「服部…半蔵」
剣を構える才蔵……
出雲の地下で闘い、倒したはずの敵が目の前にいる……
「ここで殺り合うつもりはありませんよ……
ちょっと君を、誘いに来ただけです」
「ざけんな!!」
束を握り、鞘から引き抜こうとした才蔵に、半蔵は刀を手に取り抜き出そうとした束を止め、才蔵に顔を近付けた。
「人の話は、きちんと聞きましょうか?」
半蔵から離れ、距離を置いた才蔵……
「何を偉そうに!徳川の犬が!!」
「……
この状況、分が悪いことは承知でしょう?
そこのお歴々、確かに用はありませんが……殺してもいいんですよ?」
その言葉に、三成は傍に置いてあった刀を持ち束を握り、半蔵を睨んだ。
「貴様!!徳川の手の者か?!
我等の動向を探っていたな?」
「辺鄙だと思っていたら、意外に客人が多いんですね?」
「うるさいわ、兼続」
半蔵は、刀をしまいながら、話しだした。
「今の話を、聞いていなかったのですか?
貴方方には、用はありません。今のところは……
今日は別件で、伺ったのです」
「……何を企んでいる?」
「企む?
いいえ、もう幕は上がっています。
伊賀異形五人衆と勇士の惨劇の幕が」
(伊賀異形五人衆!!)
「神速、剛力、幻惑、妖術、冷酷……
五つの忍技を極めた我等五人に掛かれば……
勇士など烏合の衆……皆殺しも造作ないこと!
分かるでしょう、伊賀者の君なら……ね?
あ!そうそう、伊賀異形五人衆の他にもう一人助っ人を呼んでいるんです」
「助っ人?」
「徳川に就いている光坂一族の風使い……
一族の中では、裏切り者でしたっけ」
半蔵の声に黙る才蔵……
「オッサン……」
「うむ……行くがいい」
才蔵の声に、幸村は何かを察したのか命を出した。才蔵は出していた剣を鞘にしまい、半蔵に近付き部屋を出た。
「では皆さん、いずれまた」
それを言うと、半蔵は障子を閉めた。
部屋に残った幸村達……
「な、何やら、訳有の様だな……幸村」
「このご時世、物騒なのはどこも変わらぬようですね……」
場所は変わり、森の中にある滝壺……
そこでは、滝に打たれ瞑想をする清海と、それが終わるのを待つ弁丸がいた。
(まさか、我が妹が黄泉の神だったとは……)
昨夜の話を聞いた清海……
頭に蘇る、幼き頃の伊佐那海の姿……
(信じられん……
ああ、伊佐那海よ。兄はどうすれば……
これは、拙僧への試練か!?この心の痛みに耐え、前へ進めと……神よ!!)
滝に打たれる清海を、遠くにある岩の上から見る弁丸……
「よくもまぁ、飽きずに滝に打たれてるよ。
あれで、何か分かるのかなぁ?余計頭悪くなりそうだけど……
あぁあ!もう!退屈退屈ぅ!!」
岩の上で寝そべる弁丸……
その時、何かを分かったのか清海は大声を上げて、立ち上がった。
「そうか……そうだ!!
神仏は皆同じ!!信じた数だけ救われる!!
例え、黄泉の者であろうとも……伊邪那美命は紛れもなく神!!
拙僧は妹を……伊佐那海をただ信ずればいいのだ!!
妹こそ我が神!!なんと素晴らしいことか!!」
(何か知らないけど、分かったみたい……)
「こうしてはおれん!!
伊佐那海にこのことを伝えねば!!
何も悲しむことは無いと!!」
“ドーン”
突然、清海の真上から黒い鉄球が落ちてきた。
「せ、清海!!」
「おや?避けると思ったのに、トロイねぇ」
鉄球を投げたと思われる者が、宙に浮かんでいた。
同じ頃……
川で釣りをする甚八……
釣り糸が引き魚を釣るが、釣れど釣れど小さな魚ばかり……
「小物しかかからんなぁ……
酒の肴にもなりゃしねぇ」
その時、隣で寝そべっていたヴェロニカが立ち上がった。
「こんな小魚じゃ、嫌だってか?それとも、お前が代わりに取って来てくれるのか?ヴェロニカ」
甚八の言葉に、返事をするかのように鳴き声を上げ、そのまま森の中へと姿を消した。
「ようし!!お前が戻る頃には、大物釣っといてやると!!」
川へ再び釣糸を川へ投げ入れる甚八……
すると、五分も経たないうちに糸が引いた。
「おお!この手応え、来たか!!」
強く引っ張る糸に、甚八は大物だと察した。
「よしよし!!」
大物の頭が水面から見え、糸を引っ張る甚八……
すると水面が凍り、大物を釣っていたも凍ってしまった。
「ああ!?」
凍った水面から、氷を踏む足跡と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「初めまして、十番目の勇士さん……」
「何だぁ?」
「私はアナスタシア……
お会いできて嬉しいわ」
アナスタシアの姿を見た甚八は、釣竿を捨てニヤついた顔を浮かべて立ち上がった。
「ああ、俺様も会いたかったぜ……
金髪異人爆乳女……十蔵の言った通りだな」
「やっと、お近付きになれるってわけだな」
「すぐにサヨナラよ」
「連れねぇじゃねぇか。
一度くらい、肌合せて見ねぇか?」
「触れてごらんなさい……凍るわよ!」
冷気を放ち、威嚇するアナスタシア……
同じ頃……
城下町を、鎖を回しながら歩く鎌之介……
「あぁあ!!ヒマヒマァ!!ヒマァア!!
