そこへ一羽のミミズクが飛んできて鳴き声を発した。それに応えるかのように、佐助の肩に留まっていたミミズクが鳴いた。その鳴き声を理解した佐助は、喜びに満ちた表情を浮かべて、城の屋根から飛び去った。
その頃、森の中を歩く才蔵達……
「ねー、上田城ってまだー?」
「もう少しだよ、弁ちゃん」
「オイラ、お城なんて初めてなんだ!早く見たいなぁ!」
伊佐那海と弁丸が燥ぐ中、才蔵の隣を歩いていて鎌之介は、頭を押さえながら大人しく歩いていた。
(こいつ、二日酔いで大人しくていいなぁ)
「あ~、結局樽四本、飲みきれなかった……」
「飲み干さなくて結構です!
貴方はまだ、子供なんですから」
「良いじゃねぇか優助。
そんな型っ苦しいこと言わなくてもよぉ」
「甚八さん!」
その時、何かの気配に気付いた才蔵は、歩く足を止め上を見た。
「……ったく、気の早ぇ奴」
どこからかやって来て、幸村の前で頭を下げる佐助……
「どこから?…」
「幸村様!!ご無事で何より」
「うむ。
留守居、ご苦労であったな佐助」
「猿の出迎えかよ」
「んもー!
何で佐助には、そんな態度かなぁ?!
佐助、ただいま」
「お、お帰り」
顔を赤くして、答える佐助……
そんな佐助を見た明日花は、甚八から離れ佐助の所へ寄った。
「顔赤いよ?佐助」
「……!?(誰)」
ふと佐助は、伊佐那海の傍にいた弁丸に目を向けた。そんな彼に気付いたのか、伊佐那海は弁丸を手で指して紹介した。
「この子は弁丸君って言うの!
幸村様が召し抱えたんだよ!」
「オッサンも一人増えたぞ」
「オッサン言うな!」
すると、そこへヴェロニカが前へ出てきて、佐助の前で顔を洗った。
そんなヴェロニカに、佐助は心を打たれたかのような顔をして、ヴェロニカに触れようと手を伸ばした。
「佐助!アナスタシアはどうした?」
「アナスタシア?誰だ?」
「お主が会いたがっておる女だ」
「金髪異人爆乳女」
「アナ、領内見廻り中!夜帰還」
「そうか……
では、今日はゆっくり休んで、顔合わせは明日にしよう」
「顔合わせ?何でまた」
「ようやく、揃ったんでな。
佐助、才蔵……
六郎にアナに伊佐那海……
筧、鎌之介……
清海に弁丸、そして甚八……
両の手の指の数の勇士だ」
(……結局、明日花達は勇士に入ってないのか)
「……
そういや、んなこと言ってなぁ……(両の手の指の数……十人……その数にどんな意味がるってんだ?)」
夜……
「ああ、疲れたぁ!
懐かしいアタシのお布団!」
部屋着に着替え、布団に寝転ぶ伊佐那海……
「お帰りなさい」
「!?」
その声に驚いて、伊佐那海は体を起こし後ろを振り返った。そこには襖に寄りかかるアナスタシアの姿があった。
「アナ!」
「京都はどうだった?楽しかった?」
「何かスッゴイ、久しぶりな気がするねぇ!」
「フフッ、そうね」
「あ」
「?何」
何かに気付いたのか伊佐那海は、申し訳なさそうな表情でアナスタシアを見つめた。
「アナにお土産、買ってこられなかったんだぁ……ゴメンね?」
「……
残念だわ。
鎌之介と清海も、勝手に行っちゃうし……
上田は人手不足で、大変だったのに……」
「ゴメンね!本っっ当にゴメンね!?
色々あって時間が……
ゴメンナサイ」
「……許さないわ。」
「え」
「旅の楽しい話を、聞かせてくれないと」
怒ったかのように聞こえた声とは裏腹に、アナスタシアは伊佐那海に笑顔でそう言った。
「もぉ、アナってばぁ」
「アハハ、驚いた?」
「意地悪!
意地悪するなら、いいこと教えてあげないんだから!」
「あら、なーに?良い事って」
「聞きたい?」
「えぇ!聞きたいわ」
「んふふー!ではでは、教えてしんぜよう!
アナにねぇ、会いたいって人が来てるんだよ!」
「あら、それは光栄ね」
「海賊の人でね!アタシ達を助けてくれたの!
しかも、明日花ちゃんのお師匠さんなんだって!
後ね、弁ちゃんっていう子も京に行く途中で、仲間になったんだよ!」
「とんだ大所帯ね」
「そうだね!大家族って感じ!
