ハイスクール・フリート・プラスワン・アンド・アザー   作:オーバードライヴ

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こちらはタマちゃんの誕生日に書いた短編(http://www.twitlonger.com/show/n_1sovgs3)のマルチ投稿となります。
アニメの物語が終わった後の物語、お楽しみいただけたら幸いです。

【注意】
・百合やガールズラブ要素あり。注意!
・時系列はアニメ『ハイスクール・フリート』終了後。アニメのネタバレあり。
・拙作『ハイスクール・フリート・プラスワン・アンド・アザー』のラストとは異なります。無関係だとは言いませんが、これが正しい終わり方でもありません。IFのパラレルワールドだと思ってください。
・物語の進行の妨げになることを防ぐため、割り込み投稿を掛けています。

以上が気に入らないという方は閲覧を控えることを強くおすすめします。
それでもいいぜ! という方はお付き合いいただければ幸いです。


それでは、どうぞ!


【特別短編】二人で一緒に【タマちゃん誕生日】

 

 

 

『あっ、タマタマー』

 

 いきなりいかがわしいものを連想させそうな呼び方をされ、立石志摩はどこか不満そうにスマートフォンを握り直す。

 

「うぃ?」

『そう言えばタマの誕生日って明日だったよねー?』

 

 机に散乱していた計算用紙を畳みながら志摩は頷く。頷いてから電話越しでは頷いただけでは伝わらないことを思い出し、口に出して伝える。

 

「うん……」

『何か予定は入ってる?』

「夕方までは、暇」

『そっかー、よかったー』

 

 なんだか心底安心したような声、その声色にどこか口角が緩むのを感じる。前日の夜にいきなり連絡してくるとはどういうことなんだろう。急に用事でも入ったのだろうか。

 

 

 

『じゃぁタマ、デートにいこう』

 

 

 

 それにしても、ド直球に言われたその言葉には驚いた。スマートフォンを取り落とさなかっただけ褒めてあげたい。

 

「デートってどこ行くの……?」

『夕方には、タマは戻らなきゃいけないんでしょ? だったらそっちの近場で回ろうよ。行きたいところがあるなら言って! なければ適当にショッピングかな? ショッピングモールとかないの? あと……』

「いきなり、そんなに言われても……」

『あ、そっか、ごめんごめん。とりあえずだけど、9時前くらいに迎えに行くよ。それまでにタマも行きたいところ考えといて』

 

 それじゃ、と言って芽依は一方的に電話を切った。それにどこか不満げに頬を膨らませる。まだ行きたいとも、どうしたいとも言っていない。いつだってそうだ。いつの間にか芽依のペースに乗せられて、いつの間にか一緒にいるようになってしまう。

 

 ……別に断りたいわけでも、一緒にいるのが嫌とは思ってないし、言うつもりもさらさらないのだが。

 

 志摩の部屋から見える海は既に夜闇に包まれていて、薄ぼんやりと対岸の灯りが光って見えている。館山市営スポーツセンターに併設された居住区船は東京湾の波の穏やかさも相まって、揺れは全くない。対岸の灯りも似たようなものだろう。明日芽依はこの海を渡ってやってきて、遠慮なくインターホンを鳴らしてやってくるのだろう。

 

「……あ、」

 

 そこまで思って、気が付いた。

 

 慌てて部屋のクローゼットを開ける。ハンガーに掛けてある服をとりあえず、全部ベッドの上に出してみた。

 

 もともと暇さえあれば体を動かしていた志摩である。動きやすさ優先で服を選んでいるきらいはあった。嫌な予感が膨らんでいく。

 スカートは走る時にひらひらして邪魔そうだし、上段蹴りの要領で足を振り上げたらスカートの中身が見えそうだから嫌い。制服だって正装で着るのならともかく、普段使いならスラックスでいいじゃないかと思う。動いた時に足が突っ張るジーンズなんて言語道断、汗を書いても問題ない速乾性のTシャツとサラサラとしたジャージーに限る。そもそも論として服は身体機能の維持のために着用するのであって、ファッション性のために着るものではない。デザインのために実用性を欠いたら本末転倒である。

