しばらくして、その力は収まっていき、近くに生えていた木々は枯れ朽ち果てていた。
凍り付けの前に立ち、佐助を庇った六郎……
六郎は、口から血を吐き出し佐助の前で倒れた。
「六郎!!」
近くから聞こえる、伊佐那海の泣き声……
傍では、地面に座り込み、体を震え上がらせ息を切らす明日花……
「ひ……ひっく…
どうしてよ、アナぁ……」
(六郎が守ってくれなければ……闇に飲まれていた)
闇に深けた森を駆け抜けるアナスタシア……
その途中、アナスタシアは幸村を見た。幸村も立ち去っていくアナスタシアを見つけ、去っていく後ろ姿を見つめた。
駆け抜け、上田城から大分離れた場所で、アナスタシアは足を止め、後ろを振り返った。
(大分、離れたわね……)
「どういうことか、説明してもらおうか?」
その声に驚いたアナスタシア……
後ろを振り返ると、自分を追い駆けてきた才蔵がいた。
「アナ……」
「……
説明しなきゃ、分からないほど鈍ってんの?才蔵」
そう言うと、アナスタシアはクナイを才蔵に投げつけた。才蔵はそこから飛び上がりクナイの攻撃を避けた。そのクナイの後に続くかのように、アナスタシアは剣の束を握りながら、才蔵に突進した。
だが、才蔵は抜き取ろうとした束を手で押さえ、アナスタシアを睨んだ。
「お前……
反間(二重スパイ)だな?」
その言葉に、アナスタシアは不敵な笑みを溢し、才蔵から離れ近くの木の枝に着地した。同時に才蔵もアナスタシアと向かっている樹に着地した。
「今頃気づいたの?」
(アナ……)
「全く、腑抜けにもほどがあるわよ?才蔵」
(最初っから何の疑いもなく、仲間だと思っていた……)
「あら、怒った?ゴメンナサイね」
「(ほかの連中とも上手くやっていたから……いや、しかしそれこそが『忍』の術)
ああ……腹が立つね……
(アナはいつだって、『忍』だったんだ!)
自分の眼のくもり加減にな(いつだって……)」
頭に蘇るアナスタシアの姿……
「アタシを恨むのはお門違いよ」
「恨む?んな感情はねぇよ!
お前はお前の仕事をした……それだけだ」
「……」
「俺も、俺の仕事をする……
『忍』として!」
「手を引けば、仕事せず済むわよ?」
「真田の情報は、何一つやらねーよ。
ここからは生きて出さねぇ」
「あら。素敵な口説き文句ね」
「大丈夫か?動けるか佐助!?」
佐助を助けに駆け付けた十蔵達……
彼は、座り込み息を切らしながら十蔵に答えた。
「……大丈夫」
「何事かと来てみれば……
これは、伊佐那海の……」
十蔵の言葉に、佐助は静かに首を頷いた。十蔵と共に駆けつけた清海は、泣いている伊佐那海に近寄った。
「どうした伊佐那海!泣いてはいかんぞ!
拙僧がついておるからな!」
泣く伊佐那海を宥める清海……
佐助は、ふと明日花の方に目を向けた。それに続くように十蔵も明日花の方に目をやり、何かを察して佐助の方を見た。明日花の元へ、十蔵達と来た優助は駆け寄った。彼女は優助の顔を見るなり、泣き出し彼に抱き着いた。
「黒いオーラは伊佐那海で、まさかあの白いオーラは……明日花」
十蔵の問いに、佐助は頷いた。
「おい十蔵!こいつはヤバいぞ!」
「どうした?」
六郎の様態を見ていた甚八は、焦った声で十蔵を呼んだ。十蔵は後ろを振り返り、六郎と甚八の方を向いた。
六郎は白目を向き、口から泡鼻と手の甲から血を流し、毒に犯されているのか、体が痙攣していた。
「こ、これは!?」
「クナイの毒……体中に!!
