凍り付いた川に立つ甚八……
「(おーお、寒っ……)
体内まで、冷えてぇのかい?」
「どうかしら?」
「(どうにも……)どこまで冷てぇなぁ」
「そうよ。
伊賀亜流氷術槍氷華!!」
空中に氷の槍を出し、甚八に投げ放った。
「あらまぁ……簡単」
冷気の煙に包まれる甚八……
その時、霊気の煙から槍が飛び出てきて、アナスタシアの横腹を掠れて通過した。掠れたかと思うと、槍はアナスタシアの横腹を斬ろうと、横へ動き出した。
その瞬間、アナスタシアは飛び上がりその槍を避けた。
「悪ぃな……槍なら負けねぇぜ」
槍を担ぎ、勝ち誇った表情を浮かべる甚八……
「(ふうん……槍を使うのね…
明日花の師なのは、確かの様ね……)
伊賀亜流氷術獄氷洵」
甚八の足元から、氷の槍が生え出てきた。その氷を甚八は、何とか避け氷柱に囲まれた場所へ、着地した。
「つーか、何で俺様が狙われなきゃならねぇんだ?」
「勇士だからよ」
「それは、殿様が言ってるだけだろ?俺様は…」
「問答無用!」
氷の柱から姿を現し、甚八目掛けてクナイを投げつけた。その攻撃を瞬時に避け、前髪の飾りにクナイが当たったかと思いきや、今度は足元へ刺さった。
「勇士皆殺し、至上命令よ!」
甚八の頭上から、クナイを投げ放つアナスタシア……
甚八はそのクナイを、構えていた槍で振り払い避けた。
「命令って、そんなに大事なもんなのかい!?」
「……お喋りな勇士ね。
その口、閉じなさい」
「口を塞ぐなら、唇でお願いするぜ……男と女だろ?」
(速攻殺す!!)
剣を抜き取り、アナスタシアは氷の柱を蹴り飛ばし甚八に体当たりをした。
「大人しく、死になさい!」
「おいおい、何て注文だ。
女の頼みでも、それだけは聞けねぇな」
「黙れ!!」
「……
何て顔してんだよ、アンタ」
甚八からその言葉を聞いた途端、アナスタシアは甚八から離れふと横に立っている氷の柱を見た。
氷の柱に映る自分の顔……
自分の顔に驚き、氷の柱から顔を背けアナスタシアは手で自分の顔を隠した。
そんなアナスタシアを見た甚八は、ポケットから煙草を取り出し口に銜えて言った。
「氷の顔が溶けてるぜ?」
鼓動が速くなり、焦り出すアナスタシア……
(クソ!!
殺る!!殺るのよ!!
今までだってそうやって生きてきた!!
私の氷を、溶かすわけにはいかない!!私の氷(決意)を!!)
月が浮かぶある晩……
『十人揃ったら、離反しなさい』
服を着るアナスタシアに、命令を出す半蔵……
『分かったわ……』
『クク……奴らの驚く顔が目に浮かぶ……
お前が、反間(二重スパイ)だとも知らず、懐深く置いて……』
アナスタシアを後ろから抱く半蔵……
『そうそう、離れるときはあの小姓の眼をお忘れなく。
いろいろ秘密が詰まっているようですから……』
『そう……』
『その時まで、可能な限り情報を集めておいて下さいね」
「なかなか隙が無いのよ、あの男(幸村)』
『股座で、誑かせれば楽勝でしょ?』
『私には、興味ないみたいよ』
『その気にさせなさいよ……くノ一なら』
『「色」が仕事じゃないわ』
『お前の仕事は、俺が決める……
あの密約を交わした時から、お前は俺のモノだ。
逃れはしないし、逃しはしない……』
『……分かってるわ』
(理解っている……)
思い出しながら、自分に言い聞かせるアナスタシア……
(今まで、揺るがなかったのよ……
私は私の目的を果たすためだけに、生きてきた……
暗く朱く……冷たい世界の中をたった一人で……
温かい安らぎなど求めない……そんなものありはしない!!)
『アナ!』
『かわいいのう』
思い出す伊佐那海達や幸村の顔……
「(心地いい場所なんて、どこにもない……
全ては、欺瞞(まやかし)よ!!)
