そこへ遅れてきた伊達政宗……
政宗は、幸村の姿を見つけるなり、幸村を睨み付けた。
自分を睨む政宗に、幸村は不敵な笑みを溢した。
「この節は、どうも」
「(この野郎!!)
よお、優助……」
六郎の隣で、鳥の面を着けていた優助に気付いた政宗は、にやけながら彼に話し掛けた。
「何用で?」
「酷ぇ言い方だなぁ。
そういや、お前のガキ元気か?」
「早くその口を閉じなさい。
この手が今にでも、刀を抜こうとしていますから」
「……」
「何をしておる!!座らんか!!
そもそも、遅れてきて何だ、その態度は!!」
「申し訳ありません!!」
「片倉!!お主に申しておるのではない!!
茶会の席でなければ、正式に詫びを入れてもらうところだぞ、伊達殿!!」
「……そうか」
返事をしつつ、政宗は手に持っていた鞘から刀を抜き出した。刃を抜いた政宗に、一同は皆驚いていた。
「バカが!!抜きおった!!」
「何、剣舞を披露いたそうと思いましてなぁ……
これは剣を交えてこそ、美しさが際立つゆえ、どなたかお手合わせを願いたい……
よいか?」
政宗の言葉に、家康はご機嫌なのか嬉しそうな表情を浮かべて、手を叩いた。
「余興じゃ!許そう!」
「ではアンタに、お相手願おう……真田幸村」
剣の向けながら、政宗は幸村を指名した。
「参ったのう……(涼しい顔をして、何とも言えぬ覇気を放つな)」
「お待ちください!」
目を合わせる幸村と政宗の間を割って入り、六郎は政宗の方に体を向けた。
「ご指名、恐悦至極に存じますが、若は帯刀しておりません!
これほどのお歴々が、お揃いになっているのです。他のどなたかに、お願いできませぬか?」
「何をおっしゃる。」
六郎の提案に口出しするかのように、政宗の付き添う小十郎が前へ出てきて、自分の刀を差し出した。
「刀なら私のを、お貸しいたします。
どうか、我が殿の誘いをお受けしていただきたい。このような事、二度とはない貴重な刻になりましょう。(政宗様の申し出を断るなど、百年早い……)」
(二度とないほど、叩き潰すと……)
「何、余興だ」
「そう……余興よな」
今まで黙っていた幸村は立ち上がり、政宗の前に持っていた扇を広げ見せつけた。
「儂はこれで舞うとしよう」
「これは面白そうだ!
まさか茶会で、剣舞が拝めるとは思いませんぞ!」
燥ぐ三成……
その三成に参戦するかのように、兼続も口を出してきた。
「確かに、奥州の龍と名高い政宗の舞ならば、さぞかし……
わざわざ長旅してきたかいがあったというもの」
「うむうむ、そうであろうとも!
では、皆の者ちと下がってくれい。
合図は儂が痛そう!お二方よろしいか?(せいぜい、恥をかくがよい……真田の子倅め!)始め!」
家康の合図と共に、政宗は一歩前へ出て剣を突き付けた。その剣を幸村は扇で払い避けた。
政宗の華麗な剣舞を見ていた者たちは、皆目を離せないでいた。
「あの伊達殿の、見事な長剣よの」
「何尺、何貫あるものか」
「緩やかな動きなれど、間合いを違えば切った先に捕まるぞ」
「それをふまえてのあの動きか、真田殿……
見事!」
政宗が剣を振り上げ、その攻撃を幸村は扇で防いだ。防いだせいか、扇面が切れバランスを崩しその隙を狙い、政宗は剣を振り下ろした。
幸村は間一髪、その攻撃を避け耐えた。
「足がついてこんわ。
いやはや、情けない」
「どうした幸村!不格好だぞ!」
「分かっておるわ」
政宗の次なる攻撃に、幸村は扇で防ぎ距離を置いた。
「もう少し、ゆるりといかぬかのう」
「(何をぬけぬけと!)
