暗い部屋にいる鎌之介……
(ここ……どこだっけ……
何も見えない……)
足音が近づく音が聞こえると、扉が開き陽の光が中へ指し込んだ。
「ここにいらっしゃったんですか?姫」
(あ……この黒い影は……)
目を開け、声の人物に目を向ける鎌之介……
扉を開けた者は、笑みを溢して言った。
「いつまで隠れて、いらっしゃるのですか?」
「(そうだわ……隠れていたんだった)
どうしても行かなきゃダメ?」
ドレスを着た鎌之介は、女口調で目の前にいる執事の格好をした男に話した。
「そんなに、今夜の晩餐会に行くのが、お嫌いですか?」
「あれは、晩餐会という名の、お見合いでしょう。
私……興味ないわ!」
文句を言いながら、鎌之介はドレスに着いた埃を掃いながら立ち上がった。
「姫を気に入っておられる方が聞いたら、悲しみますよ?」
「……
そんな人、いないわ。
たいていの男の人は、この朱い髪と……
一族伝統の刺青を嫌うもの……
まぁ、どうでもいいことだけれど」
髪を指で弄りながら言う鎌之介……
すると、執事の男は鎌之介に寄り髪を触った。
「そうですか?私は綺麗だと思いますよ。
その刺青も、この髪の色も……」
髪を触られる感触……
その感触に、鎌之介はどこか懐かしさが体中に蘇った。
(温かい手……
あの時みたい……
あの時!?)
「姫!!」
二人のもとへ、ドレスを持った侍女が駆け寄ってきた。
「散々探しましたよ!!早くお着替えを!
さぁ、どれになさいます!?お選びくださいまし!!」」
言いながら、侍女は持っていたドレスを見せた。ところが鎌之介は、不機嫌そうな表情を浮かべた。
「どれも嫌よ!!苦しいもの!」
「姫ぇ!!」
「姫は、行きたくないと駄々を捏ねておいでだ」
「何を呑気に、ライズ様!!」
「では、姫」
「何?」
「このライズめが、姫の好きな花の湯船をご用意いたしましょう」
「ホント!?お風呂、大好きだわ!!」
「それは結構。では早速花を摘んで……」
「うん!」
「時間をかけて、入念に支度いたしましょう」
「うんうん!!」
「姫が晩餐会からお戻りになる頃、ちょうど良い湯加減になっているかと」
「……ズルいわ」
「姫……」
困り果てた表情を浮かべるライズ……
そんなライズに鎌之介は、微笑みライズに寄った。
「良いわ!分かったわよ!
じゃあ、お花は薔薇にして頂戴ね!」
夜……
城では、大勢の者が招待され、賑わっていた。
その中、鎌之介はそんな空気に飽きたのか、ベランダへ出てテラスに手を乗せ、外を眺めた。
「(いつも通り華やかで、いつも通り退屈だわ……)
皆、そんなに結婚したいのかしら?
(私には、結ばれたいなんて、思える人がいないわ……でも……
もし、そんな人が現れたとしたら、どんな人かしら……)」
月を眺める鎌之介……
ふと、脳裏に見覚えのある男の姿が映った。
「!?……
何か……何か、大事なことを…」
「本当変わり者よね!女なのに、目に刺青なんて!」
「あら、家訓なんでしょう?」
自分の悪口を言う、どこかの王族の姫君が、ベランダへ出てきて自分に気付いていないのか悪口を言い合った。
「とはいえ、下品だわ!!
髪の色も、くすんだ朱色で……」
「それを言うなら、あの貧相な体!」
「あの年齢であれば、殿方にモテなくて当然だわ!!」
「モテなくて、結構よ!!」
容赦なく自分の悪口に、我慢が出来なくなった鎌之介は姫たちの前に姿を現し、怒鳴った。
「この髪も刺青も、気に入ってるわ!!
貴方方にとやかく言われる筋合いはなくてよ!!」
「まあ!」
「こちらでしたか……」
中から聞き覚えのある声が聞こえた。
そこにいたのは、鎌之介を迎えに来たライズだった。
「姫様」
「ライズ……」
「お迎えに上がりましたよ」
笑みを向けるライズ……
そんなライズに、鎌之介は駆け出しライズに飛びついた。
「お風呂の用意が、出来ております。
帰りましょうか……」
「……うん」
家へ帰宅した鎌之介は、ライズが用意した風呂に浸かった。
「あぁ……
温かくて気持ちいい……
こういうのを幸せって言うのよ……そう思わない?ライズ」
後ろにいるライズに話し掛ける鎌之介……
「先程の事を、気にしておいでですか?」
「……
一つだけ、当たってる事があったわ。
私、この髪も刺青も好きだけど……女らしくない痩せた体は、気にしているわ」
「それはそれは、可愛らしいですよ?
