希望の魔王   作:クスクスの松

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初投稿です。いろいろと至らない点があるかも知れませんが、精一杯頑張るのでよろしくお願いします。


魔王はいまだ眠る

ただ、ただ暗闇が広がる空間で、少年が口から血を流し倒れる。

 

「なぜです!」

 

光り輝く剣を手に目の前の少年を見つめる。もう一人の少年。

彼が持つ剣は血に濡れ震え恐怖から剣を落とす。

落ちた剣は地面に刺さりそこから、芝が生え、次に色とりどりの花が咲き誇り、天上には青空が広がる。ただ暗闇だけの何もない世界が、光に包まれる。

 

「なぜと言われてもね。これが君の望みだよ」

 

口から血を流しながらも少年は微笑む。

 

「こんなの望んじゃいない! 僕はあなたに助けてもらうために呼んだのです! それがなぜ!」

 

僕はただあなたに彼女を助けてほしいだけだった。

世界に5人しかいない魔王。その中でも史上最悪と言われる魔王に彼女は攫われた。

助ける力は彼には無かった。

彼女はまつろわぬ神の贄にされてしまう。

そうなってしまえば彼女は助からない。

彼女を助けるために彼は自身の命を賭けた。

彼の一族には稀に特殊な才能を持つ子が産まれる。

その才能を持つ者は平安時代を最後に現れることは無かった。

だが、彼はその才能を持って産まれた。

同世代のもう一人の幼馴染の神憑りをも越える才能。

しかし、一度使えば彼は死んでしまう。

それを彼は躊躇無く使った。

結果として、彼は死ぬはずだった。

だが、結果は違い彼は目の前の光り輝く剣を持っていた少年を刺し殺した。

約束が違う。僕の願いを聞く代わりに自らの命を御身に差し出す。

 

「僕のたった一度きりの力はそういうものだ!」

 

「……本来ならね。でもぼくは君が呼び出した存在じゃない」

 

血を流しながら、衝撃の言葉を紡ぐ少年。

彼はそれに愕然とした。

自分才能は無駄だったのかと。

 

「……違うよ、君の術はちゃんとかの者に聴こえている。ぼくはその者が来る前に君に接触した」

 

「なぜ……」

 

「君は世界に絶望していた。その生まれ持った才能を憎み。自分は連れ去られた彼女と同じ贄と定義して……でも、その感情を解かしてくれたのは君と同じように普通の人とは違う才能を持つ彼女達だ。だが、現実とは残酷だ、君の希望は消えた。またしても絶望が君に現れた……」

 

だんだんと少年の言葉に覇気がなくなってくる。おそらくもう長くはないだろう。それでも少年は彼に微笑みながら言葉を紡ぐ。

 

「だからぼくは現れた。君の絶望を永遠に討ち滅ぼし希望と光を与えるために」

 

なぜか身体が重くなってくる。彼は崩れ落ち少年の隣に倒れこむ。

 

「大丈夫、君ならできる。絶望を知っている君ならぼくの力を使って人々に希望と光を与えることができるさ」

 

最後に見たのはとても清々しい笑顔で消えていく少年だった。

 

 

………

……

 

 

【4年前のまつろわぬ神招来の儀に現れた謎の魔王についての報告書から抜粋】

 

4年前のヴォバン侯爵が行ったまつろわぬ神招来の儀式。儀式の顛末は皆も知っての通り、現れたまつろわぬジークフリートは新たにカンピオーネとなったサルバトーレ卿によって横取りされた。

世界的にも有名だが、この事件には謎が存在する。

それは儀式に使われた巫女たち全員が、儀式の最中に忽然と姿を消した。

当初、消えた巫女たちは儀式の贄としてまつろわぬ神に消されたと思われたが、事件後魔術結社による調査により消えた巫女たち全員の生存を確認した。

巫女たちは外傷や精神的なダメージもなくいたって健康だった。

そして、巫女たちの証言によれば儀式の最中にローブを羽織った謎の男が現れ。何かをつぶやくと気づいたら各々が帰りたいと思っていた場所に飛ばされていたそうだ。

その後、謎の男はサルバトーレ卿がまつろわぬジークフリートと交戦中にヴォバン侯爵と交戦した。

結果はサルバトーレ卿が見たところ、謎の男の惨敗、男の権能と思われる攻撃を全てヴォバン侯爵が人狼となり吸収したらしく、最後に卿が見たときには雷撃に灼かれて消えてしまったとおっしゃていた。

