暗くなった空に浮かぶ月を、覆い隠すように舞い上がる湯煙……
風呂屋へ着き服を脱ぐ才蔵……
脱いだ才蔵の体を鎌之介は、才蔵の体にある傷跡をジッと見ていた。
「何だよ?!人の体ジロジロ見て!」
「……そこ、穴開いたんだよな?」
言いながら鎌之介は、傷跡を指差した。
「?見りゃあ分かんだろ」
「血ぃ、出たよな?」
「そりゃあ」
「キレた?」
「まぁな」
その答えを聞いた鎌之介は、落ち込んだかのように座り込んでしまった。
「何だよ!おい!!」
(クッソォ……
才蔵が血まみれのとことか、キレたとことか見たかったのに!!
つーか、俺全然暴れてねぇ!!)
「おーい……」
「何をしている?
行くぞ!」
「ああ!」
幸村に言われ、才蔵は外へ行った。
外へ出ると、広い露天風呂から湯気が立っており、入ろうとした才蔵に先にいた六郎が、湯を流し礼を言いながら風呂へ入った。
「すげぇな」
「なかなかであろう?
一杯どうだ?」
「お!ありがてぇ!」
「膳もあるぞ」
「至れり尽くせりだな。
いったい、どういうつもりなんだ?」
「言ったであろう。
日頃の感謝をこめての事だ。」
「おぉ!これは、半年ぶりの風呂だ!!」
「体洗ってから入って来い!」
才蔵に言われた清海は、傍に出ていた風呂の湯を被った。ふと、脱衣所を見ると鎌之介が服を服でいる途中だった。才蔵の目線に気付いた鎌之介は、手を止め才蔵達の方を睨んだ。
「んだよ!!ジロジロ見て!!」
「早く入ってこんか!鎌之介!」
「そういや、お前男湯でいいのか?」
「シー!
黙っておれ才蔵!ここは目で確かめるに限る!」
「!!
誰がテメェらなんかと入るか!!俺は湯なんかいらねぇ!!川で十分だ!!」
「ああ!」
怒鳴りながら、鎌之介は部屋を出て行きどこかへ行ってしまった。そんな彼に呼び止めるような声で叫びながら、幸村はがっかりしたのか溜め息をついた。
「何が見たかったんだよ、オッサン……」
「全く堅物だのう……
お前といい、筧といい、優助といい」
「これでも、多少は緩い方だと思いますが?」
「どうかのう……」
「筧さんといや、さっきの騒ぎから姿が見えねぇんだけど」
「先刻出て行った」
「出て行った?」
「また諸国を回り、修行したいと言ってなぁ……
火縄銃も修理せなばならんしのう」
「しかし、随分急じゃねぇか?」
「あれは、己の利子肩を知っておる……侍故にな」
「このまま戻ってこなかったりしてな?」
「そん時はそん時。
あれが、儂以上の使える価値がある頭に出会ったということだ。
男というのはな、心底惚れた者に命をかけて働ければそれに勝る幸せはない。そういう生き物よ」
「へ!
いかに使徒のもんを手名づける、口説き文句だな」
「何も、下のもんが主に惚れるものでもないぞ?」
「ホント。食えない奴だな、アンタ」
「惚れて欲しくないです」
酒を飲みながら、優助は不機嫌そうに幸村にそう言った。
「ったく、優助は相変わらずだな」
「当たり前です。
主の命がなければ、貴方方に仕えるつもりはありません。
妻と子供と、静かに過ごしたいものです」
「酷い言われようだな、オッサン……!!」
目の前にある膳を食べようとした時、浸かっている湯に無数の毛が流れてきた。その毛に才蔵は立ち上がり見回すと、隅の方に佐助と彼に懐く動物達の姿があった。
「テメェ!!佐助!!
動物入れてんじゃねぇ!!」
「何故!!」
「何故って……
汚ねぇだろ!!今飯食ってんだから!!」
「汚くない!!
ここ、元々こいつ等の縄張り!無問題!!」
「今は人間が入ってんだ!!出せ!!
飯が不味くなる!!」
「断る!!
幸村様、了承済み!!」
「何?!
おい、オッサン!!」
幸村に文句を言おうと、振り返ったがそこにいるはずの幸村はどこにもいなかった。
「……オッサン?」
「まさか、あの人」
「向こうは、随分と騒がしいわねぇ」
女湯で湯に浸かる伊佐那海と明日花、湯に浸からず岩の上で涼しむアナスタシア……
(あれ?
痣が薄くなってる……)
先程まで黒くなっていた伊佐那海の手が、いつの間にか薄くなっていた。
「何、やってるのかしら」
「どうせ、佐助と才蔵が戯れてんでしょ」
「アナ、浸からないの?」
「温泉って苦手なのよ」
手で仰ぎ風を起こすアナスタシア……
そんなアナスタシアの体を恨めしそうに見る伊佐那海……
「何?」
「同じ女なのに、何でこうも違うんだろ」
自分の胸とアナスタシアの胸を見比べる伊佐那海……
「大きいのも大変なのよ!
汗かくと下が蒸れるし、肩こるし」
「何それ?!自慢?!」
「違うわよ!小さい方が楽でいいじゃない!」
「それに、アナは人種が違うでしょ?胸がでかくて当然」
「ちょっと、その言い方は無いんじゃない?」
「事実でしょ?