 

 そう断言していた中学時代からの自分をぶん殴りたくなった。

 

 目の前のベッドには、私物のトラックスーツが3セット、それぞれに対応したジャージー生地の短パン3本。横須賀女子海洋学校の制服、準制服の作業服。速乾性のシャツ4枚。以上。衣装ケースを漁ればスウェットのシャツやパーカーなども出てくるが、8月のお盆前、30度を超える気温でそれを着ればあっという間に熱中症である。使えない。

 

「明日、何着ていこう……」

 

 立石志摩のファッションセンスが問われる夜が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ターマちゃーん!』

 

 インターホンの後でそう呼ぶ声が聞こえる。それを聞いて志摩はごくりと息を飲んでから玄関のドアを開けに行った。心拍数は下手すると120回/毎分を超えているように思う。正直過去最高に緊張しているように思う。

 

 唾を飲んでからドアノブに手を掛け、ゆっくりと開ける。

 

「おっはよー、タマちゃん」

「ん、おはよう……」

「あれ? 寝不足? 顔赤いけど風邪とかじゃない?」

 

 そう言われ首を横に振る。その間にちらりと確認する。

 

 ……かっこいい。

 

 真っ白のスニーカーから伸びるすらりとした脚が日の光に輝いていてそのままホットパンツに吸い込まれていく。トップスはオレンジ色の襟付きシャツの上に黒いベストを羽織るスタイル。ベストのポケットは赤い縁どりが入り、そこから携帯の上だけがちらりと覗いている。首にかけたヘッドフォンも黒を基調に赤い差し色が入ったもので雰囲気も合っている。首筋に光るアクセサリーもどこか大人っぽい。

 

「タマー、なんでずっとドアの後ろに隠れてるのー?」

「んっ……!」

 

 ドアに手を掛け、開けようとギリギリ引っ張ってくる芽依に何とか抵抗する志摩。引っ張られた結果としてドアごとズルズルと外に引っ張られる。

 

「……!」

 

 いつの間にか、外に引っ張り出されて、志摩は頬を赤く染めた。

 

「……へぇ」

 

 どこか目をきらりと光らせる芽依。こういうときは黙るに限る。沈黙は金雄弁は銀というように、語るよりも黙るが勝ちだ。

 

「似合ってるじゃん。タマちゃん案外男性もののカット似合うんだ」

 

 そう言って芽依は志摩の着ている白のカッターシャツの襟を撫ぜた。

 

「これ、弟の借りたから……」

「あ、本当に男物なんだ?」

 

 そう言って芽依が驚いたような表情をする。とりあえず、疑問形で終わったからこくんと頷いて返事だけする。

 

 中学部活の合宿で昨日からいなくなった弟の部屋に侵入して半袖の真っ白のカッターシャツを拝借。小学校とかの卒業式に使ったスラックスがあったはずと、衣装ケースを全部引き出して何とか発見した緑色がかったチノパン(スラックスは結局見つからなかった)に急遽アイロンをかけて間に合わせた。その様子を母親に生暖かい目で見られたのが癪だが、なんとかジャージーでデートというのは避けられただけマシと思うしかない。

 

「ま、いいじゃん。んじゃ、行こうか」

 

 ざっと服装を見て頷いた芽依が志摩の手を取った。

「とりあえず、ショッピングモールとか行かない?」

 

 一も二もなく頷く志摩。自分の服のバリエーションのなさに絶望した後である。断る理由もない。玄関を出て鍵を掛ける。それを待って芽依が志摩の手を引っ張った。

 

「んじゃ、レッツゴー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーっし! 遊ぶぞー!」

「うぃっ!」

 