終わらせるわ」
凍り付いた川を蹴り、甚八に剣を向けながら突進するアナスタシア……
甚八は槍を振ろうと動かした途端、氷の柱に当たり柱が折れ、それに気を取られその隙を狙い、アナスタシアは飛び上がり剣を振り下ろした。その攻撃を避けた甚八だが、アナスタシアは剣の機転を変え突いた。
付いた先……そこは甚八の右足の太腿だった。
「痛っ!!」
容赦なく、アナスタシアは剣をさらに深く刺し込み、剣を貫通させ氷の地面へ刺した。
甚八は、槍の分解し刃物が付いた柄を持ち、アナスタシア目掛けて刺そうとした。
その攻撃に気付いたアナスタシアは避け、甚八から離れクナイを投げ飛ばした。
投げ飛ばされたクナイを、避けながらその場を駆ける甚八……
一歩踏み出した甚八の足へ、アナスタシアは技をかけた。その瞬間、甚八は何かに躓いたかのように、転び足を見た。足には氷が張り付き動けなくなっていた。
それを狙い、アナスタシアは甚八の頭を貫こうとクナイを刺した。
甚八は、その攻撃を瞬時に避けその代償で、前髪に着けていた飾りが切れ壊れた。そんな甚八を、アナスタシアは膝で首を押さえつけた。
「これで、外さないわ」
「おいおい、冗談じゃねぇ。
いい加減、辞めとこうぜこんなこと!」
「命乞い?
呆れるほど、情けない男ね!」
「俺様は、ここで死ぬ予定じゃねぇんだよ。
まだまだ、これからやることは山積みなんだ。
待たせてる仲間共と大海を駆けるんだ。その向こうに国々にゃあ、いい女も大勢いるだろうしな」
「悪いけど、あなたはここで死ぬの。
それは絶対の決まり事よ?」
「絶対?決まり?
そんなもん(言葉)で、人を縛られるかよ!!」
槍を後ろから降り、アナスタシアに攻撃した。その攻撃を、アナスタシアは避け氷の柱にぶら下がり、甚八を睨んだ。
「俺様は、誰の指図も受けねぇ!!自由に生きる!!
押し付けられんのは、ゴメンだぜ!!」
「自由?ククククククク……
バカじゃないの?弱い者が強い者に、命を握られるのは当たり前の事よ!
弱者(お前)に、自由などありはしない!!」
「……
アンタも、そうなのか?」
その言葉を聞いた瞬間、顔色を変えるアナスタシア……
甚八は、勝ち誇った表情で、指を鳴らしアナスタシアを指差した。
「ビンゴ!!」
「それ以上、無駄口を叩くな!!
伊賀亜流氷術奥義!!永久凍士(ヴェーチナ・ミョールズヌチ)!!」
甚八の足元から、頭の天辺まで氷が張り、甚八は凍り付いてしまった。
凍り付になった甚八の前に立つアナスタシア……
「やっと静かになったわね……
これで、あなたは永遠に不自由よ。
自由なんて捨てた……
それが私の生き方……
冷たく……(ただ、強く(冷たく)あること……)
他の術なんて、知らない。
アンタなんかに、私の氷は溶かせない。返してもらうわよ」
剣の束を握った時だった……
氷の中にいた甚八が微笑み、そして……
「霹靂咆哮!!」
右手を中心に、甚八の体中に電撃が走り、剣の束を握っていたアナスタシアは、諸に喰らい電撃の衝動で、束から手を離し倒れ込んだ。
電撃で、体中に凍り付いていた氷を粉々に割り、中から勝ち誇った表情を浮かべながら出てきた甚八……
「痺れるほど、よかったろ?」
電撃の後遺症か、体中に電気を放ちながら立ち上がるアナスタシア……
「俺様の電撃(技)を知らなかったのが、運の尽きだ。
氷を砕くくらい、ワケないぜ」
「くっ!!」
立ち上がり、攻撃しようと足を動かしたが、アナスタシアはそのまま気を失ってしまい、倒れ込んでしまった。そんなアナスタシアを、甚八が受け止めた。
「刺激が強すぎて、イッちまったか?」
「……」
「ま、俺も血ぃ流し過ぎて、勃たねぇからお相子だ」
そう言いながら、気を失ったアナスタシアを持ち上げた。
「……何だ。
意外と、あったけぇじゃねぇか」
その頃、才蔵は……
“キーン”
鋼が弾く音が森中に、響き渡った。
「腕が鈍ったんじゃねぇのか?」
「慣らしですよ。
君とは、ゆっくりじっくりと殺り合いたいのでね」
「願い下げだ!」
目の前にいる半蔵を睨む才蔵……
(野郎、ふざけやがって……
こうしてる間にも、他の連中が……
伊佐那海……無事でいろよ)
「そう焦らなくても、君が助けに行くべき人は……ね?」
不敵な笑みを浮かべる半蔵……
その表情に、才蔵は怒りを覚えた。
「『ね?』じゃねぇつーんだよ!!」
剣を半蔵目掛けて、突き付けた。半蔵はその攻撃を避け、才蔵の背後へ回った。
「ククククク……
まだ、分かりませんか?
氷を懐深く、入れていた君達に勝ち目はありません。
勇士の力は、おおよそ知ってますから。」
束を握り直し、後ろにいる半蔵に剣を振った。だが半蔵は、その攻撃を難なく避けた。
「あの女は、とても従順でしてね。
どんなことでもしてくれるんですよ?」
(……分からねぇ
伊賀の忍が、なぜ同じ忍にここまで従うのか……
アナとコイツ(半蔵)の間に、何がある!?)