BRAVE10~もう一つの物語   作:花札

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舞い降りた竜

山道で倒れる才蔵……

 

 

「も、もう、俺ぁ……ダメ…だ」

 

「才蔵!!」

 

「み、短い人生だった……しかもこんな死に方」

 

「いやぁ!!死なないで、才蔵!!」

 

「空腹ぐらいで、死にはせんわ!!」

 

「死ぬなら、楽に逝かせるけど?」

 

 

そう言いながら、明日花は束に手を掛け、笑顔で才蔵に言った。

 

 

「束から手を離せ!!」

 

「修行が足りんぞ!!才蔵!!

 

空腹ぐらい、気合で何とかしろ!!」

 

「無茶言うな!!

 

もう、三日も食ってねぇんだぞ!!筧さんが止めなきゃ、あの変体の所からガッポリ金を取ってきたのによぉ」

 

「あ!その手があったか!」

 

「他人から奪った金だぞ!!それでは盗人と同じであろう!!」

 

「そんなとこで、変な堅さを発揮すんなよなぁ……

 

 

こうなりゃ、あの子ミミズクにオッサン宛の手紙を」

 

「それは断固ならん!!」

 

「なら、父さんに」

 

「尚更ならん!!

 

 

発つ時に、あれ程頂いたのにどの面下げて……

 

それに優助に言ったら、後々が面倒な事に……」

 

 

二人が言い合っている時、馬車を引いた団体が彼等の横を通り過ぎ、近くで旗を上げた。

 

 

「ほう、旅芸人か」

 

「旅芸人?」

 

「踊りに歌に軽業とかを見せて歩く一団。

 

?……あぁ!!」

 

 

黒い髪を纏めた女は、明日花は叫び声に気付いたのか振り返った。

 

 

「紫苑の倅!!」

 

「やっぱり楓だ!楓ぇ!!」

 

「お、おい明日花!」

 

「知り合いか?」

 

「そ、そのようだが……」

 

 

女に飛び付いた明日花……飛び付いてきた彼女を、女は嬉しそうに頭を雑に撫でた。そして才蔵達の元へ、明日花と一緒に駆け寄った。

 

 

「アンタ等が、真田のもんか!副隊長から話は聞いてるよ!」

 

「副隊長?」

 

「アタシは楓。隊長と副隊長の知り合いだから、怪しいもんじゃないよ!」

 

「隊長と副隊長って……誰の事だ?」

 

「隊長は父さんのこと!

 

父さん、昔武田軍の隊長やってて。この人はその軍にいた忍!」

 

「今は辞めて、仲間達と気楽に暮らしてるよ!」

 

「座長!葵がアレだってさぁ」

 

「う~、体重い~」

 

「ええ!?

 

困ったなぁ……葵の軽業が、うちの目玉なのに……

 

翠、アンタ出来ない?」

 

「無理!つーか、アタシのバランス力駄目なの、知ってるでしょ!」

 

「だよねぇ。

 

倅、金払うからやってくれないか?」

 

「いいよ!」

 

「はーいハイハイ!アタシ、踊れるよ!」

 

「伊佐那海!?

 

目立つことは極力避け」

「お金いるんでしょ!?

 

今度は、アタシが三人を助ける番!」

 

「ちゃんと変装するから、心配ないよ!」

 

 

数時間後……幕を張り舞台を作り上げた楓達は、小太鼓や笛を奏でながら客を呼んだ。

 

舞台には、細い棒に立つ踊り子の格好をした伊佐那海がいた。

 

 

「さあさ、寄っといで!お題は見てからで結構!」

 

「これを見逃すと、大損だよ!」

 

「出雲から来た絶世の美女!」

 

「更に摂津から来た水巫女!

 

当世随一の軽業芸だ!」

 

 

裏手から幕を少し開け、才蔵達は棒の上に立つ伊佐那海を見た。

 

 

「大丈夫か?アイツ」

 

「本当に舞えるのか!?」

 

「伊佐那海が終わったら明日花の番だよぉ!ヘヘーン!」

 

 

狐の面を顔に着け上に上げながら、明日花は嬉しそうに言った。

 

 

「お主も舞えるのか!?」

 

「無論、問題ない!

 

舞は楓から教わったから、大丈夫だよ!」

 

 

伊佐那海は手に持っていた扇子を広げ、体を観客の方へ向きを変えた。

 

 

「それでは私の舞を、お楽しみ下さい」

 

 

脚を変え下駄を鳴らした伊佐那海は、扇子を自身の顔を隠すように翳した。そして勢いを付けて細い棒を踏み台に跳び上がり、宙で一回りし見事棒に着地し扇子を広げ笑みを見せた。

 

客の歓声が上がり、それと共に太鼓の音が聞こえた。音を合図に伊佐那海は跳び上がり脚を広げそして再び、細い棒に着地した。

 

 

伊佐那海の舞が終えた後、明日花は面を顔に着け下げ舞台へ飛び降りた。太鼓の音色と共に、扇子を広げた明日花は手に持っていた鈴を鳴らし舞った。

 

太鼓の大きな音を合図に、明日花は勢い良く跳び上がった。扇子を煽らせそこから見えないように水を出し雨のように流し出した。

 

 

観客は歓声を上げて盛り上がった。盛り上がっている客の中、顔に覆面をした男が二人立っていた。

 

 

「筧さん、あそこの!」

 

「うむ!」

 

(……!

