だが、その目には光が無かった……
鎌之介の言葉に、何かを呟いた才蔵……
聞き取れなかった鎌之介は、耳を傾けようとした時、隙を突かれ才蔵の剣が鎌之介の腹部に当たった。
「キレましたってか?!
背中が、ガラ空きなんだよ!!」
鎌之介が振り下ろしてきた鎌を、才蔵は持っていた剣を持ち替え、鎌の攻撃を防いだ。防いだと同時に、腰からクナイを取り出し鎌之介目掛けて投げ放った。
クナイに気付いた鎌之介は、攻撃を防ごうとしたが気づいたのが遅く、足や腕、腹部に当たった。
攻撃が当たっていない足で、鎌之介は才蔵に踵落としを喰らわせようとした。だが才蔵はすぐに避け、後ろへ下がった。
「おもっしれぇ!!
そのやる気、上等だ!!
その血生臭え殺気を放つ奴が、女守って、チャラチャラ旅してるなんて、似合わねぇんだよ!!
血を見んのが好きなんだろ?!
奪うのが好きなんだろ?!
殺し合いが好きなんだろ?!
同類同士、楽しもうぜ?」
「さっきからベラベラと、喋らせとけば……
うるっせぇな!!
黙って、死んどけ!」
才蔵は持っていた剣の束に巻いてあった布を取った。
「オンマリシエイソワカ!!
瞬光!!」
「巨旋風!!」
才蔵が仕掛けた攻撃と、鎌之介が放った技が激しくぶつかった。攻撃の衝撃で二人は、後ろへ引き下がり、鎌之介はすぐに体制を整え錘が着いた鎖を、才蔵に投げつけようとした時だった。
突然、鎖が砕け散りそれと同時に鎌之介の体から、血が噴き出した。
「!!」
「やったか?!」
傷を負い、そのまま地面に倒れた鎌之介……
鎌之介は、ゆっくりと顔を上げながら、近寄ってくる才蔵を睨んだ。
「……まさか……
速過ぎ……だろ……
見えねぇっつの…
あぁあ……
何だこりゃ?
温ったけぇのがぼたぼたと……」
腹部から出てくる血を押さえながら体を起こし、鎌之介は近寄ってきた才蔵の目を見た。
「クッ……
ハハハハハハハ!!
予想通りだ!!
たっまんねぇぜ!その眼!!
血を見ても、全然揺るがない眼!!
感情なんて、一切ねぇ!!
ただ斬ることを実行する!!
素敵だ!!素敵過ぎるぜ!!たまんねぇ!!
もうイキそうだぜ!!この野郎!!
女を餌に釣ったかいが、あったってもんだ!
奪っても犯しても、何か足りなかった気持ちが……
やっと今、満たされていく!クハァ!
冷えていく体……
この高揚感……
さあ、その先をくれよ!!
俺に、その白刃を突き立てろ!!
そして、極楽(イカ)せてくれ!!」
鎌之介が叫び続けている中、才蔵は剣を上げた。
――――そうだ……突き立てればいい。
こんなクソ野郎、斬っちまえば…
才蔵が剣を振り下ろそうとした……その時。
「ダメ!!」
突然、伊佐那海の声が才蔵の耳に届いた。
「!!」
「この人、もう戦えないんでしょ?
だったら、もうおしまいにしようよ!
アタシ、平気だから、ほら!
才蔵!!」
自分の目を見つめながら、必死に訴えてくる伊佐那海……
才蔵は木に吊るされている伊佐那海に近付き、彼女の縄を切った。縄が解けた彼女は、才蔵の顔を見上げ彼の顔を覗き込んだ。
「伊佐那海……」
「?」
「……助かった」
「え?
助けてもらったのは、アタシだけど……」
「もう大丈夫だ」
「才蔵ぉ!伊佐那海ぃ!
無事ぃ?!」」
山道を登ってきた明日花と、その後から十蔵が二人を呼び掛けながらやってきた。
「筧さん!」
「明日花ちゃん!」
「し……心配して、着てしまったわ!」
「十蔵、遅い!」
「山道を走って登るのはキツ……」
顔を上げた十蔵は、伊佐那海の傷だらけになった体を見て、突然怒鳴り出した。
「何だ!伊佐那海、その傷は?!(嫁入り前なのに!)
だからあれほど、肌をさらすなと申したのだ!!」
「ご、ごめんなさい!!」
「それに才蔵!!
戦いに酔い痴れて、女子を放っておくとは何事だ!!」
「十蔵、叱る前に言うことあるでしょ?」
「しかし……
簪が無事でよかった」
「あ……」
十蔵に言われた伊佐那海は、自分の髪に着けていた簪を手で触った。簪に触れた伊佐那海は、あの時の力を思い出し、顔を曇らせた。それを見た十蔵は伊佐那海の頭に手を乗せた。
「何、あの力の事も出雲に行けば全て分かろう。
それより、痛かったであろう?よく、我慢したな!伊佐那海」
「……うん
大丈夫……」
「あー……
俺の借りも、まだツケだな……
怖い思いさせて……
悪い」
才蔵の言葉に、伊佐那海は目から涙を流し着ていた服の袖で顔を覆い隠すように、涙を拭いた。そんな伊佐那海を見た十蔵は、才蔵と伊佐那海の肩を叩いた。
「な、泣くでない!!」
「俺は泣いてねぇよ!」
「十蔵、女と子供の涙には弱いもんねぇ」
「うるさい!
さあ、早く山を下りて、先を急ごう!!」
「ふざっけんな!!」
その怒鳴り声に、才蔵達は後ろを振り返った。怒鳴り散らしたのは、体中から血を流して座り込んでいる鎌之介だった。
「こんな良いところで、終わらすな!!
殺るなら、早く殺れ!!」
「……
残念だが、俺はもうお前と同類じゃねぇ。胸糞悪い快楽に、付き合ってられっか!」
「せっかく母さんが逃した命を、薄々無くす気か?」
「黙れ!!白ガキ!!
それ以上喋ったら、ぶっ殺すぞ!!」
「母さんに負けた山賊が、偉そうな口を叩くな!!」
「うるせぇ!!
早く、俺を殺」
「女なんか、後味悪くて、殺れねぇよ」
「は?!
女?!俺が?!」
「生きて大人しく、役人にでも捕まっとけ」
「バカ野郎!!
んな、ダセェのはごめんだ!!今ここで殺れ!!」
怒鳴り叫ぶ鎌之介……
そんな鎌之介を才蔵たちは、前を向き山を下りて行った。
「待てよ!!
逃げる気か?!
俺を殺せ!!
殺せよ!!チキショー!!
チキショー!!」
場所は変わり、ここはとある山……
「殿!!お待ちください!!」
森の中を馬に乗り歩く二人の男……
フードをかぶった男を、髪を纏めた男が後から追い掛ける様に、歩いて行った。
「殿!!一人で、出雲に行くなどと!!」
「待つのは、性に合わねぇんだよ。
うるさく言うなら、お前は国に帰ってろ!!」
「殿をお一人に出来ますか!
私が、皆に叱られます!」
「だったら、黙ってついて来い!
さぁて……楽しくなってきた」