才蔵達が待つ宿へ帰ってきた幸村と六郎……
「さぁ、上田へ帰るぞ!」
才蔵達がいる部屋へ来るなり、幸村は言い放った。伊佐那海は不機嫌な表情を浮かべた。
「えー、もう?!
お土産買ってないよぉ!」
「すまんな、また今度にしてくれ」
(何かやったな、オッサン)
「母さんにまだ会ってないよ!父さん!」
「また今度にしましょう。
それより、早く顔を隠しなさい」
「せっかくお土産買ったのに~」
数時間後……
「物家の空です」
家康の使いの者が、幸村達が泊まる宿へ押しかけたが、既に出て行った後だった。
「まだ遠くには行っておるまい!!」
「近江方面へ向かったとの情報が!!」
「急げ!!真田を逃すな!!」
馬を走らせ、橋を渡ろうとしたところへ、橋の真ん中に鎖鎌を構える鎌之介が立っていた。
「ここは通れねぇよ」
「真田の一味か?!殺れ!!」
「バーカ!!
由利鎖鎌奥義風神掌!!」
鎌之介が放った風は、使いの者たちに当たり橋から落ちて行った。
「鎌之介、行くぞ!!」
(念には念を!!)
鎌之介が橋を渡り終えたのを見た清海は、鉄棍棒を振り下ろし橋を壊した。
「これで、追って来れまい!」
「凄ぉい!!」
「目立つことすんな!!」
馬を走らせる才蔵達……
どこへ向かっているか分からなかった伊佐那海は、馬に揺られながら幸村に質問した。
「どこへ行くの?!幸村様!!」
「佐和山へ向かう!あそこであれば、ひとまず安全だろう」
「俺等に釘刺しといて、何やらかしたんだよオッサン!?」
「ん?
家康の奴、儂の舞がよほど気に入らなかったらしくてのう……まったく、失礼な狸だ」
「ハァ!?それだけ!?」
「どうでもいいじゃねぇか!!面っっ白そう!!
あー!!久しぶり!!この感覚!!
殺るぜ!!殺りまくるぜ!!」
「逃げるのが優先だっつうんだよ!!このバカ!!」
「キャッホー!!」
「聞いちゃいねぇ」
「鎌之介だけずるい!明日花も暴れる!」
「こっちもか!」
「君は大人しくしていなさい!!」
「いたぞ!!」
後ろから追い駆けてきた家康の使いが、幸村達を見つけるなり矢を放ってきた。
「才蔵!!矢!!」
「分かってる!!
鎌之介、攻撃しろ!!」
「へっ!!こんなのチョロイ!!
由利鎖鎌」
「光坂流水術水鉄砲」
その声と共に、崖の上から水が放たれてきた。水は幸村達目掛けて飛んできていた矢を包み込み、向かいの森の中へと消えていった。
技が放たれると、幸村達の目の前に白い腹出しの服を着、白い長ズボンと靴を履き、顔に鷹の面を着けた男が姿を現した。
「何だ?!真田の助っ人か?」
「構うな!!奴も殺れ!!」
「うるさい輩だ……
光坂流火術業火波」
どこからか降ってきた火の波に、仕いの者達は呑み込まれ、跡形も無く消えた。男の隣りに簪で髪を纏め顔に猫の面を着けた女性が降りたった。彼女に続いて、数人の面を着けた忍が姿を現した。幸村達は馬を止め、彼等を見た。
(まさか……)
「父さん、アイツ等」
「テッメェ!!