 

あの眼……)

 

 

舞を終えた明日花は、不安げな顔で太鼓を叩き終えた楓を見た。彼女も気付いているのか、明日花に目を向け軽く笑みを浮かべた。

 

 

「はい!アンタの分!

 

それから、倅の分!」

 

 

お金が入った巾着を貰った明日花は、楓に礼を言いながら腰に着けていたバックにしまった。彼女とは別に巾着袋いっぱいに入ったお金を貰った伊佐那海は、量に驚いた。

 

 

「こんなに!?」

 

「アンタのおかげで大儲けよ!倅も、今回は助かったよ!!」

 

「どう致しまして!」

 

「しっかし、凄い舞手じゃない!!」

 

「エヘヘ」

 

「ほら、早く行った方がいいよ!

 

なんか、ヤバいみたいだし」

 

「え?う、うん」

 

「倅、隊長達に宜しくな!」

 

「応!楓達も体に気を付けてね!」

 

「そっちもな!」

 

 

「明日花!伊佐那海!先を急ぐぞ!」

 

「うん!!」

 

「世話になり申した」

 

「いや何、こちらこそ!」

 

「十蔵、堅い」

 

「じゃあ、バイバイ!

 

飛び入りさせてくれて、ありがとう!」

 

「じゃあな!楓!皆!」

 

 

楓達に手を振り、明日花は才蔵の傍に駆け寄った。

 

 

「早く行こう」

 

「ねぇ、どうしたの?そんな急いで」

 

 

速く歩く才蔵に、伊佐那海は質問した。

 

 

「奴等だ!!」

 

「奴等って……」

 

「徳川方が来てる!(あいつ等がいるっつうことは、あの野郎(服部半蔵)も……)」

 

「ねぇ、早く離れよう!

 

ここにいたら、ヤバいし」

 

「う、うん」

「応」




森の中を馬に乗って歩く二人の男……

「綱元!

出雲まで、もう少しだ!


やっぱり、物は自分の目で確かめねぇとな。楽しみだな」

「……そうですか。


しかし殿、あなたは家康公に何を吹き込んだのですか?」

「クシミタマだよ」

「は?クシミタマ?

何です?それ」

「奇魂(クシミタマ)……


この世の中にある、神々の魂の名残さ」

「神……ですか」

「仏様だの観音様だの、流行りの外国もんが好きな奴らにはピンとこねえか……

まぁいい…

俺が語ってやっから聞いとけ」

「はぁ…」

「今、この世の中で、一番ハバをきかせてんのが俺達侍……

つまり、人間だ。」

「は、はいぃ……」

「しかし、はるか昔この天地は、神々によって創造され神々によって支配された。

天地の法則も彼等によって作られ、今もそれが働いている。
人の生き死に、気候や天災、農作も飢饉もすべてその法則に従っている。

もちろん、俺等も例外じゃない」

「それで、奇魂とは?」

「奇魂っつーのは昔、人間が神より授かった四つの魂のうちの一つだ」

「奇魂の他にもあるんですか?」

「そうだ。


一つは荒魂(アラミタマ)。
二つ目は和魂(ニギミタマ)。
三つ目は幸魂(サキミタマ)。

そして、四つ目が奇魂だ」

「はぁ……」

「この四つの魂は、それぞれに力で世の均衡を保っていて、それぞれが今も何かの形に変えてどこかに隠されている。


そのうちの一つ、幸魂を俺は手に入れた。だが、その持ち主は一晩のうちに、力を開放し発動させ、俺の城から逃げて行きやがった」

「そう言えばそうでしたね……

確か、ちょうど十年前でしたね。光坂一族の女忍の娘をさらって、一夜で逃げられたのって」

「嫌なこと思い出させるな!

次見つけたら、今度こそこの俺が」

「見つけようにも、もう十年も経ってるんですよ!

それに、あの三人が住んでいた神社は、二年前に焼け野原になってたし……

もう手掛かりが無いじゃないですか!」

「うるせえ!!見つけるっつったら見つけるんだ!!」

「……(おっかない人だ…)

しかし殿、なぜ四つのうち奇魂なのですか?」

「奇魂は、人の世の乱れを抑える……

これらも、神々の法則の一つだ。」

「世の……乱れ。

では、十年前の幸魂は一体…」

「人に幸福を与える……」

「幸福?」

「その魂さえあれば、この俺の野望も叶う。だが、叶う前に逃げ出しやがって、あのクソガキ!!」

「……」

「この二つの魂を見つけ出し、破壊する!!

神々の法則を逆手にとって、この世をひっくり返すのさ!

太閤が死んでからの危うい均衡を崩す!!


乱を求めている徳川家康をけしかけて、出雲にあるという奇魂を探させたが、ジジイ(家康)は役に立たねぇ。

俺は、待つのが嫌いだ……


だから、この俺が自ら風を起こす!!」

「……」

「武士ならば、剣に全てを賭ける!!それが、戦ってこそ武士だ!!


己の剣で己の力で戦って……

その先にあるのが天下だろう!!




ならば、俺は負ける気がしねぇ!!」

(……確かに。

殿は、あと二十年早く…
元亀天正の世の武士であったなら、必ず天下を取ったであろう器だ……

あの太閤と武田ですら、殿を恐れていた……


殿は、この風雲を呼ぼうとしている……


まさに、奥州の昇り龍)


馬を走らせていく政宗の背中を、綱元は額に汗を流しながらその背中を見つめた。
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