私は、どんな姫も大好きです」
その言葉を聞いた時、鎌之介の脳裏にまたあの男の姿が映った。
(もしかして……
運命の相手って、案外近くにいるのかしら……)
「姫?」
「私……ここが好きだわ」
「私も好きですよ」
「(好かれるって、心地いい……)
ずっとここにいたいわ」
「ずっといれば、よろしいでしょう」
「嫁き遅れと笑われるわ」
「笑いませんよ。
むしろ、嬉しいくらいです」
「(心地よくて、動きたくない……)
本当に?」
「本当です。
ここにいてください、姫……」
「そうね……
幸せに身を委ねて、ずっと……」
「そう……ずっと……
このままで」
湯に浸かりながら、床に仰向けに寝る鎌之介の頬を、ライズは手で触れながら鎌之介の目を見た。
(愛しい瞳……このまま包まれていたい……!?
いいえ……
求めるのは、刺すような冷たい瞳!
ど、どうしたんだろう、私……
いつまでもここで、愛しい人と……
甘い匂いに包まれていたいのに……
違う!!)
何かを思い出したのか、鎌之介は飛び起き湯から出た。
「姫?……!!
お怪我を!」
傍に置いてあったグラスが割れ、その破片で手を切ってしまった鎌之介は、血が出た自分の手を見た。
「あ(求めるのは……)」
そんな手をライズは握り、慌てた顔で鎌之介を見た。
「大事ありませんか!?」
(血の匂い……甘い匂い……
反吐が出る!!)
自分の手を握って来たライズの手を振り払い、鎌之介はライズの方に振り返った。
「アイツの匂いは、血と錆と埃の匂い……」
「姫……何を……」
湯から出た鎌之介は、キャンドルを手に持ちライズを睨んだ。
「アイツの眼は、痺れる様な人殺しの眼……
求めるのは至高の快楽!!殺し合う気の昂ぶり!!」
叫びながら、手に持っていたキャンドルをライズに突き付けた。ライズは間一髪避けた。
「姫!お待ちを!」
「俺は、姫じゃねぇ!!」
キャンドルを引き、狙いを定めライズの体に刺した。ライズは血を流しながら、フラフラと千鳥足となり、同時に周りの風景に皹が入り、空が見えた。
目が覚めると、鎌之介は地面に倒れ起き上がると、目の前に黒いマントを羽織った男が立っていた。
「気色悪ぃ、真似しやがってこの野郎!!
縊り殺す!!」
「何とも……歪み過ぎた奴よ……」
鎖鎌を構える鎌之介……
「……殺す。
殺す!!殺す!!殺す!!殺す!!ぶっ殺す!!
一目連!!」
男目掛けて、風を放つ鎌之介……
男は飛び上がり、その攻撃を避けた。避けたと同時に、首に鎖が巻かれ地面へ叩きつけられてしまった。
「逃がさねぇよ!!バッカ野郎!!」
「不覚だ……
私の幻術を覆した者などいなかった。
体験した事のない、桃源郷への誘惑……
誰もが愛しいものに抱かれ、朽ち果てるまで、温かな幸福に浸る……
完璧な快楽を、与えたのに!!」
「あれの、どこが快楽だ!?
あんな生っっヌルいもんじゃ、滾らねぇんだよ!!
俺が求めるのは、酒血肉林!!
戦って、息を切らして、血ぃ流して……
脳味噌が痺れる……この瞬間だ!!」
首に鎖を繋げた男を持ち上げ、宙へと舞い上がらせた。
「由利鎖鎌奥義破裏鎌!!」
宙に浮いた男の体を、鎌を振り回しバラバラに斬った。斬られその衝撃で、空から血の雨が降り注いだ。
「あぁあ……最っ高!!」
自分の体に当たる血の雨に当たりながら、顔に当たる血を舐める鎌之介……
すると、降り注いでいた血が動きを止め、一転に集まり始めた。
「そうか……痛みが好きか」
一点に集まった血は、殺したはずの男へとなった。
「ならば、与えてやろう……
伊賀異形五人衆、朽葉参る!
伊賀亜流忍術血奉!!」
血の雨が槍となり、鎌之介の体中を刺した。