まぁ、明日花ももっと大きくなれば伊佐那海よりはデカくなるけどね!母さんがデカいから!」
「うぅ……
アタシも、大っきくなりたーい!!」
「あぁ!もう駄目、限界!」
「冷たい水でも飲むか?」
「あら、良いわね……!!」
その声の方に目を向けると、いつの間にか入り込んでいた幸村の姿があった。
「うーむ……
湯煙が邪魔じゃのう」
幸村の姿を見た伊佐那海は慌てて、体を湯の中へ隠した。明日花はため息をつきながら、幸村の方へ体を向けた。
「ギャー!!ゆゆゆ、幸村様?!」
「よう、楽しんでいるか?伊佐那海」
「嫌ー!!チカーン!!」
「安心せい。お主には興味ない」
「やっぱり、アナの胸目当てだったんだ。このスケベ爺」
「口が悪いぞ!」
「てか、早く出てけ!!
このエロスケベ爺!!」
「おおおお、犯されるぅ!!」
「いや、違うというのに」
“ドーン”
「兄ちゃんを呼んだか!!伊佐那海!!」
伊佐那海の叫び声に、男湯にいた清海は壁を飛び越え登場した。それと同時に、着流しに身を包んだ優助が女湯へと入ってきた。
「ギャー!!」
「と、とと、父さん!?ここ女湯!!」
「例え幸村様であろうと、娘の裸を覗くなど許される行為ではありません!」
「アンタ達、人の体を何だと思っているの?!」
「ま、待てアナ!裸ぐらいで……
そ、それに優助!儂は」
「問答無用です!!
山本流雷術!千鳥流し!」
「伊賀亜流氷術!極氷棺!」
女湯から雷を体にまといそして氷漬けにされた男が二人の氷柱が、生え伸びた。
「幸村様!!」
「若……」
「冷てぇ風呂なんかに、入ってられっか」
「あぁ!!おもしろくねぇな!!」
才蔵達とは別に、川で体を洗っていた鎌之介……
「真田の所にいやぁ、もっと血がこう滾る様なことがあると思ってたのによぅ……
才蔵と勝負しようにも、いつもクソ女が邪魔するし、明日花と勝負しようとするとあの緑が邪魔するし」
「お!」
川から上がってくると、そこへちょうど才蔵が通りかかった。
「んだよ!
お仲間と風呂入ってたんじゃねぇのかよ?!」
「いつ上ろうと俺の勝手だ!
オメェこそ、何してんだ?」
「何って、お前にかん……へっくしょん!!」
「お前、まさか本気で川に入ってたのか?」
「俺は綺麗好きなんだよ!」
「んなこたぁ聞いてねぇよ!」
すると才蔵は、鎌之介の髪を触った。髪は以上に冷たく少し湿っていた。
「思いっきり冷てぇじゃねぇか。バッカじゃねぇの?
つーか鼻、真っ赤だぞ!
温まり直そうにも、風呂はアナのせいで凍っちまってるし」
「ふ…ふざけんな!!」
突然、自分の頭に触れていた才蔵の手を薙ぎ払い叫び、才蔵がから引いた。
「テメェは俺が絶対に殺すからな!!覚えとけ!!クソ!!」
そう言うと、鎌之介は後ろを振り返りどこかへ行ってしまった。
森を駆ける鎌之介……
(アイツに何もしてねぇのに!!何なんだよ!!この動悸は!!)
才蔵に髪を触られた鎌之介は、先程から途轍もなく動悸が高まっていた。足を止め頭を掻きながらなんとか、自分を落ち着かせようとした。
そこへ、白い毛並をした鼬が匹通りかかった。
「雨春!雨春!」
名を呼びながら何かを捜す佐助……
ふと、何かの声が聞こえその方に顔を向けると、苛立ち鼬の腹を激しく撫でる鎌之介がいた。
しばらくして、丘の上へ来た鎌之介と佐助……
「あー……落ち着いた…」
「雨春…(返してほしい)」
「つーか、才蔵のせいなんだよ……
アイツが、髪を触ったりするからおかしくなったんだよ!(今まで感じたことのない、まるで殺気のない温かい手)
あー!!クソ!!」
「あ、雨春!!」
「仲間だなんて、思っちゃいねぇ……
俺にとって、才蔵はそんなんじゃねぇ……
馴れ合うのはごめんだ。求め合うなら、血と戦いだ!
その心が昂ぶりなら、よく知っている……途轍もねぇ快感だ!
才蔵とそれを味わいてぇ……味あわせてくれんのは奴しかいねぇ
でも、さっきのあれはそれと違う昂ぶり……
まるで、化け狐に撫でられたような……
あー!!クソ!!分けわかんねぇ!!」
横になる鎌之介は、ずっと自分の傍にいる佐助に顔を向け起き上がり話しかけた。
「何でいんの?お前」
「雨春……我の…」
「あぁ、これ!
気持ちいいよな!殺して、毛皮作ってもいい?」
「否!!」
明け方……
「あ~……頭がガンガンする」
「湯あたりでしょ」
そんな幸村に、知らん顔する六郎……
(いや、雷でビリビリにされて氷で冷やされたうえに、お前の技を喰らったせいだと思うぞ!)
「で、どうなされます?」
「儂が行くしかあるまい」
そう言いながら、幸村は招待状と書かれた紙を見た。
「六郎、無論お前もだぞ?それに優助も」
「長旅になりそうですね」
「フン……
皆を招いて、己の力を見せつけたいのか……
あの狸(徳川家康)、いよいよ腰を上げるようだな……
まあ良い、その手並み拝見させていただこう……
何はともあれ、いざ京へ」