おい!!そこのくそ野郎!!よくもこの俺の」
「待ちなさい!鎌之介!!」
彼等近付こうとした鎌之介を呼び止め、忍達の元へ近寄った。彼等は武器を下ろし、近付いてくる優助を見た。優助に続いて、馬から降りた明日花は彼の元へ駆け寄った。
「今すぐ武器を収めなさい!」
「何で?そいつも、敵じゃねぇのか?」
「この人は僕の部下です。早く武器を収めなさい!」
「!?俺はお前」
「鎌之介、しー!」
「んあ?」
「早く収めなさい!」
「何だよ……」
「せっかく、血の雨が見れると思ったのに」
それぞれの武器を収めた忍達……ふと顔を上げた鷹の面を着けた忍は、鞘に収めた刀で自身の肩を叩きながら幸村に近付いた。
「へ~、あのクソガキが今じゃ、信濃の殿方か……」
「口を慎みなさい。一応は、殿ですよ」
「殿ねぇ……俺等の殿は、武田だけだ」
「何者なんだお前等」
「?……ほぉ、伊賀の忍か。
おい、雛菊!お前の戦ってみたい忍の二位がいるぞ」
「そんな弱者、アタシ興味ない」
「んだと!!」
「お!やるのか兄ちゃん?」
「上っ」
「やめなさい!!」
才蔵といがみ合う忍に、優助は怒鳴りながら近寄った。その間、明日花は幸村達の元へ駆け寄り説明出した。
「アイツ等、光坂一族の忍」
「何か、随分反抗的だのう」
「武田を滅ぼした徳川と、信濃を乗っ取った真田が嫌いなんだ」
「乗っ取ったって……儂等はただ、受け継いだだけだぞ」
「それが許せないんでしょ?
詳しいことは知らないけど」
「おい真田のクソガキ」
「?」
「お前がどれくらい強いか、手合わせ願う」
「いや儂は……」
「いい加減にしなさい!!
貴方方は、一体何用でここへ来たんです!!」
武器に触れていた忍に、優助は怒鳴り小太刀を抜き取り刃を向けた。
「うへー……相変わらず怖ぇなぁ、隊長さん」
「質問に応えなさい」
「紫苑に言われた。それだけ」
「紫苑に?」
「紫苑。晃三から、お前等のこと聞いた。
お前等、ここ馬走らせてた。緊急事態。俺等に援護するように頼んできた」
「母さん、集会に来たの?!」
「来た。けど、すぐに帰った」
「何でも、京に徳川が来てるって言って顔だけ出してすぐに」
「せっかく、飲み明かそうと思ったのに」
「なら、普通に助けてください」
「いいじゃねぇかぁ……イベントがあって面白かっただろう?」
「面白くありません、緊迫してるこの中で一体誰が、楽しいイベントをやりたいと思っていますか!命をも狙われているというのに」
「そう堅くなんな。リラ~っクス」
「出来ません!」
言い合う優助を、才蔵達は呆れ顔になって見ていた。
その時、何かの気配を感じたのか優助達と才蔵はすぐに、前方に目を向けた。
「どうした?」
「さっきの騒ぎ聞いて、こっちに向かってくる馬が四頭いる」
「?!」
「あちゃ~、暴れ過ぎたな」
「どうする?隊長」
「幸村様、どうなさいますか?」
「……優助、お主一人で出来るか?」
「えぇ、一応」
「俺等は、隊長さんの命令は聞くが」
「武田の者以外の命令、聞かない」
「そういう事だ」
崖の角から、馬に乗った使いの者が四人姿を現した。それを見た幸村は伊佐那海を六郎の馬へと移らせようとした時だった。
“バーン”
「うわっ!!」
銃声の音が鳴ったかと思いきや、幸村の傍にいた明日花が何かに突き飛ばされたかのように飛ばされ地面に倒れた。忍達はすぐに攻撃してきた方に目を向けると、馬に乗った仕いが火縄銃を構えていた。
「ヒュー、火縄銃か」
「種子島だっけ?」
「確かそうだ」
「早く攻撃なさい!!容赦なく」
「そう来ねぇと!!」
武器を手に、忍達は一斉に飛び上がり徳川の使いの方の背後に着地すると、一瞬で部下達の首を刎ねた。
「いたぞ!!真田だ!!」
「捕らえよ!!」
首を刎ねた輩の背後から、数頭の馬を走らせた部下たちが迫って来ていた。
「あ~ララ、着やがった」
「……全員、下がりなさい。
