「……
もしかして、それと俺等は何か関係があるのか?
オッサン、言ってたよな?俺等十人と俺等を支える一人が、この世を変えるって……」
「うむ……
十の根源の力を受け継ぐ者とその根源の力を支え受け継ぐ者は、非常に重要な役割を担っている」
「十の根源と支える根源!?」
「根津のオッサンは雷だとよ。
猿は草で、筧さんは金、清海が土で、ガキが火、鎌之介が風で、十の根源を支えるのが、明日花と優助さんだ」
「……それぞれの長けた能力ってことか。
で、それが伊佐那海や奇魂とどう関係する?」
「十の根源は、互いの過剰な力を相殺する採用がある……すなわち
お前達が奇魂と共に、『闇』の力を押さえているんだ。
無論明日花もだ、優助。
この地のバランスを保つために、闇と光を作り出し、その二つの力を支える八つの力を作り出した。そして自身もその力を押さえる役目をしておる」
「すぐには、理解しかねる……」
「……」
「……
思い出した」
今まで黙っていた清海が、青ざめた顔で口を開いた。
「拙僧が幼き頃、神主様に言いつけられていたことだ……
伊佐那海を泣かしてはならん……
絶対に悲しませてはならん……
伊佐那海の悲しみは、奈落を呼ぶ……と」
「そうだ……
それなのに、浅知恵を働かせ、悪戯に伊佐那海を悲しませる欲深い者共がおる。
奴等は、六郎の眼を狙った……
しかも、事もあろうに『氷』の根源を受け継ぐ者を使って……」
「では、アナの主、徳川……伊達?」
「そのどちらかであろう」
「しかし、あのアナスタシアが反間とは……何とも」
「それが忍なんだよ。筧さん!」
「であるが……」
「あーー!!もう!!
どいつもこいつも、しけた顔しやがって!!」
立ち上がり怒鳴る鎌之介……
「アナが裏切ったとか、伊佐那海が何とかっつう神とか、明日花がその神を消す何とかっつう神とか、んなこたぁどうでもいいんだよ!!
これから自分が、どうしたいかそれだけだろ!?
奇魂だの幸魂だの根源なの、知ったこっちゃねぇし!!
クソ女守るのが、使命だの運命だのぬかすんじゃねぇだろうな!?
冗談じゃねぇ!!俺は違うぞ!!
俺は明日花を殺して、才蔵と戦って逝く!!
そのために!!そのためだけに、ここにいるんだ!!自分のために!!」
(自分がどうしたいか)
鎌之介の言葉が全員の心を揺らした……
「お前にしちゃ、いい事言うな鎌之介!」
「褒めんな、バカ!!」
「明日花を殺す前に、僕に殺されるのでは?」
「んだと!!」
「……
某は、幸村様についてゆきまする」
「俺様は、もともと好き勝手でここに来たんだ。
もうしばらく、ここで暇潰しさせてもらうぜ」
「元主の命です。それに、主が愛した国……
僕等はまだ、ここにいますよ」
「……伊佐那海、守りたい」
「うむ」
「オイラも!!」
部屋の外で聞いていたのか、襖を開けて入ってきて答える弁丸……
「弁丸!?」
「お姉ちゃんを悪い神なんかにしないよ!」
その時、弁丸の後ろから、何かの気配を感じ後ろを振り向いた。
そこにいたのは、伊佐那海だった。
「い、伊佐那海……」
「……ごめん」
振り返り、伊佐那海はその場を立ち去った。
「しまった!!聞かれていたか!!才蔵!!」
「俺か!?」
「お主は、伊佐那海と明日花が『光』と認めた男……
『闇』を照らすのは『光』だけだ」
舌打ちをしながら、伊佐那海の後を才蔵は追いかけて行った。
「優助、一つ聞いていいか」
「?」
「先程の話……本人に話しているのか?」
「……捨て子だという事は話しています。
けど先程の力に関しては何も、話しちゃいません」
「?!」
「紫苑が言ったんですよ。
時が来るまで、この事は話さないと……話す時は、自分の口から話すと」
「紫苑……(あの馬鹿女)」
「まぁ、何も知らない方が幸せなのかも知れませんね」
その言葉にキレたのか、甚八は立ち上がり優助の胸倉を掴んだ。
「甚八!」
「本気でそう思ってんのか?優助……」
「……」
「何も知らねぇ本人が、一番辛いことをオメェは知ってるだろ!!」
そう言いながら、甚八は優助の頬を思いっ切り殴った。飛ばされた優助は、壁に激突し殴られた頬を抑えながらゆっくり立ち上がった。
「事実を言ったところで、何が変わると言うんですか……」
「……」
「光坂一族の力を持っている彼女は、徳川に狙われるに決まっています……」
「だから何だ……」
「……何も知らない方々が、偉そうに説教をしないで下さい」
「ンだと!!」
「甚八、止さぬか!!」
「あの子を守るために!!
あの子を守るために、紫苑は徳川に就いている殿方の下に就いたんです!!自分の存在で、あの子の存在が徳川に知られないように!!」
「!?」
「本当なら……僕が徳川に就いている殿方の下に就けばよかったんです……
ですが紫苑はあの子を守るためだと言って……」
「……」
「辛いんですよ、時々。
会えもしない、母親に会いたく……必死になって、稽古に励む明日花を見ていると……」
涙を流す優助……その時、佐助は何かの気配に気付きソッと後ろを覗いた。
「!!」
「?どうした?佐助……!?」
「!!