なーんも、楽しいことがねぇ!!
才蔵は小姓に付きっ切りだし、馬鹿女のせいで何か、雰囲気暗ぇし!!
ったく、面白くねぇ!!
にょろ(雨春)を弄って遊ぼうにも緑(佐助)とどっか行っちまってるし!!
明日花と殺り合おうと思ったのに、青二才がどっかに連れて行っちまうし!!
あぁあ!!才蔵と滾り合いてぇ!!……?」
そんな鎌之介の前に、黒と白の毛並みをした鼬が姿を現した。
「にょろ!!お前、ちょっと黒くなった?」
言いながら、近づき抱こうとした時、鼬は危険を察したのか鎌之介から逃げ出した。
「待てよにょろ!!
俺と遊ぼうぜ!!
逃がさねぇ!!」
鼬の後を追い駆ける鎌之介……
角を曲がった瞬間、辺りが真っ暗になった。
「?」
「何をしているんです?」
後ろから、男の声が聞こえ鎌之介は後ろを振り返った。
その男は、不敵な笑みを溢して言った。
「姫様」
同じ頃……
優助の膝に頭を乗せ寝息を立てる明日花……眠る彼女の頭を優助は撫でた。ふと吹く風に、何か違和感を感じたのか後ろを振り返った。
宙で胡座をかく鷲の面を着けた男……
「お久し振りです、隊長」
「味方……ではなさそうですね」
「当たり。
俺、今徳川に就いているんで。この意味、分かりますよね?」
「なるほど……裏切り者と言う事ですか」
その声で目が覚めたのか、明日花は目を擦りながら起き上がった。
「父さん、どうかしたの?」
「……その子ですか。もう一つのターゲット」
その声に、明日花は前を向き立っている優助の隣に並び警戒した。
「戦う気満々ですねぇ……
けど、貴女を傷付けるなって上から言われてるんで」
「明日花!!!逃げなさい!!」
彼女の前に立ち、刀の束を握り引きながら優助は叫んだ。明日花は後ろへ下がりつつ振り返り、駆け出した。
「逃がしゃしない」
鉄扇を広げ、男は思いっ切り煽り風を起した。風は駆けだした明日花の周りに吹き荒れ、彼女を閉じ込める様にして囲い、男の元へと連れて行かれた。
「明日花!!」
「これでもう逃げられないでしょ?」
「早く明日花を開放しなさい!!」
「それは出来ません。
ただ、一つだけ方法があります」
「?」
「俺と戦って、もし勝てば大事な娘は解放します。
負ければ、このまま貰いますけどね?」
「……」
明日花を見る優助……彼女は、出ようと風の檻を腕で叩くがビクともしなかった。そして叩き終えた瞬間、四方から何かが飛んだのか、彼女の体に痛々しい傷が出来た。
「あ、そうそう……一つ言い忘れていました。
その檻に攻撃すると、反撃来るから気をつけて下さい」
「明日花、すぐに開放します!ですから、大人しくしててください!
勝てば本当に、娘を開放するんですね?」
「まぁな」
「……いいでしょう」
刀を抜き優助は構えた。
「光坂風介……
君が隊長である僕と、互角という自信があるというのであれば相手になります」
「そうきませんと」
その頃、森では灰桜と名乗る女の前に、武器を構える佐助と十蔵……
灰桜の言葉を聞いた佐助はその言葉を繰り返し、何かを思い出したかのように言った。
「噂、あった」
「何がだ?」
「裏の忍……
伊賀異形五人衆……
正体不明、能力特殊、忍を抹殺する忍」
「何故、そのような者共が、上田に……」
「あなた(勇士)達を、皆殺しにせよと頭目が申しましたので……
それに、私にも、個人的にお二人に死んでいただきたい事情がありまして。
我が姉、桜割の仇……討たせて貰いますわ!」
「!!」
「いざ!」
森の中に建つ鳥居の上に着地する半蔵と才蔵……
「今頃、皆どうしているでしょうねぇ?」
「……何が、狙いだ?」
「狙い?仕事ですよ、仕事!
我等がこの先、気持ちよく生きるためのね!
『力』を手に入れ、誰にも使われずに生きる……実に細やかな可愛らしい願いです。
権勢を翳すだけの、無能な馬鹿どもに仕えるのは飽きました。これからは我ら忍が大名を意のままにする……
闇からこの世を操る……小娘を手に入れれば、それは容易く叶うこと。
強過ぎる力が、絶大な牽制となる」
「なぜ伊佐那海の秘密を知っている?」
「驚くことは無いでしょう……
出雲の巫女には、ずっとそちらにいたのですから、アナスタシアが」
「テメェの駒だったのか……じゃあ」
「徳川も何も関係ありませんよ。あの女は、俺のモノです。ずーっと昔からね。
お喋りはこれくらいに、今は殺し(仕事)の時間です。」
そう言いながら、半蔵は腰に着けている刀の束を握り、鞘から引き抜いた。それに合わせて、才蔵も剣を抜き構えた。
「さぁ、始めましょう!!」