ここで一族の事が、徳川に知られては困りますので」
「へ~イ」
「そんじゃ、ここからは真田の勇士達の力でも見ましょうか」
そう言いながら、忍達は馬の手綱を引き茂みの中へと入り、それを合図に幸村は口を開いた。
「才蔵、鎌之介!」
「ったく、お先にどうぞ」
「言われなくても、暴れてやる!!」
そう言い叫びながら、鎌之介後ろの方の隊群を風で吹き飛ばした。前から来る大群に、六郎は武器を構え技をだそうとした。
だが、先頭を走っていた馬が地面に仕掛けられていた落とし穴にはまり、そのまま滝の様に次々と落下していった。その落ちた穴に、どこからか降ってきた爆弾が中に落ち爆発した。
「これは?!」
「へっへー!」
その笑い声がした方に目を向けると、樹の枝に立つ弁丸の姿があった。弁丸は枝から飛び降り、幸村達の方へ駆け寄った。
「帰り道はこっちだろうと思って待ってたんだ!ビンゴだったね!」
「ようやったのう弁丸!」
「罠仕掛けといて良かったよ!備えあれば憂いなしってね!」
(何をしらじらしく……
俺等をはめて笑うつもりだったんだろうが……)
才蔵の馬に乗っていた伊佐那海は、馬から降り弁丸に抱き着いた。
「弁ちゃん!」
「お姉ちゃん!」
「また会えて嬉しいよ!」
燥ぐ伊佐那海と弁丸……
その様子を、茂みから忍達は見ていた。そして彼等の方に、優助は目を向け合図を送った。
「……もういいそうだ」
「あらそう」
「なぁ」
「?」
「あの子供、何者?」
「子供?」
「顔隠してる奴」
「紫苑と隊長の倅だろ。
目元が隊長そっくりだったし」
「紫苑のこと、母さんって呼んでた」
「あー、そういえば」
「行くぞ」
馬に乗り、忍達はその場を立ち去った。立ち去ったのを見た優助は、浅いため息を吐き怪我を負った明日花の元へ行った。
立ち去った忍を見ながら、六郎は幸村の方を見た。
「今の爆発を他の追っても聞いてたはずです。とにかく急ぎましょう」
「いや、少し待て六郎」
「?」
「どうにも素直に行けん気がするのう……
追っ手の足も早い。(狸もよほど、頭に血が昇っておるようっだな……)
才蔵、鎌之介」
幸村は何か察したのか、才蔵と鎌之介を呼んだ。
「佐和山までの索敵を命じる」
「応」
「夕刻に落ち合おう」
「了解」
「儂等は、この先の森に潜んでおる」
「よーし!!殺りまくるぜ!!」
「お前、索敵の意味分かってねぇだろ」
「サクッと敵を殺れ!だろ?」
「アホ!!」
(あの二人、息が合ってんだが合ってないんだが……)
遠退いて行く才蔵……
そんな後姿を見た伊佐那海は、不安そうな表情を浮かべた。そんな彼女に幸村は頭に手を乗せた。
「あ奴等が帰って来るまで一休みしよう。
京から走り通しで疲れたしな……
それに、明日花の怪我の治療もせんと」
森の中へ入り、川辺の岩の上に腰を下ろし休む幸村達……
「大丈夫か?伊佐那海。辛くはないか?」
「うん!平気」
清海の言葉に伊佐那海は笑顔で答えた。だがすぐに、伊佐那海は不安そうな表情を浮かべた。
(才蔵がいないと、やっぱり不安……
追われている森の中を逃げてると、あの時みたいで……怖い)
「伊佐那海!?」
「!?な、何?」
「本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ!」
「そ、そんなことないよ!」
「体が冷えておるのだろう」
そう言いながら、幸村は自分が来ていた羽織を伊佐那海に掛けた。
「儂の目には良いが、薄着すぎる」
「ゆ、幸村様」
「案ずるな。すぐに上田に帰れるぞ」
「(不思議……
何だか、安心する)
暖かいね!幸村様!」
川辺で明日花の腕を治療をする優助……
「……痛っ!」
「もう少し我慢して下さい」
「……ねぇ父さん」
「?」
「母さん、何で」
「考える必要はありません。
紫苑は、僕等の手助けをしたかった。それだけです」
