BRAVE10~もう一つの物語   作:花札

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“カコン”


暗くなった空に浮かぶ月を、覆い隠すように舞い上がる湯煙……


ぬるま湯

風呂屋へ着き服を脱ぐ才蔵……

 

 

脱いだ才蔵の体を鎌之介は、才蔵の体にある傷跡をジッと見ていた。

 

 

「何だよ?!人の体ジロジロ見て!」

 

「……そこ、穴開いたんだよな?」

 

 

言いながら鎌之介は、傷跡を指差した。

 

 

「?見りゃあ分かんだろ」

 

「血ぃ、出たよな?」

 

「そりゃあ」

 

「キレた?」

 

「まぁな」

 

 

その答えを聞いた鎌之介は、落ち込んだかのように座り込んでしまった。

 

 

「何だよ!おい!!」

 

(クッソォ……

 

才蔵が血まみれのとことか、キレたとことか見たかったのに!!

 

 

つーか、俺全然暴れてねぇ!!)

 

「おーい……」

 

「何をしている?

 

行くぞ!」

 

「ああ!」

 

 

幸村に言われ、才蔵は外へ行った。

 

 

外へ出ると、広い露天風呂から湯気が立っており、入ろうとした才蔵に先にいた六郎が、湯を流し礼を言いながら風呂へ入った。

 

 

「すげぇな」

 

「なかなかであろう?

 

一杯どうだ?」

 

「お!ありがてぇ!」

 

「膳もあるぞ」

 

「至れり尽くせりだな。

 

いったい、どういうつもりなんだ?」

 

「言ったであろう。

 

日頃の感謝をこめての事だ。」

 

「おぉ!これは、半年ぶりの風呂だ!!」

 

「体洗ってから入って来い!」

 

 

才蔵に言われた清海は、傍に出ていた風呂の湯を被った。ふと、脱衣所を見ると鎌之介が服を服でいる途中だった。才蔵の目線に気付いた鎌之介は、手を止め才蔵達の方を睨んだ。

 

 

「んだよ!!ジロジロ見て!!」

 

「早く入ってこんか!鎌之介!」

 

「そういや、お前男湯でいいのか?」

「シー!

 

黙っておれ才蔵!ここは目で確かめるに限る!」

 

「!!

 

誰がテメェらなんかと入るか!!俺は湯なんかいらねぇ!!川で十分だ!!」

 

「ああ!」

 

 

怒鳴りながら、鎌之介は部屋を出て行きどこかへ行ってしまった。そんな彼に呼び止めるような声で叫びながら、幸村はがっかりしたのか溜め息をついた。

 

 

「何が見たかったんだよ、オッサン……」

 

「全く堅物だのう……

 

お前といい、筧といい、優助といい」

 

「これでも、多少は緩い方だと思いますが?」

 

「どうかのう……」

 

「筧さんといや、さっきの騒ぎから姿が見えねぇんだけど」

 

「先刻出て行った」

 

「出て行った?」

 

「また諸国を回り、修行したいと言ってなぁ……

 

火縄銃も修理せなばならんしのう」

 

「しかし、随分急じゃねぇか?」

 

「あれは、己の利子肩を知っておる……侍故にな」

 

「このまま戻ってこなかったりしてな?」

 

「そん時はそん時。

 

あれが、儂以上の使える価値がある頭に出会ったということだ。

 

 

男というのはな、心底惚れた者に命をかけて働ければそれに勝る幸せはない。そういう生き物よ」

 

「へ!

 

いかに使徒のもんを手名づける、口説き文句だな」

 

「何も、下のもんが主に惚れるものでもないぞ?」

 

「ホント。食えない奴だな、アンタ」

 

「惚れて欲しくないです」

 

 

酒を飲みながら、優助は不機嫌そうに幸村にそう言った。

 

 

「ったく、優助は相変わらずだな」

 

「当たり前です。

 

主の命がなければ、貴方方に仕えるつもりはありません。

 

妻と子供と、静かに過ごしたいものです」

 

「酷い言われようだな、オッサン……!!」

 

 

目の前にある膳を食べようとした時、浸かっている湯に無数の毛が流れてきた。その毛に才蔵は立ち上がり見回すと、隅の方に佐助と彼に懐く動物達の姿があった。

 

 

「テメェ!!佐助!!