我が解毒を!!」
「しかし佐助、その傷では……
才蔵は!?
あ奴は何をしている!?」
「奴は今、曲者を追っている」
その声と共に、六郎の体に羽織が掛けられた。声がした方を見ると、そこに幸村がいた。
「幸村様!」
「皆、とりあえず城へ入れ。
佐助、湯を沸かそう。早く体を温めよ」
「否!!我も追う!
才蔵と共に!」
「今のお前では足手まといだ。大人しく儂の言うことを聞け」
「……諾」
六郎を持ち上げる幸村……
六郎は意識を戻したのか、目を閉じながら口を開いた。
「若……
申し訳……ありま……せん……」
「詫びるな。お前が詫びるようなことは何もない」
『その右眼、誰にも触れさせてはならんぞ、六郎』
「お前は守ったんだろう……儂との約束を」
「……失くしては、守れたとは言えません」
「お前は真面目過ぎるなぁ……」
笑いながら、からかうように言う幸村……
そんな顔にを見た六郎は、目から涙を流した。
「はい……
申し訳……ありません」
その一方……
才蔵とアナスタシアは、激闘を繰り広げていた。。
蹴りを入れようと足を上げるアナスタシア……
その動きを見抜いてか、才蔵はその足を手で留め剣の束を開いたアナスタシアの横腹を突き、弱まったところに才蔵はアナスタシアのみぞを打った。
撃たれた勢いで、アナスタシアは落下した。
何とか体勢を立て直し、逃げるアナスタシア……
その後を追い駆ける才蔵……
(速い……!!
佐助の様な、迷いもない……
このままじゃ……!!)
後ろから殺気を感じたアナスタシア……
後ろにいた才蔵は、剣をアナスタシアにかざした。
「忍法……隼落とし!!」
剣の勢いで、突き落とされたアナスタシア……
地面へ着地し、技を出そうとした。
「伊賀亜流氷術絶海」
「忍法霧隠式砕氷斬」
自分の技の威力を超え、才蔵の攻撃に驚いたアナスタシア……
技と共に、才蔵はアナスタシアの腕に着地し、両手を動けなくするように手を踏み、首に剣先をかざした。
「お前に氷は、固まる前に砕いちまえば、怖くねぇんだよ。
なまじ、ガキの頃から知ってるわけじゃねぇ」
「あらそう」
(何だ!?あの殺気!?)
才蔵とアナスタシアの戦闘を見る鎌之介……
自分も参戦しようと、武器を構えるが只ならぬ空気に押し潰されており、動けずにいた。
(才蔵もアナも、いつもと全然違う!!
この俺が、入って行けねぇ)
「さぁ、洗いざらい喋ってもらうか?」
(何だ何だ!?あの二人!!)
足に踏んでいた手を力強く踏み、アナスタシアの手の骨を折った。アナスタシアは踏まれたことにキレ、足を上げ才蔵に蹴りを入れようとした。だが、その動きを見抜いた才蔵は、上げてきた足を足で食い止め、同時に手を踏んでいた足をもう片方の足に乗せ、関節を外した。
「逃がしゃしねぇよ、アナ。
まずは、お前の雇い主を聞きてぇなぁ……
吐かせる手はいくらでもあるぞ」
痛みで動けないアナスタシアを足で踏む才蔵……
(ウオオオ!!何かすっげー!!)
「……
ダメよ、大分近づいたもの」
その言葉を才蔵は一瞬、何を言っているか理解できなかったが、それはすぐに解消した。
森の向こうから、氷の柱が現れた。
(この近くには……確か俺とアナが再会した、川がある!!)
「水があれば、いくらでも氷は作れる!詰めが甘いわよ!才蔵」
才蔵の目の前に向かってくる氷の波……
その中へと姿を消すアナスタシア……
迫ってくる氷の波を、才蔵は剣で粉々に砕き、アナスタシアが倒れていた場所を見た。
だが、そこにはアナスタシアの姿は無かった。