儀式に現れた謎の男、この男はいったい何者だったのか。ある者はカンピオーネであるヴォバン侯爵に手も足もでなかったことからただの高位の魔術師ではないかという者もいれば、私のようにカンピオーネに成り立ての王ではないかという者や、果てはまつろわぬ神だという者もいる。

だが、調査によって複数の人間を一瞬で望む場所に飛ばす事は魔術師では到底不可能であり、まつろわぬ神だった場合なぜ人間ごときを助けたのか。まつろわぬ神は基本的に人間を無視する。余程の事、例えばみずからを殺したり得る存在があったとき初めて人間を見るのだ。

これらのことを考えるとやはり謎の男はカンピオーネだと私は思う。

では何故その王は姿を現さないのか、これも意見が割れており、王はヴォバン侯爵に殺されたという者や、表には出ずに陰でわれわれ魔術結社を監視しているとさまざまだ。

だが、もしも謎の男が、カンピオーネとして表舞台に現れたならばわれわれはまず感謝しなければならない。何故ならば彼のお蔭で巫女たちに被害が及ぶことがなく、あのままでは巫女たちは精神を汚染され一生、廃人になっていただろう。

未来ある巫女の命を助けてくれてありがとう、魔術師として、助けてくれた巫女の一人の父親として謎の男には礼を言いたい。

 

 

………

……

 

 

【正史編纂委員会、喪われた技法、神贄についての報告書】

 

神贄。それは文字通り神の生贄になる技法である。ただし、ただ生贄となるだけではなく、神贄は神に命を差し出す代わりに自らの願いを神に叶えてもらうというものである。

更には、生贄になる人間もただの人間ではなく莫大な呪力と選ばれた者だけしか神贄を行えなかった。

この神贄が最後に行われたのは平安時代。何故喪われたというと平安時代にさまざまな祟りが発生したためそれを鎮めるため神贄を行える一族全員が生贄となってしまったからではないかと言われている。

今では神贄が行えた一族の遠縁のみがいるだけでもちろんその者たちも誰一人として神贄を行えなかった。

しかし15年前、喪われた神贄を行える男の子が誕生した。

当時は日本の呪術界で大ニュースとなりカンピオーネに次ぐまつろわぬ神の抑止力として正史編纂委員会のトップである四家はその子供を保護し支援した。

成長した男の子は産まれ持った莫大な呪力で呪術の才能を発揮し同じく同年代だった、神がかりを使う清秋院 恵那、世界最高クラスの霊視を持つ万理谷 祐里、彼女ら2人と合わせて現代の三貴子と並び称された。

これで日本の将来は安泰だと誰もが思った。

だが、悲劇は起こった。

4年前、ヴォバン侯爵のまつろわぬ神招来の儀で生贄の巫女として万理谷 祐里が攫われた。

それを聞いた彼は万理谷 祐里を助けるために神贄を行った。

結果は無事、万理谷 祐里を含めた巫女たちが謎の男によって助け出された。

そして彼は七雄神社で全身にやけどを負い意識不明の状態で発見された。

それ以降、彼は神贄の影響なのか、意識を回復させないままいまも病院にいる。

事件後、委員会は万理谷 祐里の霊視により儀式に現れたのは太陽神に関係するまつろわぬ神ではないかと委員会は判断した。

おそらく、彼が神贄を行い万理谷 祐里の救出を願ったのだろう。

これによって復活かと思われた神贄は再び喪

われてしまった。

 

 

………

……

 

 

「これで、詰みだな」

 

パチリと盤の上の駒が音を立てる。

 

「参りました」

 

あっさりと負けを認め深々と頭を下げる黒髪に玻璃の瞳を持ち和服を着た物腰の柔らかそうな少年。

その姿を見て豪快に笑う大柄な男。

 

「いつお相手してもやはり御老公様はお強い」

 

「がっははは! いやなにお前さんもなかなか筋が良くなってきたんじゃねぇか」

 

少年の謙虚な言葉に満更でもなそうに笑う御老公。

 

「御二方、終わりましたか粗茶をご用意しました良かったらどうぞ」

 

済んだ声を持つ女性が襖を開けて現れた。

十二単に身を包んだ女性は深い亜麻の色の髪と少年と同じ玻璃の瞳を持ちしっとりと微笑みながら、2人にお茶を渡す。

その姿に少年は再び深々と頭を下げ礼を言う。

 

「これは、ありがとうございます」

 

少年の態度に困った顔をする玻璃の姫。

 