「でも何で、明日花達に会ってくれないの?」
「それは……!」
「!」
立ち上がる優助……彼に声を掛けようとした幸村に、周りを警戒していた六郎は口に指を当てて静かにするよう命じた。
すると、森の中から無数のクナイが飛んできた。優助は腰に着けていたケースから棍棒を取り出し、明日花は彼の隣に立ち鉄扇を出しクナイを振り払った。同時に六郎も二本の小太刀を取りだ、波動を放ちクナイを吹き飛ばした。
クナイが終わったかと思うと、森の中から口に面を着けた男と口や体に包帯を巻いた男が姿を現した。
二人は六郎と優助達を囲う様にして降り立った。
「六郎!優」
「ぬぅおおお!!」
鉄棍棒を振り上げ、清海は地面を叩き割った。吹き上がった土と岩の中から、男が二人出てきて、逃げようとした幸村達の前へ立った。
「動くな。
体中、風通し良くなっちまうぜ!」
「くっ」
そんな時、索敵に行っていた才蔵が駆けつけ、包帯男の頭に蹴りを入れた。
「才蔵!」
「逃げるぞ!!」
手に持っていた煙玉を投げた。それを真似して明日花も腰に着けていたポーチから煙玉を数個取り出し投げた。
煙玉は煙を放ち、幸村達の姿を消した。
しばらくして、煙は晴れたもののそこに残っていたのは、男二人だけであった。
「行ったな」
森から抜け、見晴らしのいい道を歩く才蔵達……
「どの道も、完全に塞がれている」
「このまま進んでも、琵琶湖があるだけだぜ」
「泳ぐのは無理よのう……寒いし」
「オッサーン」
「ん?
お前達がおれば、何とかなろう」
(ん!頑張る)
「殺れっつうなら、いくらでも!!」
(信ずれば叶う)
(何とかなるか……)
(何を呑気な……)
「(本当にこのオッサン……
何の臆面もなく……簡単に言いやがる)
相変わらず、人使い荒ぇ」
「いーや……何とも何ねぇよ」
「!!」
前を見ると、そこには剣を肩に乗せニヤつく政宗の姿があった。政宗の姿を見た明日花は、出雲で出会った時と同様に怯えた表情を浮かべ、優助の背後に彼の服を掴みながら隠れた。
「先日はどうも」
「わざわざ、礼を言いに参ったのか?」
「とぼけた野郎だな。
追っ手だよ!!テメェ等の……
つうのは建前で、恥かかされたまま黙ってたんじゃ男がすたる!!
持ってかれたもの(奇魂)は取り返す」
「何も知らずに手を出しおって……愚かな男よ」
そう言いながら、幸村は才蔵に付いていた伊佐那海を、自分に引き付けた。
「この宝、お前ごときの手には余る。
しかも、もともとウチのモンだ。盗人猛々しいな、政宗」
「……の野郎!!」
キレた政宗の声と共に、後ろで控えていた綱元と小十郎が武器に手をかざした。
「それに、俺はその後ろにいる優助にも用があんだ。
優助!!テメェの後ろに隠れてるガキは何者だ!!」
「貴方に教える筋合いはありません!!」
その時、綱元と小十朗に武器を握らせまいと、才蔵はクナイを投げつけた。
「オッサンと伊佐那海にゃ、触れさせねぇよ」
「……
デケェ口叩きやがって……
捻り潰すまで!!」
掛け声と共に、小十郎と綱元の後ろから多数の兵団が現れた。それに驚いた才蔵達は後ろへ引き、武器に手をかざし構えた。
「多勢に無勢だのう」
「言ったろ?どうにも何ねぇって」
迫りくる兵団……
「退がれ!!来るぞ!!」
「これ以上退がれない!!」
(どうする?!もう後はねぇ!!)
(琵琶湖……運に任せるしかありませんね)
「これほどの頭数で来るとはのう……
兼続が泥鰌と揶揄しておったが、あながち外れてはおらんな。
肝が小さい」
ニヤつく幸村……
その表情にキレた政宗……
「真田、幸村!!」
“ドーン”
突然空から降ってきた砲弾……
弾は兵団の中心部に落ち、爆発した。
「ギャア!!」
(砲弾!!まさか)
何かに気付いたのか、明日花と優助は琵琶湖の浅瀬へ入り、何かを探した。するとそこへ一隻の船が上陸した。
「俺様の縄張りで、何してんだオメェ等」