部屋で眠る明日花……彼女の頭を撫でると、優助は幸村の部屋へ行った。
泣き止み、落ち着いた伊佐那海は自分の部屋で一人座り込んでいた。手には黒い痣が浮き出ており、未だにアナスタシアの裏切りを信じられずにいた。
そんな伊佐那海を襖の外から見ていた弁丸は、怯えながら覗いていた。
『弁丸、お主は伊佐那海についておれ』
幸村の命を思い出しながら、部屋の中にいる伊佐那海を見るが、只ならぬ恐怖に弁丸は怯えていた。
(何か、怖い)
いるのが限界になり、弁丸は皆がいる部屋へ行った。
六郎の部屋で、彼の治療を終えた才蔵……
「これで大丈夫だ。
しばらくは動けねぇけど」
「助かった、才蔵」
「毒も何とか抜いた……が、右眼はもう駄目だ。
二度と見えねぇ…」
「……そうか」
「コラ!!戻って寝ておらんか!!」
「せっかく縫ったのに、傷が開いちまうぞ!!」
隣の部屋から聞こえる声……
その声と共に、腕に包帯を巻いた佐助が、襖を乱暴に開けた。
「六郎、重傷!!我の責任!!」
「お主も重傷だろうが!!今動いて、何ができる!!」
「しかし……」
そんな佐助の前に、才蔵は立ち怪我をしている腕を叩いた。
腕の激痛で、佐助は腕を押さえながらその場に座り込んだ。
「さ、佐助!」
「今更、ジタバタしてどうなるんだよ?
頭冷やせ、バカ!」
「……重々……承知…
アナ、敵…
我、怯んだ…
忍、失格……
不甲斐無い」
「はー……
それ言ったら、アナ逃した俺も同じだ。
でもな、落ち込んでる暇はねぇんだよ!
アイツが、どこの使いの者で、どこの情報持ち込んだのか……
これから先、何が起こるか分からねぇ。
気ぃ抜いて何か、いらんねぇんだ!」
「……」
「俺様にゃあ、全く話が見えねぇんだが……
なぜ六郎が狙われた?
あの爆発は何だ?もちろん、明日花の爆発もだが……
詳しく聞かせてもらいてぇなぁ……」
「……
そうだな……
話さねば、なるまいな。
だが、今から話すことは……伊佐那海は話してはならぬ……決して。
十六年前、その女童は出雲大社の鳥居の下に、捨てられていたという……
神主は、これも何かの縁と娘を育てた。
しかし、それから異変が起こる。娘が泣く度に、闇がざわりと蠢くという……娘に呼応するように……
ある夜、娘が泣くと巫女が一人、行方知れずとなった。まるで闇に、飲まれたかのように……
境内をくまなく捜し回ると、鳥居の側の石畳から、闇が漏れていた。
神主は戦慄した……
その下には黄泉国へ通じるという、黄泉比良坂があると言い伝えられておったのだ……
娘が泣くと、地下が騒いだ……
娘が闇を呼んでいた……
この天地で、黄泉比良坂から闇を呼べる者はただ一人……」
「伊邪那美命(イザナミノミコト)」
襖をに寄り掛かり立ち腕を組みながら、優助はそう口にした。
「人間の負の感情を糧とし、一日に千人の命を奪うことを、宣言した殺戮の女神……」
幸村の見つめる優助……
幸村は口に銜えていた煙管を外し、口から煙を出し答えた。
「優助の言う通りだ」
「ま、まさか……
伊佐那海がそれ(伊佐那美命)だと言うのですか!?」
「伊佐那海、明るい!優しい!」
「明るいだけで、闇が無いとは言い切れませんよ……」
「……」
「明日花も……そうなんですから」
「え?」
「……話すのか?」
「あの爆発を見られましたし、それに十蔵と才蔵には明日花の技も見られているようですし」
「技?」
「突然、地面から木の根が生えませんでしたか?」
その言葉を聞いた瞬間、才蔵と十蔵は顔を強張らせた。
「……やはり」
「あの木の技と、伊佐那海の力が関係あるのか?」
「ありますよ。
十四年前……僕と紫苑は摂津の国にある公智神社にいました。ところがる日突然、耳にするようになったんです。
風も吹いていないのに、木の葉がざわつく音……
それからしばらくしたある日、神木の前に一人の赤ん坊が捨てられていました。
僕と紫苑は、その子を拾い……そして、自分達の子として育てることにしました」
「拾ったって……」
「お主等、親子ではないのか?!」
「……えぇ。
明日花は、捨て子です」
「!?」
「拾って数日後……ある事件が起きました。
一人の巫女が、行方不明になりました。僕達は境内をくまなく探しました……本殿、森……
そして見つけました……神木の幹に埋もれていた巫女の物だと思われる下駄を。
それを聞いた、神主様は理解して話してくれました……
明日花は、この世に生まれ闇を消すために自らこの地に誕生した子だと……」
「闇を消す?」
「この地に木々を生やした神……
久久能智神(ククノチカミ)……」
「……それが、明日花」
震えた声を出しながら、佐助は呟いた。
「何だそりゃ!
神だのどうのって方が、信じられねぇよ!」
「信じる信じないは勝手だが、現に今まで何度その力を使っておる」
思い出す、伊佐那海と明日花の力……
「確かに……
明日花のあの力に……
伊佐那海の、あの黒い爆発との凄まじさは……」
「あれが、伊佐那海の……」
「し、しかし!
我が妹は奇魂の守り巫女だ!!人殺しの女神などと……そんなことはありえん!!」
「そういや、明日花にも首飾り着けてるよな?翡翠の勾玉」
「あれは飾り物じゃありません
あの子の力……闇の力を抑えるために、神主様がくれた物です」
「あの勾玉が……」
「あれは……
幸魂(サキミタマ)……奇魂と同じ意味の物です」
「奇魂の本当の意味は、くしを持って乱れをひとまとめにして、和をなす……
つまり伊佐那海が奇魂を守っているのではなく、奇魂が伊佐那海からこの世を守っておるのだ……」