「前から申し上げていますが、御身は神祖であるわたくしよりも高位の存在。そう畏まらなくても良いのですよ。むしろ本来ならわたくしが御身に礼を尽くさなくてはならないのですから」

 

「ですが、貴女様は元をたどれば僕の先祖様です。その様なお方に礼を尽くさないなどあってはなりません」

 

「御二方ともそれぐらいになされよ。これではいつまで経っても話が進みませぬ」

 

いつの間にか現れた即身成仏の僧。

 

「お久しぶりです黒衣の僧殿」

 

少年はまたしても僧に頭を下げる。

 

「で、どうだったんだ。例の噂は?」

 

このままではきりがないと本題にかかる御老公。

本来この4人がこの場に集まるのは久しぶりのことである。

彼らは日本の呪術界を裏で支配する古老のメンバーである。

そして今回彼らが今日この場に集まったのはとある噂の真実について確かめるためだった。

 

「はい。噂は本当でした」

 

「そうか」

 

僧の言葉に場が重々しくなる。

 

「僧よその者はいかなるものですか?」

 

少年の問いに黒衣の僧は手もとに1つの書類を出した。

 

「その者の名は草薙 護堂。イタリアのサルデーニャ島で軍神ウルスラグナを殺害し新たな羅刹の君となられました」

 

「ウルスラグナっていうと、あれか、ペルシャの軍神で」

 

「ゾロアスター教ではヤタザの位に位置する神ですか」

 

注意深く書類を見る少年と、興味がなくなったのか、蜜柑を食べ始める御老公。

 

「ってことは、もしかしたらこの間あいつが暴れ出したのってそれが関係してるんじゃねえか」

 

「ええ、ウルスラグナの特徴はアワタールという10の化身があります。これはインドのビシュヌから来ているのであるいは関係しているかもしれません。それにしても僧よこの書類やけに詳しく書かれていませんか?」

 

御老公の疑問に答えながらも少年は渡された書類のこと細かさに疑問を持った。

特に神を殺した経緯やその権能について細かく記載されている。

まるでこれを書いた者がすぐ近くで見ていた様に。

 

「実はですねその書類。委員会が調べたものでは無いのですよ」

 

「では、賢人議会が?」

 

「いいえ。これを書いたのは……草薙 護堂の愛人です」

 

「は?」

 

僧の予想外の答えに少年は驚き思わず書類を落とした。

「愛人……」

 

「左様、愛人です。名はエリカ・ブランデッリ赤銅黒十字に所属する魔術師のようです」

 

「ほお、愛人ねぇ今回の神殺しは随分と欲に忠実なんだな」

 

どっかの神殺しとは大違いだぜ、全くもってその通りですな御老公と、にやにやと不快な笑みを浮かべながら少年を見る御老公と黒衣の僧。

 

「は、破廉恥だ! 同じ同胞として、何より日本男児としてやはり女性とお付き合いするならば婚姻を前提に真剣に……」

 

顔を真っ赤にしながら新たな神殺しの愛人についてとやかく言う少年。

だが、しかしここで御老公が新たな爆弾を投下した。

 

「なに言ってんだおめぇだって。昔は『ぼくは将来、恵那ちゃんと祐里ちゃんと一緒に結婚する!』とか言ってたくせに」

 

幼い頃の恥ずかしい話を出されてとうとう我慢の限界に達したのか勢いよく立ち上がる少年。

 

「御老公、それに御坊ご無体はそれぐらいにしなされ」

 

玻璃の姫が諌めとりあえずはその場が落ち着く。

いまだに少年は顔を真っ赤にしているが。

 

「さて。では我らはこの新たな羅刹の君である草薙 護堂にどのように対応しますか?」

 

玻璃の姫問いに各々が答えを出す。

 

「まだ、様子みでいいんじゃねぇか?」

 

まだ、傍観を望む御老公。

 

「御老公と同じく」

 

それに同意の黒衣の僧。

 

「人々の迷惑にならなければ別にいいと思いますよ」

 

そもそも僕がなにを言っても幽世から離れられませんしね。自虐気味に笑う少年。

 

「では、我らは新たな羅刹の君、草薙 護堂を当分は様子を見るということでよろしいですね」

 

対応が決まりしっとりと微笑む玻璃の姫君。

これにて新たな羅刹の君についての話は終了した。

 

「というかよー、おめぇはいつになったら現世に戻れんだよ」

 

もう四年も経つんだぜ、と少年に苦言を漏らす御老公。

その問いに対しもう何回めになるのかと苦笑いをしながら少年は答える。

 