 とりあえずやってきたのは近場のショッピングモール。一応館山海上都市圏の中では一番大きなショッピングモール船である。外の暑さに抵抗するように冷房をガッツリ利かせた船内には若い女性向けのセレクトショップがひしめき合っている。

 

「さて、どこ行く? 一学期の“給料”があまりまくってるおかげで大分散財できるよー?」

 

 高校生がいきなり給料と言いだしたが、志摩も驚いた様子はない。そもそも志摩の財布にも万札が入っていたりする。

 

 横須賀女子海洋学校は国土交通省管轄の海上安全整備局局員の養成機関だ。入学した時点で生徒は海上安全整備局局員、すなわち、特別職国家公務員としての待遇を得られることになる。海洋学校での勉強は生徒にとっては課業であり、それに対しての給料が交付されるのである。卒業時に任官拒否をしなければ学費が免除される上に、受験料も無料。海洋学校の人気はブルーマーメイドの知名度だけではないのである。

 

「……給料は、十分、ある」

「うっし! じゃぁとりあえず服でも見て回る?」

 

 こくりと頷く志摩。芽依がその手を取って引っ張っていった先は志摩でも知っている名前のお店だった。

 

「ここ安くていいのがあるんだー」

 

 入った瞬間に中から甘ったるい『いらっしゃいませー。どうぞお手にとってごらんくださーい』という店員の声を聞きながら、志摩は芽依について行く。

 

「サマーセーターかー、アリかもなぁー」

「夏にセーターは暑そう……」

「夏用に作られてるからそこまでじゃないよー? セーター通気性は結構いいし」

 

 自分の知らない知識が飛び出してきて、目を丸くする志摩。その様子を見て、芽依がクスリと笑った。

 

「あんまり興味ない?」

 

 そう聞かれるが、首を横に振る。

 

「……前は、なかった」

「そっかー。じゃあ勉強中って感じかなー」

 

 そう言って一瞬考え込んだような顔をする芽依だったが、ポンと手を打つとくるりと志摩の方を振り返った。

 

「それじゃ、レッスン・ワン。自分に似合う色を知るべし。という事でこの芽依サマが見繕ってあげよう」

 

 そう言うと志摩の上下をじっくりと眺める芽依。どこか顔を赤くしながら志摩は体を居心地悪そうに揺らした。

 

「タマちゃん、見た目は結構おとなし気だし、髪の色もきれいだからねー、下手に色味を入れるよりモノトーンでシックにキメるのが無難かなぁー」

「見た目は……って?」

「だって体育会系じゃん、中身」

 

 それを言われると否定できない。クローゼットの中に証拠があるわけだし、すぐバレる嘘はつくだけ無駄だ。

 

「うーむ、じゃぁとりあえず深淵の読書女子系コーデから試してみようか」

 

 そう言って芽依は棚を素早く回ると商品を何個か見繕ってくる。

 

「じゃ、早速着替えてみよう。レディスのMでいいよね?」

 

 そう言われ、あれよあれよという間に試着室に詰め込まれた。薄暗い試着室のカーテンがしまっていることを確認してから、シャツの上着に手を掛けた。手早く脱いで軽く畳むと渡されたものを確認する。

 

 幼稚園の制服以来じゃないかと思う丸襟のかわいらしいシャツに黒のフレアスカート、箱ひだのないスカートを履くのは初めてじゃないだろうか。シャツの裾をスカートに入れていいのか悩みながらもなんとなく清楚系らしい感じを求めているらしいことを鑑みて入れてみる。

 

「これで……いいのかな……」

『どうー? 着れたー?』

「た、多分……」

 

 みっともなくないか鏡でクルクルと周りを見ていると、開けるよの一言もなく盛大にカーテンが開けられた。パッと振り返ると芽依の笑顔がはじけていた。

 

「やっぱりモノトーンが似合うね、タマ!」

「そう……かな……?」

「うんうん、似合う似合う」

 