 

動物入れてんじゃねぇ!!」

 

「何故!!」

 

「何故って……

 

汚ねぇだろ!!今飯食ってんだから!!」

 

「汚くない!!

 

ここ、元々こいつ等の縄張り!無問題!!」

 

「今は人間が入ってんだ!!出せ!!

 

飯が不味くなる!!」

 

「断る!!

 

幸村様、了承済み!!」

 

「何?!

 

おい、オッサン!!」

 

 

幸村に文句を言おうと、振り返ったがそこにいるはずの幸村はどこにもいなかった。

 

 

「……オッサン?」

 

「まさか、あの人」

 

 

 

 

「向こうは、随分と騒がしいわねぇ」

 

 

女湯で湯に浸かる伊佐那海と明日花、湯に浸からず岩の上で涼しむアナスタシア……

 

 

(あれ?

 

痣が薄くなってる……)

 

 

先程まで黒くなっていた伊佐那海の手が、いつの間にか薄くなっていた。

 

 

「何、やってるのかしら」

 

「どうせ、佐助と才蔵が戯れてんでしょ」

 

「アナ、浸からないの?」

 

「温泉って苦手なのよ」

 

 

手で仰ぎ風を起こすアナスタシア……

 

そんなアナスタシアの体を恨めしそうに見る伊佐那海……

 

 

「何?」

 

「同じ女なのに、何でこうも違うんだろ」

 

 

自分の胸とアナスタシアの胸を見比べる伊佐那海……

 

 

「大きいのも大変なのよ!

 

汗かくと下が蒸れるし、肩こるし」

 

「何それ?!自慢?!」

 

「違うわよ!小さい方が楽でいいじゃない!」

 

「それに、アナは人種が違うでしょ?胸がでかくて当然」

 

「ちょっと、その言い方は無いんじゃない?」

 

「事実でしょ?

 

まぁ、明日花ももっと大きくなれば伊佐那海よりはデカくなるけどね!母さんがデカいから!」

 

「うぅ……

 

アタシも、大っきくなりたーい!!」

 

 

「あぁ!もう駄目、限界!」

 

 

「冷たい水でも飲むか?」

 

「あら、良いわね……!!」

 

 

その声の方に目を向けると、いつの間にか入り込んでいた幸村の姿があった。

 

 

「うーむ……

 

湯煙が邪魔じゃのう」

 

 

幸村の姿を見た伊佐那海は慌てて、体を湯の中へ隠した。明日花はため息をつきながら、幸村の方へ体を向けた。

 

 

「ギャー!!ゆゆゆ、幸村様?!」

 

「よう、楽しんでいるか?伊佐那海」

 

「嫌ー!!チカーン!!」

 

「安心せい。お主には興味ない」

 

「やっぱり、アナの胸目当てだったんだ。このスケベ爺」

 

「口が悪いぞ!」

 

「てか、早く出てけ!!

 

このエロスケベ爺!!」

 

「おおおお、犯されるぅ!!」

 

「いや、違うというのに」

 

 

“ドーン”

 

 

「兄ちゃんを呼んだか!!伊佐那海!!」

 

 

伊佐那海の叫び声に、男湯にいた清海は壁を飛び越え登場した。それと同時に、着流しに身を包んだ優助が女湯へと入ってきた。

 

 

「ギャー!!」

 

「と、とと、父さん!?ここ女湯!!」

 

「例え幸村様であろうと、娘の裸を覗くなど許される行為ではありません!」

 

「アンタ達、人の体を何だと思っているの?!」

 

「ま、待てアナ!裸ぐらいで……

 

そ、それに優助!儂は」

「問答無用です!!