「さあ、こればかりは僕にもわかりませんよ神殺しを行ったのが幽世で幽体だったからかも知れません」

 

「ですが、万理谷 祐里を助けに行ったときはご自分の肉体だったのでしょう」

 

黒衣の僧の問にええ、そうですと答える少年。

 

「だけど、その後に戦ったヴォバン侯爵に致死量の雷撃を受けて咄嗟に使ったことの無い権能を使用したら……」

 

「幽体で幽世にいて元の身体に戻れなかったと。とんだ権能だ……な」

 

「御老公、譲殿ならもういませんよ」

 

いつの間にか少年は姿を消していた。

 

「姫さんも消えてやがる。なんだよ、つれねぇなあ」

 

 

………

……

 

 

正史編纂委員会が管理するとある病院の一室に1人の少年が眠りについている。

少年の周りには呼吸器と心電図が規則的に動き少年を生かす。

 

「やっぱりいつ見ても眠ってるみたいだね〜」

 

そんな病室から制服を着た黒髪の少女の陽気な声が響く。

 

「恵那さん。病院内ではもう少し静かにして下さい」

 

それをたしなめたのは陽気な少女とは別の制服を見に纏う茶色みがかった髪の少女。恵那と呼ばれた少女はごめーん、祐里。とまたしても陽気にかえす。

それに深くため息をつきながら少年を見つめる祐里。

 

「それでどうだった? 譲の様子は?」

 

清秋院の問いに対しゆっくりとかぶりを振る万理谷。

 

「駄目です。なにも見えません」

 

「やっぱり駄目かー。譲の謎の呪力の放出がこれで2度目。本当に原因はなんだろうね」

 

いつもなら一定の間隔で少年のお見舞いに来る清秋院と万理谷だが今回は眠りにつく少年に何度か起きている謎の呪力放出を霊視で視るためだった。

少年が眠りについた時、彼の呪力は死人のように空っぽだった。

委員会はあらゆる手段で彼の眠りを覚ます方法となぜ眠りについたかの原因を探ったが、彼は全く変化はなく目覚めなかった。

唯一の変化は4年間に2回彼から膨大な呪力放出を観測した。

 

「もしかしたら譲さんの呪力放出をしている時にわたしがいればなにか視えるかも知れないのですが……」

 

「次はいつになるかわからないからね」

 

もちろん。少年の幼馴染である彼女たちも自分が出来ることを行った。

万理谷 祐里は類い稀なる霊視の力で。

清秋院 恵那は守護神である速須佐之男命に助言を願った。

しかし、結果は万理谷 祐里の霊視はなにも視えず、清秋院 恵那の守護神である須佐之男は返事を返さない。

そうして、彼は目覚めずに4年の歳月が過ぎ、いまもなお彼は眠り続ける。

 

 

………

……

 

 

カンピオーネは覇者である。

天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。

カンピオーネは王者である。

神より簒奪した権能を引い振りかざし、地上の何人からも支配されないが故に。

カンピオーネは魔王である。

地上に生きる全ての人類が、彼らに抗うほどの力を所持できないが故に!

 

【21世紀初頭、確認されているカンピオーネについて】

 

現在確認されている7人のカンピオーネについて。

 

バルカン半島を根城とし、約300年の歳月を重ねた最古参のカンピオーネ。

殺害した神もまた数多く、数多の権能を使い己の闘争欲を満たさんとする狼王。

《サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン》

 

 

中国南方の秘境に住まうと言われる200余年の歳月を重ねた古参のカンピオーネ。

武術と方術を極めし武俠王。

《羅濠教主》

 

アレキサンドリアを拠点とする100年以上の時を生きる古参のカンピオーネ。

時を旅する永遠の美少女。

《アイーシャ夫人》

 

イギリスのコーンウォールに拠点と自らの結社を設ける。

知識の探求者、黒王子。

《アレクサンドル・ガスコイン》

 

北アメリカの地を守る仮面の魔王。

ロサンゼルスの守護聖人。

《ジョン・プルート・スミス》

 

欧州の魔術結社を束ねるイタリアの王。

剣の王。

《サルバトーレ・ドニ》

 

そして新たに7番目にカンピオーネとなった少年。

《草薙 護堂》

 

以上7人が………否、その者はまつろわぬ神招来の儀の1週間前にアストラル界にてまつろわぬ神を殺戮し12歳ながらカンピオーネとなり。理由は不明だが肉体は眠りに就き、アストラル体としてアストラル界に住まう7番目の魔王。

宮藤 譲(くどう ゆずる)

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