 そう言われ後ろの鏡を見直してみる。ふわりと広がるフレアスカートは膝下まである長めの丈。元々肌が白いのもあってちらりと見える足とのコントラストが強いようにも見える。

 

「ちょっと外に出てみてー」

 

 芽依に促され外に一度出てみる。履いた靴がぺたんこのスニーカーなのがアレだ。ヒールのある靴の方が似合いそうだ。

 

「これはこれで完成されているのは確かなんだけど……少しパンチが足りないかなぁ……」

 

 顎に手を当ててそう言う芽依。

 

「差し色が何かあったほうがいいのか、それともシルバー系のアクセサリーを足すのが吉か……」

 

 むむむと唸った芽依。

 

「差し色でアクアマリンとかいいと思うんだけどなー。どうするかなー……タマは着てみてどう思った?」

「……こういう服、初めて着たからわからない」

「んー、いまいちピンと来てないって感じかな?」

 

 そう言った芽依の表情が軽く曇った気がして、志摩は勇気を振り絞って、口を開く。

 

「メイは……似合うと思う?」

「似合うし可愛いと思うよー? でも、もっと可愛くできそうな気がする!」

 

 そう言って芽依はなぜか小走りで外に出ていく。戻ってきた時には、さっきよりも分量が増えた服の数々。

 

「じゃ、ちょっとこっちも着てみて! あとこれもね!」

「え……?」

 

 志摩はどこか嫌な予感がし始めていた。でも、楽しそうな芽依を前に口には出せなかった。そしてソレを2時間後に後悔することをまだ知らない。

 

 その間、芽依の着せ替え人形にされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー、疲れたねー」

「誰のせい……?」

「悪かったって、タマ」

 

 苦笑いしながらショッピングモールのレストラン街に入る。今日は金曜日、志摩の希望もあって結局カレーを食べることになった。

 

「でもまぁ、気に入った服が見つかって良かったじゃん」

 

 それについては言い返す必要もないので素直に頷いておく。結局いろいろ着た結果、最初の丸襟シャツに黒いフレアスカートに青いリボンを合わせる形にした。それに合わせて髪飾りを選んでもらい、全部着て行くことにした。ちなみに髪飾りは誕生日プレゼントということで芽依が無理矢理お金を払っている。

 

「カレーこぼさないように気をつけなよ? 買った当日にクリーニングは笑えないからね?」

 

 そう芽依がからかったタイミングでカレーが運ばれてくる。早速飛びつかんばかりにスプーンを握る志摩に芽依は苦笑い。

 

「それじゃ、いただきます」

「うぃっ!」

 

 それはいただきますの挨拶なのだろうかと疑問に思うが志摩はそんなことを気にすることなく食べ進めていく。

 

「おいしい?」

 

 訊くまでもないか、と思いつつも目の前の席でカレーを掻き込む志摩に問いかけると、大きな頷きで答えが返ってきた。それを見て笑う。

 

「でも……」

「そう言うのはこの店出てからね?」

 

 志摩が言おうとしたことは大体予想が付く。4月から毎週食べつけたあの味に敵うカレーは早々転がっていない。

 

「ミカンちゃんたち、元気にしてるかな……」

 

 そう言って窓の外を見る。キラキラと太陽光を乱反射させる海面がかなり下に見えた。

 

「きっと、たぶん」

 

 志摩も同じように窓の外を見て、そう答えた。

 

「ま、杵埼ツインズもミカンちゃんも心配らないか」

「うぃ」

 

 芽依は視線を前に戻して、思わず吹き出してしまった。

 

「ちょ、ちょっとタマ……ぷふっ!」

「……?」

「口の横、カレーとおべんと、ついてるっ!」

 

 そう言って身を乗り出して、口の端を親指で軽く撫ぜる。芽依の手に乗り移った米粒をそのままパクッと咥えてから芽依は笑う。

 

「はい、ごちそうさま」

 

