そんな才蔵に、半蔵は呆れた表情を浮かべた。
「虚しい叫びっすね。
そこで、這い蹲って、見てるがいいですよ。あの闇が俺の手に落ちるさまを」
「そう上手く……いくかよ」
「調教すれば、何とでも」
簪を手に、才蔵を見下ろすかのように見る半蔵……
その半蔵に、才蔵は足を動かし立ちあがろうとするが、足が思うように動かず、ふと助けを求めるかのように、幸村の方へ目を向けた。
「オッサン!!」
「……
皆、動いてはならん」
才蔵の叫び声に、動こうとした佐助に言う様に皆に命を下した。そんな幸村を明日花は、倒れている優助の傍にいながら見つめた。
その間、半蔵は黒い繭へ近寄り、目の前に立った。
「賢明な判断です。
俺には向かう力は、残ってないでしょ?
フフフ……この禍々しさ……素晴らしい!
全ての命を奪う女王……伊邪那美命。
その大いなる力は、この奇魂を手にした者のみが、操ることができる
さぁ……
純粋な、破壊の力……
純粋な欲望を持った、この俺にこそ相応しい」
「(伊佐那海!!)
海賊のオッサン!!雷で、このくそ鎖を焼き切れ!!」
「!?」
「甚八!!」
「……知らねぇぞ!!」
才蔵に言われ、アナスタシアを片手に抱え電撃を才蔵達に喰らわせた。鎖が切れた瞬間、才蔵は駆け出し半蔵に襲い掛かった。
「もう遅ぇ」
半蔵のその言葉に、才蔵は足を止めた。半蔵は手にした奇魂を黒い繭の中へ既に入れていた。
「!!」
「伊邪那美命は、俺のモノだ!!」
黒い繭の中へ手を入れた半蔵に、全員が驚きの顔を隠せないでいた。
「さぁ、出で来い!!」
その時だった……
繭に入れた手から、変な音が聞こえてきた。その瞬間、半蔵は手を抜こうと、もがき苦しみだした。
ようやく、繭から手を出した半蔵の手は、皮膚と骨が溶け、形があるもののすでに崩れかかっているかのように、手が掛けていた。
(何だありゃ……腕が)
「なな、なぜだあ!!
奇魂さえあれば、闇は意のままではないのか?!」
「闇は……決して、人が容易く……操れるものではありません」
その言葉に半蔵は、声の方を睨んだ。そこには、仰向けに倒れ息を切らす優助と彼の傍に座る明日花の姿があった。
その時、黒い繭から半蔵を引きずり込もうと、黒い稲妻が半蔵目掛けて飛んできた。
(闇に食われる!!)
そう思った半蔵は、繭から離れ才蔵を飛び越し、逃げだした。
「逃がすかよ、この野郎!!」
「やめよ才蔵!!」
「ああ!?」
追い駆けようとした才蔵に、幸村はその行為を大声で留めた。才蔵は疑問の表情を浮かべながら、幸村に振り返った。
「あの者は拒まれたのだ……それだけでよい……
だろう?才蔵」
幸村の答えに、納得のいかない表情を浮かべる才蔵……
そんな才蔵に、佐助は飛び掛かり、彼の服を掴み訴えた。
「伊佐那海救う、先決!!
伊佐那海、泣いてる!!
でも我……止められない」
悔しがる佐助……
「才蔵……伊佐那海、泣いてる。
怖い怖いって……」
明日花の言葉に才蔵は、もう一度黒い繭を見た。
(伊佐那海……)
「そうだ……
伊佐那海……を……」
その中、今まで気を失っていた清海が目を覚まし起き上った。
「伊佐那海!!伊佐那海はどうした!?」
「ま、まだ大丈夫だよ!清海のオッチャン!」
「奇魂もあの中に入ったまま……
最悪の事態であることに、変わりありません」
「何ぃ!?奇魂が……
そ、それはどうしたものか……」
「……俺は、『光』なんだろ?オッサン」
再確認するかのように、才蔵は幸村に質問した。幸村は、そんな才蔵に薄く笑みを溢して答えた。
「あぁ、そうだ」
才蔵は振り返り繭へ近付いた。
(……おい、この馬鹿女!!
見やがれ、皆お前を心配してる……
テメェを、守れなかったこと悔やんでる……
坊主もガキ(弁丸)も、テメェの所に一刻も早く駆けつけようとしたんだろう……
海賊のオッサンも、アナと戦う羽目になって……
明日花と優助さんは、お前の闇をあの野郎(半蔵)から守ろうと、血を流してまで戦った……
重傷の六郎さんと幸村のオッサンも、出てくる有り様だ……
鎌之介は……分かんねぇ……
でもよ……テメェを中心に、変に纏まった気がすんだよ……
俺達が異形衆と、渡り合えたのは、勇士知っていう繋がりがあったからなんだ……
それが、俺達の『強さ』なんだ……)
繭の前に立つ才蔵……
『怖い……怖いよぅ』
中から聞こえる、伊佐那海の泣き声……
「うるせぇ泣き声」
『もう……溢れちゃう』
また聞こえてきた伊佐那海の声……
『黒いアタシが、どんどん大きくなる……
そして、皆を……傷つけてしまう』
「伊佐那海……
テメェがいねぇと、一つ欠けたままだろ!!
とっとと出て来い!!」
振り上げた剣を力強く振り下ろした。
“パァン”
繭が粉々に割れ、中から出てくる伊佐那海……
出てきた伊佐那海は、涙を流しながら才蔵に抱き着き言った。
「ごめんなさい……
ごめんなさい……」
「謝んな!!
テメェが、あのド鬼畜を追い返したんだ。上等だろ?」
そう言いながら、才蔵は抱き着いてきた伊佐那海を優しく抱いた。伊佐那海は彼の言葉にハッとし、顔を上げ才蔵の顔を見た。
「それに……
皆、テメェが無事なら、それでいいんだよ」
才蔵が向く方を見ると、心配な顔で伊佐那海に駆け寄って来る清海と弁丸の姿があった。
「伊佐那海!!」
「お姉ちゃん!!」
その後に続き、佐助や十蔵も駆け寄った。
その光景に、明日花は笑みを浮かべ倒れている優助を見た。彼も笑みを浮かべ彼女の頭に手を乗せた。
そんな皆を見た伊佐那海は、ふと才蔵の方を振り向いた。才蔵は陽の光でまるで輝いている様に見えた。
「眩しいよ、才蔵」