明日花……」
「?!」
その名で、優助はすぐに振り返った。自分の羽織を肩に掛け立つ明日花……彼女の顔は青ざめていた。
「……久久能智神って?」
「?!」
「明日花の怖い力、そいつの力なの?」
「否!明日花」
「それに……それに……
母さんに会えないって、どういう事?」
目から涙を流しながら、明日花は優助に質問した。彼は何も答えず、彼女から目を反らした。
「母さん……明日花が強くなったら、会えるんでしょ?
またあそこで、会えるんでしょ?……父さん!」
「……」
「……何で……
何で何も、教えてくれないの?」
「明日花……」
「母さんに会えないのは……明日花の力のせいなの?」
「それは違い」
「何が違うの?!
現に、母さんに会いたくても会えないじゃん!!
一族の集会には、顔出したのに……何で明日花には会ってくれないの?!何で姿見せてくれないの?!」
「だから、それは」
「明日花にこんな力があるから……母さんは、会いに来てくれないの?」
泣きながら言うと、明日花はその場から立ち去った。
「明日花!!待ちなさい!!」
その後を、優助は慌てて追い駆けていった。
森を抜け崖付近に来た明日花……膝に手を付きながら息を切らし、そして呼吸を整えるとその崖から落ちようとした時だった。追い着いた優助は、彼女の手を掴みそして勢いのまま引っ張り崖から離した。
木に体をぶつけた明日花は、息を切らしながら立ち上がり優助を睨んだ。
「……何で……止めるの」
「……」
「明日花がいるから……
私がいるから、母さんと父さんは別れたんでしょ!」
「違います……君がいようがいまいが、僕等は別れてます」
「……嘘吐き。
明日花なんか、拾われなきゃよかったんだ」
「!」
「拾われなきゃ、母さんは徳川に就く必要なんてなかったはず!!
だから、明日花は」
“パーン”
渇いた音が辺りに響いた。明日花の頬は見る見るうちに赤く腫れ上がった。頬を抑えながら、彼女は恐る恐る優助の方を見た。息を切らした彼の目には、涙が溜まり頬を伝い流れていた。
「……」
「……君がいてくれたおかげで……
僕と紫苑は、救われたんです」
「え?」
「目の前で主を亡くし……僕も紫苑も途方に暮れていました。
そんな時、君が僕等の所に来てくれたんです。生きる気力を無くしていた僕等の元に」
そう言うと、優助は彼女を抱き寄せ力強く抱き締めた。
「い、痛いよ……」
「怖い力があろうが無かろうが……
君は僕と紫苑の、自慢の娘です」
「……」
「紫苑は……君を守りたいんです。
母親として、守りたいんです」
ふと蘇る記憶……寝かけていた幼い頃の自分に、紫苑は頭を撫でながら言ってくれた。
『どんな事があっても……必ず守ってあげるわね。
明日花……』
思いだした明日花は、目から大粒の涙を流し腕を上げ、優助の胸に顔を埋め泣き出した。そんな彼女を優助は、頭を撫でそして強く抱き締めた。
その一方、城から抜け出し、森の中を歩く伊佐那海……
滝がある川へ着いたところへ、ようやく才蔵が追い付き伊佐那海を呼び止めた。
才蔵の声を聴いてか、伊佐那海は足を止めた。
「伊佐那海、帰るぞ!」
「……
アタシね……
アナの事大好きだったんだ……
欧州でアナは私に『戦え』って言ってくれた……勇士でしょって……
嬉しかった……勇士として、上田にいていいんだって思えたの……
アナは私に、居場所をくれたの……
でも、あんなことがあって、すごく悲しくて……
アタシ、アナを憎んだ……
全部嘘だったの…って。
気付いたらまた……アタシ、とても黒いものに包まれて……でも分かった。
アタシ、人じゃなかったんだね。
だから、アナの事あんなに憎んで……
だから、あんな黒いもので、皆を傷つけて……
アタシ……心が、闇だらけなんだ」
悲しみに満ちた顔で振り返る伊佐那海……
「……何言ってやがる…
んなもん、当たり前だ!!
心の闇なんて、誰でも持ってる!!お前だけが特別じゃねぇ!!
明日花もだ!!あいつは、下手したらお前以上の闇を持ってる!!」
「でも…でも、皆に迷惑かける……」
「上っっっ等だ!!
お前と出会ってこの方、迷惑なんてもんはとうに慣れた!!急にしおらしく何だ!?
お前の押しつけがましいもの、妄想と思い込みが激しいのも、ドンとこいだ!!今更逃げんな!!」
「……も
でも、嫌なの……心が痛いの!」
「心が痛いのは、お前が人間だからだ!!
お前は俺を信じると言った。あの言葉は嘘だったのか!?」
才蔵の言葉を聞いた伊佐那海は、今まで抑えていた涙が一気に噴き出し泣き出した。
「泣くな、馬鹿」
才蔵は、泣き叫ぶ伊佐那海を宥めながらそう言った。