 そう言うと志摩はなぜか顔を真っ赤にして俯いてしまった。なぜそうなったのかわからないまま――――否、わからないふりをしたまま芽依は首を傾げた。

 

「どしたの?」

「なんでも……ない……!」

「カレー冷めちゃうよ?」

「わかって、るっ……!」

 

 志摩は顔を真っ赤にしたままカレーにスプーンを突き刺した。ソレをどこか微笑ましく見ながら芽依は午後の予定をどうしようか考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にここでいいの?」

「うぃ、大丈夫」

 

 家の近くまで行く水上バスが出るというターミナルの送迎区画で志摩を下ろす。両手には紙袋。芽依が神懸かり的な才能を持って手に入れたUFOキャッチャーの景品のイルカのぬいぐるみなどもある。財布の中には二人で撮ったプリクラが入っている。最初の身軽さを考えれば、大分荷物も増えた。芽依はスキッパーにまたがったまま志摩を見上げている。

 

「でも、シューティングで一度も勝てなかったのは残念だったなー」

「砲術長が、水雷長には負けない」

「それもそうかー」

「でも……メイも上手」

「これでも砲雷科だからね、そこいらのゲーマーには負けないよ。本職舐めるなってね」

 

 にかっと笑って見せる芽依の顔をオレンジ色の夕陽が照らす。それを見て、一瞬志摩は胸が痛んだ。

 

「メイ……」

「どーしたの?」

 

 エンジンを切ったスキッパーのハンドルに寄り掛かったまま、芽依が笑いかける。

 

「……今日、楽しかった」

「うん、私も」

 

 芽依がそう言って穏やかな表情を見せる。視線をそっと海の方に向けた。海上にビルが乱立するこの風景は、旧関東平野でしか見られない街のあり方だという。夕陽に染まる街を見て、芽依が口を開く。

 

「ありがとうね、タマ。付き合ってもらっちゃって」

「メイ……?」

「私、決めた。ちゃんと立派なブルーマーメイドになる!」

 

 芽依が明るい声を上げる。それに驚いた志摩は首を傾げた。

 

「急に、どうしたの……?」

「実はさ……ブルーマーメイドになるの、今更だけど、親に反対されちゃった。RATtウィルス騒動のことで最前線に立ってたってのがバレちゃって『そんな危ない仕事をさせるために横須賀女子海洋学校に入れたんじゃありません!』とか言われちゃって、もう散々。それで逃げ出してきたってのが実は本当のところ」

 

 そう言って目を細めた芽依。志摩からは彼女の横顔しか見えない。

 

「自分の攻撃が誰かを傷つけるかもって思うとすごく怖いし、何回も撃ったりしているうちに、その怖さも慣れてきちゃって、そんな自分が怖くて。やめちゃおうかなって思った自分もいて、いろいろ本当にゴチャゴチャになっちゃって。だから、タマに会いたくなって。逃げてきた」

「メイ……」

 

 そう言う顔は本当に穏やかで、それが逆に志摩の心に細波を立てる。

 

 

 

 

「でも、今日会ってわかった。やっぱり私はブルーマーメイドになる。なりたいんだ、本当に、心の底から」

 

 

 

 

 志摩の方を振り向いた芽依の顔はどこか振り切れたようだった。

 

「今日回った場所、武蔵が東京湾侵入かーってなった時、避難地区に指定されてたでしょ?」

「うん……」

「もしあの時、私たちが武蔵を止められなかったら。もしかしたらあのあたりが砲撃されていたかもしれない。私たちが守ったんだ、この海を、この街を、みんなを」

 

 海に生き、海を守り、海を征く――――その言葉が志摩の頭を通り過ぎていく。

 

 日本は世界でも有数の海洋大国だ。海を守ることはこの国を守ることにほかならない。人の身では守り切れないような強大な力をもって、この国を守らねばならない。そのために国家権力の盾を纏い、殺傷能力を有する火器という矛を持ち、人は化け物へと――――人魚へと化ける。

