろしてきた鉄棍棒を明日花は両手で受け止め、その衝撃で地面が凹んでいるだけだった。
「何だ?!この女童?!」
明日花は、受け止めていた清海の鉄棍棒を振り投げた。鉄棍棒は地面に叩きつけられ、土煙を上げた。その隙に優助は、腰のケースから棍棒を出し構え、彼と同じ様にして明日花は清海から離れ、鉄扇を広げた。
「どんなに力が強くても、明日花に受け止められない攻撃はないよ!」
「不信心者が!!
南無阿弥陀仏!!」
清海が振り下ろしてきた鉄棍棒を、明日花は鉄扇で避け流した。その行為に驚いた清海は明日花を見つめた。
「そ、その捌き……
お主、まさか公智神社の巫女か?」
「公智神社?巫女?
明日花は」
「確かに、僕等は以前巫女と巫覡でした。
それが何か?」
「神に仕える巫女と巫覡が!!
なぜ、修羅の道は行った?!!」
そう叫びながら、清海は鉄棍棒を明日花に向かって振り下ろしてきた。その攻撃を屋根の上にいた鎌之介が、鎖を鉄棍棒に巻きつけ、動きを封じた。
「俺を忘れるな!!筋肉ダルマ!!」
清海は鎌之介の攻撃など気にせず、鉄棍棒を振り回した。鎌之介は鎖に引っ張られるがままに、屋根から落ちかけた時だった。
鎖に数本のクナイが突き刺さった。すると清海の頭を何者かが蹴りを入れ、屋根に着地した。その隙を狙い優助は明日花を屋根の上へ連れて行った。
「この不届き者!!
この地、どこと知る!!」
爪を向け、蹴った相手に怒鳴る佐助……
「次から次へと、チョロチョロと!!」
「あの野郎、公智神社のこと知ってたみてぇだけど、会ったことあんのか?」
「知りませんよ、あんなムサイ男」
「会ってたら、覚えてるよ!」
「まぁ、そうだな(あんな印象強い男、忘れようにも忘れられねぇだろうしなぁ…)」
「何だこれは?
神の試練か?!そうか!!神の声がする!!」
「アイツ、頭イってんの?」
「これを乗り越え、己を高めよと!!
いよっし!!潔く受けよう!!」
(こいつ……
意味不明だが、ただもんじゃねぇ!!)
「あーらら、何のよこれ」
そこにアナスタシアが町の騒ぎに気付いてやってきて、才蔵のもとに近付いた。
「アナ!」
「騒々しいから、来てみたらこの有り様。
早く何とかしないと、町が粉々よ!」
「うるせぇ!
そう言うなら、手伝え」
「嫌よ!」
「は?!」
「あの手は生理的に無理。
ヌルっとしてそう」
「アナ……」
「我、一人で十分!」
「ったく」
「あ!ズルい!明日花も戦う!」
「明日花!!」
「頑張ってね!」
才蔵と佐助が、清海に向かって飛び掛かった。その二人の後を明日花もついて行き、清海に飛び掛かった。
「さぁ来い!!聖戦(ジハード)だ!!
今こそ、拙僧は解脱せん!!アーメン!!」
「黙れよダルマ!!
死ねぇ!!巨旋風!!」
鎌之介は鎖を振り回し、風を起こし清海に攻撃した。
「あの、バカ男!こんな所で技を!!
「けっ!!良いざま!!……?」
「般若波羅蜜!!」
清海が受けた風に穴が開き、そこから鎌之介目掛けて鉄棍棒が振り落ち、避ける間もなく鎌之介は見事に、鉄棍棒の攻撃に当たった。
攻撃した大男の隙を狙い、佐助はガラ空きになっている清海の脇に爪を切りつけたが、驚くことに佐助の爪は、大男の体を貫くことができなかった。
「!!(刃が通ってない!!)
佐助、避けて!!」
「全ての神よ、仏よ!!
大山鳴動!!」
攻撃できなかったせいか、佐助はその場に尻餅をつきその隙に清海は鉄棍棒を持ち直し、佐助の近くで振り下ろし地面を揺らし凹ませた。
「信じた数だけ、救われる!!」
「明日花!!奴に術かけろ!!」
「え?!だけど!!」
「良いから!!」
「わ、分かった!
山本流水術水拘束!!」
何かを思いついた才蔵の命に、明日花は従い術を掛けた。地面から噴き出した水のロープは、清海の体に絡み付き動きを封じた。
才蔵は、清海の攻撃を避けていた佐助の体を踏み台にして、清海の上に乗り、剣を抜き頭に剣の先を突き付けた。
「観念しなハゲ!!
頭にまで、筋肉はつけられねぇだろ!!」
「何だぁ……急所はそこだったって訳か」
「さあ、どの神様に救いを求める?
筋操のねぇ、クソ坊主さんよ?!」
「……
お見事」
「皆ー、何してるのぉ!!」
騒ぎを聞いてやってきた伊佐那海……
才蔵は清海の上で頭に手を当てながら、ため息をついた。
「誰?その人」
「そ、その簪……
まさか……伊佐那海か!!」
伊佐那海の名前を言いながら、清海は伊佐那海に近付こうと前へ出た。そこへ伊佐那海を隠すように、佐助が前へ出て爪を構えた。
「な、何でアタシの名前……
だ、誰?」
「お……
お前の、兄ちゃんだろう!!」
「!!」