十分、ついてこれてるじゃねぇか?」
「いや何、上田は何かと物騒でな。少し身を守る術に長けておるだけだ。」
「ほう……」
ニヤついた表情で、政宗は距離を置いていた幸村の目の前へ行き剣を構えた。
「逃げてるばっかりじゃ、喰らうぞ!?」
「は、速い!」
「ほ!さすが、政宗よの!」
幸村の目の前で剣を振り、その攻撃を避けた幸村だが、足がふら付き尻餅をついてしまった。その隙に、政宗は剣を持ち替え幸村目掛けて振り下ろした。
幸村は足で地面に敷かれていた敷物を引っ張り、政宗の態勢を崩し、振り下りてきた剣の束を足の指で掴み投げた。
剣は宙を舞い、家康の足元へと突き刺さった。
その様子を見ていた者たちは皆、吹き出しそうに体を震えさせ笑いを堪えていた。
「何と、無様な!」
「本当に……」
「な、な、何を!」
「幸村!
何だその態は!」
「いやぁあ……参った参った」
「尻餅など、子供でもあるまいし」
「伊達殿の剣気が凄まじくてのう。思わず、腰が引いてしまったわい!」
そう言いながら、幸村は立ち上がり、政宗に一礼した。
「儂の様なものが、お相手で申し訳なかったな。
さぞ、手ごたえが無かったろう」
「……」
「さてと、動いたら喉が渇きましたな!
茶などいただけないでしょうか?」
夕方……
茶会が終わり帰り道を歩く幸村と六郎……
そんな二人の前を歩く兼続と燥ぐ三成……
「いやいや、いい見世物だったな!
あの狸(家康)の顔!しばらく話のタネになるぞ!」
「政宗もあああしらわれては、さぞ腹立だしかったでしょうね……
のらりくらりとよくも逃れたものだ」
「何を言う!かなり必死だったぞ!
打ったケツは痛いし、久しぶりに動いて体はきしむし……大変な茶会だった。」
「そりゃ大変だっただろう!奥州の龍を相手に舞ったのだから」
「あの様で龍ですか?
よくよく考えてみれば、狸が龍を買えるはずもございません。龍の皮を被った泥鰌だったのでございましょう」
「せめて蛇くらいにしておかぬか、兼続」
「おや、三成殿。お優しいことで」
(こいつ等、いつ会っても口が悪いのう)
「真田殿」
話しをしていると、後ろから家康の使いの者が幸村の名を呼んだ。幸村は後ろを振り返った。
「先程の茶会での一件、真田殿に咎あり、即刻伏見城へ参上申し聞きせよとの由」
「ありゃ」
「何を!!
言い掛かりも甚だしい!!」
「厚顔無恥にもほどがありますね」
(さすが、狸)
「出頭せぬ場合、相応の仕置きがありましょう。それでは失礼します」
使いの者は不敵な笑みを溢し一礼をし戻って行った。
「何と一方的な!!
あの場にいた徳川が口裏を合わせれば、言い逃れ無くなるぞ!」
「そもそも、それが目的でしょう。
目障りなものに難癖をつけ、所領を差し上げるか……腹を斬らせるか」
「幸村!!私も共に参ろう!!この所業許せんわ!!」
「どこに参るのだ?」
「こんな時にふざけるな!!家康の所だ!!」
「んなもん、シカトするに決まってるだろう」
「食えねぇ野郎だ」
道を歩く政宗と小十郎……
「まんまとしてやられましたね」
「フン!
お前も気づいたか」
「もちろんです。
巧みに敷物で、殿の脚を崩し……転んだフリをして刀を蹴り上げる。
なかなかやります」
「面っ白ぇよなぁ……掴み所のねぇ奴だが、たきったぞ!!
にやけてるように見えて、あの腹底の座った眼……かなりの曲者だ。
余興じゃなく、斬り合いにすりゃ良かった。まあ、奴がアレ(宝)を持ってる限り、次が必ずある」
「殿!
ご報告が」