その時、風介が放った風が優助の体を容赦なく傷付けた。優助は体の至る所から血を流し膝を付いた。
「あれ?隊長、こんなに弱かったっけ?」
「やめろー!!」
優助の血を見た明日花は、大声で風介にそう言った。風介は振り返り、彼女を睨んだ。
「それ以上父さんをいじめてみろ……許さないからな!!」
「クックック……
どうするって言うんだ?貴女は今、囚われの身。そこで一体、何をどうするって言うんです?」
「っ……」
「……あ、そうだ。良いこと教えてあげるよ」
「?」
「俺と一緒に来れば、副隊長に会えるぜ?」
「!」
「会いたいんだろ?副隊長に……
八年前だよな?副隊長と別れたの」
「……」
「明日花、その人の言葉を信じてはいけません!!
風介!!それ以上でたらめなことを言ってみなさい!!本当に許しませんよ」
印を結んだ優助は、手から水を出し風介に攻撃した。風介は、鉄扇で煽り風を起こし水を跳ね返した。その風の中、優助は彼に向かって突進し、勢い良く刀を振り下ろした。
戦う二人……その光景を見ながら、明日花は先程風介が言った言葉を思い出した。
『俺と一緒に来れば、副隊長に会えるぜ?』
思い出す母・紫苑の姿……
腰まで伸ばした銀髪を耳下で結い、髪留め紐に引っ掛けるようにして雪の結晶が着いた簪を挿していた。
優助と色違い……武田の家紋が刻まれた白い羽織を羽織り、耳に桜の花弁のピアスを着けていた。
幼い頃、自分が泣いていると必ず駆け寄り優しく自分を抱き締めてくれた……紫苑の手の温もりが、明日花にとって一番安らいだ。眠っている幼い自分の頭を、いつも優しく撫でてくれた。抱き着くと、いつもいい香りがしていた……
自然と涙が流れ溢れた。明日花は、勾玉を取り出しそれを見た。
『サキミタマ?』
『そう。明日花の御守りよ』
『御守り?』
『明日花を怖いものから守ってくれる、大事な御守り……
絶対に、外しちゃ駄目よ』
「ガハッ!」
その声を聞き、明日花は顔を上げた。体の至る所から血を流し倒れる優助……息を切らし立ちあがろうとした彼を、風介は踏み倒し背中に足を乗せながら口を開いた。
「弱くなったな?隊長……
それとも、娘人質されて上手く攻撃が出来ないのか?」
「……」
「図星か……そうだろうなぁ。俺を殺したところで、娘が無事に解放されるってわけでもねぇもんな」
「父さん……」
明日花は風の檻に手を触れさせながら、倒れている優助に呼び掛けた。
「父さん!立って!!」
「……」
「さぁて……あんまり、時間は掛けられねぇから終わらせるか」
そう言いながら、風介は腰から小太刀を出した。
「やめて!!父さんを殺さないで!!」
「じゃあな隊長……
あの世で、主達に宜しくな!!」
風介は、勢い良く小太刀を優助の背中目掛けて振り下ろした。
「やめろぉぉぉおおおお!!」
叫び声と共に、明日花の手から幸魂が落ちた。
「?」
とある山道を歩いていた者は、ふと足を止めた。
風も吹いていないのに、木の葉がざわつく音……
その音を耳にしながら、人物は空を見上げた。
突然生え伸びる木の根……木の根は、優助を包むようにして生えその根に、風介が振り下ろした小太刀が突き刺さった。風介は木の根に驚き、ハッと明日花の方を振り向き同時に優助も首を起こし彼女の方に向いた。
風の檻は壊され、中にいた明日花はいつの間にか足下に生えていた木の根に一歩踏み出し、檻から出て来た。
「あ~らら、力が解放されちまったか」
「……明日……花」
地面へ降り立つ明日花……降り立った彼女の足下に、草花が生えた。
「?!(ヤバい……あの力が!!)」
蘇る過去……地面に座り込む幼い明日花。その周りには、血塗れになった山賊達が、無数に倒れていた。
(あの力だけは……何とか)
「こりゃあ面白いですねぇ。
まさかここで、あの副隊長と同じ力が見られるとは」
「……」
鞘から刀を抜き取り、明日花は飛び出し風介の腹に突き刺した。刺さる寸前、風介は鉄扇で刀を弾き後ろへ下がった。
(何だ?!あんなガキのどこに、あのような力が?!)