 

 船乗りを水底へと誘うサイレーン、嵐を呼び船ごと水底に引きずりこむメロウ。神話の中の人魚はいつだって人間に恐れられ、畏怖を集めていた。その名を汲むブルーマーメイドもまた、民に畏怖され、恐れられることで治安を維持するのだ。

 

「母さんがいう事もわかる。でも、『私たちが守らなかったら誰がみんなを守るんだ』って思うんだ。今日、それがわかったんだ。タマと買い物して、カレーを食べて、いっぱい遊んで、わかった。みんながこうして、大好きで、大切な人と遊べる場所を守らなきゃ」

 

 そう言って笑って、芽依は手を伸ばした。

 

「ありがと、タマ。タマのおかげで踏ん切りがついた」

 

 伸ばされた拳を見て志摩も拳を作った。

 

「強くなろう、もっともっと、皆を守れるだけ、強く」

「うぃ」

 

 その拳をこつんと合わせて、二人で笑い合う。

 

「あーあ、タマの誕生日なのに、私が励まされてばっかりだ。少しはかっこつけたかったのにな。結局髪飾りしか買ってあげられなかったし」

「……気にしてる?」

「少しね」

 

 そう笑った芽依がスキッパーのエンジンスターターを回した。甲高いセルモーターの音が収まると、4ビートのエンジン音に切り替わった。

 

「じゃ、家に帰って家族と喧々してきますかー。精いっぱい喧嘩してくる」

「……メイ」

「ん?」

 

 荷物を置いてから志摩は芽依の方に一歩踏み出した。片足だけスキッパーに乗せて身を乗り出してくる。

 

「な、なにっ!?」

「……プレゼント気にしてるなら、一つだけ」

「へっ……!?」

 

 芽依が何かを言うよりも先に、志摩が半ば強引に、だが触れるか触れないかわからないぐらいそっと、芽依の唇を奪った。

 

「へっ!? なっ!? えぇっ!? ちょちょちょっ、ちょ、なっ、えぇっ!?」

 

 何も言えなくなった芽依をおいて、スキッパーから離れる志摩。互いの顔が赤くなっているのは夕陽のせいではあるまい。

 

「……お昼の、お返し」

「お昼……? あ……!」

 

 浮かんだのはカレーを食べているときのやり取り。それに思い至るとどこか芽依はオドオドと声を出した。

 

「……怒ってる?」

「ううん」

 

 荷物を両手に提げて志摩が笑った。

 

「キスは大切な人にするもの、だから……」

「タマ……?」

「強くなろう、いっしょに」

 

 その言葉を聞いて芽依は強く頷いた。

 

「うんっ! いっしょに、強くなっていこう!」

 

 エンジン音が甲高くなる。ウォータージェットが波紋を海面に描きだす。

 

「じゃ! またね!」

「うぃ。また」

 

 手を振る芽依に頷いて返す。志摩は彼女が見えなくなるまで見送った。

 

 そうして、たまゆら、想うのだ。

 

 

 大切な人、守りたい人、そうして守られたい人。

 

 

 その人にまた会える。その人とまた海を征ける。

 

 

 それがこんなにも胸を暖かくするのだろう。

 

「……また」

 

 もう一度呟いて、志摩は家路につくのだった。

 




……いかがでしたでしょうか。

結構メイちゃんってノリの良い元気っ子を演じているところがあるんじゃないかと思ってしまうのは私だけなんでしょうか。
明るく振る舞っていないと弱音を吐きそうで怖いから、そうしているような。そんな気がしてなりません。

……関係ないかもしれませんが、メイちゃんの実家はリチウム工場という設定がありますけど、リチウムって抗躁剤とか躁鬱病の抑止剤にも使われてましたよね(震え……)

閑話休題

この話もこの拙作がアニメ終了まで行ったら後方にずらすかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。


それでは次回お会いしましょう。
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