出雲を追われた時は、独りだったのに……
だんだん人が増えていって、アタシ嬉しいんだ!
『家』ってこういうこと言うのかなぁ?皆と一緒にいるって、心地いいね。
ね!アナ」
「……
そうね」
髪を梳かすアナスタシアに笑い掛ける伊佐那海……
アナスタシアは梳かした髪を結いながら、伊佐那海の方へ向かず答えた。
同時刻……
京都で買った桜の簪を月の光に当て眺める明日花。その隣で、優助は刀の手入れをしていた。
「ねぇ父さん」
「?」
「母さん、何で明日花達の所に来てくれなかったんだろう……」
「……」
「母さん、明日花の事忘れちゃったのかな」
「忘れてませんよ」
「え?でも……」
「忘れているなら、あの人達は助けに来ません。
言っていたでしょう?
紫苑に頼まれて、やって来たと」
「……
でも、やっぱり会いたかった」
簪を見つめる明日花の目には、紫苑の後ろ姿が映った。
「君が強くなれば、会えますよ」
「……」
「約束したではありませんか……
強くなったら」
『強くなったら、また会えるわ。
だから、それまで頑張って……明日花』
幼い頃、自分の頭を撫でながら紫苑はそう言った。
その事を思い出した明日花は、自分の頭に手を置き簪を眺めた。
「強くなったら、会える……
父さん、刀の稽古つけて!」
「稽古はしません。
もう夜です。早く着替えて寝なさい」
「え~!!」
皆が寝静まり、空に浮かぶ月が雲にかかった頃……
部屋で床に就いていた六郎……
すると、天井が開き中から何者かが、六郎に跨りクナイを構えた。
気配に気づいたのか、六郎は目を覚まし振り下ろしてきたクナイをあたる寸前で避けた。
「あら、意外と反応が速いわね」
六郎の眼に映った人物……
それは仲間であるはずの、アナスタシアだった。
六郎はアナスタシアに、蹴りを入れ自分から離し、起き上がり一歩引いた。蹴り飛ばされたアナスタシアは、すぐに体を構え直し、着地した。
「何のつもりですか、アナ。
悪戯なら、時間を考えてください」
「悪戯?」
その声と共に、アナスタシアは霧のように姿を消した。六郎は警戒し、周りを見回した。
その瞬間、六郎の目の前に剣先が見え、六郎はすぐにその剣を振り払った。払われた腕を利用し、アナスタシアは六郎の頭に肘を喰らわせた。
「クッ!」
「あなたが欲しいのよ。海野六郎」
そう言うと、アナスタシアは空いていた手で六郎の頭を鷲掴みにし、壁に後頭部を打つけた。
(ま、まさか……
私の右眼を?!)
「頂くわ」
自分の立場を理解した六郎に、アナスタシアは不敵な笑みを溢した。六郎は、すぐに足を上げアナスタシアに蹴りを入れた。だがそれは裏目に出てしまった。
アナスタシアは、六郎の上げた足を掴み、六郎倒した。さらには身動きを取らせまいと、肩にクナイを刺し込んだ。
「どういうつもりだ!!
なぜ、私の眼を?!」
「言ったでしょ?欲しいからよ!
その全てを記憶している眼が」
持っていたもう一つのクナイを、右腕に刺し込み、右眼に巻かれていた包帯を上げた。
「さぁ、もう動けないわ。
大人しくして頂戴ね。痛くしないから」
アイスピックを手にしながら、アナスタシアは六郎の眼を開け入れようとした。
「させません」
「!!」
入れようとした瞬間、六郎は自らアイスピックの針に自分の右眼を刺し潰した。
「盗られるぐらいなら、失くします」
「この!!」
怒りから、アナスタシアは六郎の顔面を殴った。すると、何かの気配を察したのかアナスタシアは、動きを止めた。それと共に窓の外から、数本のクナイがアナスタシア目掛けて飛んできた。
「六郎!!」
クナイを放ったのは、佐助であった。佐助は六郎の部屋にいたアナスタシアと、六郎の傷ついた体を見て、状況が呑み込めなかった。
「何事?」
アナスタシアは、そんな佐助の言葉を無視して六郎の肩に刺さっていたクナイを抜き立った。六郎は肩を押さえながら、アナスタシアを見上げた。
「お前、何者だ!?」
震えた声で、佐助はアナスタシアに質問した。
アナスタシアは不敵な笑みを溢して、口を開いた。
「……
何って……
『忍』よ?」