「……自然を汚す人が……
神と称えられている私に、敵うとでも思っているのか?」
顔を上げる明日花……その目にいつもの輝きはなく、冷酷に満ちた冷たい目をしていた。
風介は鉄扇を煽り風を起こした。その風を明日花は地面を蹴り、地面から木を生やし防いだ。
「凄いなぁ。
まさかこんな」
突如地面から生えた木の根が、風介の脚に貫いた。
「痛っ!!」
「失せろ。二度とこの者達の前に姿を現すな」
自身の胸に手を当てながら、明日花はそう言った。
「へ~……そういうことか。
願い通り消えてやる……けど、お前等を消してからな!!」
「風…介!!やめろ!!」
「遅ぇよ。隊長さん……毎回毎回」
二つの鉄扇を広げ跳び上がる風介……
「アバよ……光坂流風術千本雨!!」
風が吹き、その中に無数のクナイが現れ降り注いだ。
「明日花!!(もう亡くさない……)」
立ち上がる優助……フラッシュバックで蘇る記憶。
目の前で自害する男……駆け寄る自分達。男は優助に何かを伝えると、そのまま息絶えた。
(大事なものはもう亡くさない!!
目の前で亡くすのはもう、嫌です!!)
棍棒を取り出し、優助は明日花の前に立ち飛んでくるクナイを棍棒で防いだ。
「まだそんな力があったとは……!」
明日花の前にいたはずの優助の姿がなくなり、風介はハッと前を見た。そこにいたのは、刀を構え鋭い目付きで自身を睨む隊長……
「裏切り者は……消えなさい!」
胸を貫かれる風介……彼は一瞬鉄扇を煽り、降り注いでいたクナイの一部を優助目掛けて飛んできた。クナイは優助の体中に突き刺さり、彼は血を口から吐きそのまま落ちていった。同時に風介も、地面へ落ちた。
「隊長……アンタの思い通りには、ならねぇよ」
「……そう、みたいですね」
「毎回毎回、遅いんだよ。
仲間が窮地の時、いつもいつもどっか行ってて……代わりに来るのが、副隊長だ……」
「けどあの時は、ちゃんと行きましたよ……ちゃんと」
「それでも遅ぇよ。
瞬光の侍……そう世に呼ばれながら、アンタはいつもいつも」
その言葉を最期に、風介は何も喋らなくなった。
優助は起き上がり、彼の亡骸を見た。
(そう呼ばれるようになったのは……
無鉄砲に敵軍に突っ込む、副隊長を援護するためですよ)
「……
父……さん」
その声に、優助はスッと振り返った。
クナイで傷付いた腕を押さえ、クナイで切られたのか肩まで伸びた髪を下ろし、頭から血を流し立ち尽くす明日花……
「明日花……」
刀を捨て優助は、明日花の元へ駆け寄った。駆け寄ってきた彼に、凭り掛かるようにして明日花は倒れそんな彼女を、優助は抱き支え強く抱き締めた。
「……無事でよかった」
「ごめんなさい……
使いたくなかったのに……また」
「いいんですよ……もう」
抱き締める優助の力は次第に弱くなり、彼は明日花の横へ倒れた。
「父さん!!」
「大丈夫……です。
それより……早く……行きましょう」
そう言いながら、優助は息を切らし何とか立ち上がった。だが、足がふらつき倒れかけた時だった。倒れそうになった彼を、明日花は腕を持ち支えた。
「……行こう。
何か、嫌な胸騒ぎがする」
「……明日花、幸魂……」
言い掛けた時、ふと明日花の胸元を見た。そこには鎖で繋がれた勾玉が提げられていた。
「……」
「約束したから……
絶対に、外しちゃ駄目だって……
それなのに、明日花……」
目から涙を流し、涙声で明日花はそこまでしか言う事が出来なかった。
「……もう……
母さんに……母さんに、会えない」
「……」
「約束破っちゃった……約束……」
「……大丈夫ですよ、泣かなくても」
優しく言いながら、優助は明日花の頭を撫でた。
「そんなことで、紫苑は君に会いたくないわけないじゃないですか……
そんな顔してたら、紫苑が心配しますよ……」
「……うん」
腕で涙を拭った明日花は、優助を支え歩いて行った。