 

山本流雷術!千鳥流し!」

 

「伊賀亜流氷術!極氷棺!」

 

 

女湯から雷を体にまといそして氷漬けにされた男が二人の氷柱が、生え伸びた。

 

 

「幸村様!!」

 

「若……」

 

「冷てぇ風呂なんかに、入ってられっか」

 

 

 

「あぁ!!おもしろくねぇな!!」

 

 

才蔵達とは別に、川で体を洗っていた鎌之介……

 

 

「真田の所にいやぁ、もっと血がこう滾る様なことがあると思ってたのによぅ……

 

 

才蔵と勝負しようにも、いつもクソ女が邪魔するし、明日花と勝負しようとするとあの緑が邪魔するし」

「お!」

 

 

川から上がってくると、そこへちょうど才蔵が通りかかった。

 

 

「んだよ!

 

お仲間と風呂入ってたんじゃねぇのかよ?!」

 

「いつ上ろうと俺の勝手だ!

 

オメェこそ、何してんだ?」

 

「何って、お前にかん……へっくしょん!!」

 

「お前、まさか本気で川に入ってたのか?」

 

「俺は綺麗好きなんだよ!」

 

「んなこたぁ聞いてねぇよ!」

 

 

すると才蔵は、鎌之介の髪を触った。髪は以上に冷たく少し湿っていた。

 

 

「思いっきり冷てぇじゃねぇか。バッカじゃねぇの?

 

つーか鼻、真っ赤だぞ!

 

 

温まり直そうにも、風呂はアナのせいで凍っちまってるし」

 

「ふ…ふざけんな!!」

 

 

突然、自分の頭に触れていた才蔵の手を薙ぎ払い叫び、才蔵がから引いた。

 

 

「テメェは俺が絶対に殺すからな!!覚えとけ!!クソ!!」

 

 

そう言うと、鎌之介は後ろを振り返りどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

森を駆ける鎌之介……

 

 

(アイツに何もしてねぇのに!!何なんだよ!!この動悸は!!)

 

 

才蔵に髪を触られた鎌之介は、先程から途轍もなく動悸が高まっていた。足を止め頭を掻きながらなんとか、自分を落ち着かせようとした。

 

そこへ、白い毛並をした鼬が匹通りかかった。

 

 

 

 

「雨春!雨春!」

 

 

名を呼びながら何かを捜す佐助……

 

 

ふと、何かの声が聞こえその方に顔を向けると、苛立ち鼬の腹を激しく撫でる鎌之介がいた。

 

 

しばらくして、丘の上へ来た鎌之介と佐助……

 

 

「あー……落ち着いた…」

 

「雨春…(返してほしい)」

 

「つーか、才蔵のせいなんだよ……

 

 

アイツが、髪を触ったりするからおかしくなったんだよ!(今まで感じたことのない、まるで殺気のない温かい手)

 

あー!!クソ!!」

 

「あ、雨春!!」

 

「仲間だなんて、思っちゃいねぇ……

 

俺にとって、才蔵はそんなんじゃねぇ……

 

 

馴れ合うのはごめんだ。求め合うなら、血と戦いだ!

 

その心が昂ぶりなら、よく知っている……途轍もねぇ快感だ!

 

 

才蔵とそれを味わいてぇ……味あわせてくれんのは奴しかいねぇ

 

でも、さっきのあれはそれと違う昂ぶり……

 

まるで、化け狐に撫でられたような……

 

 

あー!!クソ!!分けわかんねぇ!!」

 

 

横になる鎌之介は、ずっと自分の傍にいる佐助に顔を向け起き上がり話しかけた。

 

 

「何でいんの?お前」

 

「雨春……我の…」

 

「あぁ、これ!

 

気持ちいいよな!殺して、毛皮作ってもいい?」

 

「否!!」




明け方……


「あ~……頭がガンガンする」

「湯あたりでしょ」


そんな幸村に、知らん顔する六郎……



(いや、雷でビリビリにされて氷で冷やされたうえに、お前の技を喰らったせいだと思うぞ!)

「で、どうなされます?」

「儂が行くしかあるまい」


そう言いながら、幸村は招待状と書かれた紙を見た。


「六郎、無論お前もだぞ?それに優助も」

「長旅になりそうですね」

「フン……

皆を招いて、己の力を見せつけたいのか……


あの狸(徳川家康)、いよいよ腰を上げるようだな……

まあ良い、その手並み拝見させていただこう……


何はともあれ、いざ京へ」
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